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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女始動編

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第十九話



「セレスティナさまぁぁぁっっ!

 最近は微熱程度でしたのに!

 久しぶりに高い熱が出てしまって……!」


 ジェダイトが退室したあとに、すぐにセレスティナの自室へと駆けつけたミオン。

 セレスティナの謁見の前よりも顔色が悪く、熱を帯びた身体を瞬時に察知してテキパキと采配を振るった。


「あぅぅ……やはり、私がセレスティナ様のご意向でもお止めすれば良かったですぅ……。

 ……あんのっ糞蛆虫野郎どもっ……薄皮剥いて塩を擦り込んで剥き出しの神経を錆びた(ノコギリ)で切り刻んでやろうか……!」


「ミオン……?

 えっと……最後の方が聞こえなかったのだけど……」


「大切な大切なセレスティナ様をあんな下郎共に会わせるべきではなかったですぅ!

 ……か弱いセレスティナ様に刃を向けたばかりか、あんな酷い言葉まで……セレスティナ様の御心まで守り切ることが出来なかった私は護衛失格ですぅ……」


 うるうると目を潤ませながらも、決してセレスティナを看病する手を止めることのないミオン。

 しかも、熱の出ているセレスティナを気遣って声の大きさすらも抑えつつ感情を込めるという熟練の技を駆使していた。


「ミオン、いつも心配をかけてごめんなさい……」


「謝らないで下さい、セレスティナ様!

 私はセレスティナ様の一番の護衛なんですから、そのご意志を尊重しつつ、お身体だけでなく御心までお守りすべきなのです!」


 天を仰いで頭を抱えるミオンへセレスティナは微笑む。


「ふふっ……ミオンは本当に優しいのね。

 私の心を少しでも軽くしようと明るく振る舞ってくれる。

 (前世の記憶を思い出して精神年齢は上がっても、身体自体は二十歳にもならない故かしら?

 私は無意識の部分で悪意や殺意に傷付いていた……?)」


 セレスティナ自身は例え流すつもりで言わせた悪意の言葉。

 前世を思い出してから……いや、生まれて初めて真っ向から向けられた殺意。

 

 ジェダイトに見破られたように、武人では無いセレスティナが晒されるには重いものだったのだろう。

 己の心身の予想外の反応にセレスティナは反省する。


 反省しつつも、久しぶりの高い熱でぼーっとするセレスティナの頭に浮かんだのは、悪役めいたジェダイトの微笑と言葉。


『セレスティナ、愛している。

 貴様は、私のものだ。

 そして、私は貴様のものだと覚えておけ』


 蘇るのは激情を抑えたような低い声と熱を帯びた瞳。


「あぅ……」


 ぼふんっと音が聞こえそうなほどに、一瞬でセレスティナの頬がさらに赤く染まる。


「はうあっ?!

 ど、どどどど、どうされました、セレスティナ様?!

 一気にお熱が上がったみたいなのですが?!」


「な、なんでもないの……

 (あ、改めて思い返せば……すごいことを言われたような……?)」


 セレスティナを心配して慌てるミオンから赤く染まった顔を隠すように掛け布団を引きあげる。


「……セレスティナ様ぁ、ミオンはお水を交換してきますのでゆっくりと休まれていてくださいね〜。

 もしも、御用があればいつも通り呼び出しの鈴を鳴らしてください!

 ミオンちゃんは、セレスティナ様のためならばスっ飛んでまいりますので!」


「ありがとう、ミオン……」


 熱のせいか強くなる睡魔に身を任せ、セレスティナは眠りに落ちていく。


「……ジェ……ダ……」


 微睡み沈んでいくセレスティナが無意識に呟いた名前を聞いたのは、退室するミオンだけだった……。





 洗面器の水を交換し、セレスティナの自室へと戻れば小さな寝息を立てて深い眠りに落ちたミオンの唯一人の主。


「…………」


 セレスティナの額や首筋に滲んだ汗を拭き、額に置かれたぬるい布を交換する。


「…………」


 目線だけで影に潜んだ護衛たちを確認し、立ち去るミオン。



 何の変哲もない王城の長い廊下。

 セレスティナがいつ起きても良いように軽食など諸々の手配を済ませようとミオンは進んで行く。


「……!」


 だが、廊下に並んだ扉の一つが急に開き、伸びてきた手がミオンの腕を掴んで中へと引きずり込んだ。


「ランちゃぁん?

 ミオンちゃんは物凄ぉく気が立っているから……下手なことをすると間違えて殺しちゃいますよぉ?」


「相変わらず怖い女だねぇ、お前は。

 間違えてと言いながら、相手が俺って気が付いてたのに刺そうとしただろー」


 そろそろ腕の力を抜けよなーとミオンを部屋へと引きずり込んだ犯人であるランスロットはヘラリと笑う。


「ちっ……!」


「ガラ悪っ!

 いつものキャピキャピ可愛いミオンは何処に行ったのかなー?」


「セレスティナ様に対してならばいざ知らず、ランちゃんに媚びる必要はないので。

 それにー、言ったでしょ?

 ランちゃんと私はセレスティナ様の一番の護衛の座を争う関係だって。」


 殺意でギラギラと輝く目はそのままに、ランスロットの顎の下からの脳天目掛けて刺そうとした暗器の針を持つ手から力を抜く。


「まー似た者同士だから気にしないけどな。

 ……それで、ひーさまのご様子は?」


「発熱はありますけど、医師は疲れから来る一過性のものだと。

 ……通常の執務に加えて、謁見での出来事が決め手でしたね。」


 静かにミオンの説明を聞いていたランスロットだったが、眉間にシワを寄せグシャリと前髪を掻く。


「陛下のご命令でひーさまの護衛を外されてなきゃ間違えたフリして、あの下衆の喉を潰してやったのに。

 ……俺と交代で入ったヒヨッコは()()()()()の意味を理解してねーな。

 ちっ……一応なりとも陛下の命令だから下手にひーさまの元へ侍るわけにも行かねえし。」


「あらら、ランちゃんってば!

 婚約破棄されて次の男を見繕うまでの間のお人形にソレを求めるのは酷というものですよー。」


 不機嫌なランスロットの言葉をミオンは鼻で笑う。

 そう、ランスロットがアレクシェルの立ち位置だったならば、取り押さえた際に序に喉も潰しただろう。

 セレスティナの意向には逆らう形になるが、喉を潰しておけばあの商人は罵倒の言葉を吐き出すことは出来なかった。


 王族へ殺意の刃を向けたのだ。

 見せしめの理由にはソレで十分だったのだから。


「まー……あとは、どこぞの婚約者様(ジェダイト)が気に入りませんねー」


「……第二騎士団長かぁ……あの人はなぁ……」


 ムスッとした表情のミオンに対し、ランスロットは苦笑する。


「けどさーミオン。

 あの人は優秀すぎるほどに優秀だし、ぶっちゃけ噂のような野心家でもないぜ。

 しかも……うん。

 十年単位でひーさまに一途で、ずぅっと片思いしてたし。」


「わかっていますよ!

 わかっていても、嫉妬しちゃうんですぅぅ!」


 ミオンは今回の一件を通して、初めて会ったジェダイトとのやり取りを思い出すのだった。



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