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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女始動編

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第十四話


時は遡り、王城内の一角。


王城内には宰相や大臣たちに与えられた執務室が存在する。

その一室にアーガスト侯爵と……凍えるような空気を纏う無表情なジェダイトの姿があった。


「此度は急に申し訳ありませんでしたな……ベルフォード卿。」

 

ロナルド・アーガスト侯爵は、極寒の氷のように冷たくも美しい目の前の青年に微笑んだ。


「それにしましても、春先よりの騒動で貴殿の周囲も騒がしかったのでは?

そうそう、私の方でお預かりしている弟君のこともさぞかしご心配でしょう?

 宜しければ、弟君と会えるよ……」


「くだらない御託は要らん。」


にこやかに話すアーガスト侯爵の言葉をジェダイトは容赦なく切り捨てる。


「率直に聞こう。

この私を呼び出してまで、直接に伝えたいこととは何だ?」


「おやおや、年寄りの話は長くていけませんな。

折角の機会に騎士団長殿と仲を深めたいと思っておりましたが。」


常人ならば震え上がるジェダイトの絶対零度の視線もなんのその。

まるで親しい友人と話しているかのように、アーガスト侯爵は微笑みを絶やさない。


しかし、アーガスト侯爵の瞳の奥は笑っていなかった。


「率直に申しましょう。

私と手を組む気は有りますかな?」


重厚なカーテンに窓は覆われ、己の執務室周辺を徹底的に人払いさせているアーガスト侯爵。

まるで蛇がとぐろを巻いて、獲物を見定めるかのようにジェダイトの反応を伺う。


「ほう……?

 私が貴殿と組んで何の得がある?」


「そうですな……ベルフォード殿が望むならば、王座を得るお手伝いを致しましょう。」


アーガスト侯爵の提案に、ジェダイトの顔に冷たい笑みが浮かんだ。


「私は貴殿こそ王座に相応しいと常々思っておりました。

 しかし、私にも立場がある故にそれを口外することはできませんでした。」


ジェダイトの表情の変化にアーガスト侯爵は言葉を重ねていく。


「だが、春先の一件を境に私が後ろ盾となるべき者は王宮を去ることとなりました。

 いえ……あのような者は元より王の器では無かった、ただそれだけのことでしょう。」


王位継承権だけでなく、王籍も剥奪された孫ライナスのことを不憫に思う祖父の表情をアーガスト侯爵は浮かべ言葉を重ねていく。


「ベルフォード殿。

 貴方様は騎士団長程度で終わる器ではございません。

 貴殿にこそ、王冠は相応しい……儂はそう思うのです」


如何ですかな?と如何にも好々爺然とした笑みを浮かべるアーガスト侯爵。


「確かに、王冠とは血に穢れ、玉座は積み上がった骸の上に座すもの。

 ……王座を簒奪することもまた一興。」


「では……」


「凡人すぎる発想に欠伸が出るがな。」


「は……?」


低く笑うジェダイトに、アーガスト侯爵は虚を突かれる。


「私は他者に与えられる玩具になど興味はない。

欲しいものがあるならば、己で手に入れる。

他者の手助けなど無用だ。」


哀れなほどに愚かしい、とジェダイトの瞳は語り、悪役めいた笑みが浮かんでいた。


「第一、手に入れようと思えば容易に手に入る古びた椅子と手垢のついた飾りに何の価値がある?」


「…………」


「欲すれば捧げられる駒と結末の見えた盤上。

 チェックメイトまでの道筋を読み切った遊戯ほどつまらぬものはない。」


ジェダイトは浮かべていた笑みを消し去り、路傍の石を見るかのように冷ややかな視線をアーガスト侯爵へ向ける。


「……貴方様のように聡明な御仁が王座を望まぬとは……残念でなりませんな」


心の底から残念だと言わんばかりに瞳を伏せるアーガスト侯爵を、ジェダイトは鼻で嗤う。


「残念、か……戯言だな。

 かの鬼算策謀家と言わしめたロナルド・アーガスト侯爵とも在ろう者が、私の答えを読み違えることなど有りはしまい。

 ……要は、私を呼び出し、我が婚約者への守りを薄くすることが目的だろう?」


「おやおや、そのようなお戯れを仰るとは。

儂のような年老いた昼行灯が何を謀れましょうぞ。」


人好きのする笑みで答えるアーガスト侯爵に、ジェダイトは挑発するように嘲笑う。


「……貴様にとって、我が血筋は憎かろう?

 いや、そちらよりも王妃の血筋か。」


「…何のことですかな?」


己の問い掛けにアーガスト侯爵の反応がほんの一瞬遅れ、指先がピクリと動いたことをジェダイトは見逃さなかった。


「惚けるならば、それで構わん。

 そう、我が婚約者の話だったな。」


しかし、アーガスト侯爵をそれ以上問い詰めることもせず、ジェダイトはさっさと話題を元に戻す。


「今、我が婚約者は貴様が切り捨てた(ポーン)と謁見中だな。

 貴様に切り捨てられた駒が暴走して何かを起こす。

 陛下より直々に第一王位継承者である我が婚約者の護衛を任されている我が第二騎士団がいる場での騒動。

 そのようなことが起き、万が一でも婚約者の負傷でも重なれば、私の立場は悪くなる。

 そこに何か貴様の新しい駒を送り込む……そんなところか。」


「いやはや……突飛なお話をなさる。

 儂が切り捨てた駒ですか……?

 さて……何のことやら、わかりませんな。

 まして、儂は王女殿下が謁見をされているとは初耳ですぞ。」


にこやかにジェダイトの言葉に応えていたアーガスト侯爵は、次の瞬間には纏っていた空気を剣呑なものへと変化させた。


「しかし、そうですなぁ。

 ベルフォード殿の空想にお付き合いするとしたら……このような続きは如何ですかな?

 万が一、第二騎士団の中に裏切り者がいて、危険物を見逃していたとしたら?

 例えば、そう……短剣などの暗器の類い。」


ジェダイトの反応を眺めつつ、アーガスト侯爵の空想は続いていく。


「様々な要因が重なり合い起こりうる悲劇。

……最も、よくある三文芝居過ぎて喜劇にもなりませんがな。

 いやはやお恥ずかしい!

 私にもベルフォード卿のような想像力が有れば、もっと素晴らしい物語を語れたものを。

 ……くだらない年寄りの空想にお付き合いさせてしまい、申し訳ありませんでしたな。」


纏っていた剣呑な空気を霧散させ、微笑むアーガスト侯爵は笑い話だと話を終わらせようとした。

 

「使い古された棋譜でも、打ち手次第。

 ……だが、ポーンとクイーンの違いも分からぬ輩に勝利の女神は微笑みはしない。」


しかし、冷淡に告げられたジェダイトの言葉に眉をピクリと動かし反応する。


「……駒の価値を読み違えている、と?」


「貴様に指南する義理は無い。

 だが、一つだけ忠告をしよう。

 すべては無用な諍いを避けるため、盤上に上がることを望まなかったクイーンを目覚めさせたのだ。

 既に盤上は変化した。

 駒の役割すらも、な。」

 

意味有りげに口角を吊り上げるジェダイトに、アーガスト侯爵は目を細める。


「では、失礼する。

これ以上、貴殿と言葉を交わす必要もあるまい。

……すべては我が愛する婚約者の心のままに。」


振り返ることなくジェダイトは颯爽と去っていく。


「…………」


一人残されたアーガスト侯爵は、何かを考えるように無言を貫くのだった。



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