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「アランは、チョコレート苦手でしたか?」
去年は最愛の人にしか渡さないイベントだったので、もちろんわたくしはレオンにしかチョコレートを渡していない。
アランがチョコレートを好きかどうかは知らなかったので心配になったのだけど、アランはわたくしがチョコレートを取り返すつもりとでも思ったのか、チョコレートをぎゅっと握りしめて、
「いいや。チョコレートは好きだ。大好きだとも!」
いやにきっぱりと宣言する。
そんなに必死になって言わなくても、お渡ししたものを取り返したりはしませんよ。
「そうですか、よかったです。シュー、ヒュー。ロバート。あなたたちもチョコレートお好きですか?」
「えっ、僕たちにもくれるの?」
「チョコレートって、最愛の人にしか渡さないんでしょう?」
シューとヒューは目をくりくりさせながらも、両手を差し出してくる。
この二人は、甘いものが大好きなのだ。
わたくしはアランとお揃いの包みを二人の手の上に乗せ、ロバートにも手渡した。
「それは、去年までのバレンタインですよ。かなりの需要がございましたので、今年からはいつもお世話になっている方にもチョコレートをお渡しするという企画に変更したのです。義理チョコというのですわ。異世界ではかなり浸透しておりますのよ」
「へー、そうなんだ」
「ありがとう!」
「うわ。まさか俺までもらえるとおもってなかったよ。ありがとう」
シュー、ヒュー兄弟とロバートはお礼を言ってくれつつ、アランに生暖かい視線を送る。
アランは若干ひきつった表情で、一拍遅れてお礼を言ってくれた。
するとレオンが、ほんのすこし眉をしかめて、言う。
「僕のぶんはないのかな?」
「もちろん用意していますよ!レオンのはわたくしが手作りする予定で…、でもバレンタイン当日にお渡ししようと思っているので、まだ準備中なんですけど」
「手作りなの?」
「はい、おいしくできるか不安ですが。レオンは特別なので、特別なのをお渡ししたくて。……迷惑ですか?」
わたくしは、あまりお料理が上手ではない。
レオンは優しいからわたくしの一生懸命を否定したりはしないと思いつつ、けれどレオンだっておいしいチョコレートが食べたいと思うかもしれないとすこしだけ不安に思いつつ、尋ねる。
するとレオンはいつもの優しい笑顔で、「すごく楽しみだよ」と言ってくれた。
わたくしは、それだけでとろけてしまいそうになる。
人前ということも忘れて、レオンの手をぎゅっと握ると、アランがわざとらしい咳ばらいをした。
自分の行動が恥ずかしくなって、わたくしは会議室をそそくさと後にする。
レオンといると、ほわほわした気分になって、ついつい悪役令嬢の真似を忘れそうになる。
けれど会議室を出たとたん、レオンが手をつないでくれたのがすごく嬉しかったので、本日の悪役令嬢はすこしお休みして、わたくしはつくりものじゃないあまったるい笑顔をうかべた。
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