第七話 地獄の産物
「親分……それってまさか……」
「あぁ……間違いねえ……正真正銘、本物の飢影だよ。」
金丸は、狂ったように笑い出した。
「ハハハッ!松の野郎、嘘こきやがって!飢影伝説は本当だったんだよ!」
「ま、まあ、その刀が飢影かどうかはさておき……早くここから帰りましょう。」
「あ?お前、今なんて言った?」
金丸が苛立った顔で明次を見つめる。
「これが本物かどうかだと?何ぬかしてんじゃ、てめえ?あ?いいか?人間が作ったとは思えねえ、この見事な刀身!飢影に決まってるだろ!」
金丸は、いつになく声を荒らげ、明次の胸ぐらを掴んだ。
「そ、そうすか……」
「おう。当たり前だろ。早く帰るぞ。」
二人は、動かなくなった銅像を背に、寺を後にした。
「あの銅像は何だったんでしょうね。もしかしたら飢影の守り神?」
「知らん。だが飢影はもう俺の物だ。」
「あれ?高値で売るっていう話は?」
「あぁ〜……ほら、もう出口だ。」
しかし、洞窟を出ようとした瞬間、何者かに腕を強く掴まれた。
「トマレ……」
「ヒィィ!?」
二人が後ろを振り返ると、そこには白骨化した修行僧が立っていた。
「な、な、なんですか!?」
骸骨は、ゆっくりと、まるで何かを警告するかのように口を開いた。
「オマエ……モッテル……カタナ……ヒト……モツ……モノ……チガウ……カエセ……」
「は?ふざけんじゃねえぞ?断る。俺はこの刀を手放さないからな。」
もはや、金丸の頭から飢影を売るという考えは消え去っていた。
「ソレ……ジゴク……サンブツ……ヒト……ツクッタ……チガウ……」
「親分……もう返しましょう。ね?」
「………」
「親分?」
金丸は、飢影を大きく振り上げた。まるで、ようやく獲物が現れたと喜んでいるかのように、飢影の刀身が光った。
「くたばれ、この化物が……」
次の瞬間、金丸は骸骨に向かって豪快に飢影を振り下ろした。
「ケイコク……ハ……シタ……」
骸骨は一刀両断され、洞窟の中へと転がり落ちていった。
「親分!さっきから思ってましたがおかしいです!一体どうしちまったんですか?まさか……飢影の呪いが……」
「……大丈夫だ……大丈夫。」
金丸は深く息を吸い、飢影を見つめた。
月光を乱反射させ、艶めかしく輝く刀身は、その奥に潜む凶暴さを見せつけるように、こちらへ訴えかけていた。
「モット血ガホシイ」と……
「なあ、明次……俺ら、いつまでも裏路地でコソコソ身を潜めながら、詐欺みてえな商売して生きていていいと思うか?」
「えっ?……そりゃあ僕だって、いつまでもこんな事やってたら、いつかツケが回ってくる。そんな気はしてますよ。」
「そうだな……俺もそう思う。でもよ……この刀を見てたらよ……不思議と湧いてくるんだ。コイツと一緒なら俺はどこまでやれるんだってな……」
「え?」
「コイツが俺に囁くんだよ……人を殺せ、殺せってな……」
「親分、あんた……本当にどうかしちまってますよ。」
「なあ、明次……俺とお前と松の三人とコイツならよ……この国……いや、この世界だって獲れる!そんな気がするんだ。」
金丸は明次の手を握りしめ、熱く語った。
「離してください!!」
しかし金丸は、手を離すどころか、さらに強く握りしめた。
「俺も今までこんな事考えちゃいなかった。ただな……コイツを使っているとよ、もう止まることなんか許されねえ……そんな気がするんだ。」
「親分……あんた本気なんすか?」
「ああ……この世界を、ゴミ共の血で埋め尽くしてやろうぜ……」
その野望と情熱に満ちた目は、どこか不気味に笑っていた……。
明次は、自分もまた、もう引き返せないところまで来てしまったのだと感じていた。
二人は都に向かって歩き出す。
その道が、彼らにとって破滅への一本道なのかどうかは分からない。
しかし、飢影を手にした金丸は、ひたすら……ただひたすらに血を欲した。
「血……血……ああ……血が……足りない……もっと……モット……」
「モット血ガホシイ」
〜終わり〜




