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【完結】オオカミはフードを被る  作者: Nadi
オオカミはフードを被る

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37/99

崩れる

しばらくここからお話しが暗くなります。

 雪が深々と降る森の中にキエリが一人佇む。


 (ここは‥‥?)


 『キエリ』

 『キエリ、わたしたちのかわいい子』


懐かしい声が聞こえて、振り返る。


そこには、ずっと昔に死んでしまった大好きな両親がいた。


 「お父さん! お母さん!」


キエリは、大きなオオカミの風貌の両親に駆け寄る。


涙が両目いっぱいにあふれてくる。


しかし、キエリがめいっぱい走っても両親のもとにたどり着けない。


 「お父さん! お母さん! 待って、おいて行かないで! 独りにしないで!」

 『?????』

 『???????』

 「なに? なに言ってるの? わかんないよ!」

 「うわっ!」


キエリが何かに躓いて、思いきり前のめりに倒れた。


手をついて上半身だけ起き上がらせて、何に躓いたかと見ると、クマ型の魔獣の死骸だった。


周りにもいくつもの魔獣の死骸が所狭しと倒れている。


死骸から流れる血が白い雪を赤く濡らす。


 「あ‥‥あ、あぁ」


キエリが恐怖に震えて腰が抜けたまま、後ずさると何かに触れる。


振り返ると両親の死骸があった。


 「うそ‥‥あああああ!!」



 「っはぁ、はぁ、はぁ、か、は、はぁ‥‥‥」


キエリは、寝台から起き上がった。


酷い夢を見たせいで、全身から汗がでて服がびっしょりとしてからだに張り付く。


 「ゆめ?‥‥ゆめ?」


キエリは、あまりの衝撃に現実かどうかわからず、辺りを見渡す。


首元を探り、フェリクスからもらったネックレスを取り出して、石の部分をぎゅっと握りしめ、落ち着こうと深呼吸する。


 「すー‥‥はー‥‥」


 (ものすごく嫌な夢を見た‥‥夢‥‥ううん、あれは、場所が違っても実際に起こったこと、起こっていること‥‥)

 (それに‥‥わたし、一瞬魔獣の言葉が‥‥)


 キエリは、ネックレスを握る手を緩め、愛する人の瞳に思い出させる石を見つめる。


それでやっと落ち着いて、ゆっくりと視線を上げる。


もう、日はとっぷりと落ちてしまって、部屋の中は灯りがなく、暗闇に包まれている。


 キエリは、重いからだを起こして灯りを見つけてくる気になれず、空中にくるりと円を描き、魔法で小さな灯りを作った。


視線を王妃から預かった冊子に移す。


 (王妃様から預かった冊子、フェリクスの記録って言ってたけど‥‥読もう、他に何か考えなくてすむ)


キエリは、冊子を手に取る。


 「これ‥‥」


フェリクスの記録だと言っていた冊子には、フェリクスの出生時の状態から始まり、いつどんな病気をしたのか、その時どのような薬や魔法で回復したのか、さらには、毒に慣れさせるための訓練などまでが事細かに記してあった。


 「王族の健康についての情報なんて、とても大事なんじゃ‥‥もしかして、わたしを認めてくれた?」


 1年間、キエリは必死に毎日フェリクスの隣にいられるように努力を重ねてきた。


そんなキエリを王妃と王は、この国の王子の妻になることを認めてくれたのだ。


王も王妃も、もともとキエリに対して好意的に接してくれていたが、今まで試されているという感覚があった。


その結果が今日キエリの前に出されたのだ。


 「そっか‥‥ふふ」


キエリは、今日一日笑うことがなかったが一日が終わる少し前に、やっと笑顔になれた。


目がすっかり覚めたキエリは、冊子をじっくりと読みこんでいく。


 (今では考えられほど、フェリクスは小さいとき体調を崩していたんだ‥‥)


フェリクスが辛い思いをしていたかと思うと泣きそうになるが、涙で冊子を濡らしてはいけないと思い我慢すると、鼻の奥がつんと痛くなる。


読み進めていくと、ある個所でキエリの文字をなぞる指がとまる。


 「‥‥‥」

 「‥‥‥」

 「‥‥‥え?」


〇〇年冬の月〇日 全身が氷のように硬く、冷たくなり、やがては死に至る病を患う。

××薬効果なし。

△△薬効果なし。

王宮魔法使いらが魔法で治療を試みるも効果なし。

王宮魔法使いゼノが魔獣を使った薬を使用することを提案。

〇日 薬を作るのに必要なオオカミ型の魔獣の目撃情報が幸運なことに舞い込んでくる。

急遽、騎士団部隊を編成し、魔物の討伐に向かった。

数名の被害は出たものの、討伐に成功。

魔獣の眼球から、薬を作り出すことに成功。

〇日 服薬後、王子の容体は回復。経過良好。


 キエリの手が震える。


文字を何度も読み返す。


ゼノの隠し事も、フェリクスに懐かしさを感じることも、何故、あの日愛する両親が殺されたのかも全て、キエリの頭の中でつながった。


キエリの中で、何かが崩れてしまった。


 「あはは‥‥」

 「あはははははははははは!!」

 「は、は‥‥は」

 「わたしは、何も知らずに‥‥いいえ、見ようとしなかっただけ! 馬鹿みたいに幸せな甘い夢の中にいるのが心地よかったのよ!」

 「ふふ、あはは」


キエリは、狂ったように笑いながら涙まで流れてきて、もう感情がぐちゃぐちゃになっていた。


 「もうどうでもいいわ、隠すのはやめ」


キエリが手に魔力をこめ耳に触れる、偽物の耳を本物に変え、あるべきしっぽを元に戻す。


冊子を寝台の上に投げ捨て、部屋をでた。


 廊下を魔獣の姿のままで平然と闊歩する。


その姿を一番に見つけたのが、ゼノだった。


キエリの様子を見に行く途中だったようだ。


だが、キエリが魔獣の姿をさらしているのを見て、いつもふざけているゼノが顔を真っ青にして、走ってキエリのもとに行き、キエリの肩を掴む。


 「キエリ! もしかして魔法が解けたの!? 今もとに戻すから‥‥」

 「触らないでよ‥‥」


キエリは、思いきりゼノを突き飛ばした。


ゼノは、当然そんなことされるとは思っておらず、そのままバランスを崩して、床に倒れた。


ゼノがハッとして、キエリを見上げる。


その表情は何もかも終わってしまったかのような絶望で、押しつぶされそうになっている。


 「キエリ‥‥」

 「黙ってよ! 騎士団がわたしのお父さんとお母さんを殺したって言ってたけど、そう仕向けたのはゼノだったのね!」


キエリは、ゼノに対する嫌悪感と怒りで顔が歪む。


 「さぞ、滑稽だった? 両親を追い詰めたあなたにわたしが懐くさまは!? わたしが、親の眼を食べたフェリクスを愛する様は!?」

 「キエリっアタクシは‥‥っ!」


ゼノは、訴えかけるようにキエリを見つめるが、言葉が出てこない。


キエリは、何も言わないゼノに憎らし気ににらみつけるが、次第にその瞳には深い悲しみの色に染まっていく。


 「もう、ぐちゃぐちゃだよ‥‥気持ちも、思い出も、何もかも‥‥こんなことなら、独りの方がずっとましよ」


ゼノは、足が震えて立ち上がれなかった。


両足を引きずってキエリに近づこうとするが、途中で止まる。


 「キエリ、キエリ隠していてごめんなさい‥‥アタクシ、恐ろしかったの‥‥」

 「本当にごめんなさい‥‥」


ゼノは、涙を流し、その場で膝と両手をついてキエリに謝罪した。


キエリは、じっとその姿を見つめる。その瞳には温度がなかった。


 「もう、無理だよ‥‥‥やっぱり、無理だったんだ」


キエリは、姿を変えた。


銀色の毛が美しいオオカミのような魔獣の姿に。


 『さよなら』

 「だめよ! だめよキエリ!!」


魔獣は、廊下の窓を体当たりで突き破り外に出た。


そして、闇夜の中に銀色の光は消えていった。




 キエリが城から去ってしまったその日、大きな地震が王都ウルブスを襲った。


この地震はただの地震ではないことは人間たちは理解していた。


地面が叫びをあげるように揺れた時にはいつも魔獣が出現していたからだ。


しかし、今回の揺れは今までのものとは比べられるようなものではなかった。


王都ウルブス全体を覆いこんでしまうような真っ黒な穴が地面に現れた。


だが、ウルブスはその穴に落ちるわけではなく、なんとその穴から巨木が生えてきて、城を下から貫いた。


城は、巨木によって崩壊し、城に成り代わるように鎮座した。


城下の街も無事ではなく、街のいたるところに巨木の根が張り巡らされ、その根から独特の香りを放つ淡い桃色の花が咲き乱れた。


さらに、ただでさえ悪夢のような状況にまるでより絶望を与えるかのように、巨木からは魔獣があふれだした。


人々が泣き叫びながら逃げまどう。


こうして、王都ウルブスは一日にして滅んだ。


城にいた人間の安否は不明である。

お読みいただき誠にありがとうございました。

第一部オオカミはフードを被る 終わり

第二部オオカミはフードを脱ぎ捨てたに続きます。

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