第四十一話 悪魔
新年あけましておめでとうございます。
目を覚ますと私は一人草原で寝ころんでいた。
目の前には、雲一つない空が広がりまるであの日のようだった。
私が復讐を決意した日に——。
身体を起こすとそこには、あの日と同じように黄金の髪を持つ美しい女性がいた。
「やぁ、アリス久しぶりね」
「絶望王?」
「ええ」
絶望王はあの日と何も変わらず儚げに私に微笑んだ。
「あなたがいるってことは、ここは……」
「そう。キミはまた死んでしまったんだよ……」
「そっか……」
生者が死者に成り代わる世界に私は再び来てしまった。
「それにしても私は悲しいよ。君は私の与えた力を全く使ってくれないし、悪魔たちとは協力してくれないし。お姉さんはとってもブルーな気分だよ」
「えっ?どういうこと?」
「【死冠の王】よ。忘れたの?アリスは全然使ってくれないじゃない。それに彼らともちゃんと話しなよ~」
絶望王はやれやれと言った様子で私の背後に目を向けた。
私は彼女の視線につられるように目を向けるとそこには、四人の男たちが膝を地面に付け、頭を垂れていた。
男たちは全員が黒い燕尾服を着ており、微動だにせずにいた。
「彼らは君を待っているんだよ。ほら話しかけて」
絶望王は私に彼らに話しかけるように催促してくる。
初対面の彼らに私は、緊張していたが勇気を振り絞って声をかけた。
「あ、あの、あなた達はいったい——」
「アリスお嬢様この度は御身を守れず誠に申し訳ございませんでした」
「「「申し訳ございませんでした」」」
私が彼らに声をかけた途端に老齢の男性が急に地面を頭に付け謝ってきた。
その声は戦闘の時に聞いた【虎目ノ計測】の声と瓜二つであったのだが、彼の謝罪の後に他の者たちも一斉に頭を地面に擦り付け謝ってきた。
想像して欲しい。
目の前に知らない燕尾服を着た男性たちが地面に頭をつけ所謂土下座をして必死に少女に謝っている姿を——。
はっきりいって公開処刑もいいとこだろう。
絶望王は戸惑う私を見てクスクスと笑っていた。
「えっと、なにこれ……」
「ふふふ、謝罪じゃないかしら?ほらほら、私じゃなくて彼らと話してあげなよ」
彼らのいきなりの謝罪に戸惑いつつも私は彼らに向き合った。
「あ、あのまずは顔をあげてください」
彼らはゆっくりと顔をあげていった。
そこで見て驚いたのは、彼らの容姿の美しさであった。
彼らの顔を見て私の心臓がぎゅっと一瞬苦しくなった。
「どうなさいましたかお嬢様?」
「な、なんでもないです」
老齢の男性は私を気遣うように渋い声をかけてきた。
私はあわてて返事をした。
ほんの少し頬が朱に染まった私を絶望王は何かを見透かしたように笑った。
「アリス、君もやっぱり女の子だね~。お姉さん安心したよ」
「う、うるさい……」
私は絶望王にニヤニヤされながら彼らの話を聞いた。
やはりというか彼らは私の【禁眼】の悪魔たちであった。
話は彼らの自己紹介から始まった。
最初に私に渋い声で返答をしてきた老齢の男性はやはりというか【虎目ノ計測】であった。
真っ白に染まった髪にモノクル、老人とは思えない逞しい肉体をしていた。
自己紹介は続き深緑色の髪の少女の様な華奢な少年は【碧玉ノ暴食】と名乗り、彼にしがみつくようにおどおどした様子の淡い青色の長い髪を持った少年?は【玻璃ノ未来】と名乗った。
そして、最後に自己紹介をしたのは、紫色の髪をした青年で【紫晶ノ契約】と名乗った。
皆共通しているのは、彼らの瞳の色と私がその能力を使ったときに変化する色のそっくりな点であろうか。
あと、やたらと皆美形ぞろいであることだろうか——。
話はというか自己紹介以降は、ほとんどが彼らの謝罪であった。
元々【禁眼】は悪魔の力を能力ではなく、彼ら曰く悪魔に能力を使わせる力であるらしい。
だが私は今まで彼らの力を自分で使っていた。
悪魔の力は強大で本来なら扱えないものなのだが、私はそれを成してしまった。
力を扱える私に悪魔たちは私に全てを委ね、傍観することを選んだという。
余計なことはやらず言わず、ただ力を譲渡し全てを私に任せてしまう方が私のためになると思ったらしい。
しかし、それは誤りだった。
彼らは皮肉にも天使の助言でその結論に行きつきあの時私に語り掛けたという。
天使のことを話し出した時は、やはり悪魔なのかどこか嫌そうな雰囲気だった。
「結局、私はどうすればいいのかな」
「お嬢様は何もすることはございませんよ」
「これからは私達がお嬢様を支えます」
「僕たちの全てを賭けてお嬢様の願いを叶えます」
「もう……独りで戦わせません」
「ふふふ、モテモテじゃないかアリス。でもそろそろ時間だ。君の大切な娘たちが待っているよ」
絶望王は、そっと私を抱き寄せ耳打ちした。
「もっと周りを頼りなさい。君はもう独りじゃないんだから——」
「私は別に——」
「初めての友達を大切に思うのもわかるよ。友達を傷つけたくないのもわかる。けどね、そのために君が傷ついたらダメなんだ。それはきっと彼女達をもっと傷つける。だから蘇ったらちゃんと謝るんだよ」
「わ、わかった」
「それじゃあ、いってらっしゃい——」
絶望王は言葉を最後に私の意識は遠のいていった。
アリスの姿はまるで世界に溶ける様に消えていった。
アリスが完全に消えたことを確認すると絶望王は、悪魔たちに目をやった。
「私はこれでもあの子を気に入っているんだ。だから、わかるよな」
その言葉は先き程までの口調とは打って変わり、ひどく冷たい怒気すら感じられた。
だが悪魔たちは、まるで威圧された様子すら見せず、膝に付いた草を払いながら立ち上がっていく。
そして彼らは、アリスと同様、姿が徐々に薄く世界に溶けていく。
そして消える直前、アザゼルは絶望王に向かって言った。
「貴方に言われるまでもありません。私達は他ならないお嬢様のために存在しているのですよ。お嬢様のためなら私達は世界でも貴方でも壊し殺しますとも——」
他の悪魔たちもアザゼルに賛同するように真っ直ぐに絶望王を見つめる。
「あっそ」
絶望王は、素っ気ない返事をすると踵を返し悪魔達を背に歩き去り、悪魔達も完全に消えていった。
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