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黒幻のリンクライン  作者: 水無雲夜斗
第一章 ニュービーキラー編
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1-8 新たな事件

 「? なにかあったんですか?」


 レンがそう問うと、ミィンは真剣な顔をした。


 「最近、新入生が次々と襲われる事件が発生していてね。今のところ被害件数は三件なんだけど、これが同一犯による可能性が高いんだ」

 「なぜ同一犯だと?」

 「襲われた生徒はみんなキミと同じA組、つまり入学時成績上位者ばかりっていうのが理由かな」


 そういえば、とレンは思い出す。

 A組の生徒は欠席者が多い。今年度最優と謳われる総合成績第一位の生徒は入学時から今日に至るまで常に欠席。第二位、第十一位も同様で、レンは三人の姿を見たことすらない。

 第八位の女子生徒はたまに見かけるが、入学式から今日までの六日間で登校してきたのは二度ほどで、授業も一時限は受けてその後はふらりと行方を消すといった感じだ。担任教官のエイゼルの話によると、どうやらサボりらしい。

 さらに入学から二日して第十位の生徒が欠席。三日後から第九位が、そして昨日から第五位の生徒が欠席している。

 たった15人しかいないクラスで半分近い七人もの生徒が欠けており、他のクラスに比べると閑散とした雰囲気が目立つようになってしまっている。


 「なるほど、欠席者が目立つとは思っていましたが……ちなみに襲われたのは?」

 「四日前、つまり入学から二日後に入学時総合成績第十位のキルティ=ネイソン、その次の日に第九位のアニカ・S・クランツ、そして昨日には第五位のフェルト=デ=カラクシスがそれぞれ襲撃を受け、現在病院にて治療中さ」

 「治療中ということは死者は出ていないんですね」

 「幸いにも三人とも命に別状はない。が、それなりに痛めつけられたみたいで重症を負っている。しばらく学園に通うことは無理だろう」


 一般常識に疎いレンでも流石にクラスの欠席者が日に日に増えていくのはおかしいと思っていたが、まさかここまで大事だとは思っていなかった。

 書類の散らばった机を片手で漁り、一枚のプリントを手にしたミィンは、それをレンに見えるようにして持つ。


 「我々はこの事件を『ニュービーキラー事件』と呼んでいる」

 「『ニュービーキラー事件』?」

 「新入生狩り、ということさ」


 そのネーミングはどうなのだろうか。というのも、確かに現状で被害に遭っているのは新入生のみだが、今後被害が出るのであればその被害者が必ずしも新入生であるとは限らない。

 などというレンの疑問に感づいたのか、アークが説明に入る。


 「こういった新入生を狙った事件は今年度が初めてというわけではない。過去にも何度か事例があり、今回の一件はその過去の事例と酷似している」

 「過去にも同じような事件があったと?」

 「まったく同じというわけではないが、その通りだ。今回の一件と過去の一件で一つ共通していることがある。それは、入学時に優秀な成績を収めた者を集めたA組の生徒が被害者になっているということだ」


 それはレンも気になっていた点だ。

 単に身代金目当てに貴族生徒を襲ったり、ちょうど入学式の日にレンが遭遇した一件のように高い自尊心を持つ上級生の貴族が新入生にちょっかいを出すのであれば、別に一年A組の生徒にターゲットを限定する必要はない。それこそ、実力者揃いのA組の生徒よりは他クラスの生徒の方が手を出しやすいはずだ。

 ミィンの掲げるプリントには、見出しに大きく「ニュービーキラー事件」という文字があり、それぞれ被害者である生徒の顔写真が載っている。同じクラスであるレンは彼らと何度か顔を合わせているし、言葉を交わしたことがある者もいる。そのレンからしてみると、彼らは全員なんらかの才能を持った実力者達だった。少なくともそんじょそこらのチンピラに集団で襲われてもあっさり撃退できる程度の腕はあっただろうし、才覚者揃いのレアードの上級生にだって引けを取らないだろう。そう簡単に病院送りにされるほど甘くはない者達のはずなのだが。

 そうなると、彼らを襲ったのはかなり腕の立つ使い手ということになる。そこまで予測して、レンは真っ先に多くの才覚が集まるレアード学園の上級生を思い浮かべたが、それはアークによって否定された。


 「実力者揃いの一年A組の生徒を襲撃できる者は限られている。我々は二人目の被害者が出てからすぐさまレアードの上級生で彼らに勝る実力者達を調べたが、いずれもアリバイがあった。レアードの生徒が犯人という可能性は低いだろう」

 「一人での実力が劣っていたとしても、集団で襲撃すれば話は別です。その点については?」

 「被害者が襲撃されたのは人通りの少ない路地裏や道路だが、それでも数十分に一人は必ず誰かが通るような場所だった。そんな場所で集団で動けば必ず足が着くはずだが、今のところ目撃者は一人も出ていない。そのことから、犯人は単独で行動しているか、あるいは隠密性に長けた者であると思われる。前者は現在捜査中だが、後者の場合レアード内部でそれらしい能力を持った生徒を既に調査済みだ。先述の通り、どの生徒にもアリバイが存在し可能性は低いと考えられる」


 随分と手を回すのが早いなと思ったが、それだけこの生徒会という組織が優秀なのだろう。なんといっても世界中から様々な才覚を持った生徒が集められた学園だ。学生といえど、そういった人材で構成された治安維持組織は軽く一国家の特別組織並の力があるのかもしれない。

 その生徒会が学園内部の者の犯行である可能性が低いと言っているのだ。この情報はある程度信用するに値するだろう。


 「では、生徒会はこの件が学園外部の者の犯行であると?」

 「半分正解、半分不正解といったところかな」


 レンの質問に、ミィンが曖昧な返答をした。


 「確かに学園内部の者が犯行を行った可能性は低い。でも、もし学園内部の者が学園外部の者に依頼していたとしたら?」


 確かに、その線は考えられなくはない。だが、それはあくまで推論の話だ。学園内部の者が学園外部に依頼したという痕跡や証拠がないのであれば、突拍子もない話の域を出ない。

 だが、生徒会側はなんらかの尻尾を掴んでいる様子だった。


 「簡単な話さ。今回被害に遭った三人は一年A組であるという以外で共通点は何もない。もし国籍が同じであれば国家絡みの線を疑うし、知人友人その他もろもろの特別な関係であったならば身内間でのトラブルの線を疑う。では、被害者が全員一年A組であったという場合、真っ先に疑うべきなのはどの線か?」


 ミィンはそこで一度区切り、レンに思考の時間を与える。

 といってもレンの頭には既に答えが浮かんでいたが、それを口にするよりも早く、絶妙なタイミングでミィンが話を再開する。


 「そう、学園関係だ。レアード学園という世界で最も特殊な学園で、国籍も関係性もバラバラな新入生達が襲撃された。となればまず疑いの目を向けるべきは学園関係者だろう」


 ごもっともだ。学園に直接関わっているにせよ間接的に関わっているにせよ、犯人はレアード学園になんらかの関わりがある可能性が非常に高い。

 もっともそう断定できるわけではなく、一番単純な答えとしては愉快犯が新入生の実力を試したくて手を出したという可能性も考えられなくはないが、もしそうであるのなら裏からこそこそ襲撃せずとも正面から決闘でも挑めば済む話だ。

 つまり現状、可能性として一番高いのが生徒会が考えている線ということになる。


 「これらを踏まえた上で私達がキミに何を言いたいか、理解してもらえたかな?」

 「……忠告、ですか?」

 「その通り」


 机から体を放したミィンは、そのままレンに歩み寄る。


 「現状において『ニュービーキラー』のターゲットになっているのは一年A組の諸君だ」


 そしてレンのすぐ傍で立ち止まると、指で彼の胸元を指す。


 「だから、次はキミの番かもしれない」


 なるほど、それはこれ以上なくわかりやすい忠告だ。

 これはレンの勘だが、ミィンの言う通りニュービーキラー事件のターゲットは一年A組の生徒だろう。おそらく、ミィンやアークも同じような勘が働いているはずだ。でなければ、こんな風にA組の生徒であるレンにだけ忠告するような真似はしないはずだ。


 「まぁ、せいぜい気をつけることだ。もっとも、キミならあまり心配はいらないかもしれないけどね」


 すっと指を放したミィンは、そのままくるりと身を翻すと元いた位置へと歩いていく。その途中で、レンは気になっていた疑問を口にした。


 「この話、俺以外の生徒にはしていないんですか?」

 「そうだね、生徒会はこの案件をなるべく秘密裏に処理したいと考えている」

 「なぜですか?」

 「さぁ、何故でしょう?」


 ここにきて意地悪な返しをされてしまった。様子を見る限りでは教えてしまっても問題ないが、あえてレンに考えさせるように仕向けるような風だ。


 「さぁ話は終わりだ、わざわざ呼び出して悪かったね」

 「レン、大きく話が逸れてしまったが、今日の本題は生徒会への勧誘だ。ニュービーキラー事件のことはあまり深く考えず、生徒会に入るか否か、じっくりと考えてみてくれ」

 「……はい、わかりました」


 そう返事をしてレンは生徒会室を後にする。

 この短時間でいろいろと厄介な話を聞いてしまった。そう思ったレンだったが、いずれも有益な話であったことには間違いない。

 さてどうしたものやらと考えに耽りつつ、レンは夕闇に呑まれていくクラブハウスの廊下を一人つかつかと歩いて行った。

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