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プレゼント

「先輩、本ありがとうございました」


太郎はいつものように借りていた本を返す。


「……うん、これお気に入りだったんだけど、面白かった?」


「ええ、花言葉についての知識が深くなった気がしますよ。でも、この小説に出てくる男の子は花が似合いそうですけど、俺には厳しいですよね」


「ううん、そんなことないよ……。花言葉を知ってて、お花をプレゼントされたら、素敵って思う……」


「そうですか、ちなみに先輩は花言葉に詳しいんですか?」


「うん……、お花で気持ちを伝え合えたらいいなって思う……」


「へー、俺もちょっと覚えてみます」


「……無理はしないでね……」


「いえいえ、俺も興味ありますし、俺は先輩の彼氏ですから、できることはやってみたいんです」


「……太郎君……」


「先輩」


図書室で行われるいちゃラブ空間だが、放課後の図書室は人がかなり少ないので、こっそりやれている。




「先輩、結構勉強してきたので、花言葉で会話しましょう!」


2週間後、太郎は乙姫に花の図鑑を2冊持ってきて話しかけた。


「結構難しいよ……」


「俺の成果を見てください! 図鑑を指して会話をしましょう! もちろん花言葉が載ってないタイプの図鑑です」


「そこまで言うならやってみよっか」


そして2人は図鑑を開いて会話を始める。


乙姫は『シオン』を指す。

意味 ごきげんよう

太郎は『レンゲソウ』を指す。

意味 心が和らぐ

乙姫は『シバラクサ』を指す。

意味 合意

太郎は『ブーゲンビリア』を指す。

意味 あなたは魅力に満ちている

乙姫は『ベルフラワー』を指す。

意味 楽しいおしゃべり

太郎は『ナンテン』を指す。

意味 私の愛は増すばかり


「……///」


太郎が結構積極的に褒め言葉の花言葉を話すので、乙姫は図鑑を閉じて顔を覆ってしまう。


「あれ? 駄目でした?」


「ううん、素敵だけど……、恥ずかしい……、これは家でやろう……」


嫌ではなかったようだ。


「じゃあ良かったです、あとはこれをどうぞ」


「これは栞?」


太郎はポケットから1枚栞を出して、乙姫の手に握らせた。


「押し花はできないんで、絵ですけどね。何か花について調べてたら偶然見つけました。白色の綺麗な花です」


「これは……スミレ?」


「あ、すみません、まだ花を見てどの花か分かるほどではないんです。花言葉の勉強がメインだったので、でも先輩に似合いそうだったので」


「スミレの花言葉は、謙虚、誠実、小さな幸せ……」


「そ、そうでしたね。すいません、俺はすごく幸せなんで、小さくは無いんですけど」


「ううん、ささやかな幸せが1番嬉しい。それに、太郎君がこの花を意識しないで選んでくれたことがすごく……、幸せだから」


「はい、俺もこういう幸せが続いてくれることが1番いいと思ってます」



図書室で行われるささやかな日常の一ページ。これが乙姫の自宅だと、乙姫が案外甘えてイチャイチャがもう少し激しくなる。



「…………、ウフ」


乙姫と太郎のデートは、たまには外に出るが、割と多いのが、乙姫の部屋で2人で小説を読むことである。


2人で部屋にいるからと言って何かするわけでもないのだが、乙姫が太郎に寄りかかったり、背中合わせになったりしながら小説を読むという変わった事をする。


乙姫が恋愛小説が大好きであり、太郎と接しているとドキドキして小説に臨場感が出るというライブ感を楽しんでいるらしい。


太郎は小説のジャンルは広いが、このときは乙姫に進められた恋愛小説を読んでいる。


「カプッ」


「!? 痛っ!」


そしてもう1つ変わったことがある。小説の状況で気に入ったものがあると、それを実践することである。


「せ、先輩、何してんですか? 首に何か……噛みました?」


「うん、甘噛み……、愛情表現でこうするって……」


「今度は何の小説を……、猫キャラのヒロインが主人公に恋をする小説ですか……」


乙姫は恋愛小説が好きだが、その範囲は結構広い。主人公とヒロインの恋愛物語さえあれば、それはどんなジャンルでも大丈夫なのである。


「あむあむ……、嬉しくない?」


「いえ、すごく嬉しいんですけど、不意打ちですと恐怖感が勝ります」


「そっか、じゃあ今後やるときは、一言言ってからやるね」


(今後もこれはやられるのか。嬉しいって言ったからだろうな)


「……、次は吸血鬼の作品を読もうかな……」


「できればあまがみまでにしてくださいね」


さて、これだけスキンシップをする場合もあるが、これは彼女が1度でも読んだ本をもう1度読む場合である。


乙姫は1回目、つまり初見の本は恐ろしいほど集中していて全く回りが見えなくなる。


2回目以降の本はそこまで集中しなくなるので、周りの声に気づけるように、公共の場所では絶対に初めて読む本は読まない。


太郎にくっついて読む本も、基本的には2回目以降の本。1回目は部屋でじっくり読む。


「今日は全く動かないな」


太郎は今日も乙姫の家に来ていたが、乙姫は本に夢中で全く動かない。


始めの頃は気を使って、乙姫がこうなることは無かったが、太郎のほうから、OKを出したのである。


時々構ってこなくなったりするだけで、静かに本を読んでいるのはいつもと変わらないからである。


「何か今日は集中できないな……」


文学少年にもなんとなく本の進みがよくない日はある。


そうなると、目の前には彼女が本に没頭している状態。ちょっとした悪戯心が芽生えてしまった。


「本当に集中してるけど、どこまでなんだ?」


ページをめくる音以外一切の無音。


ブンブン!


乙姫の前で太郎が手を振る。


「…………」


全く反応が無い。明らかに視界を邪魔しているはずなのだが、どうやって読んでいるのか。心眼があるのかと、太郎は思った。


プニプニ……。


ほっぺをつついて見た。全く反応なし。


「マジかよ。これじゃ外じゃ本が読めないわけだ」


いくらなんでも無反応がすぎる。


乙姫は割りとスキンシップをしたがる割には、太郎からのスキンシップにはかなり照れる。


乙姫的には、自分からやることは結果が予想できるから照れないのだが、太郎側からやられると、行動が予想できないから、照れるため嫌だということ。


もとい、嫌ではないらしいが、汗が出て顔が真っ赤になってしまうのを見られるのが嫌だということ。


「いかんな……俺を信用して新刊を読んでいるのだから、こんなことをしてはいけない」


と、頭では思うのだが、太郎にはどうしても1つだけやりたいことがあった。


ファサッ。


乙姫の前髪を両手でかきあげて、目元がはっきり見えるようにする。


「おお、やっぱり間近だとやばい。目大きいし、まつげ長いし」


普段恋人である太郎すらなかなか見れない顔全体のアップ。やったことはないが、服を脱がせるよりもよくないことをしている気分になりかけていた。


その後はばれないように俺も読書に戻った。ばれてないよな?










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