第八十九話 ティモ司教
アップが遅くなりました。すみません。
ファルファシオンに戻って以来、伯爵の屋敷で匿われていた。
ほとぼりが冷めるまでのつもりでいたが、これが日増しに酷くなる一方。10年前のトランスペアレンシーの再来である。
屋敷に無事辿り着いた俺達。
その後、伯爵とネリーは涙ながら和解を果たす。
ネリーは生還できたことへの感謝、今まで酷いことを良い散らしていた謗り言を謝った。
伯爵は娘の生還を暖かく迎え、全てを包み込む。
その父娘の姿を見て、恩に報いたことを改めて実感。
邪魔にならぬよう、銀貨について、改めて心の中で感謝した。
そして今現在、俺は屋敷で言うところの応接間にて、チェスを打っている。
相手はファルファシオン伯爵こと、オラース=ファルファシオン。
何故こんなことになっているか。
ファルファシオン家の娘よりも、このオラース伯爵にやたらと気に入られてしまったことが原因。
最初は娘の婿にと言い寄ってきたが、俺はこれを問答無用で断った。
どうやらオラース伯爵は、俺のことを唯の無職と思い込んでいたらしい。魔神のことは、口八丁に思われていたようだ。
俺との距離感を縮める為か、空いている時間は全てチェスの時間となっていた。
「オラース伯爵、仕事はいいのですか?」
「全く問題がありません。ハハハハハハハハハ」
この伯爵、チェスを打つのは大いに結構だが、なかなかに下手である。俺も人のことを言えない腕前ではあるが、伯爵は明らかに下手の横好き。
そこそこに拮抗する戦いの味を、覚えたのだろうか。割と本気で楽しんでいる気がする。
「教会の動きは、どのような感じですか?」
「日に日に捜索の手が増えています。外からも続々と街に入っているようですね」
一番最初、生誕から出てきたと思われるレティとテレサ、二人のことであろうと予想していた。
しかし、それとは別の第三勢力、教会が動いていると判明。
どうやら俺が知らない間に、三つ巴の戦いが始まっていた。全くもって面倒な話だ。
レティ達の方はともかく、教会の方は早めに手を打たないと、街に被害が出る。
何か良い手は無いかと、今居る部屋を見渡す。
客を通すだけあり、珍しい装飾品などが色々飾られていた。
高い位置に飾られた仮面が目に入る。仮面は細長い獣のような頭蓋骨を模しており、外側に向かう角を有す。角はゆるやかなカーブを描き、ヤギのような角。
「オラース伯爵、あの仮面は?」
「あの仮面ですか? あれは以前、金に困った商人から買ったものです。屋敷の者からは不気味がられ、評判はすこぶる悪いですが」
「伯爵、よろしければ、あの仮面を私に売って頂けませんか?」
「あの仮面をですか? ノヴィ殿が欲しいというのであれば、構いませんが。まあ私としては、ネリーを嫁に貰って頂けると、嬉しいのですが」
「それは以前にお断りしました。一応こう見えても、結婚を約束をしている女性がいますから」
「であれば妾でも」
「妾では、ネリーが可哀相です。それに伯爵令嬢が妾なんて」
嫁候補が二人もいる、なんて言えない。
言えば、なし崩しに三人目として贈られるであろうことが、容易に想像できた。
それから何度かチェスを打ち、俺が所望した仮面を、譲ってもらうことに。
これ以上借りを作らないでおこうと思っていたが、伯爵が金を受け取らず、有耶無耶のまま無料で貰ってしまった。あとが怖い品だ。
辺りが暗闇に染まる頃、頂いた仮面を被る。変身ヒーローと名乗るには、少々悪役過ぎる格好だ。
鏡でチラッと自分の姿を確認してみる。
暗闇の中から突然現れたら、チビってしまいそうなぐらい、不気味な格好だった。
『石透過』を使用し、目立たぬように街を移動。
教会の場所は予め確認済み。教会の正門から堂々と侵入。
礼拝堂に入ると、一人の男が祈りを捧げていた。
絵になりそうではあるが、俺としてはノーセンキューな一面である。
これが美人なシスター、できればあの僧侶みたいなお姉さんであれば、小一時間は楽しめるというのに。主にエロ方面で。
この男、見た目は40、50歳に見える中年。おっさんが教会で、一番偉いのだろうか。
クラウディアに聞いておけば良かったと、失態を少々悔いる。
おっさんの前に立ち、石透過を解除。
「我が名は、魔神レムリアンシード」
「ひぃっ!」
目の前に突如現れた俺の姿に、激しく動揺を示す。
俺だって、こんな面を被った奴が、急に目の前に現れたらビビるわ。
「男。お前がこの教会の統率者か? 答えよ」
「わわ、私はこの教会の司祭。この教会の統率者はティモ司教にございます」
「そうか。では、司教のいる場へ案内せよ」
「レムリアンシード様」
「なんだ?」
「貴方様は、神の遣いでしょうか?」
この場合、このおっさんが言う神は、天族のことだよな。
「我は天にあらず。天の鎖を断ち切る者。ひいては、この街の淀みである妖精の欠片、壊しに来た」
それっぽくアピール。魔神様が壊しにきたんじゃあ、な展開にしておこう。
「おお神よ」
目の前のおっさん、すごい男泣きしている。
全くもって意味がわからん。恐れをなして涙しているとは、ちょっと違う様子であるが。
聞く相手を間違えた気がする。
「司祭。司教のいる場へ案内せよ。次は言わん」
「はっ、はい!」
薄暗い石通路を歩く。
目の前の司祭は燭台の灯りを使い、俺をティモ司教の場所へと連れて行く。
ここがティモ司教のいる部屋なのだろうか、少し歩いた先で司祭が立ち止まる。
司祭が数回ノックする。
「誰だ」
「マルニクスでございます」
「入れ」
司祭の名前はマルニクスという名らしい。
俺の目の前には60過ぎであろう、頭が白く染まった、痩せ気味の爺が座っていた。
こいつがティモ司教だろうか。
「なんだ用事とは──っ!」
ワインか何かを飲んでいたのか。手に持っていた器を落とす。
この世界の基準がわからないが、俺の考えている通りであれば、とんだ腐れ坊主だ。
「ばっ、化物だと!?」
「化物とは、随分な物言いだな。我が名は、魔神レムリアンシード。お前達に話がある」
「化物と話すことは、何も無いぞっ!」
「よく言う。我がもたらした妖精の欠片で、随分と肥えておるくせに」
「何を訳の分からんことを」
このクソ爺、すっとぼけやがった。
「最近、妖精の欠片の芯である石が、大量に手に入ったのではないか?」
「それがどうした。既にコチラの物だ。お前に譲るつもりなど、欠片も無いわ」
相当な守銭奴のようだ。自分の物は、絶対に他人に譲らないタイプと推測できる。
「自分で作り出すことの出来る石を、何故お前から貰う必要がある。腹いっぱいになるほど食わせてやったのに、まだ食うのか?」
「まさか、お前が?」
「近いうちにゴミ同然となる石。そんな石ををかき集める姿、愉快だったぞ」
話し合いで解決しようかと考えていたが、予定変更だ。このティモ司教は街から追い払う。
「我を楽しませた礼だ。3日猶予をやる。3日以内にファルファシオンから出て行け。猶予を過ぎてもファルファシオンにいた場合、お前の命無いものと思え」
ブレイクスルーソードを手にし、ティモ司教の机を焦がし切る。
「我には教会を圧倒する力がある。信徒で攻めるといった、馬鹿な行動をしてみろ。跡形も無く消えるものと思え」
とりあえずビビらしておく。
流石に、この武器で人を焼き切るとか、想像したくない。
そんなことを考えていたら、血が吹き出そうで吹き出ないとか、生々しい光景を想像してしまった。
俺の勧告に対し、すまし顔でいたであったが、机の一部が消し炭になったことにより、厳しい表情へと豹変する。
ようやく、追い詰められているという事実に気付いたようだ。
後ろを振り向く。
流石にマルニクス司祭も、俺の脅し文句に恐怖を感じ取っているようである。
そのまま部屋を退出しようとしたその時、壮絶なまでの嫌悪感が走る。
(なんだ、この超絶なまでに嫌な感覚。どこかで!)
気配は自分の後ろ。後ろへ振り向く。
ティモ司教がナイフを手にしていた。手にしているナイフは、ヤスィーが握っていたナイフと同じ、あの漆黒のナイフ。聖剣と呼ばれていたもの。
俺の後ろから、マルニクス司祭が驚愕の声をあげる。
「ティモ司教様! その黒い剣は一体!」
「こここここの聖剣で!」
既にティモ司教の右手が、黒く染まり始めている。
本来であれば、脅し文句で使っていた秘術であるが、緊急自体だ。やむを得ない。
このままこれを放置すれば、街に被害に影響の出る可能性すらある。
右手を正面に向ける。狙う先は、ティモ司教の手元の黒剣。
「浄火」
黒剣が溶けるように消えていく。
「なっ、何故。わ、私の聖剣があっ!」
「事情が変わった。司教、聖剣を何処で手に入れた。吐け」
「誰が貴様のような悪魔に」
「司教、右手を見ろ」
ティモ司教の手からは、既に黒剣は消えている。
そして、司教の肘から下が力を失い、ただぶら下がっていた。
「わっ、私の腕、腕、腕が動かないぞ」
浄火の威力を弱め、聖剣周辺を狙い撃ちにしてみたが、上手く行ったようである。
司教を丸ごと焼いても良かったが、出処を聞き出す必要があった。
「我が、貴様の片腕と聖剣を燃やした。放っておけば、腕から全身を【黒き力】に侵食されていた。片腕だけで済んだことを喜べ」
ティモ司教は気が動転し、腕を動かそとうと必至に喚く。
「諦めろ、その腕は動かない。先程の黒い聖剣、どこで手に入れた。今直ぐ言わぬなら、もう片腕、足と焼いていくぞ」
「──ひっ!」
入手先を吐かせたところ、教会本部にいる枢機卿から賜ったらしい。
枢機卿とやらが、黒い聖剣を量産、もしくは撒いている親玉ということだ。
本来【黒き力】は一般人には見えない。
しかし、あの黒い聖剣は異常過ぎる。
マルニクス司祭の目にも、黒く見えている時点で明らかに異常。
もしかしたら、黒く塗り潰すことで、分かり易くしているだけかもしれない。
どちらにしろ、一般人が手に負える代物ではない。
「今後、黒き聖剣を手にするな。手にすれば地獄に飲まれるぞ」
後ろに振り返り、マルニクス司祭を見る。
「マルニクス司祭、お前もだ。もし持っているようであれば、直ぐに出せ。この場で焼く」
「いえ、私はあのようなもの、初めて目にしました」
「ならいい。教会が聖剣を渡しても、決して触れるな。あの剣の力の源は、呪いの源流だ」
消沈している司教に言い渡す。
「最初に告げた通り、3日猶予やる。ファルファシオンに居ると分かれば、今日の様に四肢を貰い受ける。覚悟しておけ」
最後に釘をさしておく。
こうして、二度目の黒い聖剣は、難無く燃やすことができた。
枢機卿が持っていると言っていたが、普通に考えると間には大司教がいると予想。
その上には、総大司教や首座大司教と呼ばれる、役職がいるかもしれない。
この上下図を考えると、本当に面倒そうだ。
かと言って、あの黒い聖剣を放っておく訳にもいかない。
先は、まだまだ長そうだ。
直接話には影響ありませんが、プロローグを修正致しました。
現在冒頭部を修正しております。
その影響でもしかすると、話数がずれるかもしれません。
話数がずれる場合は、前書きにてお知らせ致します。
今回の話は情景描写が多めになっております。
web小説で情景描写を多くすると、テンポが悪いかなと、考えておりました。
感想で情景描写が足りないことを指摘された為、試験的な感じで書いてみましたが、如何でしょうか。
何らかの形で評価、お知らせ頂けると凄く参考になります。
情景描写に問題がなければ、古い話も情景描写中心に加筆していきたいと、考えています。
設定については、どうしようかと悩み中です。
まだまだ性能が低い作者ですが、引き続き宜しくお願いします。




