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勇者がいないファンタジー世界で俺は……  作者: アルねこ
第2章 魔神覚醒編
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第四十二話 夢魔族と【黒き力】

2章開始

 テレスタジア=モルガナイトは精神世界(アストラルワールド)にて、かつて自分が逃げ出してきた恐怖の対象(トラウマ)を呆然と見ていた。


 テレサは助けを求める一族の手を足蹴りにして逃げてきた『恥晒し』。


 かつて俗世界の半分を破壊したと言われる世界崩壊の危機。テレサは『龍神災害』の一端を知る、数少ない一族である。なぜ事件を知る一族が少ないのか。龍神が喰ってしまったから。【黒き力】を喰いつくした龍神は何処かに眠ると聞く。


 しかしあの時喰い尽くされたと思われた【黒き力】が、彼女の目の前で轟轟と粘着質な黒い業火のように燃え、暴れ狂っていた。


【黒き力】とは負の感情の本質。殺意など負のエネルギーの源である。この【黒き力】は人族、獣族問わず存在しており、肉体が滅ぶまでに僅かではあるが器の底に少しだけ溜まる汚れのようなもの。


 しかし稀にこの【黒き力】を貯めこんでしまう者がいる。そういった者を救済する為、夢魔族(サキュバス)は存在していた。


【黒き力】は武力、魔力を一時的に底上げする劇薬。魔力などの代わりの超効率の燃料となるが、【黒き力】は精神体を蝕み、最後は精神体を【黒き力】に変貌させ、精神体……魂を燃料としてしまう。滅びの力。


 底に溜まる程度の僅かなものであれば、大きな影響を及ぼさない。


 だがテレサの目の前には手を出していけない劇薬が、山のように噴き出す。山から溶岩が轟轟と溢れ出るように周りを犯し容赦なく奪う。



 そんなテレサを他所に懸命に頑張る者達がいる。三人の妖精族と他の夢魔族である。


 ウー、フィー、ナーは三人で結界を力任せに構築する。黒き力を浄化する力は三人には存在しない。ウー、フィー、ナーはこれ以上【黒き力】の汚染が広がらないよう、塞き止めるのが精一杯であった。


「がんー」

「ばるー」

「のー」


 溢れ出てしまった黒き力を浄化している者達は夢魔族(サキュバス)一同。テレサに連なる一族である。テレサ程の強大な力は持ち合わせていないが、森の異常事態に一丸となり救済活動を行う。途方も無い作業ではあるが、彼女達は決して弱音を吐かない。


 テレサの魂を砕き生まれた彼女達はテレサのトラウマを知っている。夢魔族の長としてこれまで自分達を愛し、助けてくれていたテレサを責めることな無い。一滴でも多く【黒き力】を浄化するだけ。


 夢魔族は性を貪る一族、雄の子種に這う蛞蝓(なめくじ)揶揄(やゆ)する誹謗中傷が噂されている。しかし彼女達はそんな一族ではない。【黒き力】を浄化する力を持ち、人知れず世界を調律する聖女であった。


 聖女である彼女達は、誹謗中傷にも耐え、ただ浄化する。これが世界の救いになる。役に立つということ。テレサの力になるということを信じて。




「これは想像以上ですね…………」


 テレサの隣にヴィヴィアンが現れる。ヴィヴィアンは直ぐに気づいた。明らかにテレサの調子がおかしいことに。いつもの力強さは感じない、ただ力の奔流に怯える幼き少女。


「テレサ、貴方はこれを見たことがあるのですか?」


 テレサが震えながら頷く。


 ヴィヴィアンは考える。元凶となる聖剣は排除したが、黒き力の源泉が止まる気配がないのである。ヴィヴィアンは問う、テレサにこの状況を打破する方法を。


「【黒き力】は魂を喰う力。魂を喰えば力が増し。増した力がまた魂を喰うの……、そこからは無限連鎖で広がる。止めることができない力。龍神災害の原因の一つ」


 テレサは告げる。魔神の魂を喰い尽くすまで、【黒き力】は燃え続けるのだと。【黒き力】が消えるときは魔神の魂が消滅する時だと。


 ヴィヴィアンは手立てがない事に焦りと後悔が生まれる。何処で間違ったのだろうと。ヴィヴィアンは自分が選ぶ道をいつも後悔していた。だからこそ、彼女は選ぶ立場にならないよう、舞台に上がらないようにと気をつけていた。しかし、また失敗してしまったことを強く悔いる。


 ノヴィを巻き込まなければこんなことにはならなかった。しかしノヴィがいなければ、生誕と和解する道に至らなかったこともまた事実だと気づいていた。ノヴィを犠牲にした結果であることに、妖精族の長が涙を流す。


 テレサはヴィヴィアンが泣く姿を初めて見る。自分は泣いていない。怯えているのだと、ようやく気づいた。泣くことすらなく、ただ震えていたのであると。


 テレサは自分の気持ちに問う。こんな状況で泣かないとは、妖精族よりも愛が劣っているのかと。そんなことはない、今でもあの中にいる愛する人(ノヴィ)とリンクしている。愛の証拠である。


 テレサはようやく気づいた。


 繋がった魂が叫んでいることに。恐怖、焦り、怒り、憎悪あらゆる負の感情が渦巻くその中で、助けて欲しいと願うノヴィの声を。助けを求める声を聞いた。


 先程までの助けを求める声は、足蹴りにした一族達の声ではない。ノヴィの声だと気づいた。トラウマの声と勝手に思い込み、この災厄から目を逸らしていただけだと理解する。


 ノヴィには好きな娘がいると告げられた。命を()しても、振り向いて貰えないかもしれない。愛を返してくれないかもしれない。自分の愛は打算で動くものなのか?


 そんなことはない。夢魔族の愛は世界で一番だと誇る。かつてまだ夢魔族が夢魔族と呼ばれず、天の使いと呼ばれていた頃、始祖様と龍神が天に逆らっても貫いた気高き愛。それと比べれば、目の前の【黒き力】に抗うなど造作もない。


 答えは決まった。テレサは自分の愛を貫くと決めた。


 世界で一番の愛と誇る為、彼女は飛び込む。【黒き力】の中へ愛しき人(ノヴィ)を守る為に。

稚拙な文章ですが、2章もよろしくお願いします。


次話も早ければ7/13にアップできると思います。

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