第四十一話 魔神変異
シーンは短めですが、グロ系のシーンがあります。苦手な方は注意下さい。
テレサの絡みを振りほどき、ノヴィがこれまでに見ない勢いで走る。声をかける間も飛び込んだ先にはレティの姿。ヤスィーと呼ばれた男とノヴィがもつれるように地面に転がる。
レティもその惨状に気付く。
「一体どうした!?」
レティが確認するように二人に近付く。ノヴィが絶叫する。ヤスィーを呪い殺すかのように、憎悪、悪意を示す言葉をただ吐き続ける。
「今の二人には近寄ってはなりませんっ!!」
ヴィヴィアンが制止させる為、慣れない声で叫ぶ。
「二人共、精神体に汚染を受けています!」
「ノヴィの奴、腹を刺されているぞ!!」
ヴルムがノヴィの腹部状態に気づく。辺り一面にはおびただしい血が飛び散る。
「どうにか止められないのか!?」
「絶対に近づかないで下さい。近づけば一瞬で取り込まれます」
精神体であるセレクティア、テレサが異常なまでに怯えている。その姿を見たレティは目に見えない異常事態が発生しているとようやく理解する。
レティは気づく。ノヴィの腹部に刺さったままの凶器に。あれが全ての元凶であることは容易に分かった。見たこともない程の漆黒の黒剣。
ヤスィーの口からは恐怖に逃げる声、聖剣や勇者と聴こえる。
「ヤスィーは聖剣を魔王に突き立てれば、勇者になれると言っています。必至にあの黒い剣を返せと言っているようです」
リリアンが風魔法で聴覚を鋭敏にして聞き取る。
「あんな禍々しいものが聖剣なわけなかろう。幻覚を見せられておるだけじゃ」
「いいえそうとも限りません。もしあれが聖剣ならば、一刻も早く抜かなければ非常に拙いです」
レティの分析にヴィヴィアンが異を唱える。
「そもそも聖剣はお主のところにあるのではないか? 妾はそう聞いておる」
「私のところにも聖剣はございます。貴方がご存知の聖剣は、正しくは聖剣の内の一本なだけです」
「勿体ぶらず、はよ言え!」
「聖剣とは本来、力の場所にアクセスできる鍵、武器、貴金属のことの総称です。つまりあの黒い剣が何処かの力と繋がっていれば、聖剣となりうるのです」
「どうやって止めたらいい?」
「アレを入れてきた箱、布なり何かあるはずです」
「これのことでしょうか?」
既に該当らしき布を見つけていたルーカス。
「おそらくこれですね。とにかくまず動きを止め、あの黒剣を抜きます。肉体よりも、精神体のダメージのほうが深刻です」
「妾が動きを止める、妾達はアレに近づけぬがどうすれば良い?」
「私が行きます」
「行けるのか?」
「今のこの状況から、私が一番だと判断しました。消去法ではございますが」
「丁度ノヴィに借りを作ったばかりじゃ、タイミング良く恩返しができるな」
「奇遇ですね。私も今そう考えていたところです」
「テレサ! テレサ! おい」
レティの平手がテレサの頬叩く。
「ようやく気付きおったか、お主今から向うに行き、直ぐに状況を確かめて来るんじゃ。コチラがこんな状況では、アチラがどうなっておるか想像もつかん」
「でっ、でも」
「これでノヴィが滅んでも構わぬのか!? これは輪廻転生とかそんなレベルではない、明らかに滅びを迎える力じゃ。ノヴィを助けるのであれば動け、気合を入れろ馬鹿者」
慌てて消えるテレサを見送ると、レティが詠唱を始める。身動きを封じることを再優先とし魔力を固めていく。
レティが呪文を唱えている間、ノヴィの狂気は際限なく加速していく。あまりの凄惨なその状況にリリアンが目を背けた。彼女は目をそらすだけでなく、耳も塞ぐようにしゃがみ込む。先程まで笑っていたこの場が、一瞬で地獄絵図に見えた。地獄から逃れるように、情報を遮るしかないリリアン。
ノヴィの狂気がヤスィーを血肉を貪るように暴れる。ノヴィが通常では考えられない血量を、相手にこすりつける異常性。相手の口の中に自らの血液を流し込み、溺れさせようとする狂気。普通に考えればとっくに死を迎えていてもおかしくない失血であるが、それでも狂ったまま動き続けるノヴィ。
あまつさえ血を吹き出す相手に、喜びを上げるなど、あのノヴィからは想像もできない姿である。
「水牢縛!!」
レティの叫びと共に、ノヴィの体を水球が包む。水球のサイズは全身をすっぽり覆うほどのサイズであり、息継ぎなど二の次でいた。
「抜けぃ!」
レティの声にヴィヴィアンが素早く動き出す。布を巻き付けた腕を水球にねじ込み、ノヴィから災厄を引き剥がす。ノヴィから黒剣を引き抜く瞬間ヴィヴィアンは見た。水に流れ行く血に交じる【黒き力】。
普通の力では浄化することが出来ない【黒き力】は夢魔族のみ浄化することが出来る。そうして人知れず、サキュバス達がこの世界のバランス、挟持を保っている。
ヴィヴィアンも以前に魂の回廊にて浄化する姿を目にしたことがあるが、これ程に常軌を逸した量は初めてであり、これ程の量がはたして本当に浄化できるのかと途方に暮れる。
本来、人から産出される量は多くても一滴二滴。人の手で掬うことな可能な量。しかしノヴィから溢れる【黒き力】文字通り川を氾濫する濁流、溢れ出る源泉そのものであった。
「まずいぞ」
「何かありましたか?」
「肉体が腐り始めておる」
「【黒き力】の影響かもしれませんね」
「テレサ達が燃やしておるアレか?」
「ええそうです。ただ量が異常過ぎます。私は見たことがありませんね。精神体の方は私達で、肉体の方はなんとかなりそうでしょうか?」
「わからん。この勢いだと、再生よりも早く腐り朽ちる。肉体を作り直し、そちらを素体にしたほうが早いかもしれぬ」
「それは最終手段としましょう」
「そうだな。テレサが戻ってきていないことも気になる。お主も戻れ」
「魔王様此奴の処分はいかがしましょうか」
ルーカスがヤスィーの亡骸を指す。ほんの僅かではある。辛うじて残りの灯火を感じるが、最早時間の問題。救うには肉体も魂も損壊が酷い。
「其奴の記憶を今から漁る。そこの小さい妖精手伝え」
「はぃっ」
「ルーカスは魔力湖から引き抜いてよいから、ノヴィの肉体を保たせよ」
「了解しました」
ノヴィと連なる者達の物語が幕を開ける。
以上で1章が終了となります。
次から2章になります。2章は1章よりは短くなる予定でおります。
あらすじのレティやテレサとアレコレして行く話は、これからだったり……(汗
下手くそな文章ですが、これからもご一読頂ければ嬉しいと思います。




