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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第一章 孤児園の子供達
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第九話 海

 服の下に水着を着て、水筒やタオル、膨らんでいない浮き輪を入れたリュックを背負って、ぼくはバスの前でわくわくしていた。ぼくの前ではピンクちゃんとルミちゃんが日焼け止めを塗っており、カイ君とルークはパラソルを持たされている。もうわかる人はわかるかな? そう、ぼく達は海に来たのです!

 目の前の坂を下りるとそこには白い砂浜があり、奥には青い海が広がっている。海の方向から吹いてくる潮風が気持ちいい。


「なあっ、早く行こうぜ!」


 待ちきれない様子でカイ君がバスから荷物を下ろしている園長先生を見上げる。先生は「はいはい」と返事をしながら大きなリュックを背負い、バスに鍵をかけた。そして、にこっと笑う。


「じゃあ、行こうか。あ、海に入る前に海の家ってところで着替えるようにね」

「よっしゃあ!」


 カイ君が嬉しそうに走って坂を下りていく。続いて、ルミちゃんがロイ君を連れてカイ君を追うように駆けていった。


「おれらも行くか」

「ソラ、行こう!」

「うんっ!」


 ぼくもバス酔いしたルークや日焼け止めを塗りおえたピンクちゃん、海に興味なさそうなシン君を置いてスター、ラギ君と一緒に海の方へ走った。

 最初に海の家に入って服を脱ぎ、浮き輪を膨らませたぼくは海の水に足をつけた。わあ、冷たい! ぼくはそのままぎりぎり足がつくところまで行き、浮き輪でぷかぷかと浮きながら周りを見渡した。海の少し奥の方ではカイ君が楽しそうに泳いでいる。波打ち際ではロイ君とルミちゃんが水をかけあって遊んでおり、砂浜では園長先生がパラソルの下、レジャーシートに寝っ転がって一息ついていた。ピンクちゃんは貝拾い。ルークは海の家から出てきたところで、シン君の姿は見えない。そして、ラギ君はスターに引っ張られて海に入るところだった。


「ラギ君、入ろ~」

「い、いや、おれはここまででいいよ」


 膝まで水が浸かったところで、ラギ君が足を止める。あれ? 泳がないのかな?

 ぼくがぷかぷか浮きながら二人の様子を窺っていると、スターがラギ君をぐいぐいと力強く引っ張った。


「一緒に泳ごうよ~」

「ちょ、待て……!」


 水から出ようとするラギ君。だけど、スターの力にはかななわないようで、どんどん奥まで連れて行かれてしまう。足を踏み出すたびにだんだんと顔が強張っていってるけど、大丈夫かな?

 そのままぼくの前まで来たとき、ラギ君は引き返そうとして足を滑らせた。バッチャーンと水飛沫みずしぶきをあげて水に潜るラギ君。その途端、ぼくの浮き輪がぐいっと下に引っ張られた。


「うわあっ!?」

「ぶはっ!」


 ラギ君はぼくの浮き輪をつかんで水から顔を出すと、浮き輪ににしがみつきながら息を整えた。そんなラギ君にスターがにやにやしながら言葉をかける。


「ラギ君泳げないのぉ?」

「お前、わかってて言ってるだろ……!」


 ラギ君泳げないんだ。まあ、海に入ろうとしない時点でうすうす気づいていたけど……ラギ君にもこんな弱点があったんだ~。

 ぼくは浮き輪にしがみつくラギ君に微笑みかけた。


「大丈夫だよラギ君。ぼくも泳げないから。……でも、そんなに怖がることはなくない? 足が付けば溺れることはないし」

「あ、ああ。そうなんだが……水が苦手なんだよな、おれ」


 あ、そうなんだ。水が苦手だから、潜ることも泳ぐこともできないんだね。顔も蒼白そうはくだし。でも、お風呂は普通に入ってたよね?

 その疑問に、ラギ君はすぐ答えてくれた。なんか、溺れないとわかっているところの水とかお湯は平気なんだって。ただ、顔にかかるのは駄目みたい。顔を洗うときは、濡らしたタオルで顔を拭いているんだって。

 そんな事を話していると、ぼくの後ろからカイ君がクロールをしながら近づいてきた。


「ぷはっ。お前ら、泳がねぇのか?」

「ラギ君がね、泳げないんだって~」

「え、そうなのか!?」

「ああ……」

「マジでか……あ、じゃあ特訓しようぜ、ラギ!」

「いいね!」

「えぇ!?」


 提案するカイ君にスターが賛成し、ラギ君が驚きの声を上げる。ぼくはそんなラギ君に「頑張って!」と声援を送った後、にやにやしているカイ君にラギ君がどのくらい水が苦手なのかを話した。


「顔が洗えないほど水が苦手なのか……。わかった。……あ、おーい、ルークー! お前もラギの特訓に混じらないかー?」


 目に入ったのか、少し離れたところで泳いでいたルークにカイ君が手を振る。すると、ルークは嫌そうな顔を見せた。


「混じるわけないだろ」

「え、なんでだ!?」

「疲れるから」


 それだけ言い、ルークはすいすいと泳いで言ってしまった。だけど、カイ君は気にしていない様子で、すぐに視線を戻した。

 ラギ君はその目にびくっとしたものの、逃げられないとわかったのか観念したように息をついた。


「じゃあ、最初は何しようか~?」

「まずは、顔を水につけるところから始めようぜ!」


 先生ぶっているカイ君にスターは頷くと、早速ラギ君に指示を出した。


「肩まで浸かって」

「ああ」


 肩までは大丈夫みたい。ゆっくりではあるけど、ラギ君は顔だけ水からだした状態になった。続いて、またスターが指示を飛ばす。


「次は口~」

「ああ」

「次は鼻だな」

「それは無理だ」

「なんでだ!?」


 驚きながらも、必死になって指導をしていくカイ君。スターも楽しみながらといった感じで、カイ君に協力していた。ぼくは泳ぎの指導なんてできないから、ぷかぷかしながら三人を眺めていた。途中で飽きて、近くに寄ってくる小魚と遊んでたけど……。

 それからルークと話したりピンクちゃんと貝拾いをしたり、ロイ君とルミちゃんのビーチバレーに参加して……あっという間に三時間が経過した。遊んでいると、時間ってすぐに過ぎちゃうんだよね~。

 ぼくは園長先生のそばに置いていた浮き輪を手に取ると、ラギ君達の様子を見に行った。ラギ君、少しは泳げているかな?

 さっき特訓を受けていた場所まで近寄ると、ラギ君が水面で仰向け目になっているのが入った。ラギ君の背中を、カイ君が支えている。


「よし、離すぞ。力抜いてろよ」

「あ、ああ」


 そっと、カイ君がラギ君の背中から手を離す。ラギ君はというと、沈まずに浮かんでいた。


「よし! 成功だな!」

「やっとだね~」


 やっと出来たってことは、何度も失敗してたんだ。あ、じゃあ潜れるようにはなったのかな?

 それを訊いてみると、カイ君が嬉しそうな声音で答えてくれた。


「ああ! そんで、今度は浮く練習をしようとしたんだが、下向きでは浮けねえって言うからからとりあえず上向きで浮くことになったんだ」

「それで、今成功したんだね」


 普通の人は出来るんだろうけど、出来ないぼくから見たらラギ君はすごい。ぼくも特訓したら出来るようになるのかなぁ。

 そんなことを考えながらラギ君を見ていると、後ろから園長先生の声が聞こえた。


「おーい、みんなー! 昼食にするよー!」

「よっしゃあ! 腹減ったぜ~」

「わあ、ボクも食べる~!」

「あ、おれも。なあ、これどうやって足つけるんだ?」


 浮きながらラギ君がそう訊ねたけど、スターとカイ君は聞こえてないようで砂浜に向かって泳いで行ってしまった。え、ちょっとー? ラギ君置いてっちゃうのー?

 ラギ君は遠ざかっていく二人を見て、焦ったような声を上げた。


「ちょ、おい! あの二人……。ソラ、ちょっと浮き輪貸してくれないか?」

「うん」


 ぼくは浮き輪で浮いたまま、ラギ君に近寄った。ラギ君はぼくの浮き輪をつかむと、ぐっと力を入れて身体を起こす。って、あ、危ない!


「わぷっ……!」

「ごぼっ……!」

「ぷはぁ!」


 力を入れて下に引っ張ったせいで、浮き輪がひっくり返ってしまい、ついでにぼくもひっくり返った。ぼくの下敷きになったラギ君も水に潜る。そして、二人同時に水上にあがって浮き輪に掴まった。


「はぁ、はぁ……びっくりしたぁ……」

「ご、ごめん……」


 恐怖を感じる暇もなく驚きを感じたぼく達は、二人で何をしているんだろうと顔を見合わせて笑った。それから浮き輪を使って二人で砂浜まで行き、昼食を済ませた。

 昼食の後、ぼくが園長先生の隣で身体を休ませていると、スターが走ってきた。


「園長先生! スイカ割りがしたい!」

「おお、いいね」


 先生はすぐに賛成すると、後ろに置いてあったクーラーボックスからスイカを取り出した。……って、えぇ!? スイカ持ってきてたの!?

 びっくりするぼくとは違い、スターは予想していたようだ。先生からスイカを受け取ると、それを砂浜に置いて他のメンバーを呼んだ。


「スイカ割りか。誰が割るんだ?」

「カイ君!」

「おれ!?」


 訊ねたカイ君を指さしたスターは、手拭いと棒を手渡した。カイ君は「まあ、いーか」と手拭いで目隠しすると、棒を持って構えた。そのまま指示を待つ。スターはそんなカイ君の前でにやりと笑みを浮かべ、ルークとラギ君を呼んだ。……何してるんだろ?

 スターに何かを聞かされた二人は笑いをこらえるようにしながら、ラギ君がカイ君の左側、ルークが右側に立った。ぼくが不思議そうに見ていると、スターから声をかけられる。


「ソラ、指示出して」

「え? うん。カイ君、前行って」

「おう!」


 気合いを入れて前に進むカイ君。次にラギ君が声を上げた。


「カイー、右だ」

「右だな!」

「カイ、左だ左」

「え、左?」

「カイ君、後ろだよ~」

「後ろ!?」


 ルークとスターの指示に戸惑うカイ君。だけど、三人は面白がって次々に指示を出した。


「左だぞ」

「後ろだよ~」

「右だろ」

「え、えぇ!? どっちだ!?」


 もう、これじゃスイカ割れないじゃん!

 ぼくは立ち上がってカイ君に声を送る。


「カイ君! そのまま前だよ!」

「違うよ、後ろだってば~」

「右右!」

「右には何もないよ、前であってるよ!」

「カイ、左だぞ」

「誰を信じればいいんだ!?」

「ボクだよボク」

「いや、後ろはないだろ!」


 そんなことを言いながらやってると、カイ君が手拭いをぼくの方に投げつけてきた。その表情は怒り。あー、カイ君怒っちゃった。


「これじゃ、スイカ割れねーじゃねーかっ!」


 カイ君はレジャーシートに座ると、むすっとしてそっぽを向いてしまった。やり過ぎだよ、スター。

 けれど、スターは気にしていないようで、「次はソラ!」とぼくを指さしてきた。よし、カイ君みたいにならないように気をつけよう。

 ぼくはスイカから少し離れたところで目隠しをした。


「準備できたよ」

「ソラ、じゃあまっすぐ行って~」

「うん」


 スターの指示に従い、まっすぐ歩く。今度はルークとラギ君は指示してこなかったけど、ちゃんとまっすぐ進めているかなぁ。前が見えないと少し心配になってくる。


「あ、左左~」

「あ、うん」


 右に進んでたのかな。

 ぼくは慎重に左に足を踏み出す。それから五、六歩進んだところで止まるように指示された。えっと、ここにスイカが?


「スター、ここでいいの?」

「うん、そこそこ」

「よし、えいっ!」


 ぼかっと、思ったよりも高いところで手応えを感じた。でも、スイカってこんな鈍い落としたっけ。

 ぼくが首を傾げていると、ぼくの前から怒ったような高い声が聞こえた。


「い、痛ってーな! なにすんだよっ!」

「うわあ!? カ、カイ君? ごめんっ」


 それからぼくは少しの間、カイ君に無視されることになってしまった。思いっきり叩いちゃったもんね……。

 スイカは、最終的に園長先生が割ることになった。先生は誰の指示も聞かずに、すらすらとスイカの前まで行って力強く割ってしまったのであった。さすがだね~。

 ぼく達はスイカを食べ、また海で遊んで、おやつの代わりに流しそうめんなんかもやって、久しぶりに来た海を楽しんだ。


 空がオレンジ色に染まり、海にも砂浜にも人が少なくなっていく時間帯。ぼくは浮き輪でぷかぷか浮きながら夕日を眺めていた。少しまぶしいけどすごく綺麗。また来られたらいいなぁ。

 前から大きな波がやってきて、ぼくを砂浜の方に近づけた後また元の位置に戻される。この波を次に感じるのは来年かな。


「ソラちゃーん! そろそろ海からあがりなー」

「はーい!」


 園長先生に返事をし、ぼくは砂浜に足を向けた。後ろから、さっきよりも大きな波がぼくを押す。……ん? なんか、波強くなってない?

 不審に思い、ぼくは足を止めて振り返る。そんなぼくの顔に波の水が当たった。


「うぷっ……」


 しょっぱい……じゃなくて!

 ぼくは首を振ると、目を凝らした。海の奥に何か見えるんだよね。……あれは、青い壁……? 違う、あれは……。


「津波だ!」


 ぼくの代わりに誰かが叫んだ。園長先生だったのかもしれないし、スターとかカイ君だったのかもしれない。いや、もしかしたらここに来ていた知らない人の声なのかも。でも、そんなことは気にしていられなかった。海に来て怖いものは雷と津波。そう教えられていたから。

 ぼくは波に浮かされ、足を滑らせながらも懸命に砂浜に向かって走った。ぼくの他にも、海の家に避難する人の姿が見える。ロイ君、ルミちゃん、ラギ君、ピンクちゃんが海の家にはいるところも、園長先生がぼくの方に向かってくるカイ君を止めているところも見える。

 一際大きな波がぼくを持ち上げた。バランスを崩し、頭から水に潜る。浮き輪がぼくから外れたのがわかった。


「はっ……!」


 水上に顔を出し、空気を吸い込む。目を開けると、迫り来る波が目に入った。橙色の空が青に包まれ、ゆっくりと下りてくる。水が高くなり、足が地面から離れる。そしてぼくは――大きな波に飲み込まれたのだった。


 意識を失う寸前、回る視界、白い泡の中でぼくは小さな声を聞いた。「死ぬな」という声を……。

 書いてて、スターの語尾伸びるな~、と思いました(笑)

 それと、シン君の出番少ないですね……。これから増やしていきます!

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