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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第三章 消滅する世界
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第二十七話 避難

 青い髪が赤く染まっている。

 ピクちゃんに覆いかぶさるようにして、うつ伏せの状態でいる彼の表情は見えない。

 彼女の呼びかけにも、ルークの声にも反応を示さない。

 庇うかのようにピクちゃんの身体に回されてたであろう手は、力なく垂れている。


「カー君! カー君しっかりして!」


 瓦礫からなんとか抜け出したピクちゃんは、カイ君を仰向けにしてその身体を揺さぶる。


「待ってピク! そんなに揺らすと血が……!」

「早く止血を!」


 エミちゃんが上着を脱いでカイ君の頭を包む。それは、一気に赤い赤を吸い込む。

 出血が、多い……!

 顔色も青白く、呼吸も浅いのが見てわかる。

 ……なんで、カイ君がこんな目に合わないといけないの!?

 ここで、奇跡とか起きればいいのに……。アニメや漫画みたいに、ぼくの能力とかが発動したらいいのに……! ねえ! 回復魔法とか発動してよ! お願いだから……今だけ、今だけぼくに力を……!


「ソラ……」


 だけど。

 そんなことは、起こんないんだ。力も、不思議な光も、溢れてこない。

 ぼくはただ、立ち尽くすことしかできない。

 どうしてこんなに無力なんだ……!

 視界がにじむ。

 泣いてる場合なんかじゃないのに……このままじゃ、カイ君が死ん——


「ソラ! 変なこと考えんな!」

「ルーク……」

「カイ! 園長を助けんだろ!? こんなとこで……死ぬなよ!」

「……わかっ、てるよ……」

「……!」

「カイ君!!」


 みんなでカイ君の顔を覗き込む。

 彼は……笑っていた。

 顔を歪め、片方の目だけしか開いていないものの、その口元は笑みを浮かべていたんだ。


「死なねえ……死ねねえよ……園長を助けるまでは……ソラを、帰すまではっ……!」

「っ!」


 カイ君……! どうしてそこまで……。


「痛っ……」

「カイ! おいっ、この血止められないのか!?」

「今押さえてるけど……」


 エミちゃんがそう答えた、と同時に。

 サイレン音が聞こえてきた。

 ハッとして見ると、救急車と警察の姿が。


「あれだ!」

「ラギ!」


 お兄ちゃんが走り出す。火の中、瓦礫を乗り越えて。

 少しすると、お兄ちゃんは二人の男の人を連れてきた。ガスマスクのようなものをつけた人。だけど、その服装と持っていた担架から救急車の人だとわかる。


「怪我人は一人だけですか? 他の子達は……」

「スターがっ! スターも頭怪我しています!」


 咄嗟に叫んでいた。

 救急車の人たちは急いで担架でカイ君をとスターを運んでくれる。

 ぼくたちも付いて行って一緒に救急車に乗り込んだ。

 走り出す救急車。慌ただしく医師の人が動き回る。


 不意に、轟音。


「今度は何!?」


 安心しかけた脳が覚醒する。

 けど、もう声は出ない。衝撃の連続で頭が混乱していた。ううん、もしかしたら、予想外のことが起こりすぎて逆に冷静になっているのかもしれない。

 救急車が止まる。

 ドドドド、という地響きの音。揺れる車内。悲鳴が上がる。

 窓がないから外の様子は見えない。でも、何かよくないことが起こってることはわかる。いや、確実に、悪いことが起きている。

 このままじゃ全員……。

 それだけは嫌だっ!

 気付けば運転席の方に走っていた。

 車窓の外を見る。


「な……!?」


 広がるのは、赤い炎と黒い煙。逃げ惑う人々。

 さっきまで、燃えていたのは孤児園だけだったのに

……!

 どこか、どこか避難できる場所は……!?


「……広場! 広場に行ってください!」

「君、何を……」

「早く!」

「っ……!」


 救急車が動き出す。

 燃える家々の間を縫うと、広場はすぐに見えてきた。

 スポーツ大会をやった、あの大きい広場。思った通り多くの人が集まっている。

 ぼくは救急車が広場に入ると、運転手を押しのけて車から出た。


「あっ、君! 危険だ!」

「ソラ!?」


 大丈夫。大丈夫だよ。ぼくに任せて……!

 向かうのは端にある朝礼台。

 この広場は大きな魔法具になっている。あの朝礼台は魔法を発生させることが出来るんだ。

 朝礼台の前に着く。そのまま下に潜り込む。

 ぼくの勘が当たっていれば……!


「あった! これだ!」


 迷わず、ぼくは『魔法壁まほうへき』と書かれた窪みを押し込んだ。

 風が吹いた、ような気がした。


「はあ、はあ……っ……」


 魔法、働いた……?

 乱れた息を整える。

 気付けば、爆発音、建物が燃えて崩れる音などが止んでいた。いや、聞こえなくなった、の方が正しいかもしれない。

 朝礼台の下から出る。見渡すと、広場を囲むように透明に似た水色の壁が出来ていた。天井もある。

 これなら、あの炎から身を守れる!


「よし、次は……」


 でも、これで終わりじゃないんだ。町のみんなをここに避難させないといけない。

 ぼくは今度は朝礼台の上に立つと、マイクを握った。広場の中心を向き、すっと息を吸い込む。


「町の皆さん! こちら、ハイマート広場です!」


 壁の中、外の人達がこっちに視線を向けたのがわかる。

 よし、聞こえてる! もっと……もっと遠くの人たちにも聞こえるように……!


「この場所に、魔法壁を発生させました。すぐに、ハイマート広場に避難してください! 壁の中には、朝礼台の近くの扉から入れます!」


 ぼくの後ろ、そこに壁に入るための扉がある。

 壁の外から走ってくる人が見えた。周りでは炎と煙が上がり続けている。

 まだ爆発は起きてるんだ……!

 壁が出来たおかげで、耳が壊れるかと思うぐらいの音も、焼けるような熱さもなくなった。地響きも来なくなった。ここにいればひとまずは安心だ。

 だから……だからみんな、早くここに集まって!


「こちら、ハイマート広場です! 魔法壁を発生させました。朝礼台の近くに扉があります。今すぐ、こちらに避難してください——!」


 ✳︎  ✳︎  ✳︎


「お疲れ」

「あ……お兄ちゃん」


 ピトっと冷たいものを頬に当てられ、顔を上げる。

 息を吐きながら、お兄ちゃんが持ってきてくれた水を受け取ると、一口喉に流し込む。

 回りを見渡すと、ピンクちゃんやエミちゃんが避難してきた人たちに水を配っていた。


「あっ、ごめん。ぼくも手伝うよ」

「いーよ。蒼空はもう十分働いただろ?」


 ドサっと、お兄ちゃんが隣に座る。

 ぼくはお礼を言い、前に顔を向けた。

 あれから1時間。ずっと、避難を呼びかけていたぼくはお兄ちゃんに休むように言われたのだ。ハッとして広場を見ると、避難してきた町の人達でいっぱいで。外にいる人はもう見えなくなっていた。

 それで朝礼台に座り込み、ぼーっとしていたぼく。みんなはその間、町の人達に水を配ってたんだね。

 そこでハッとしてお兄ちゃんを見る。


「あっ、ねえ、カイくんは? スターは大丈夫なの!?」

「ああ。避難してきた人の中に回復魔法を使える人がいたんだ。本当は回復魔法はあまり使っちゃいけないんだけど……こんな状況だからな。仕方ない」


 よかった……。

 ひとまず安心する。でも、やっぱり完全には回復しなかったようで、今は安静にしてるらしい。

 だけど、これから何が起こるかわからない。広場にもたくさん怪我人はいるし、はっきりとは聞かされてないけど、亡くなってしまった人も……いるんだ。


「まさか、こんなことになるとはな……」


 ポツリとお兄ちゃんが呟く。


「うん……。町がこうなっても、園長先生は戻って来ないね……」


 無意識に、ぼくの口から園長先生の名前が出る。

 やっぱり、何かあったんだ……。だって、孤児園が燃やされたんだもん。あの先生が戻ってこないはずがない。

 ぼく、どうしたらいいの……。このままじゃ帰れない。そうなったら、みんなをもっと悲しませちゃうかもしれない。今だって、みんな無事だったけど一歩間違えたら……。


「蒼空、そんなに追い詰めるな。お前のせいじゃない」

「でも……」

「悪いのは全部……」

「ソラちゃん」


 呼びかけられ、顔を上げる。そこには、みんなを連れたピンクちゃんの姿があった。包帯を巻いたカイくんとスターもいる。


「警察の人と話したんだけど、孤児園は爆発されたみたい。爆発物が仕掛けられたらしいの。そして、その犯人は——」



 ——水色の髪の少女。



「……水無月萌香だ」


 ヒュッ、と。そんな息を呑む音が聞こえた。それは自分のものかもしないし、他の人のものなのかもしれない。

 ぼくの心には、やっぱりという思いが残る。こんなことするのは、彼女以外いない。でもまさか、爆弾を仕掛けるなんて……水無月さんは一体何がしたいの……!?


「宣戦布告……みたいだね。彼女、戦争でも始めるのかな」

「……止めなきゃ」


 スターの言葉に、ぼくの口から声が漏れる。

 そんなこと、絶対させない。どうすればいいか、悩んでる場合じゃない。

 やらなきゃ。ぼくが! この場所は、ぼくが守るんだ。ぼくを守ってくれたこの場所を、今度はぼくが……!

 そして終わりにするんだ。この行為を。ぼくはもう、逃げない!

 それからぼく達は水無月さんを探している警察の人に事情を話し、協力させてもらうことにした。ピンクちゃんが先生の代わりをし、水無月さんが孤児園の子だと伝えると、悩みながらも承諾してくれた。

 警察の人の捜索や、目撃情報を頼りに水無月さんの居場所を割り当てる。

 爆弾を仕掛けたんだから、遠くには行ってないはず。でも、爆弾の影響をあまり受けないところにいると思うから……。

 そんな風に考えていたけど、避難できて安心したのか、徐々に瞼が重くなってきた。

 そういえば、まだ夜中なんだよね……。

 家々を燃やしてた炎は消防署の人たちによって消えつつある。電灯は爆発の影響か壊れてしまっているため、気づけば辺りは暗くなっていた。


「みんな、そろそろ寝よう? 寝不足だといざという時行動できないからね」


 ピンクちゃんが話し合いを中断させる。見ると、ぼく以外のみんなもうつらうつらと船を漕ぎ始めていた。

 ピクちゃんとカイくんなんか肩を寄せ合ってもう眠っている。

 近くのお店の人からもらった寝袋を地面に敷く。カイくんとピクちゃんをそこに寝かせた後、ぼくたちも寝ることにした。

 朝礼台の横で寝っ転がる。寒さにぶるっと震えたけど、すぐに自分の体温で暖かくなってきた。

 空を見上げる。電気がついていないためか、星がよく見えた。

 今日は新月……。

 つい二時間ぐらい前まで、孤児園のリビングでこの星を見上げていたのに。もう、あの孤児園はない。吹き飛ばされてしまった。水無月さんによって。

 瞼がだんだんと閉じられてくる。視界が暗くなっていく。キラキラと、星が光る。それが、何故か不気味に見えた。月が、欲しかった。ぼく達を照らし出してくれる月が……。


 ✳︎  ✳︎  ✳︎


 朝方。まだ太陽が顔を出す前。空が微かに明るくなり始めた頃。

 寝袋から身体を起こし、立ち上がる。音を立てないように荷物を持ち、魔法壁を出る。目指すのは、孤児園があった方角。

 振り返ると、まだ眠っているみんなの姿。

 周りにも眠ってる町の人たちがいる。ちらほらと起きている人もいるけど、誰も自分のことなんて気にしていないようだ。

 前に向き直る。荷物を肩にかけて歩き出す。

 あんなに燃えていた炎はもうない。あるのは家だったはずの残骸。その中を進む。

 崩れた孤児園の横を通り過ぎ、ボク・・はある小屋に入った。



 どうしてか、いつもより早く目が覚めた。

 日が昇り始めたばっかりの、まだ冷たい空気が薄い霧を作っている早朝。

 上半身を起こし、目を細める。光を反射した広場がキラキラ光っている。

 眩しい。

 ふと、隣を見た。

 一つの寝袋。そこに、寝ていたはずの彼の姿がない。


「……スター?」


 ざわりと、心臓が痛んだ。

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