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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第一章 孤児園の日常
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第九話 絆

 床の線が消え、バスケットコートが現れると、すぐに赤チーム対青チームの試合が始まった。

 赤チームは運動部と言うこともあって、すぐにゴールを決めていた。みんな足が速いしパスもうまい。ダンクしている人もいて思わず魅入ってしまう。……ぼく達、結構不利じゃない? 園長先生がいるけど、他のメンバーはみんな小学生、中学生だし……。

 スパーン! と、今度は青チームがゴールを決める。わあ、すごい。三点シュートだ。


「ソラ、作戦会議するよ」


 じっと試合を見つめていると、横からスターに声を掛けられた。作戦会議?

 見ると、みんな集まって何か話していた。ぼくも近くに行き、会話に耳を傾ける。


「まず、試合に出るメンバーを決めないとね!」


 エミちゃんが仕切っているみたい。

 で、誰が出るの?

 エミちゃんはみんなを見回すと、小さく手を挙げた。


「出たい人いる?」

「はい!」


 まず最初に手を挙げたのは、やっぱりカイ君だった。こういう系の行事には絶対に出るよね、カイ君。

 エミちゃんが一つ頷き、他のメンバーに目線を送る。


「他にはいる?」

「おれも出ようかな」


 ラギ君が微笑む。これで二人は決定だね。

 エミちゃんが三本の指を立てる。


「じゃあ、後三人だね。まず、スターは出るでしょ?」

「え、なんで?」

「天才だから」


 ぼくがそう口を挟むと、スターがフッと笑った。


「そう、ぼくは天才なんだよ」


 スターは出るみたいです。

 後二人……あ。


「園長先生が出ればいいんじゃない?」

「先生は昼食の準備をするから出られないんだって。後、眼鏡が壊れるといけないから」


 エミちゃんの返答を聞いて時計を見ると、十一時過ぎを示していた。

 このバスケの試合は前半戦、後半戦に分かれていてそれぞれ五分間行う。それが四試合あるから全部で四十分は掛かる。確かに、試合が終わったらお昼になるね。それに先生の言う通り、眼鏡を掛けてると危ない。うん、危ないとは思うけど……何でだろう。言い訳にしか聞こえない……。

 とりあえず先生は出られないということで、残り二人は誰にしよっか?


「エミりんが出れば? エミりん、大きいし!」

「アタシ? うーん、そうだね。楽しそうだし、出ようかな!」

「じゃあ、エミちゃんが四人目で、後一人は?」


 ぼくが首を傾げると、エミちゃんが顎に手を当ててうーんと考えるポーズを取った。ぼくは残ったメンバーに視線を走らせる。

 えっと、ぼくにルーク、ピンクちゃん、ピクちゃん、モエカちゃん。この五人が残ってるけど……。

 誰にしようか? という目でエミちゃんを見ると、カイ君がぼく達に目を向けてきた。


「んじゃ、ルーク、出ようぜ!」

「は? 何でオレが?」

「お前強いじゃん? 足もはえーし。ぜってー勝とうぜ!」


 ルークはそう言われ、仕方なく参加することとなった。

 メンバーが決まると、どんな風に試合を進めていくかが話し合われた。攻めや守りの人を決めるとか、誰をマークするとか。

 ぼくは何も出来ないけど、五人には頑張って欲しいな。

 ピー!

 笛の音が鳴り、赤チーム対青チームの試合が終わった。結果は青チームの勝利。わあ、以外。高校生達が勝つと思ったのに。大人チームには女の人もいるのに、すごいなぁ。

 次の試合は黄色チーム対白チーム。みんな、頑張って!

 笛の合図と共に試合が始まった。

 最初にシュートを決めたの女子高生だった。やっぱり、強い! 声を掛け合って、パスをスムーズに繋げている。

 でも、スター達だって負けないよ!

 エミちゃんが投げたボールをスターが受け取り、ドリブルで攻める。途中で止められるとカイ君に回して、カイ君が身を低くして走る。そして、シュート! 決まらなかったらラギ君がリバウンドし、そのままゴール! 相手のパスはルークがカットする。そんな風にして、スター達は試合を進めていった。結果、前半戦は六対四で、ぼく達が一回多く決めて終わる事が出来た。

 戻ってきたスターとカイ君にタオルと水筒を渡す。


「二人とも、高校生に負けてないなんてすごいね!」

「そうだろっ! 次も決めるぜ!」

「え~? カイ君は一回もシュート入ってないじゃ~ん」

「う、うるせえな! 次はぜってーゴールしてやる!」

「うんっ、五人とも、頑張って!」


 数分の休憩の後、後半戦がスタート。五人は気合いを入れて試合を行った。

 ――しかし、スター達は後半戦、一回もシュートを入れられず、逆に相手に三回もシュートを決められて負けてしまったのだった。


「クソッ!」


 カイ君が汗拭きタオルを床に叩きつける。他の四人も悔しそうに、喜ぶ高校生を眺めていた。

 その後、一回戦目で負けた赤チームと試合をしたけど、気持ちを切り替える事が出来ずに完敗してしまった。ちなみに、一位をとったのは青チームだった。

 昼休みと言うことで約一時間の休息が入り、ぼく達は孤児園に戻った。

 玄関を開くと、良い香りが鼻をついた。テーブルの上を見ると、九つ、お弁当が並んでいた。ご飯にふりかけ、野菜にお肉に卵……。お弁当の他に、焼きそばやたこ焼き、パンなども置いてある。


「すごい……」


 思わず呟くと、キッチンにいた先生がぼく達に笑いかけてきた。


「みんな、お疲れ様。お腹は減ってるかい? たくさん作ったから、好きな物から食べてね」

「すげぇ……!」

「おいしそー!」


 カイ君とピクちゃんがすぐさま席に着き、お弁当の肉を頬張った。二人とも、さっきの悔しそうな顔はどこに行ったのか、幸せそうな表情をしている。

 ぼくも食べよっと。

 先生を入れた十人で席に着き、昼食を取りながら、ぼく達は次の競技である綱引きを作戦を立てる事にした。

 昼の一時。午後の競技が始まった。

 係の人が綱を準備している中、ぼく達が広場に来ると、青チームの二人が近づいてきた。どうやら、綱引きで一回戦目に対戦する人たちみたい。


「こんにちは、園長さん」


 二十歳前半ぐらいの爽やかな男の人が先生に話しかけてきた。先生は振り向いて相手を確認すると、柔和な笑みを浮かべた。


「こんにちは、マシューさん。仕事はお休みですか?」

「ええ。今日は仕事の悩みを忘れて楽しもうと思いまして」

「園長さん! 久しぶり」

「ラズリさん。お久しぶりです」


 今度はポニーテールの女の人が先生の肩を叩いた。それにも、先生はニコニコしながら返事をする。

 そんな三人の様子を、ぼく達はぽかーんとしながら見つめていた。先生、青チームの人と知り合いだったんだ。


「あ、この子達が孤児園の子?」

「はい」


 ラズリさんと呼ばれた女性がぼく達に目を向けた。ぼくは小さく会釈をする。


「次は君たちと対戦だね。子供だからといって、容赦はしないよ?」

「おれらだって、負けねーからな!」


 カイ君がラズリさんの言葉に拳を上げた。ラズリさんは「あははっ」と笑ってカイ君の頭を乱暴に撫でる。ああ、元々ボサボサだった髪がもっとボサボサに……。


「そうだ。園長さんも綱引きに参加するんですか?」


 思い出したかのようにマシューさんが先生に問うと、先生は「はい」と頷いた。瞬間、ラズリさんがバッと顔を上げ、先生にぐっと近づく。


「え!? 園長さん、参加するの!?」

「は、はい。参加するつもりですが……」


 先生が驚いたように身を引く。うわ、近い近い。でも、ラズリさんは気にしていないらしく、すぐに先生から離れると頭を抱えた。


「うわああ~、園長さんが相手なんて、勝てる気しないぃ~」

「え? 先生、そんなに強いんですか?」


 ぼくが聞くと、ラズリさんがぼくに顔を近づけてきた。だから近いって……!


「うん! なんたって、園長さんは神だからね!」


 途端、先生がびくっと肩を揺らした。そして、慌てたように言う。


「か、神とは?」

「ああ。園長さんは知りませんでしたね。僕らやラズリさんの職場では、園長さんは神って呼ばれているんですよ。何でも出来てしまいますからね」


 マシューさんが穏やかな声で説明すると、先生は小さく息をつき、困ったように笑った。


「そんな事ありませんよ」

「もう、謙虚なんだから!」

「先生って、そんなにすごいんですか?」


 もう一度ぼくが質問すると、ラズリさんが何故か誇らしげに首を縦に振った。マシューさんも同じように頷くと、不思議そうな顔でぼくに尋ねてきた。


「園長さんの仕事、知らないのですか?」

「あ、はい。仕事をしていることは知ってるんですけど、どんな仕事なのかとか、どんな風に働いているのかは知らないです」

「そうなんですか。仕事のことは僕が言うことではないので詳しくは言いませんけど、すごく頼りになる方ですよ、園長さんは。職場のみんなもとても尊敬していますし、先程も言いましたけど、本当に何でも出来るんですよ」

「へえ~」

「園長さん、恥ずかしがらずに、いつか子供達に話してあげて下さいね?」


 ぼくの問いかけに丁寧に答えてくれたマシューさんが先生に向き直る。釣られるようにしてぼくも視線を向ける。先生はぼく達とマシューさん、ラズリさんから顔を背け、眼鏡を押し上げていた。その手の隙間から見える頬や耳が赤い……って、えぇ!? 先生、もしかして照れてる!?

 あまり見られないレアな姿に感動を覚えていると、司会者さんの声が聞こえてきた。あ、そろそろ始まるみたい。


「それでは、僕達は行きますね」

「じゃ、お互いがんばろうねっ」


 マシューさんとラズリさんの二人と別れると、ぼく達は広場の中央に用意された二本の綱のうち、朝礼台に近い方に移動した。

 ……あれ? 先生、さっきからずっと固まってる。どうしたんだろ?

 途中で、動かない先生に気づいて戻ったぼくは、先生の裾をちょいちょいと引っ張った。


「先生? 始まりますよ?」

「……ごめん。今は向こうに行けそうにない。私なしでやってくれるかな?」


 顔を背けたままそれだけ言うと、先生は孤児園がある方向に歩いて言ってしまった。……何あれ!? あの先生が弱ってる! 弱ってるよ!?

 ちょっとだけ興奮しながらみんなのところに戻り、先生が参加しないことを伝える。するとみんなは少し残念そうにしながらも許してくれた。そんだよね。あんなレアな姿を見られたもんね! みんな何も言わなかったけど、気づいてるよね! やったぁって、思ってるよね!


「それでは、白チーム対青チームの試合と、赤チーム対黄色チームの試合を同時に始めます」


 綱引きは、三分間綱を引っ張り合う。時間内に一メートル以上引っ張るか、時間切れになった時に自分側に少しでも引っ張っていられていれば勝利。


「よーい――」


 ――パン!

 銃声と共に縄を引っ張る。昼食に決めた時のかけ声を上げながら。

 しかし、先生がいないせいか、それとも相手が大人チームのためか、ぼく達はなすすべもなく引っ張られ、負けてしまった。二回戦で黄色チームとやった時も敗北。もう、バスケの時と同じように、あっさりとね……。

 綱引きが青チームの勝利で終わった後、やっと先生が戻ってきた。負けたことを言い、軽い気持ちで抗議すると、先生は困ったように微笑んだ。


「ごめん。次のリレーには参加するよ」


 広場の端に移動し、係の人たちがリレーの準備をしている中、ぼく達は素早く走る順番を決めた。最初と最後は早いほうが良いよねとか、バトンを渡す時は声を掛けるとか、そんなことを話しながら。話し合いをした結果、一番はルーク。二番目カイ君。続いて、ピクちゃん、モエカちゃん、ぼく、ピンクちゃん、ラギ君、先生、エミちゃん。そして、最後にスターが走ることになった。

 笛の合図が鳴り、奇数の人がスタート時点に、偶数の人がその反対側に移動する。うわあ、これで最後だ。き、緊張してきた……!


「それでは、最後の競技。チーム対抗リレーを始めます」


 周りで拍手が起こり、ルークとカイ君がスタンバイした。他のチームの人たちも、真剣な表情でスタート時点に経つ。


「では、行きます。位置について、よーい――」


 パンッ!

 一斉に、一番手の選手が走り出した。思わずルークを目で追う。す、すごい! 二番だ! 一番の赤チームに着いて行ってる!

 足音がどんどん遠のき、ルークがカイ君にバトンを渡した。カイ君が前を見据え、抜かされるものかと足を動かす。

 カイ君からピクちゃんへ、それからモエカちゃんへとバトンが渡され、とうとうぼくの番になった。今の順位は三位。でも、すぐ後ろには黄色チームがくっついていて、すぐにでも抜かされそうだ。

 モエカちゃんが駆けてきた。ぼくは手を後ろに差し出し、前を見ながら少し走る。そこで。


「はいっ!」


 モエカちゃんの透き通るような声が聞こえ、バトンが手に乗った。それをギュッと握りしめ、大きく前に足を踏み出した。そして、走る。走るっ!

 青チームが離れていき、黄色チームに抜かされる。それでも、諦めずに走り続け、ぼくはピンクちゃんにバトンを繋げた。


「はいっ……!」


 ピンクちゃん、後は任せるっ!

 走っていくピンクちゃんを見送り、ぼくは息を乱しながらルーク、ピクちゃんの横に座った。

 つ、疲れた~。運動音痴のぼくにしては頑張ったんじゃない?

 息を整え、ピンクちゃんからバトンを受け取ったラギ君に目をやる。お! ラギ君も早い! でも、少し三チームと離されていた。

 次に、園長先生にバトンが渡った。刹那、歓声が上がる。先生、速いっ! ぐんぐんと黄色チームに迫る。やった、追いついた! でも、赤チームと青チームには追いつけないかな……。

 先生がエミちゃんにバトンを渡し、エミちゃんがスターの元に走る。


「はいっ、スター!」


 スターの掌にバトンが置かれる。そのバトンを握り、スターが駆け出す。黄色チームに追いつかれないように、赤チームと青チームに追いつけるように。ルークに負けないくらい、速く。

 青チームとの差が狭くなっていく。

 スター、がんばれ! 抜かしてっ!

 パンッ!

 四チームがゴールし、銃声が鳴った。

 ほぼ青チームと同じタイミングでゴールしたスターは、カイ君や先生達の方に歩きながら司会者の方を見た。司会者さんは記録係の人と一言二言話しをした後、マイクを握る。


「今のリレーの、結果を発表します。一位、赤チーム! 二位は、青チーム! 白チーム、惜しかったですね。三位が白チームで、四位が黄色チームです!」


 うわあ、惜しいなぁ。最後、抜かせなかったんだ……。でも、頑張ったよね。みんなで力を合わせる事が出来て、笑い合えた。だから、すごく楽しかった!


「よって、今年のスポーツ大会の優勝チームは……青チームですっ!」


 拍手で青チームを称える。青チームの人達は、トロフィーを掲げながらみんなに手を振っていた。


 優勝は出来なかったけど、ぼく達の絆はもっと深まったよね!

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