第八話 スポーツ大会
よく晴れた秋空の下、ぼくは体操着に着替えて孤児園の外に出た。
今日はこの町の住人が参加する、年に一回のスポーツ大会の日。その名の通り、チームを組んでスポーツを競う大会なんだ。年によって参加するメンバーが違ったり、種目が違ったりするから、見てるだけでも楽しめるんだけど……今回は、孤児園のメンバーも参加します! さらに、園長先生も参加してくれるんだって! 先生が運動してるところはあまり見ないから、楽しみだなぁ。
全員の準備が整うと、ぼく達はスポーツ大会を開催する広場に向かった。
広場にはたくさんの人たちが集まっていた。参加する人は動きやすい格好に着替えているからわかりやすい。しかも、チームによって色が決まっているんだよね。ちなみに、ぼく達は白組。だから、みんな体操着を着て、白いハチマキをしている。先生は白いシャツだけど。
参加しない人たちは、広場の周りや家のベランダからこちらを注目していた。うぅ、こんなに見られてると緊張するなあ。
「それでは、参加する人は並んで下さい」
広場の端には朝礼台のような台がある。その上に立っていた男の人がマイクを持って声を掛けた。
ぼく達、孤児園チームが指示に従って朝礼台から見て右側に並ぶと、横に青いハチマキに青い服を着た大人チームが並んだ。その隣には黄色いハチマキをした女子高校生チーム。そして、赤いハチマキの男子高校生チーム。今年は、四つのチームが参加しているみたい。
「えー、では、今年もハイマートのスポーツ大会を開催したいと思います!」
ハイマートとは、この町の名前だ。
男の人の言葉に拍手が起こる。
鳴りやむと、男の人はマイクを持っていない方の手で赤チームを示した。
「今年の参加チームを発表します。まずは赤チーム! 運動部の男子高校生達です!」
わあ! と、また拍手が鳴る。男子高校生達はイエーイ! と声を上げながら、同じ高校の生徒だと思われる人に手を振っていた。
「つづいて、黄色チーム! 同じく運動部の女子高校生達です!」
「イエーイ!」
女子高生達も、声を上げてカメラを構えている人に向かってピースをした。
「そして、青チームは、この町を支えてくれている方々が集まった、大人チームです!」
先頭にいる体格のいい男の人が腕を上げると、その後ろに並んだいる大人達も声を合わせて拳を上げた。うわお、気合い入ってる!
「最後に、小学生、中学生の孤児が集まった、孤児園チームです!」
「イエーイ!」
ピクちゃんとエミちゃんが、高校生達をマネしたのかぴょんぴょんと跳ねながら手を振ると、周りの人たちが「頑張れよ!」と言ってくれた。紹介されるのはちょっと恥ずかしいけど、応援されるのは嬉しい。ぼくは、声を掛けてくれた人たちに小さく頭を下げた。
「今年は、この四チームが競い合います。次に、競技の発表をします」
スポーツ大会の競技は運動会でやる玉入れとか大縄とかの他に、ドッチボールやバスケといった競技もある。今年は玉入れ、大縄、綱引き、リレー、借り物競走、バスケの六種目らしい。
……借り物競走って何? いや、どんな競技かは知ってるんだけど、そんな種目あったの? それにバスケとか大縄って、この高校生や大人達に勝てるかなぁ……。
競技の発表が終わると、司会の男の人が台の端っこをトンと足で叩いた。その途端、広場の床に二つの大きな丸に描かれた線が出現する。
うわあ、何度見てもびっくりしちゃうなあ、この広場の魔法。この広場には魔力が込められていて、あの朝礼台を使うと今みたいに線を出したり、バスケやサッカーコートにする事が出来るんだ。魔法具の大きい物みたいな感じかな。
「最初の種目は玉入れ。対戦するのは、赤チームと黄色チームです!」
男子高生と女子高生が気合いを入れた雄叫びを上げた。
白チームと青チームは広場の端に寄るように言われ、ぼく達は朝礼台の左側に移動した。
赤色と黄色の籠が用意され、同じく赤色と黄色のお手玉がばらまかれる。選手達は線の外側に立ち、肩を回したり作戦会議をしていた。
人数は十人ずつ。制限時間は三分。二回戦行い、入った玉の合計で勝者が決まる。
ルールが説明されると、司会者がピストルを上に向けた。
「いきますよ。よーい――」
パン!
ピストルの音が空に響くと同時に、選手達は一斉に球を籠に向かって投げ始めた。黄色の玉と赤の玉が宙を舞う。舞うって言うよりも、飛ぶって感じだね。あ、赤の方が多くなってきた。でも、黄色も負けてない!
パン!
二回目のピストルの音。球を投げるのをやめ、係の人が籠を傾けた。
「それでは、数を数えます。いーち、にー、さーん――」
四、五と玉を落としていく係の人。どっちが勝ったかな?
二十、三十まで落とした時、赤チームの玉がなくなった。
結果、黄色チームの玉が六個多く入り、一回戦目は黄色チームの勝利となった。
キャーキャーと声を上げながら喜び合う女子高生達。楽しそうだなぁ……。
二回戦目、またピストルの音と同時に玉が空を飛ぶ。観客の応援の中、三分が経過し、今度は赤チームの勝利となった。係の人が司会者の所に行き、集計する。
「集計の結果、赤チーム、六十七。黄色チーム、六十九。よって、黄色チームの勝利!」
「やったー!」
女子高生達は歓声を上げ、男子高生にピースしたり、勝利した事を自慢していた。それに対して、男子高生達は「次は負けねーよ!」と返し、二つのチームが笑い合う。あぁ……ほんとに楽しそう。
白い籠と青い籠が出される中、そんな事を思っていると、スターがぼくの肩に手を置いてきた。
「ボク達といたら楽しくないって事~?」
「え!? そんなこといってないよ!」
否定してから考える。
高校生達は確かに楽しそうだ。羨ましいと思えるほどに。だけど、もう前の人生は終わったんだ。今は、この人生を楽しまなきゃ。そうだよ。まだ小学生。これから中学、高校になれば、たくさん楽しい事が出来る。スターやルーク、カイ君……この、孤児園のメンバーと一緒に。
だめだなぁ。まだ前世の事を考えちゃう。忘れる事は出来ないけど、後悔するのはやめよう。
「準備が整ったようです。青チーム、白チーム、用意はできましたか?」
籠の前、線の外側で構える。そして、ピストルの合図で近くに落ちている白いお手玉を手に取った。そこで、ぼくの隣で一気に五つ玉を投げるカイ君の姿が目に入った。あ、三つ入った。すごい! よし、ぼくも!
両手に一つずつ玉を持ち、投げる! 入れ!
「……あ、あれ?」
と、届かない……! そんな……これじゃあぼく、足手まといじゃん!
他のメンバーに目をやると、スターやルーク、園長先生はもちろん、ラギ君、エミちゃん、ピンクちゃんもちゃんと玉を籠に入れていた。あ、ピクちゃんは……?
「えいっ! えーい!」
……届いてない! 一生懸命ジャンプしながら投げてるけど全然届いてないよ!?
そうしてスター達を見ているうちに三分が過ぎてしまった。
「ピクちゃん、仲間だね」
「何が!?」
「玉が届かない」
「ちっちゃいって事ー!?」
「それでは、数を数えます。いーち――」
係の人が玉を数え始めた。あ、思ったよりも入ってるね。ぼくは一個も入れられなかったけど。
ぼく達の白い玉は三十一個入っていた。相手は……三十三。うわっ、相手、二個も多く入ってたよ!
「一回戦目は、青チームの勝利! それでは、二回戦目を始めます」
どうしよう。このままじゃ負けちゃう。でも、ぼくが投げても届かないから意味ないし……そうだ! みんなに玉を渡していこう! つまり、玉拾い。役に立てるかわからないけど、何もしないよりはマシだよね!
合図が鳴ると、ぼくは玉をなるべく多く拾い、スターやカイ君に渡していった。しゃがんで玉を拾う必要がなくなったから、多く投げられるはず! 途中から、ピクちゃんもぼくを手伝ってくれた。
三分が経過。数を数えた後、集計をする。結果――。
「青チーム、六十九。白チーム、七十四。白チームの勝利!」
「やったぜ!」
カイ君がガッツポーズする。うんっ、やったね! 役に立ててよかった!
青チームとの試合が終わると、さっき勝った黄色チームとの勝負が始まった。黄色チームは赤チームの、ぼく達は青チームの応援を受けながら玉を投げる。ぼくは拾って渡す、だけど。
一回戦目、二回戦目が終わり、合計が発表された。黄色チーム、六十七。白チーム、六十八で、ぼく達は何とか勝つ事が出来た。やったね!
「玉入れ、終了です。次の競技に移ります。次は、大縄跳びです」
司会者がまた朝礼台を足で叩く。すると今度は床に四本の線が現れた。係の人が縄を線に合わせて置く。
ぼく達は指示に従い、一番端の縄の前に移動した。
「誰が回すの~?」
スターが首を傾げる。あ、確かに。まずは回す人を決めなくちゃだね。
「とりあえず、先生は回す決定だよね?」
ぼくが聞くと、みんなが頷く。先生もそのつもりだったらしく、縄の長さを調整していた。
もう一人、回す人誰にしよっか?
「じゃあ、アタシが回すよ!」
エミちゃんが片手を上げる。うん、そうだね。身長的にもエミちゃんが一番かもしれない。……エミちゃん、身長どのくらいなんだろ? 百六十はあるよね。
回し手が決まったところで、ぼく達は縄に沿って外側が背の低い子、内側が背の高い子の順に並んだ。つまり、一番外側がピクちゃんとカイ君。そこから内側に向かってスター、ぼく、ルーク、モエカちゃん。で、一番内側がピンクちゃんとラギ君って感じかな。
準備が出来たところで、司会者の合図を待つ。
大縄飛びは、四チームが一斉に行う。制限時間は十分。一番多く、連続で飛んだ数が点数に入る。
すべてのチームの準備が整うと、またピストルの音が鳴った。
「じゃあ、アタシがいくよって言うから、みんなでせーのせーでって言ってね」
「うん、わかった!」
エミちゃんに頷くと、ぼくはじっと前を見て集中した。そこに、エミちゃんの声が掛かる。
「いくよー!」
「せーの、せーでっ!」
みんなで声を合わせて言うと、縄がぐるっと回ってきた。前にいるカイ君と同時にジャンプする。
「いちっ、にっ、さんっ、しっ……」
あうっ。引っかかっちゃった……。
「ごめん!」
「ドンマイ! 次いこーぜ!」
カイ君……!
ぼくはよし、と気合いを入れて、まわってくる縄をジャンプした。
いちっ、にっ、さんっ、しっ、ごぉっ、ろくっ!
それから何回も頑張って飛び続け、何とか三十回を超えることはできた。だけど、またぼくが引っかかってしまった。うぅ、ほんとにごめんなさい……。
「ソラたん、頑張って!」
「うんっ、頑張る!」
「一旦、休みを取ろうか」
先生が縄を置いて伸びをする。そうだよね、縄を回す方も疲れるんだ。
ぼく達は最後の一分で多く飛ぶ事に決め、他のチームを観察した。
今のところ、赤チームが二十回。黄色チームが二十五回。青チームが四十三回飛んでいた。大人チーム、すごい……。一番体力がありそうなのは赤チームなのにね。青チームは団結力があるのかな?
「残り、一分です」
え、もうそんなに経ったの!?
慌てて立ち上がり、準備をする。よし、集中集中。
「いくよー!」
「せーの、せーでっ! いちっ、にっ、さんっ――」
十、二十、三十、四十。ここまで飛ぶと、足が上がらなくなってくる。運動音痴のぼくは特に。でも、もう引っかかっちゃ行けない。足手まといになるのは嫌だ。みんなのために、飛ばなきゃっ。
「五十っ!」
まだ……まだいける!
パン、とピストルの音が鳴った。それでも、飛び続ける。でも、もう数を数える余裕はなかった。ただ、縄が来た瞬間にジャンプするだけ。
その時、六十二、六十三と、数を数える声が聞こえてきた。カイ君やスターじゃない。見ている人たちの声だ!
みんなが応援してくれている。そう感じた時、力が沸いてきた。
「七十っ!」
後っ、三十回で、百だっ!
だけど、そこで、パチンと縄が足のつま先に当たってしまった。縄が止まり、ぼくは膝をつく。
ハァハァと息をしていると、周りで大きな拍手が起こった。やった……百回は行かなかったけど、七十回も飛べたよ!
「なんと、白チームが七十一回! 白チームの勝利です!」
さっきよりも盛大な拍手がぼく達を祝ってくれた。
よし、玉入れに続いて大縄飛びも一位を取れた! この調子で、次も頑張るよ!
孤児園のメンバーと喜び合い、ぼく達は次の競技――バスケへと進んだ。




