第六話 遊園地
朝十時、ぼくは遊園地のチケットを握りしめ、心を躍らせていた。
だって、遊園地だよ遊園地! 前世では一回しか行かなかったし、この世界でも二回目だもん。わくわくしちゃうよね?
入り口の門を潜り抜けると、メリーゴーランドの音楽や、ジェットコースターが走る音、たくさんの人の悲鳴などが聞こえてくる。あ、悲鳴はジェットコースターとか、お化け屋敷から聞こえてくるものだからね? 助けを求めるような悲鳴じゃないよ? まあ、ある意味助けを求めてる悲鳴だけど。
入り口のすぐ近くの広場まで歩くと、園長先生がくるりと身体の向きを変えてぼく達を見た。
「みんな、ここからは自由に行動してね。あ、でも、何か事故にあったらいけないから、みんな一緒に行動するように」
「うん、わかった。じゃあ、どこ行こっか~?」
スターがみんなを見回す。ぼくも一緒になって遊園地に来たメンバーに目を向けた。今日遊園地に来たのは先生をあわせて十二人。ぼく達孤児園メンバーの他に、カイ君の友達であるアト君と、ピクちゃんの友達のミニちゃんが着いてきてるんだ。
結構多いよね。この数だと行きたいところがバラバラになっちゃいそうだけど、大丈夫かな。
スターの視線を受けて、みんながどこに行こうか考え始める。うーん、どこ行こうって言われても、どんな乗り物があるかわからないからなぁ。
ぼくは入り口でもらったパンフレットを広げた。
「じゃあ、最初はジェットコースターにしよっか~」
スターがぼくのパンフレットを覗き込みながら言うと、カイ君が嫌そうな顔をした。
「なんで最初にジェットコースターなんだよ! 違うのにしようぜ!」
「え~、カイ君乗れないの~?」
「い、いや、ルークが乗れないだろ!」
「え、ルーク乗れないの?」
ぼくが聞くと、ルークは真顔でこう言った。
「乗ったら吐くぞ」
「うん、やめようか」
そうだ、ルークは酔いやすいんだった。
今度はカイ君がパンフレットを覗き込んでくる。カイ君はぼくの手元に目を落としながら、アトラクションを読み上げた。
「あー、メリーゴーランド。これもルークが無理だな。コーヒーカップ、これも駄目だな」
「お化け屋敷とかどうだ?」
「それはおれが無理だ!」
あ、カイ君無理って言っちゃったよ。まあ、わかってたけど。
その後も、どれが乗れるか確認する。
観覧車はカイ君が駄目。ハングライダーはルークが駄目。なるほど、高いところに行く物や、ぐるぐる回ったり走ったりする乗り物はカイ君とルークが駄目なのか。……それって、ほとんど駄目なんじゃ……?
そんな心配をしながらカイ君の声を聞いていると、聞き慣れないアトラクションが耳に入った。
「空中ブランコ。こんな物もあるのか。これも駄目だな」
空中ブランコ?
パンフレットの写真に目を向ける。ほんとだ、すごい高いところにブランコがある。これ、危なくないのかな。あ、でも、この世界には魔法とかあるから大丈夫なのか。
「なんだこれ? フリーフォール?」
カイ君が空中ブランコの横の文字を読んで首を傾げる。フリーフォール? なにそれ?
目線を横に移動させる。あぁ、高いところから一気に落ちる乗り物か。あ、身長制限がある。
カイ君もそれに気づいたみたい。ピクちゃんとミニちゃんをちらっと見ながら声を発した。
「これは身長百三十以上だから、ピクとミニが無理だな」
「ちっちゃいって事ー!?」
ピクちゃんが声を上げる。
「色々とちっちゃいって事ー!? 胸もー!?」
「何で胸が出てくるんだっ!?」
カイ君が突っ込む。うん、ぼくも胸は関係ないと思う。
「何言ってんの!? 胸は大切だよ!?」
いやスターこそ何言ってんの!?
思わず心の中で突っ込んでしまった時、エミちゃんがピクちゃんの肩にぽんと手を置いた。
「大丈夫だよピクちゃん! ピクちゃんの胸もすぐ大きくなるよ!」
「すっごく?」
「ミニも?」
「うん! でも気をつけてね。こういう輩が現れるから!」
ピクちゃんとみにちゃんの言葉に頷いてから、エミちゃんがびしっとスターを指さす。スターは腕を広げて肩を竦めた。
「やだなぁ。まるでボクが、エミちゃんを見る時に胸しか見てないみたいじゃないか~」
「実際、胸しか見てないじゃん!」
「いや~、ボクはちゃんと目を見て話してるよ」
「言ってる事と行動が一致してないよ!?」
じーっとエミちゃんの胸を見ながら笑うスター。お巡りさーん、ここに変態がいまーす! っていうか、スターってこんなに変態だったっけ!?
ま、まあいいや。次行こう。
カイ君に次行くよう促すと、カイ君がフリーフォールの横の文字に目を向けた。
「あ、バンジージャンプだってよ。体重三十八キロ以上。これもピクとミニが無理だな」
「ちっちゃいって事ー!?」
「色々ちっちゃいって事ー!?」
すぐにピクちゃんが声を上げ、続くようにしてミニちゃんも叫んだ。そして、二人一緒に。
「胸もー!?」
「だから、何で胸が出てくるんだよっ!?」
仲いいな、ピクちゃんとミニちゃん。そして突っ込むカイ君も。なんか、面白そうだから見てよう。
カイ君が突っ込むと、エミちゃんがピクちゃんとミニちゃん、二人の肩に手を置いた。
「大丈夫だよ二人共! 二人の胸も、すぐに大きくなるから!」
「ほんとに? ヤバイ?」
「エミちゃんみたいに?」
「うん! でも気をつけてね。こういう変態が現れるから!」
「やだなぁ、エミちゃん。まるでボクがエミちゃんとモエカちゃんを見る時に胸しか見てないみたいじゃないか~」
「さっきと同じ会話じゃねえか!」
カイ君が拳を握って大声を上げる。
スターはまた「え~」と声を出した。
「全く同じじゃないよ~。ねぇ? エミちゃん」
そのスターの目線は、エミちゃんの胸。それを見てエミちゃんがスターに指を向ける。
「ほら! 胸しか見てないじゃん! モエカちゃん、気をつけてね! この子、何するかわかんないよ!?」
「そうね。気をつけておくわ」
「え~、まるでボクが変態みたいじゃないか~」
「変態じゃん!」
断言するエミちゃん。そういえば、モエカちゃんもエミちゃんに負けないぐらい胸が大きいんだよね……。ぼくは……うぅ~。
ぼくが落ち込んでいると、ピクちゃんとミニちゃんがぼくの手をがしっと握った。
「仲間だよソラたん!」
「え~、なんかその仲間嬉しくないんだけどー……」
はぁ……こんな広場でぼく達は何をやってるんだか。周りが騒がしくてよかったよ。
ため息をついて再びパンフレットに目を落とす。ほとんど乗れないじゃん。どこだったらみんな参加できるんだろ……ん? っていうか、乗れない人はその前で待ってれば良いんじゃないの? ベンチとかに座って。あ、そしたらカイ君とルークはほとんど待たなくちゃいけないのか。
「カイのせいで何にも乗れないな」
「いや、お前のせいでもあるだろ」
「あ、こんな所があるよ」
言い争いを始めそうなカイ君とルークの間に入り、ぼくはパンフレットの右下の、アスレチック迷路と書かれているところを指さした。迷路があって、その途中に棒渡りとか雲梯があるみたい。
「面白そうだな!」
「これなら、ルークも出来るんじゃない?」
「そうだな」
「どこ行くか決まった?」
声を掛けられて顔を上げると、ピンクちゃんとラギ君、アト君が立っていた。あ、さっきの会話に混じらなかったこの三人の事をすっかり忘れてた。ごめんね。
心の中でこっそり謝り、パンフレットのアスレチック迷路の所を指さす。
「ここなら行けそうかなって」
「じゃ、早速行くか」
ラギ君が場所を確認して歩き出した。その途中、ふざけ合っているスター、エミちゃん、ピクちゃん、ミニちゃんに声を掛けていく。ぼく達もラギ君に着いて行き、今までの会話を微笑しながら聞いていた先生も後ろに続いた。
アスレチック迷路は賑わっていたけど、思ってたよりも混んではいなかった。
入り口前のお兄さんにチケットを見せてから迷路に入る。この迷路は、一回に十五人入れるみたい。ぼく達十一人の他に四人の男の子が入ると、迷路の入り口の扉が閉まった。ちなみに、先生は参加していない。
早速ぼく達は進む事にした。階段を上がり、まっすぐ延びている通路を歩いて左に曲がる。すると、クイズと書かれた壁が現れた。クイズに正解すると、先に進めるみたい。ぼく達よりも先に進んでいた男の子がクイズに答えていた。
どんなクイズが出るのかな?
そう、ぼくが近づこうとした時、ガゴンッと音がなった。瞬間、男の子が消える。って、え!? 何が起きたの!?
「お、落ちた!?」
カイ君の言葉に目線を下げると、さっき男の子が立っていた場所に穴が開いてた。え、え!? なんで!?
数秒すると、その穴は塞がった。恐る恐るクイズが書いてある壁に目を向けると、そこには注意書きで『間違えたら失格』と書かれていた。つまり、間違えたらさっきの男の子みたいに落ちちゃうって事か……怖っ! これは、間違えられないね……!
えっと、クイズは『保健室で笑っている物は何だ』か。保健室で笑ってる物……保健室にある物を思い浮かべれば、何か出てくるかな。えっと、ベッドに体重計とか身長計、包帯、薬……ん? 薬? くすり、クスリ。あ、クスリって笑ったりするよね。笑う時にこの言葉使うよね? じゃあ、答えは。
「薬」
途端、ゴゴゴゴという音を立てて壁が横に移動した。わあ、すごい。どういう仕組みなんだろ。もう何でもありだなぁ。
開いた壁の先にはまっすぐ進む道と、右に曲がる道があった。だけど、どっちが正解なんだろ? って悩む必要はなかった。先に進んでいた男の子三人が、左の道から戻って来たからね。左は行き止まりなんだ。この男の子達に感謝感謝。
走っていく男の子に続いて歩いていると、今度は丸太の道が現れた。隙間を空けて左右の紐にぶら下がっている丸太は、風に揺られてぐらぐらしていた。あの上を歩くのか。まあ、隙間は狭いし、落ちる事はないと思うけど。
思った通り、ちょっとぐらぐらして怖かったけど、落ちる事はなかった。多分、落ちたら失格なんだろうな。これからこういうのがたくさん出てくるのかな。
そんなぼくの予感は当たってしまったみたい。丸太の次の梯子を登った先には、ターザンロープがあったのだ。あの、紐にぶら下がって向こうまでびゅーんっていくやつ。それだけだったらまだよかったんだよ。でもね、そのターザンロープの下は奈落の底、つまり床がなかったんだ。それに、ターザンロープの先には普通の床があるわけではなかった。向こうには、なんと空中に浮いている大きなクッションがあったんだ。それもいっぱい。
ターザンロープであそこまで言ったら、ジャンプしてクッションに着地しろって事だね。うん、無理。
実際、ぼく達以外の男の子は三人とも奈落の底に落下していってしまった。うわあ、絶対無理だよぉ。
「面白そ~。ボクから行くね」
スターが最初にロープにぶら下がった。向こうまで行くと勢いに乗ってジャンプし、見事クッションに着地する。
「さすがスター。すごいね」
「ボクは天才なんだよ!」
拳をギュッと握り、決めポーズするスター。みんなー、あそこにナルシストがいるよー。
「よしっ、おれが行くぜっ!」
カイ君も、スターのように綺麗にクッションに着地した。こういうのは得意なんだね。でも、すごく高いのに大丈夫なのかな?
そう思ってカイ君に目をやると、クッションに立って前を見据えてたけど、足が小刻みに震えていた。あ、やっぱり高いところは苦手なんだ。
「あ、ルーク。こういうのは大丈夫なの?」
「ああ」
ルークがカイ君に続いてクッションに着地する。ぼくも、こんなところで怖がってる場合じゃないよね。
よし、と気合いを入れ、ロープにしがみついた。足を浮かせると、すぐにひゅーんと音を立てて身体がクッションの方に持って行かれた。こ、怖いっ! ここは、運に任せますっ!
身体が宙を浮く。そしてぼくは、大きめのクッションの上に叩きつけられた。柔らかいクッションだからあんまり痛くはなくてよかったけど……怖かったぁ~。
ぼくの次はピクちゃん。その次はラギ君、ピンクちゃん、モエカちゃんと、次々にクッションに無事着地する孤児園メンバー。みんな、運良いな。それとも、運動神経が良いのかな。
よし、最後はアト君だ。ぼくはターザンロープの前で震えているアト君に手を振った。
「アト君、頑張って!」
「う、うん……」
アト君はコクンと頷くと、ロープをギュッと握った。そのまま目を瞑って足を上げる。すると、ロープがひゅーんと音を立ててぼく達の方に向かってきた。そして、クッションの前でアト君が手を離す。その小さな身体が宙に浮き……あ! アト君危ない!
ちょっとロープから手を離すのが早かったのか、アト君の身体はクッションに届かず、奈落の底へと落ちていってしまった……。
「アトくーん!」
「アトー!」
ぼくとカイ君の声が重なる。アト君は叫び声も上げられぬまま、見えなくなってしまった。
スターが悔しそうな顔をする。いや、悔しいといった演技をした。
「くっ、一人犠牲になってしまった」
「いや、アト君死んでないからね?」
この下には何があるのかはわからないけど、死ぬような事にはならないだろう。こんなすごいアスレチックだけど、殺すような事はしないはずだ。
それからぼく達は落ちないように気をつけながら、たくさんのクッションからクッションへと、ジャンプしながら先に進んだ。みんなでゴールできたらいいな。そう思った。
しかし、この後ぼく達はたくさんの犠牲を出す事になるのだった。




