第一話 病院
みなさん、お久しぶりです。
今日から『第二幕』、更新し始めます!
毎週日曜日、更新していく予定なので、これからもよろしくお願いします!
誰かのすすり泣く声が聞こえ、ぼくはゆっくりと目を開いた。まず視界に入るのは、真っ白な天井。
ここ、どこ?
起き上がり、辺りを見回す。部屋には真っ白なベッドが四つあった。そのうちにひとつに横になっていたみたい。でも、なんで? それに……。
ぼくはすぐ横にある椅子に座り、すすり泣いている女の人を見た。ベッドに突っ伏して、肩を震わせている。どうしてこの人、ぼくの横で泣いているんだろ? ……ん?
「えぇ!?」
思わず声を上げてしまった。だって、女の人は誰かの手を握っていて、その誰かがぼくの下にいたんだもん! 慌ててベッドから下り、ぼくの下で寝ていた人を見つめる。
寝ていたのは、肩にぎりぎり届くぐらいの短い黒髪の少女だった。ぼくが上に乗っていたのに、少女は目を覚まさないし、苦しむ表情も見せない。どこか怪我している様子もないし……この子、何かの病気? それに、この少女と女の人、どこかで見た事あるような……。っていうか、ぼくなんでこんな場所にいるの!?
その時、部屋の中に男の人が入ってきた。男の人は女の人のそばに行くと、しゃがんで女の人の背中に手を添える。
「優佳、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょ……まだ、目を覚まさないのよっ……! 大智は平気なの!?」
「平気なわけないだろう」
女の人は優佳。男の人は大智って名前なんだ。……なんだろ。やっぱりぼく、この女の人も、男の人の方も知ってる気がする。でも、思い出せない。
男の人は立ち上がると、近くの壁に寄り掛かった。
「さっき水無月さんと話をしてきたんだが、やっぱり水無月さんの娘さんが――を自殺に追い込んだらしい」
自殺……!? この女の子、自殺しようとしてたんだ。それで気絶してる? じゃあ、ここは病院? なんでぼく、病院にいて、しかもこの子の上で寝てたんだろ? それにこの二人、ぼくに気づいていないみたいだし……。
「……その娘さんは?」
「今は部屋に閉じこもっているらしい。反省してるかはわからない」
「そう……」
「――は気絶してるだけなのか?」
「ええ。命に別状はないみたいだけど、やっぱり、不安で……」
ぎゅっと、少女の手を握りしめる優佳さん。その目から涙が零れ落ちた。この子、愛されてるなぁ。高校生ぐらいかな。なんて名前なんだろ? なんか、さっきからこの子の名前が聞き取れないんだよね。
「じゃあ、俺はもう行くからな。たまには家に帰って来いよ」
「……うん」
優しくかけられた言葉に優佳さんが頷くと、大智さんはもう一度少女の顔を見てから部屋を出て行った。すると、入れ替わるようにして大学生くらいの男の人が入ってきた。その人を見た途端、ぼくの頭に痛みが走った。
っ……! なに……この痛み。そして、またこの感じ。ぼく、この男の人の事も知っている……?
男の人は優佳さんと反対側のベッド沿いに行くと、女の子の頭をそっと撫でた。優佳さんが顔を上げ、驚きの表情を見せる。
「勇輝……大学はどうしたの?」
「ごめん、休んできた。――が心配だったから……」
頭の痛みが増す。勇輝……この名前も、聞いた事ある。知っているはずなのに……思い、出せない……!
「……ありがとう。あたし、一回家戻るから、この子のそばにいてもらってもいい?」
「ああ」
優佳さんが足下に置いてあったバッグを手に、部屋を出て行く。扉が閉まると、勇輝さんは項垂れた。女の子の手を両手で握りしめ、額に当てる。
「――、苛められていたの、気づかなくてごめん。まさか、あいつがお前を苛めてたなんて……」
怒りのためか、悲しみのためか、勇輝さんの肩は震えていた。さっきの優佳さんのように。
少しの間、何かを呟いた後、勇輝さんは不意に顔を上げた。真剣の表情で眠っている少女を見て、小さく口を開く。
「待っていろ。すぐ、会いに行く。だから――、絶対死ぬなよ」
会いに行く? どうやって……。
不思議に思っていると、勇輝さんはポケットから瓶のような物を取り出した。中には、薬が入っている。
それ、危ない薬何じゃ……。
勇輝さんは片手で少女の手を握りしめたまま、その薬を呷った。そして、ベッドに突っ伏す。
あまりの真剣さに、ぼくは動く事が出来なかった。だけど、すぐに我に返り、勇輝さんに駆け寄った。恐る恐る首筋に手を当てる。よかった、脈はある。死んではない。じゃあ、この薬は……?
瓶を拾って説明書の部分を見ると、睡眠薬と書いてあった。これを飲んだからって、この少女を会えるわけがない。勇輝さんは、何でこんなことを……。
考えてもわかるはずがなく、ぼくは瓶を近くにあった棚の上に置いた。その瞬間、がちゃりと音を立てて部屋の扉が開かれた。ぼくは優佳さんが戻ってきたのかな、と視線を向け――固まった。足が震え、逃げたい衝動に駆られる。だって、この人は……この女の子は……!
『ソラ』
どこからか、名前を呼ばれた。ぼくの前に眩い光が広がる。
『ソラ!』
声の方に手を伸ばす。すると、誰かに手首を捕まれた。そのまま、引き上げられるように身体が宙に浮く。さっきまでの恐怖が嘘のように消え、穏やかな気持ちになったぼくはゆっくりと目を閉じた。




