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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 子供達の過去
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第十九話 苦しみ

 昼食を食べ終え、四時ぐらいまでスターやカイと話して遊んだおれ・・は、疲れて部屋に戻ってきた。部屋にシンの姿はない。また外に行ったのか。あいつはいつも部屋にいない。いるのは寝るときぐらいだ。一体、どこで何をしているのやら。何もしていなければいいんだが……。

 鏡を見て、カイと遊んで乱れた赤髪を整える。結構伸びたな。そろそろ切りに行くか。

 整えていると、机の上に置いてあるノートに書いてある自分の名前が目に入った。……ラギ。この名前にも、だいぶ慣れてきたな……。

 ある程度整えた後、ベッドに倒れ込んだ。ふぅ、バスの中で寝たためか、身体に疲れがたまっている。少し寝るか……。

 布団を掛けずに目を瞑ったとき、脳裏に衝撃が走った。驚いて目を開くと、おれは見知らぬ道路に立っていた。これは……まさか予知!?

 おれには何故か、小さい頃から予知能力が備わっていた。いや、冗談じゃなくて本当に。でも、見たいときにみれる訳じゃない。今のように、唐突に起こる。

 予知だから、実際はこの道路に立っているわけではない。だから、この世界ではおれは空気だ。誰にも触れることも話しかけることも出来ない。そして、ここで見たことは必ず実際に起こる。いままで、ここで見たものが外れたことはなかった。

 今回は何が見えるんだ……? 悪い事じゃなければいいが。

 そんなおれの祈りは届かなかったようだ。前方から、シンと兎耳の男の子が歩いてきた。あの子はカイの友達の……アト、だったか?

 シンはずんずん歩いていき、アトがその後ろを早足で着いて行っている。シンがあんな大人しそうな子と一緒にいるなんて、何かあったのか?

 そう思って見ていると、急にシンが立ち止まって振り返った。アトがびっくりして足を止め、シンを仰ぎ見る。シンはうんざりしているような表情で口を開いた。


「いつまで着いてくるんだ? 言ったろ? お前とはいたくねぇって」

「ご、ごめんなさい。助けてくれたから、お礼したくて……」


 助けた? シンがアトを?

 びくびくしながら目を合わせるアトに、シンはにやりと笑みを返した。


「は? 俺がお前なんかを助けるわけないだろ? あいつらを怯えさせたかっただけだ」

「でも、シンお兄ちゃん、本気で怒ってくれてた」


 話を聞くところ、何をしたかはわからないが、シンの行動はアトを助けたらしい。シンにそのつもりはないらしいが。ていうか、怯えさせたかったとか、シン趣味悪いな。前からわかってたけど。

 アトが「ありがとうございます」とシンにお礼を言った。シンはというと、先程までの笑みを消し、鋭い目つきでアトを見つめていた。その口から、低い声が発せられる。


「俺を、お兄ちゃんと呼ぶな」

「え、でも、お兄ちゃんみたいだったから……」

「呼ぶなって言ってんだろ!!」


 ガッとアトの胸倉を掴み、魔法で短剣を出すシン。シン、一体どうしたんだ!?

 おれは今すぐ止めにかかりたかったが、これは予知能力が見せている映像。おれは何も出来ない。

 シンの力強さと迫力に、アトの顔が歪んだ。その目から涙を流し、何かをシンに訴えかけるアト。だが、泣きながらのため何を言っているのかはわからない。

 シンの腕の力が強まり、短剣が振り下ろされる。刹那、二人の間に割って入る者がいた。


「ソラ!」


 突然現れたその子の名を、思わず口にしてしまう。当然、ソラは気づかない。

 振り下ろした短剣をソラに受け止められたシンは、目を見開いて後ろに下がった。


「またお前か。よく俺の邪魔をするな」

「君が人を殺そうとするからだよ。アト君、大丈夫?」

「う、うん……」


 ソラがシンを睨みながらアトに逃げるよう指示した。アトは少し迷うそぶりを見せてから、孤児園の方に走っていく。

 その後、シンとソラの戦いが始まったが、とても短く感じた。気が付けば、ソラがシンに剣を向けたまま固まっていた。額に汗をかいていたが、それは照りつける太陽のせいではないだろう。

 シンがソラの剣を蹴り上げる。そして、短剣の柄で、立ち上がったソラの首筋を思いっきり殴った。倒れるソラ。シンが短剣についた血を一振りして、呟くような声で言った。


「お前はまだ殺さないでやるよ」


 直後、視界が白で染まった。眩しさに思わず顔を覆う。光が消え、気が付くとおれは自分の部屋のベッドの上に戻っていた。いや、戻ったんじゃなくて映像が消えたのか。って、そんなこと考えている場合じゃない。確実に、今見たことが現実で起こる。その前に止めないと!

 おれはすぐに階段を下り、外に出た。確か、予知で見た道はあの角を曲がった先だったはず!

 息を切らしながら角を曲がったおれは、目の前の光景を見て足を止めた。スターがソラを抱き起こしていたのだ。その周りには、心配そうな顔をした孤児園のメンバーがいる。アトもいたが、シンはいなかった。

 ソラが倒れていったって事は、もうシンと戦っていたのか……また、間に合わなかった……!

 おれは拳を握りしめ、唇をんだ。悔しさが込み上げてくる。

 おれも、ソラを孤児園に運ぶのを手伝おう。そう思い、スター達に一歩近づいた時、誰かに腕を思いっきり引っ張られた。相手を見ることが出来ないまま角を曲がらされたおれは、身体ごと振り返った。そこで、思わず声を上げる。


「シン……!」


 おれを引っ張ったのはシンだった。シンはおれを見ると、不敵な笑みを浮かべた。予知夢で見た笑みと重なる。


「残念だったな。せっかく予知できたのに助けられなくて」

「……っ!」

「おっと、俺がソラと戦ったこと、誰にも言うなよ? あいつをまだ始末してないしな」


 スター達のところに行こうとしたおれに、早口でシンが言う。おれは視線を戻し、シンを睨んだ。


「お前の言うことなんか、聞くわけないだろ」

「いいのか? そんなこと言って。これは命令だ。聞かないとどうなるか……わかるよな?」

「くっ……」


 反論できなくなり、俯く。だが、すぐに口を開いた。


「ソラが目を覚ませば、すぐにばれる」

「それがどうした? お前は俺の命令だけを聞いてればいいんだよ」


 シンはそれだけ言うと、きびすを返して孤児園に戻っていった。おれはその背中をめ付け、素直に従おうとしている自分を責める。そんなことしてもどうにもならないし、今のおれに命令を破る勇気はない。だからおれは、ソラを孤児園に運ぶスター達を見ていることしかできなかった。

 孤児園に帰ると、スターが園長先生の力を借りながら二階に上がっていった。先生は特に驚くことなく、急いでソラを運んでいく。他のみんなは心配そうにしていたが、少しするとピンクが夕ご飯を作り始めた。時計を見ると、六時になるところだった。もうこんな時間か。ってことはおれ、一時間以上も予知映像見てたのか。

 夕飯を待ちながら、予知で見たことを思い出す。そういえば、シンはアトが言った「お兄ちゃん」という言葉に感情的になっていたな。アトとの間に何かあったのか? それとも、シンにも思い出したくない過去が……?

 そこまで考えたところで、ピンクが夕飯を作り終えた。少しして、スターと先生が戻ってくる。ソラはまだ目を覚まさないらしい。

 おれは深く考えることを後にし、椅子に座った。ソラ抜きで夕食を済ませる。ソラがあんな状態のためか、空気が重かった。その空気から逃げるように、いつもよりも早々と食べ終えたおれは「ごちそうさま」と口にした後、外に出た。扉の横の壁により掛かり、空を見上げる。今日は曇っていて、輝く星は見えなかった。シンと出会ったのも、こんな夜だったな……。


 孤児園に来る一週間前、ここから北に行ったところにある町に住んでいたおれは、曇り空の下、ある人を探すために家を飛び出した。……いや、実際は親と喧嘩をしたんだ。

 孤児園がある隣町に行こうとしたおれは、途中で心配して追ってきた母さんに捕まった。母さんはおれが隣町に行くのを嫌がった。だが、おれはどうしてもその町に行かなければならなかった。そのことで、言い争いになったのだ。

 大きな道路の前で、おれは母さんを説得しようと試みた。行かせてくれ。大切な人があの町にいるんだ、と。だけど、母さんはおれの声に耳を傾けず、無理矢理家に連れて帰ろうとした。だからおれは、頭に血が上って、思わず母さんを思いっきり突き飛ばしてしまったんだ。母さんは小さく声を上げて倒れた。道路の真ん中に。その姿を目にした直後、大きな車がものすごい速さでおれの前を通り過ぎた。ひきずられる母さんを見た直後、急ブレーキを掛けるトラックの音と甲高い悲鳴が聞こえてきた。

 おれのせいで、母さんがかれた。その状況を理解するのに時間がかかった。

 救急車が来たところで、おれはやっと我に返った。震える足で後ずさる。なんてことをしてしまったんだ……! このことが広まったら、おれは捕まるのか……? そしたら、あの子に――妹に会えなくなる……!

 おれは逃げるため、もう一歩後ろに下がった。そこで、誰かにぶつかる。肩がびくりと揺れた。もし、おれの後ろにいるのが大人だったら、走ろう。そう思い、振り返った先にいたのが、シンだった。

 シンはおれをじっと見つめると、小さく笑った。


「このことが広まらず、なおかつ隣町にも行ける方法、教えてやろうか?」

「そ、そんな方法があるのか……?」

「ああ」

「教えてくれ! おれには、会わなきゃいけない人がいるんだ」

「いいぜ。その代わり、おれの命令に従ってもらう」

「……わかった」


 母さんが死んだということを知った後、シンは魔法を使って母さんが事故に遭ったところを見た人の記憶を消した。そんな大きな魔法を使えるシンに恐怖を感じたが、もう遅かった。おれはシンの命令で名前を変えさせられた。その意図はわからないが、シンはちゃんとおれの望み通り隣町まで連れて行ってくれた。けれど、おれは孤児だ。都合よく引き取ってくれる人が現れるわけがない。そこで、孤児園に入ることになったのだ。シンも孤児で、その孤児園にはいるつもりだったから、一緒に入れてもらったというわけだ。


 それで、孤児園でソラやスター達と過ごし、今に至るわけだが……。

 おれは顔を下に向け、ため息を零した。おれは、なにをやってんだろうな。親を殺してしまったところを見られたから、妹を探したかったからシンの言いなりになって、今は友達の危険を見過ごしている。

 ユウキ……これが、おれの元の名前だった。母さんは勇気を持った立派な子に育って欲しいという願いを込めて名前をつけたって言っていた。でも、母さん。おれ、勇気なんかないよ。貴方を殺したことを、ここのみんなに言うのが怖いんだ。シンの命令に逆らうのが、怖いんだ……!

 それでまた、大切な人が死ぬところを見るのか。心の中でそう呟く。

 嫌だ。もう、人が死んでしまうところは見たくない。でも……。おれは、どうしたらいいんだ……!


 おれは心配した園長先生が来るまで、ここでずっと思いを巡らせていた。

 今回は、ラギ君視点でした。

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