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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 子供達の過去
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第十六話 旅行―肝試し―

 先生が持つたいまつの光の中、ぼく達はある場所に向かって歩いていた。夜のためか辺りは真っ暗で、少し肌寒い。曇っているから、今日は星と月が見えなかった。

 歩きながら、ぼくはみんなの様子を窺った。スターとルークは今から行くところを楽しみにしていて、ピクちゃん、ロイ君、ルミちゃんは笑顔を見せている。ピンクちゃんとラギ君は何か話していて、シン君は一番後ろから着いてきている。そして、唯一ぼく達と違う反応を見せているのが、カイ君。青ざめ、すごく嫌そうな顔をしながらルークに連れられるようにして歩いていた。


「みんな、到着したよ」


 先頭を歩いていた園長先生が振り返った。ぼく達は立ち止まり、辺りを見る。そこは、山の森の奥にあるお墓。更に奥には古びたお寺があるらしい。

 そう、ぼく達は肝試しをしに来たのです! 先生が話し出したお墓の話にスターが反応して、ここで肝試しすることになったんだ。

 それにしても、こんなところにお墓があるなんて、ちょっと不気味。本物の幽霊とかいたらどうしよ……。


「じゃあ、ペアと順番を決めよ~」


 怖いなんて思っていないスターが、リュックから紙と鉛筆を取り出してなにやら書き始めた。覗くと、そこには十本の縦線があり、線の下には番号がばらばらに書かれていた。うん、予想していた通り、あみだくじだね。


「ソラ、どこでもいいから名前書いて~」

「うん」


 ぼくの次はルーク。その次はカイ君と、全員が名前を書いた。その後、縦線と縦線の間に何本か横線を引き、スターが線の上を指でなぞり始めた。


「えーっと、最初のペアはピンクちゃんとルミちゃん!」

「頑張ろうね、ルミちゃん」

「うんっ、楽しみだね!」

「次は、ピクちゃんとラギ君~」

「ラギか~。よろしく!」

「ああ、よろしく」

「次がぼくとシンだね。んで、四番目がソラとルーク」

「肝試しでもお前となのか……」

「何でそんな嫌そうなの!?」

「最後がカイ君とロイ君~」

「最後は怖いな、きっと」

「えっ!?」


 最後という言葉に安心しかけたカイ君が、ロイ君の台詞にびくっと方を震わせる。にやっと笑うルーク。


「ま、頑張れよ」

「お、おう!」


 ……ていうか、スターとシン君がペアなのか。ちょっと不安だけど、あみだくじだから仕方ない。

 ペアが決まったぼく達は先生から説明を聞いた。お墓の中をまっすぐ歩いていくと、お寺の入り口が見えてくるらしい。そこに汚れたコインが置いてあるから、それを近くに置いてあるバケツの水で洗って、お墓の外側を回り込むようにして戻ってくるんだって。

 説明し終えると、先生は持っていたバッグからトランシーバーのような物を取り出した。何かあったときはこれを使って先生に連絡を取ればいいみたい。


「あと、その機械は道を間違えると振動するからね。道を外れないよう気をつけるように」


 付け足された言葉に返事をすると、ピンクちゃんとルミちゃんがお墓の方を向く。

 二人はピクちゃんとかロイ君から応援の言葉をもらうと、お墓の奥へと歩いていった。

 二人の姿が見えなくなると、先生が携帯を見て秒を数え始める。三分経ったら次のペアが入るんだって。

 静かに待つこと三分、ラギ君とピクちゃんがお墓に足を踏み出した。

 元気よく手を振って入っていくピクちゃんを見送る。わあ、だんだんぼくの順番が来ると思うと緊張してくるよ~。

 更に三分後、スターとシン君が出発した。うわぁ~、次はぼくの番だ。

 緊張しながらも、先生の合図を待つ。

 ……な、長い。自分の番を待ってる三分って、すごく長い。何もせずにいるからなおさら長く感じるよ。


「はい。三分経ったから、次のペア行っていいよ」


 来た!

 先生の言葉に、ぼくはルークと共にお墓に入った。瞬間、空気が冷たくなるのを感じた……気がする。本当に何かでそうだよぉ……。

 二人きりで、しかも会話がないから余計に怖い。

 そんなとき、唐突にルークがこっちを向いた。


「怖い話をしてやろうか?」

「え!? いきなり!?」


 驚いて怖がっているぼくに気づいているのかいないのか。ルークは怖い話をし始めた。


 これはオレがクラスメイトから聞いた話なんだが、この町に一つだけ駅があるだろ? あの駅で起きた話らしい。

 ある女が、あの駅を毎日、通勤に使っていたらしいんだ。

 ある日、女は子供を産んでしまった。欲しくもなかったのに生んでしまったんだ。どうしようか迷った結果、女は子供をコインロッカーに捨てることにしたんだ。

 周りに人がいないことを確認し、泣き喚く赤ん坊をロッカーに押し込んだ女はその駅を去った。以来、その駅には近寄らなかった。

 それから十年後。女は子供をコインロッカーに預けた事を忘れて、その駅に来たんだ。電車でどっかに行こうとしていたんだと。そこで、子供の泣き声が聞こえてきたんだ。女はその泣き声が気になり、どこから聞こえてくるのかと辺りを見渡した。そして、コインロッカーの方に歩いていったんだ。子供の泣き声が、ロッカーから聞こえてきたらしい。女は耳を澄まして、あるロッカーの前に立った。開けると、そこから赤ん坊が出てきたんだ。女は赤ん坊を泣きやませながら聞いた。「可哀想、誰がこんなところに置いてったの?」ってな。そしたら、赤ん坊は女に向かって目を見開いて叫んだんだ。


「お前だ!」

「うわあ!?」


 勢いよく振り向いてぼくの腕を掴んできたルークにぼくは悲鳴を上げた。こ、怖い……!

 ルークはぼくを見てにやっと笑った。


「どうだ? 怖かったか?」

「こ、怖いよ! え、何? 赤ちゃんは十年経ってるのに生きてたの?」

「そうなんじゃないか?」

「怖っ! もう、こんなところで話さなくても……」

「駅で話した方がよかったか?」

「余計に怖いよっ!」


 はぁ、と小さく息をついたとき、ぼくはまたびくっと身体を震わせることになった。なぜなら、背後で大きな悲鳴が聞こえたから。「ぎゃああああ!」っていう、聞いたことのある声が。

 後ろを振り返ると、すごい勢いで走ってくるカイ君の姿があった。後ろからロイ君が着いてきている。


「カイ、先行くなよ……草が風で揺れただけだって」


 呆れ顔のロイ君の声が聞こえていたのか、カイ君がぼく達の前で立ち止まった。膝に手をつけ、俯いた状態で息を乱している。


「ちげーよ……あれは絶対誰かが揺らしたんだ!」


 ロイ君の言葉を否定しながら息を整えるカイ君。ん? カイ君の顔、何か着いてる? 黒くて、赤い物……?


「カイ、気のせいだろ」

「気のせいじゃねーって! ソラは信じてくれるよなっ!」

「う、うわあああああ!?」


 ぼくに向かってバッと顔を上げたカイ君の顔を見て、ぼくは絶叫して駆けだしてしまった。だって、カイ君の顔に真っ黒な虫と真っ赤な血が付いてたんだよ! 何あれ!?

 しばらく走り続け、ぼくは息を整えるために立ち止まった。そして、辺りを見渡す。ど、どうしよう。すぐ目の前にお寺がある。なんで一人で走って来ちゃったんだろ。怖い……!

 でも、戻る気にもなれず、ぼくはとりあえず園長先生が用意したコインを見つけて洗った。これを持って、お墓の外側を通って戻ればいいんだよね……?

 左ポケットにコインをしまったぼくは右の道に向かった。そこで、右ポケットからブゥンブゥン! という音が聞こえてきた。


「うわっ! 何!?」


 ポケットに手を突っ込むと、トランシーバーが出てきた。小刻みに震えてる。道を間違えたって事?

 試しに左側の道に行くと、振動が収まった。あ、こっち側から帰るのか。わかりにくいよ……。

 一人で心細かったのか、ぼくは無意識に早足で歩いていたらしい。少し前に見たことある背中が見えてきた。スターとシン君だ!

 二人に駆け寄ろうとして、ぼくは二人が何かを話していることに気がついた。


「――君は何で人を殺すの?」


 スターの質問が聞こえた。

 何? 何の話をしているの?

 ぼくは話の内容が気になり、二人と同じ速度で歩くことにした。そんな中、シン君が口を開く。不敵な笑みを浮かべて。


「楽しいからだ」

「それだけ?」

「ああ。それ以外の理由はない」


 スターがシン君の方を見た。薄く笑みを浮かべている。


「本当に? 絶対にないといえる?」

「何が言いたい?」


 シン君が怪訝そうな顔になる。スターの表情は変わらない。


「他にも、殺す理由があるんじゃないの?」

「それを知ってどうする?」

「別に、気になっただけだけど?」

「……俺は自分のために行動しているだけだ」


 その言葉が弱々しく聞こえて、スターを見るシン君の瞳が憂いを帯びているような気がして、ぼくは彼が本当に人殺しをするのか疑いたくなった。けれど、シン君はすぐに爛々(らんらん)と目を光らせた。口元に不敵な笑みが戻る。


「だから、俺はこれからも人を殺す。楽しみにしておくんだな」

「するわけないじゃん」


 即答するスターは笑いながら怒っていた。なんでシン君殺すことを宣告してるの……。っていうか、ぼくもスターも普通にしてるけど、これ結構危ない状態だよね。シン君のあの言葉、冗談じゃなさそうだし。かといって、まだシン君が人殺しをした訳じゃないから、警察とか先生に追放とかも出来そうにないからなぁ。昔はしてたらしいけど、証拠はないし……。


「ソラ、こんなとこにいたのか」

「うわっ! びっくりした」


 いきなり後ろから声をかけられ、ぼくは頓狂とんきょうな声を上げてしまった。ちなみに、声をかけてきたのはカイ君。

 ぼくの声で前にいたスターとシン君も気づいたらしい。振り向いてこっちに歩いてきた。聞いてたこと気づかれたかな……?


「あ、ソラ。追いつくの早いね~」


 ……どうやら気づいていないみたい。よかったぁ~。

 ぼくはカイ君の後に追いついてきたルークとロイ君を見た後、スターに頷いた。


「うん。カイ君にびっくりして走って来ちゃったんだ」

「え~、カイ君なんかに脅かされたのぉ?」

「う、うん」

「おれは別に、脅かすつもりなんてなかったんだけどな!」


 そう言いながらも、カイ君は自慢げになっていた。多分、いつも脅かされてるから人を脅かすことが出来て嬉しいんだろう。


「でもカイ、オレの鏡見て自分の顔に驚いてただろ」

「し、仕方ねーだろ。顔に蜘蛛くもが付いてたんだから」


 あの虫は蜘蛛だったのか。じゃあ、血は?

 聞いたところ、蜘蛛が付いたときに少し怪我をしてしまって、その血が流れ出てたらしい。その証拠に、カイ君のひたいにはおおきな絆創膏ばんそうこうが貼られていた。

 ぼく達はそれから六人でゴールすると、感想を言い合いながら旅館に戻った。結局、幽霊は出なかったな。

 旅館に入ると、予想外の人がぼく達を出迎えてくれた。


「お帰り。カイ君」

「アト!」


 そこには、アト君の姿があったのだ。黒髪はお風呂に入ったばかりのためか濡れていて、兎の耳はいつものように垂れていた。っていうか、何でアト君がここに!?

 その質問を友達であるカイ君がすると、アト君はにこっと微笑んだ。


「ぼくもカイ君達が来てるって聞いてびっくりしちゃった。ぼくは毎年この時期に、家族でここに来てるんだ」

「へー、すげー偶然だな」


 うん、確かに。

 更に話を聞いたところ、この旅館はアト君のお父さんの実家なんだって。それで、毎年夏休みと冬休みに遊びに来て、旅館の女将おかみさんであるおばあちゃんの手伝いをしているみたい。

 ぼく達はそんな話をアト君とした後、お風呂に入って寝ることになった。

 山登りで遭難して、肝試しをしたためか、ぼくはすぐに眠りについた。


 夜中の二時頃。不意に、ぼくは目を覚ましてしまった。

 辺りは真っ暗。月の光に照らされたカーテンがゆらゆら揺れている。

 なんでこんな時間に起きちゃったんだろ? とりあえず、トイレに行こうかな。

 他のみんなを踏まないように気をつけて、部屋を出る。そこで、誰かの足跡が聞こえた。目を向けるけど、真っ暗で何も見えない。ただ、その足音はこの廊下の突き当たりに向かっているように聞こえた。えっと、確か突き当たりの部屋は……園長先生の部屋? なんでそんなところに。もしかして、先生がどこかから戻ってきたのかな?

 声をかけようか迷っていると、先生の部屋の手前にある男部屋の扉が開いた。出てきたのは懐中電灯を持っている……カイ君、かな?


「シン? 何してるんだ?」


 カイ君の声だ。先生の部屋に向かっていたのはシン君だったのか。

 カイ君が懐中電灯でシン君を照らした。シン君は先生の部屋のドアノブに手をかけてカイ君を見ていた。反対側の手に、何かを持っている。懐中電灯の光を反射して鈍く光るそれは……包丁……!?

 カイ君もそれに気づいたらしい。


「お前、何でそんな物持ってんだ!?」

「チッ……」


 舌打ちをして、急いで先生の部屋に入っていこうとするシン君。でも、カイ君がシン君の腕を掴んで行動を止めた。


「おいっ、先生に何するつもりだ!? うわっ!」


 シン君が乱暴にカイ君の手を振り払う。扉が閉まり、懐中電灯が床に落ちる。だけど、カイ君は負けずにシン君に掴みかかった。シン君は両腕を掴まれ、身動きが取れなくなる。そう思いきや、思いっきりカイ君の腹を蹴りつけた。


「ぐっ……!」


 仰向けに倒れるカイ君。シン君はその上に馬乗りになると、左手でカイ君の首を絞め、包丁を持った右手を振り上げた。懐中電灯の光が、赤い瞳と不気味に笑う口元を照らす。見開かれた目。苦しそうにうめくカイ君。振り下ろされる右腕。

 ぼくは息を吸い込んだ。


「やめてえええええ!!」

「……!」


 驚きの表情を見せたシン君の腕が止まった。その隙を逃さず、カイ君がシン君の腕から抜け出す。

 シン君はもう一度舌打ちすると、ぼくの方に走ってきた。ギュッと目を瞑るぼく。シン君が通ったのか、ぼくの横を風が抜ける。……はぁ、何もされなくてよかった。

 そう思った束の間、カイ君が激しく咳き込んだ。


「カイ君!」


 駆け寄り、背中をさする。カイ君の首には、絞められた跡が付いていた。

 その時、園長先生の部屋の扉が開かれた。出てきた先生はぼく達とシン君が逃げてった方に視線を向け、目を見開いていた。らしくない顔だった。その表情に、ぼくの不安はよりいっそう広がったのだった。



 ソラちゃんとカイ君を部屋まで届けた後、は部屋で一人、目を瞑っていた。

 あのとき、私はカイ君が床に倒れたと思われる音で目を覚ました。その時まで、シン君が私の部屋に近づいていることや、シン君の気配に気がつかなかった。こんなことは初めてだ。自分の危険が近づいていれば、予知能力が働くはずなのに。

 最近、予知できなくなっているのはシン君の仕業なのだろうか。それすらもわからない。我ながら、情けなくて笑えてくる。

 私は目を開くと、千里眼を使った。もちろん、シン君の様子を探るためだ。

 シン君は、入り口付近で何を呟いていた。


「さすがに、あいつを殺すのはそう簡単にいかないか。まあいい。……そうだ、あの二人を殺すのも最後にしよう。楽しみは後に取っておくものだからな」


 楽しそうに笑うシン君。私は改めて危険人物だと思った。

 そんなシン君に、誰かが近づいていくのがわかった。


「あなたは、カイ君と一緒にいた……」


 あの子はアト君! まずい。今シン君に近寄れば、あの子も殺されてしまうかもしれない!

 私は立ち上がってシン君のところに向かおうとし、ふと眉を寄せた。シン君が、アト君を見て瞠目どうもくしていたのだ。


「お前は……」

「あ、えっと、ぼくはアトといいます。カイ君の友達で……」


 人見知りのためか、緊張しながら話すアト君。

 シン君はアト君の言葉を聞くと、眉間にしわを寄せた。


「違う……こいつはあいつじゃない……」

「え?」

「俺に近づくな。お前を見ていると、不快な気分になる」


 アト君に何も危害を加えずに、シン君は部屋に戻っていった。

 ……アト君を見て、シン君は何かを思い出しているかのようだった。これは、何かありそうだ。孤児園に戻ったら、シン君の過去について調べてみることにしよう。

 私は目を閉じて視界を部屋に戻すと、布団に潜った。今は少しでも回復しておかなければ。


 この時も、一人の少女が動き出そうとしていることを、私は予知できなかった。

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