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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第一章 孤児園の子供達
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第十一話 祭りと花火

 七月最後の土曜日、太陽が沈んでいく時刻。ぼく達は下駄を鳴らしながら木のトンネルを歩いていた。

 この近くでお祭りがやるから、そこに向かっているんだ。みんなで浴衣を着て、わくわくしながら歩いている。

 この浴衣は全部園長先生が用意してくれた物。スターとカイ君は青い浴衣で、ルークとシン君が黒。ラギ君は紺色でロイ君は白。

 ぼくは水色で、ルミちゃんが赤。ピンクちゃんは桃色。ぼく達三人は、牡丹や蝶、水仙などの花柄が付いている、鮮やかな浴衣を着ている。ルミちゃんは薄紅色の花の髪飾りをロイ君につけてもらっていた。

 下駄の音が響く。ぼく達と同じ方向に向かっている人達も、綺麗な浴衣を身につけている。綺麗なんだろうなぁ。

 屋台がたくさん並んでいる大通りに出ると、ぼく達の後ろにいた園長先生が口を開いた。ちなみに、先生は灰色の浴衣だ。


「それじゃあ、みんな。花見が始まる八時まで自由時間としよう。八時にここに集合。わかったね?」

「はーい」


 先生にそう返事をすると、みんなは行きたいと思っていた屋台へ向かいだした。

 ぼくは特に行きたいところがなかったため、ぶらぶらと歩いて回ることにする。

 この大通りは丸い形になっていて、歩いていると自然に元の場所に戻ってこられる。だから、ゆっくりと屋台を見学することにした。

 最初に、林檎飴が売っている屋台が目に入った。すぐ近くでぼくより小さい子供が母親に買ってくれるようお願いしてる。……親子、か。ぼくのお母さんは、今頃……。

 そこまで考え、ぼくはぶんぶんと頭を振った。楽しいお祭りなんだから、こんなこと考えちゃ駄目だよね。っていうか、全然思い出さなかったのに何で今思い出しそうになったんだろ?

 林檎飴の屋台を通り過ぎ、他の屋台を見ていく。途中で、綿飴わたあめを売っているところを見つけた。

 綿飴、久しぶりに食べようかな。


「あの、綿飴一つ下さい」

「おう、ちょっと待ってろ」


 綿飴を売っているおじさんは、大きな声で返事をすると、すぐに作りあげた。早い! 手慣れてるね。


「ほらよ」

「ありがとうございます」


 ぼくはお金を払って綿飴を受け取ると、早速口に含んだ。舌の上ですぐに溶けて甘みが広がる。うん、やっぱり美味しい!

 綿飴を食べながら、歩き始める。他に、スーパーボールすくいや金魚すくいの店、かき氷を売っている店があった。かき氷は、花火見る前にでも買おうかな。

 綿飴の棒を捨て、次は何を買おうか悩んでいると射的をやっている屋台が視界に入った。その屋台の前に見覚えがある人物がいる。


「あ、カイ君とルーク!」

「っ!?」


 ぼくが声をかけた途端、カイ君が持っていた銃から弾が飛び出した。弾は景品ではなく、壁に当たってしまった。あ、ぼくが声をかけたから驚いちゃったのかな? ぼくがそう思っていると、今の弾が最後だったようでカイ君は持っていた銃を射的を出しているお兄さんに取られてしまった。


「くっそ~! ソラ、お前タイミング悪すぎだぞ!」

「ご、ごめん。すごく集中してたんだね」

「ああ! あのラジコン飛行機、レアなんだぞ!」

「そうなんだ。あれ? 今射的やってるのってルークじゃない?」


 お金を払って銃を受け取り、構えるルーク。並んでいるお客さんや、さっきから見物していた人が見守る中、ルークは引き金(っていうのかな、あれ)を引いた。飛び出した弾は、カイ君が欲しがっていたラジコン飛行機に当たる。


「ああっ! それおれが欲しかったやつ!」

「試しにやってみたら取れたんだが」

「欲しいっ! おれにくれ!」

「じゃ、三百円くれ」

「え……」


 ただでくれると思っていたのか、カイ君の表情が固まる。でも、ルークにジトっとした目で見られると、焦りながら財布を取り出した。三百円っていうのは射的のお金かな。


「わかったからそんな目で見んなっ!」

「そんな欲しいのか? これ」

「ああ!」


 ルークは本当にお金を払ってくれるとは思っていなかったようで、呆れたような表情をしていた。だけど、カイ君は気づいていない。青い目をキラキラさせてラジコン飛行機を眺めていた。

 ぼくは苦笑しながらルークに向かって口を開いた。


「ルーク、射的上手なんだね」

「初めてやった」

「えぇ!?」


 初めてやったのにあの命中力……。ルークすごい。

 カイ君も「はあ!?」と声を発していた。カイ君は去年もやっているのに一度も当てたことがないんだよね。……まあ、カイ君だから仕方ないか……って思っちゃうのは失礼かな?

 ちょっと自慢するようにカイ君を見ているルーク。カイ君は「次は絶対当ててやる!」と悔しそうにしていた。


「二人は、これからどこ行くの?」

「カイによる」

「おれ? 適当にぶらぶらするつもりだ。かき氷とかチョコバナナとか買いたいしな」

「そっか」


 ルークはカイ君に着いて行くらしい。

 ぼくはカイ君達を別れると、人の波に乗って歩き始めた。ぼくも何かで遊ぼうかな。

 キョロキョロしながら歩を進めていると、道の真ん中で人が並んでいるのが見えてきた。何をしているんだろ?

 近くに行ってみると、輪投げをしていることがわかった。輪投げか、やってみようかな。

 列の最後に並び、順番を待つ。その時、後ろから声をかけられた。


「ソラちゃん!」

「あ、ルミちゃんにロイ君」


 振り向くと、林檎飴を手にしたルミちゃんとロイ君の姿があった。二人はぼくの後ろに並ぶと、いろんな屋台を回ったと言うことを話し始めた。最初、たこ焼きを食べ、金魚すくいを見学した。その後、林檎飴を買って歩いている途中、ぼくと会ったんだって。


「そうなんだ。ぼくは綿飴を食べてぶらぶらしてたんだ。あ、途中でカイ君とルークにあったよ」

「二人は何してたんだ?」

「射的だよ。ぼくはやらなかったけど」

「ソラちゃんは輪投げやるの?」

「うん。二人も?」

「うんっ」


 笑顔で頷くルミちゃん。ロイ君も賛成しているみたいで、二人はいつも仲がいいなぁと思った。

 話ながら待つこと数分。ようやくぼくの番がやってきた。

 お金を払って輪を借り、台の上を見渡す。近いところにはお菓子や小物が置いてあり、少し離れたところに二つ低い棒が立っている。その先には、高い棒が置いてあった。多分、欲しいお菓子や小物のところに投げるとそれがもらえて、棒に入れると何か景品がもらえるんだろうな。

 ぼくのねらいはもちろん景品。一番奥の高い棒目がけて、輪を投げる。だけど、やっぱりそう簡単にはいかなかった。輪は棒まで届かずに棒の前にあった色ペンの上に落ちた。うーん、難しいか。じゃあ、左にある低い棒に……!


「あ、入った!」


 棒に輪が入ると、周囲から「おお」という声が聞こえた。よし、調子出てきたかも! 今度こそ、あの高い棒に!

 目標に狙いを定め、最後の輪を投げた。輪はまっすぐ飛んでいき――棒に届いた! けど、触れただけで棒の中には入らなかった。惜しい!

 でも、低い棒には入ったため、ぼくは色ペンと参加賞のお菓子をもらった。その後、景品が入ってる段ボールから好きな物を選ぶように指示された。段ボールの中には大きなおもちゃやお菓子の袋詰め、服などが入っている。ぼくはその中から文房具セットを選んだ。

 あ、そういえば次はルミちゃんの番だ。視線を列に向けると、ルミちゃんが輪をもらうところだった。楽しみにしているのか、兎耳がぴょこぴょこしている。ロイ君はやらないみたいで、ルミちゃんの横で見学していた。

 結果から言うと、ルミちゃんは適当に投げていた。それでも、三つともルミちゃんが好きそうなお菓子の上に落ちたため、もしかしたら適当に投げているように見えただけなのかもしれない。

 ぼくはそんなルミちゃん達と別れ、またゆっくりと足を動かした。

 いくつかの屋台を過ぎたところで、ラムネを売っている店を見つけた。ここに来てから何も飲んでなかったな。買っちゃお。

 ついでに、隣にあった焼きトウモロコシも買い、先に進んだ。


「あれ? スター達だ」


 もうすぐ元の場所に着く、というところでスター、ラギ君、ピンクちゃんを発見した。その三人の視線の先にはもう一人、水色の浴衣を着た見知らぬ女の子がいる。

 近くに行って声をかけると、四人は一斉に振り返った。


「あ、ソラ」

「スター、何してるの? その子誰?」


 ぼくは見知らぬ女の子に目を向けた。桃色の髪をツインテールにしているためか、ピンクちゃんに似ている。違うところは右目はピンクだけど左目は黄色というところ。もしかしてこれがオッドアイ……?

 そんなことを考えていると、ラギ君が口を開いた。


「この子、ピンクの妹らしい」

「え、そうなの!?」

「うん。ピクって言うの」


 頷いて、妹さんを紹介するピンクちゃん。ピクちゃんか、名前も似てる。

 ぼくはピクちゃんの前に来ると、にこっと笑いかけた。


「ぼくはソラ。よろしくね」

「ソラたんか~、よろしく!」


 ソ、ソラたん? あだ名かな? 今まであだ名なんてつけられたことなかったけど、これはこれでいいかもしれない。

 スターとラギ君はもう自己紹介したらしく、ピクちゃんは二人のことを「スタァー」、「ラギ!」と呼んでいた。なんか、ラギ君の呼び方が気合いを入れるような感じだったけど。ピンクちゃんのことは、普通に「お姉ちゃん」と呼んでいた。

 ぼく達はそれから四人で屋台を回っていた。もうすぐ花火大会が始まる時間になるしね。

 歩きながらピンクちゃんとピクちゃんに話を聞いたところ、二人は父親がいない、とても貧しい家に生まれたらしい。数年は母親と一緒に三人で暮らしていたんだけど、途中で食事を買うお金までもが危うくなり、仕方なくピクちゃんを母親の友達の家に預けんだって。それでもお金が入らず、ピンクちゃんを孤児園に預けた。母親はその後姿を消して、現在、どこにいるかわからない状態みたい。


「それで、今日二人は再会したんだ。ピクちゃんは一人でここに来たの?」

「ううん。今のお母さんと、その娘のミニたんと来たの」


 今、そのミニちゃんという子と別々に行動してるところだそうだ。

 更に話を聞くと、ピクちゃんは今の家がここから遠いと言った。お祭りが終わったら、せっかくピンクちゃんと再会したのに別れることになる。ピクちゃんはとても寂しそうな顔をしていた。どうにか出来ないかな。そう思っていると……。


「じゃあ、ピクちゃんも孤児園で暮らさないかい?」


 そんな風に後ろから声かけられた。振り向くと、案の定園長先生の姿が。

 やっぱり、という顔をするぼく達とは違ってピクちゃんは驚きの表情を見せてたけど、言葉の意味がわかるとパァッと顔を輝かせた。


「いいの!?」

「うん、大歓迎さ。ピクちゃんの今の親とミニちゃんには、私から伝えておくよ」


 先生は爽やかな笑みを浮かべ、きびすを返して歩いていった。……先生がなんでピクちゃんのお母さんを知っているのかは触れないでおこう、うん。


「よかったね、ピクちゃん」

「うんっ!」


 嬉しそうなピクちゃんとお祭りを楽しみ、八時に集合場所に集まった。あれ? でも、シン君がいない。

 先生に聞いてみると、「先に行っている」という答えが返ってきた。

 花火が開始するという放送が聞こえてくる中、ぼく達は園長先生について行き、花火が見やすい川沿いに向かった。

 川沿いは、たくさんの人で賑わっていた。人がいすぎてもう座る場所がないんじゃないかと思ったけど、先生が事前に場所取りをしてくれていたみたい。川に一番近い位置に大きなレジャーシートが敷いてあった。そこに、シン君の姿がある。川を見ながら焼きそばを頬ぼっていた。あっ! 食べ物で思い出したけど、かき氷買うの忘れた! ……ま、いっか。

 レジャーシートに座って待つこと五分。開始の挨拶の放送が終わると、早速様々な色の花火が打ちあがった。最初は赤と緑と黄色が混じった大きな花火。続いて、花火の連射。夜空がたくさんの色で染まる。


「すごい……」


 思わず声が漏れる。隣を見ると、スターやカイ君、ルークも花火に見入っていた。ピンクちゃんとピクちゃんも笑みを浮かべていて、改めてここに来てよかったなと思った。園長先生に感謝かな。

 「おおっ」という周りの人の声で花火に視線を戻す。同時にハート型の花火が打ちあがった。星形もある。それが映った川も綺麗。今年のお祭りは、なんだかいつもよりも笑顔が多い気がした。

 花火大会は一時間ほどで終わり、共に屋台の片付けも始まった。ぼく達も、孤児園に向かって感想を言い合いながら歩き出す。

 帰りに通る木のトンネルのところで、ピクちゃんはお母さんとミニちゃんに感謝と別れを告げた。その表情は笑顔のままだったから、多分何も問題はないだろう。また会う約束もしたみたいだし。

 帰った後、ピクちゃんはピンクちゃんと同じ部屋になり、ぼく達はすぐに部屋に戻って眠りについた。まぶたの裏側には、まだ花火の鮮やかな色が焼き付いていた。


 それから三時間後の深夜二時。ぼくはトイレに行きたくなって目を覚ました。

 花火のことを思いだし、楽しかったなぁなんて呟きながら手探りで階段を下りてトイレを済ませる。そのまま部屋に戻ろうとしたとき、リビングに人影があるのに気づいた。

 ……誰だろ? こんな夜中に。

 声をかけようとしたとき、小さな呟きが聞こえてきた。


「これで全員揃った。そろそろだな」


 この声はシン君……?

 シン君はぼくに背を向けた状態で机を見つめていた。何か置いてあるみたいだけど、ここからじゃ暗くてよく見えない。っていうか、こんなところで何をしてるの? 全員揃ったって何の話?

 ぼくに気づかずに、シン君は口を動かす。


「まずは、俺のことを知っているスターとルークから……いや、その前にあいつだな。それから……」


 何かを企んでいるかのような声音。そして、不気味な笑顔。言葉は聞こえにくかったけど、訊いてはいけないような内容って感じかがした。スターとルークが何……? すごく嫌な予感が……。

 刹那、いきなり赤い瞳がこちらを向いた。き、気づかれてるっ!?

 ぼくはさっと陰に隠れると同時に手で口を塞ぎ、声を潜めた。シン君が気づかなかったことを祈りながら、じっとしている。

 ……こっちに来ない。そう思ったとき、またシン君の呟きが耳に入る。だけど、ぼくにはそれ以上聞く勇気はなかった。そそくさと自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込む。

 得体の知れない恐怖を感じながら、ぼくは眠りについた。


 目を瞑りながら、ぼくはスターにこのことを話してスターとシン君の関係を聞こうと思ったのだった。

 『第一章 孤児園の子供達』 終

 『第二章 子供達の過去』へ続く。

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