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拓く者と守る者・2


(ミアにはああ言っちゃったけど、どうしても!ってほどじゃあ、ないんだよね)

 先を行く二人の背を見やり、そっと息を吐いた。

 するとため息が聞こえたらしいストラルドが、こちらを振り向いてしまう。

「疲れているのでしょう? 無理をすることはなかったんですよ」

「いえ、じっとしているのも嫌なので」

「そうですか。何かありましたら、早めに言ってください。私は頭脳労働担当なので、君を担いでいくことはできませんから」

 珍しく優しいと思ったら、これだ。

 担ぐ以外に方法はないのかと言いたくなる。お姫様抱っこは絶対拒否としても。背負うとか、肩を貸してくれるとか、それくらいしてくれてもいいと思うのだ。

 今度はホルスが、くすりと笑った。

「目付け役だそうですよ」

「え?」

「貴女は随分と、あの方に気に入られているようですから。貴女に手出しさせないためと、塔に何が起きているのかを実際に見てくる役目、といったところでしょう」

 要するに「信用されていない」のに、むしろ楽しげだ。

「兄がしでかしたことを思えば、それも仕方のないことです」

「お兄さんは、近衛騎士じゃなかったんですか?」

「ええ、違いますよ。私が近衛騎士であることも、知らなかったはずです。元々、兄弟仲が良かったわけでもありませんでした。もう少し親しくしていれば、居場所を報告することもできたのですが」

 残念そうに言うホルスは、昨晩と同じく冷たい印象しか受けない。

 悪いことをした兄を軽蔑しているというよりは、そもそも肉親としての情すら持っていなかったような言い方だ。貴族はこういうのが当たり前だと思いたくないので、レノ兄弟がそうなのだと思うことにした。

 中庭を抜け、城の裏側を少し歩く。

「ああ、着きましたね。ご苦労」

「隊長? どうなさったんですか」

 そばかす顔の少年が槍を片手に、たたっと近寄ってきた。

 黒一色に金茶のアクセント入りは、近衛騎士団の服装だ。かなり若いが、彼も近衛騎士の一人らしい。ガレキだらけの場所で他には人影がない。

「もしかして、一人で見張りをしていたんですか」

「あんたは?」

「控えろ、パウル。この方は『拓く者』だ」

「!! し、失礼いたしましたっ」

 怪訝そうな顔で誰何した少年は、慌てて低頭する。

 ついでに槍の切っ先がこちらを向いてしまい、ぎょっとする。下手に動くと斬れるかもしれない恐怖で、そのまま固まってしまった。近衛騎士の少年、パウルはそんな柚子をじーっと見つめる。

「へー、ホントに黒いんだ」

「パウル」

「うわヤベ、声に出てた。失礼いたしましたあっ」

「近衛騎士には、教育が行き届いているようですね。感心しました」

 穏やかに微笑みながら言ったのはストラルド。

 他の騎士団のことも含めた明らかな皮肉に、ホルスは眉をちらとも動かさない。とりあえずの自己紹介を済ませ、がれきの山に近づいた。パウルが槍の尾で適当にずらしてくれるが、どこが扉だったのかはほとんど判別つかない。

 柚子はホルスの後ろから、顔を覗かせた。

「ここが、東の塔ですよね」

「はい。過去形にしなかったのは、及第点としておきましょう。貴女が本当に『拓く者』ならば、気付かないはずはない」

「あの、その『拓く者』ってなんですか?」

 冷ややかな笑みが、彼の返事だった。

 懐に手を差し込んでから、布に包まれた何かを取り出す。柚子には見覚えのあるものだ。反射的に手を伸ばし、両手で受け取る。

 その場で広げれば、あの光があった。

 メダルを二等分するように赤い筋が走り、更に中央で真円を描く。光は下まで貫通しており、、三つの部品が一つに組み合わさっているのが分かる。

「こ、れ……」

「えっ、なんで光ってるんだ? 魔力は感じないのに」

「ユーコ、何か感じますか」

「わ、わかんないです。あ、ちょっと熱いかも」

「ふわあ、本当にホンモノなんだなー」

 パウルが感心したように言い、ホルスは冷たい笑みを浮かべたまま。

 柚子はなんとなくストラルドを振り返り、それから手の中に視線を戻した。

 目も眩む光が発せられた時、もう一度世界を飛び越えることになるのか。このまま三つに割れてしまうのか。あるいは別の何かが起きるのか。全くの未知数で、想像もつかない。

(こ、こういうのって、何か感じたりするものじゃないの?)

 熱いといっても、微熱のある人間に触れたような感覚だ。

 メダルは無機質だから、生きている者と比べるのはおかしいのかもしれない。もう少し集中してみると、鼓動らしきものが感じられた。それ自体が生物のように、規則正しく脈打っている。はっきりと分かる強さではなく、微弱なのが気になった。

「いやいや、強くても困るんですけど」

「ユーコ?」

「あ、ごめんなさい。なんだか、脈打ってるみたいで」

「離れましょう」

「ひゃ、わっ」

 突然ホルスが腕を掴んだ。

 柚子は転びそうになりながら、メダルを抱きしめる。こんな所で落としたりしたら、絶対に割れる。割れたら、元の世界に帰れない。そんな恐怖から、ぎゅっと力を込める。

 その直後だった。

「どわあぁっ」

「パウル!」

 地面が爆発したのだ。正確には全員が背を向けた塔から、天に向かって真っすぐに力が放出された。当然ながら、力の奔流はガレキの山を直撃している。

「ユーコ、頭を伏せなさい」

「な、何なの。何なんですかーっ」


 グオオオオオオオオォンッ


 木々も、空気も、そこにある全てが震撼した。

 びりびりと城を震わせて、かろうじて残っていたガラスが飛び散る。勢い良く割れた破片が、空中で更に細かく分散された。きらきらと舞い踊るそれに、何かが映っている。

「アーク、ドラゴン……」

 柚子の呟きが聞こえたか。

 ぴたっと一瞬だけ止まったガラスは、たちまち地面に降り注いだ。咄嗟にパウルが前に出てくれたおかげで、怪我人は一人もいない。夢のような出来事だった。夢だと思いたかった。ガラスを受け止めた背の高い草が、ささやかなきらめきを残していなければ。

「……やってくれましたね」

「わ、わたし」

「異界から来た黒髪の娘が、竜を目覚めさせた。娘は竜を操り、大陸にある国を次々と襲ったのです。当時のシクリア国王が、その命を賭けて封じるまで」

「その話は、伝承と食い違いがあるようですが?」

「当然でしょう。人々がこの話を知ってしまえば、世界中にいる黒髪の娘が殺されますよ。貴族も、平民も、奴隷も関係なく」

 柚子は思わず後ずさった。

 ストラルドが肩を支えてくれる。今は、その気遣いに頼りたい。

「だ、から……なんですか? わたしが化け物って呼ばれたのは、この国で黒髪黒目がとても忌み嫌われているのは、その人が竜を悪いことに使ったからなんですか?!」

「悪いこと…………本当に、そうなのでしょうか」

「忘れちまったんですか、『拓く者』? ここへ来たってことは、この国に伝わるお伽話との関係を疑ったからでしょうが」

 シクリアの王女が死んだ。竜に殺されたと思った人々は、竜を憎んだ。

 人々の裏切りに竜は怒り、大陸を襲った。

 確かに、この話のどこにも「黒髪の娘」というフレーズは含まれない。国王は信頼する臣下と共に、竜退治を行う。だが完全に殺すには至らず、塔に封じることになったのだろう。アレクセル王が持っていた「王家の鍵」も、祖父のメダルも、王族が代々伝えてきた「塔に関わるもの」だったのだ。

(おじいちゃんは竜を目覚めさせないために、シクリアを出たの?)

 手紙の最後にあった一文は、伝えられるべき古の言葉。

 祖母の「魔法使い発言」を笑わない孫になら託せると、祖父は考えたのかもしれない。その場でうっかり読み上げてしまって、シクリア王国の地を踏むことになるとは思いもしなかったはずだ。

「ど、どうしよう……」

「こうなっては手遅れになる前に、再封印を施します」

「できるんですか?!」

 思わず飛びついた柚子に、あの冷たい眼差しが刺さる。

「簡単ですよ。貴女が死ねばいい」


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