託されたもの・7 ~hers lament~
「陛下」
呼んでも、彼は来ない。
「アレクセル様」
どんなに求めても、あの力強い腕は抱きしめてくれない。優しく名を呼ぶことも、猛る荒々しい一面も、皆を圧倒する絶対的存在感も全て、永遠に失われた。
彼女は憎む、彼を殺した化け物を。
彼女は恨む、彼を奪っていった運命を。
深い悲しみが去っていけば、残ったのはそんな感情だけだった。あるいは、アレクセルが本当に彼女だけを愛していてくれたなら何か一つくらいは違っていたかもしれない。王妃として、国王不在の今を導いていこうと思えたかもしれない。
だが彼女は、動く気になれなかった。
「マルセル! おいで、マルセル。私の可愛い息子」
「はい、母上」
くせのないプラチナブロンドを揺らして、甘ったるい笑顔の子供が駆けてくる。どこを取っても、愛しい存在には程遠い。ここまで似ていないと、逆に笑い出したくなった。
あの女の娘は妬ましいくらい、かの面影を受け継いだというのに。
成長すれば成長するほど似てくるものなら、息子は自分の写し身となるのだろう。王国の主となるのだから、外見は特に重要だ。磨いて磨いて、輝かせなければならない。
(いいえ、違うわ)
愛しい人の面影なんか、受け継がなくて良かったのだ。
彼女が愛したのはただ一人なのだから、もう一つ同じ顔があるのはおかしい。息子が自分に似ているのは、あの人がそれくらい強く深く激しく愛してくれた結果ではないか。この顔が美しいと何度も褒めてくれたし、指の間をさらさらと流れて落ちる髪は月の雫に似ていると評してくれた。肌はもちろん、体の一つ一つに愛を注ぐのを忘れない。
彼はそういう人だった。
「お前は、もうすぐ王になるの」
いずれ来る日が、少し早くなっただけ。
「誰もがお前に傅くわ。私の可愛い坊や、お前に逆らう者などいるものか」
「母上……」
「そうよ、いるわけがない」
噂によれば、王女派という忌まわしい集団があるらしい。
アレクセルの魅力が素晴らしい証拠でもあるが、王女は生きているだけで害悪をまき散らす。無垢な民を、信心深い貴族たちを、真面目な騎士を、誘惑する。美しい顔の下に隠した悪魔のやることだ。その辺の輩では、到底太刀打ちできまい。
嘆かわしいが、現実だ。仕方ない。
「でも、もう終わり」
傷一つない滑らかな頬を、優しく撫でた。
抱きしめれば、良い薫りがする。今は彼女が包んでいるが、そのうちに成長した体で力強く抱いてくれるだろう。その日が待ち遠しい。
「ああ、あなた」
うっとりと呟く。
彼女はまた、幸せを手に入れるだろう。
不安も悲しみも忘れて、永遠の愛を取り戻すだろう。
その瞬間のために、生きている。たとえ叶わない夢だとしても、いい。どんな手段を使っても『アレ』だけは手に入れる。その結果、二度と戻れない道に入り込んだとしても――。
描いた夢のために、自分はここに在る。




