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王女ミリエランダ・1

 シクリア王国は、名もなき大陸にある砂漠から南下した所にある小さな国だ。

 ゆっくりと流れる清流に抱かれ、工芸品を輸出することで栄えてきた。色々な職人たちの集まった村が始まりだったとされ、芸術性を求められる細工物から機械の部品に至るまで幅広く扱っている。

 緻密で美しいそれらを、各国は高値で買い取ってくれる。

 おかげでシクリアは小国ながらも、それなりに豊かだった。そして品物を取引する商人の出入りは頻繁だが、シクリアの文化としては閉鎖的だと言わざるを得ない。砂漠が近いために農耕地は少なく、背の高い建物が寄り集まって街を形成している。

 ぶっちゃけてしまえば、身内に甘くて余所者に厳しい。

 特に奴隷たちに対する扱いは、ひどいものだった。シクリアの民は色白が多く、髪や瞳も色素が薄い部類に入る。美を重んじる職人気質の風潮もあってか、特に忌み嫌われている色があった。

「見てみたいわ、黒髪黒目の化け物娘とやらを」

 一通りの報告を聞いた彼女は、王族らしい威厳でもってそう告げる。

 父親譲りの金髪は綺麗なウェーブを描き、宝石のように輝く菫色の瞳。雪のような肌はきめ細やかで、どちらかといえば愛らしい顔立ちを気品あるものへと変えていた。要するに黙っていれば文句なしの「王女様」なのに、好奇心で満ち満ちた表情と台詞が台無しにしていた。

 こちらとしても予想していただけに、返す言葉は決まっていた。やっと書記官の筆頭になったばかりだが、言うべき所は言っておかねば。

「駄目です」

「いいじゃない、別に。万が一に襲われても、何とかするわよ。クラインが」

「俺かよ!」

「ルディは将来有望な文官、クラインは次期団長候補の噂もある神聖騎士。才のある幼馴染を持つと、便利よねえ」

「貴女は褒めているつもりでしょうが、全く嬉しくありませんね」

「まあ、素直じゃないったら」

「大丈夫だ、俺も嬉しくない。ちっとも」

「あんたは一言も二言も余計! ルディを見倣いなさい」

「どう考えたって贔屓だろ。俺はこいつの弁に同意しただけだぜ」

「ああ、そっか。自分の意見に自信がないのね」

「なんだと!?」

 ルディと愛称で呼ぶのは、幼い頃のくせが直っていないからだ。

 彼女の事だから、そもそも直す気もないのだろう。可愛らしい愛称で呼ばれる度、眉間の皺が深くなるのを楽しんでいる節がある。

(相変わらずの悪趣味だ)

 アレクセル王の第一子にして、御年16才になる王女ミリエランダ。

 彼女はルディこと、ストラルドとクラインの幼馴染だった。正確にはアレクセル王が、幼い娘の遊び相手として二人の少年を城へ呼び寄せたのが始まりだった。

 ちなみにミリエランダは、国王が侍女に産ませた庶子である。6年前に王妃が男児を懐妊したので、まだ幼い王子が次期国王と目されている。彼にも相応しい教育係と遊び相手が選ばれ、しかるべき英才教育が施されていると聞く。

(とまあ、それはともかく)

 こほんとストラルドは咳払いをする。

 ぎゃいのぎゃいのとやり合っていた王女と神聖騎士が振り向くのを待って、静かに口を開く。横道に逸れてばかりいるが、事態はとても深刻なのだ。

「王女、冷静になって考えてください。相手は、アレクセル様を殺した相手なのですよ」

「あたし、亡骸を見ていないのよね」

「ミア」

 微笑みを浮かべたままの彼女に、ぞっとするものを感じたのはクラインも同じだったらしい。

 ヘラヘラ笑いを引っ込めて、険しい顔で幼馴染を諌める(ちなみに「ミア」というのは、幼い頃に使っていたミリエランダの愛称だ)。

「剣技はもちろん、弓や槍も得意だった父様よ? どんな殺され方をしたか興味あるじゃない」

「分かったから、落ち着け。今のお前を見たら、侍女が腰を抜かしちまう」

「二人とも失礼ね」

「はいはい、悪うござんした」

 口を尖らせた王女の頭を、クラインがぽんぽんと優しく撫でる。

 こういう場合、彼には敵わないと思う。表面上は不満そうにしながらも、ちゃんと大人しくなる王女の姿に入り込めない絆を感じるのだ。出会いも、重ねた時間もほぼ同じだが、三人の関係は少しずつ変化している。

 それぞれに立場が違う以上、それは仕方のないことだ。

「明日は葬儀です。問題が起きてからでは遅い」

「マルセルがいるもの」

「実の父親、それも国王が亡くなったのに王女が欠席してどうするんですか。とにかく、駄目です。面会は認められません」

「いいわ、兵士を籠絡してでも顔を拝んでやるから」

「王女!」

「可哀想なことをしてやるなよ。籠絡されたふりをするのだって、結構疲れるんだぞ。慣れないことをした上に罰を受けるなんざ、やってらんねえだろ」

「そうよ、クラインがいるじゃない」

「はあ?」

 王女が名案だ、とばかりに手を打った。

 幼馴染であるストラルドは知っている。彼女がこの仕草をした時、大抵の場合で面倒事が起きる。それは一割の例外もなく、クラインかストラルドが貧乏くじを引くのだ。

 どうやら今回は、クラインのようだった。


幼馴染の性格と名前が逆なのは仕様

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