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電子帳簿保存法

### 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律


**平成10年3月31日成立(同年7月1日施行)**


### 第4条


*保存義務者は、国税関係帳簿の全部又は一部について、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合であって、納税地等の所轄税務署長の承認を受けたときは、財務省令で定めるところにより、当該承認を受けた国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をもって当該承認を受けた国税関係帳簿の備付け及び保存に代えることができる。*



社長は休みの日だったので擦り切れた古いセーターにスリッポンという気楽な格好で事務所へ降りてきていた。ネスカフェを飲みながら新聞の見出しを眺めている。国税関係帳簿というのはいろいろあるが、基本的には仕訳帳や総勘定元帳などだろう。税務署長にシステムの承認を受けることで紙でなくデータで保存して良いという大企業向けの特例措置。もともとP-NETなどEDIや大企業で個別に認められていた措置を一般化するということだ。だが承認なんて無理だからうちには関係のない話だ。


「武田さんのところはどうですか」


オフコン屋の武田社長が熱いお茶をすすって渋い顔をした。いつもはチェシャ猫みたいな顔をしているくせに今日はまるで帽子屋みたいだ。


「うちはね、対応して手間賃を稼げると思ってたんですよ。こいつはビジネスチャンスだと。こんなに厳しいんじゃ値段も高くなります。商売にはならないですよ」

「企業で使うシステムなら検索機能は最初からあるんじゃないですか。日付や金額の範囲指定、取引先の指定、その組み合わせ。簡単そうだ」

「それだけなら簡単ですよ。他にもシステム概要書やマニュアルを整備しろとか。変更したらその記録を残せ、どこがどう変わったかも残せ、勝手に書き換えさせるなというのもやっかいです。仕組みが難しいだけじゃないです。処理は重くなる。記憶装置も足りなくなる。HDDを売り込んだ相手に次は磁気テープを買わせなきゃならない。事前申請もね、きっちり仕上げたつもりで出しても、ちょっとでも不備があれば却下されるそうです。それで稼働が遅れたら責任問題になります。システムを手直ししたら再申請ですよ」


考えるのに疲れたという顔だ。だがこの人は表情を自在に作れるから心配してもしかたがない。


「比野さん」


おっと。話が途切れていた。


「こういう制度に意味があるのかないのかよくわかりません。新法の対象になるのは国税の主要簿だけではないですね。補助簿や決算書。納品書の控えだって自社発行の取引関係書類だから電子保存の対象になる。だけど保存義務があるのは作成された書類であって、作成されなかった書類の保存義務はないのです」

「見積書控え、納品書控え、請求書控え、領収書控え。保存するのはみんな控えです」

「うちでは納品書をプリンターから出すので控えはデータでしかありません。税務署長の承認を受けていれば、紙の納品書控えは捨ててデータで保存してかまわない。承認を受けていなくても、データしかないならそれを保存するしかない。意味は違うけど結果は同じなんですよ。注文メールを印刷するのも一年くらい前にやめました」

「メール印刷をやめたという話は最近よく耳にします。多くの会社がその方向になりつつあります。でも本当に大丈夫なんですかね。国税の調査官が記録を見せろと言ったらどうするんですか」

「受注、出荷、納品、請求ぜんぶ一意な注文番号でつながっているので追跡は可能です。見せろと言われたら見せられます。目の前で印刷もできます。実質課税の原則があるから調査官は実質を見なければなりません」

「それは事実上の電子保存ですね。しかも承認を受けていない」

「違いますよ。法律名に特例って書いてあるじゃないですか。承認は受けたい人が受ければいいです。うちは業務に必要だからデータを持っているけれど、法律とは無関係で義務でもありません。仕様書も作ってるけど他人に見せられるような整ったものではないです。改竄防止の仕組みもないから承認は取れません。言ったでしょう、意味があるのかないのかわからないと」


武田さんには前にもすこし話したはずだ。実際に法律ができるまで楽観視していたんだろうな。


「そうだ。FileMakerやAccessで税務署の承認を取れるような凝ったシステムを作り上げたらどうでしょう。不可能ではないと思います。それができたら商売になりますよ」

「どうですかね。それができたとしてもAccessで仕事をしようなんて客はいないと思いますね。MS-DOSやOS/2からWindowsへの移行で顧客が望んでいるのはAccessではなく、これまで使っていた業務アプリを新しい環境でも使えるようにすることです。そこに税務対応の話が降ってきたんだけど重荷にしかならない」


それはそうだろうな。


「ペーパーレスってこんなふうに進むんじゃないですかね。法律もまたきっと変わりますよ」

「でも比野さんは紙屋じゃないですか。帳簿も伝票も売ってるでしょう。いいんですか」


お互いのため息が重なった。


「それを言われると返事に困るんですけど、私が何を言っても世の中の流れに影響しないですよ」


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