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ふたご座流星群

「もうすっかり夜だな」


戸締まりをしてから事務所のメンバーとともに総武線で現地に向かった。営業と工場組は社用車と山下さんの初代トゥデイに分乗。妊娠中の美智子さんと姉の斉藤さん、私用のあるかおりちゃんは不参加だ。


冷たい土手の下の河川敷にはすでにブルーシートが敷かれており、先着した山下さんと山根さんが寒さに震えているところだった。正面の川の向こうには冬の大三角形が浮かんでいた。



文部省の新しい学習指導要領は業界を震撼させるものだった。


「将来の新入社員の学力が低下したら困るなあ」

「そんな先のことはいいじゃないですか。それより授業時間です。こんなに削ったら文房具はどうなるんですかね」


学校週5日制では小学校で418時間、中学校で210時間の授業が削減される。


「紙屋さんはどうするんでしょう。何か聞いてますか」

「聞いてないです。減産になるんでしょうね。そうしたら高級紙にも影響が及ぶかもしれません」

「うちのノートはやや高級路線だから家での勉強用にかえって売れるのではないでしょうか」

「そんなことわからないです。私たちはどうなってもいいように備えるだけです」



湊商事からの初回注文はノート、メモ帳、家計簿、天体観測帳だった。


「天体観測帳なんてカタログには名前と値段しか書いてないのに」

「ご注文前に写真をメールで送っていますよ。山下さんにPCG-C1で撮影してもらいました。仕様もお伝えしてます」


SC00001 天体観測帳 B5 32枚 定番 JANコードなし。最初のページと最後のページは春夏秋冬の全天星図。本文の左側には中央に大きな円が印刷されていて、右側は白紙。青い表紙に白い STAR WATCHING の文字。


「湊商事さんは学校関係に強いんでしょう。これも文部省が関係してるのかな」

「学校から直接ではなく教育関連の民間業者で使うそうです。それよりも6C/Sも出ましたので在庫がバラしか残っていません」

「表紙を仕入れたら作れるよ。あれは星図の多色印刷が面倒なんだよね。だから手間賃が高い」

「学習指導要領がきっかけならまた注文が来るかもしれません。裕太さんはオオミヤさんと話してみるそうです。それからネットと比野文具通信でも出したいって」



文部省の方針は授業時間の削減以外でも波紋を呼んだ。総合的な学習の時間という新科目だ。総合的な学習の時間においては、各学校は、地域や学校、児童の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。その内容は学校が自由に決めろというので誰もが困惑している。


「オオミヤさんでもどうしたらいいかわからないって言っていました。学校に強い小売業者を通じていろんなものを提案してみるそうです。うちの天体観測帳、植物観察帳、野外実習帳あたりに興味を持っていますが、どれもJANなしなので動きにくいそうです」

「売れるならJANコードくらい付けるよ。学習指導要領は発表されたばかりで実施は2年以上先なのに本当に動くかなあ」


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SC00001 天体観測帳 B5 32枚 定番 @800

SC00005 植物観察帳 B5 32枚 定番 @600

SC00006 野外実習帳 変形判 40枚 定番 @700

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「私は天体観測ってしたことありません」

「私は楽々市場店のオープンの日に早起きして流れ星を見ましたよ」

「今はふたご座流星群が来てますよ。週末に河川敷から見るのはどうかな。まだ間に合うと思う」



浅草橋、両国、錦糸町を抜けて荒川。南から南東の空が、川の暗闇のおかげで都心部よりも見やすい。


「ベテルギウス、シリウス、プロキオン。ここまで来たらよく見えるな。真上にはおうし座とすばる」

「流星群はどちらの方角ですか」

「ずっと見てたら江戸川区のほうに落ちるはずだよ」

「ネスカフェどうぞー」


金山君と田中君が魔法瓶のコーヒーを配りに来た。


「それにしても学校の先生も大変ですね。教える内容は国が決めるんじゃなかったんですか」

「国は方針を定めるだけです。今までも内容は学校と教科書業者で決めてたんですよ。今回もそういう意味では同じです」


紙コーヒーを持ってブルーシートのところまで降りていく。


「おつかれさま。天体観測帳の使い勝手はどうですか」

「そうですね。暗いと字が読めないのが難点です」

「海外には蓄光インクを使ったのがあるよ。うちの印刷機では使えないけど」

「売り方を工夫したら良いと思います。敷物と懐中電灯を持っていくように書いておいたらいいです」

「防寒具もあるといいな」

「それにしても廃番候補が動き出すのは不思議です。バーコード印刷の難しそうなのばかりです」

「準備はしといてよ。本当にどうなるかわからない。学校も世の中もみんなそうだ」

「あ、流れ星です」


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