イグニッション
「御社の社長は本当に真面目な方ですね。私だって真面目なつもりですが、ベクトルが違う。店長のお名前や顔写真をトップに出すのはだめとおっしゃる。それでは店長ファンを作れない。だから小さく出したんですよね。そしてセールもこれっきりで、あとは限定品をお勧めしていくだって。格好付けて売れるんならそりゃ私も格好付けたいですよ。楽々を経験したいと言われてたのにいったい何を経験するつもりなんですか」
流星群を見た日の朝。時間は9時50分。何度経験しても慣れないのだろう。神楽氏もややテンションが高い。この人はいつでも興奮口調だがそれは表面的なもので、実際にはとても冷静な人であることに私は気が付いていた。
「楽々はにぎわいのプレイスなんです。雑踏の中で黙ってたら誰もお店に気が付かないでしょう。セールもイベントもどんどんやって風速を稼がなきゃ商売にならない。私は御社のファンですから成功していただきたいんです。メルマガだってそのために、ああ、そうそう。メルマガの原稿書いてますか。セールが終わったらすぐ出すんですよ」
「まだですが考えてます。そろそろ時間ですよ」
「そうですね。今のところ注文はゼロです。でも10時に公式メルマガが配信されたら、広告を見た人がきっと買いに来る。メルマガが読まれるのはお昼と夜が多いです。テレホーダイまで見ない人もいます。見たら来ます。それではご商運を」
電話が切れると同時に、デジタル掛け時計が配信時間を表示した。
10時30分。
「来ませんね」
楽々メール用の IBM ThinkPad 345C の前で待機。Outlook Express 4.0 は5分おきにメールを見に行っている。
「もうちょっと待とう。コーヒーでも淹れようか」
「そんな。社長にコーヒーのご用意をさせるなんて。あ、ご注文来ましたっ」
「おめでとうっ」
真子さんと美香さんがクラッカーを鳴らした。それきっと私が掃除するんですよね。
【楽々市場】注文通知(受付番号:12345-981118-001)
メールを開くとこんな内容。
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■ 御注文内容
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【受注番号】12345-981118-001
【注文日時】1998年11月18日 10時32分
【商品番号】NT00101
【商品名】 A4ノート細罫 白 (セール価格)
【単価】 195
【数量】 10
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【商品番号】NT00102
【商品名】 A4ノート細罫 赤 (セール価格)
【単価】 195
【数量】 10
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【小計】 3,900円
【消費税】 195円
【送料】 600円
【合計金額】 4,695円
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【お名前】 小渕 恵二
【郵便番号】 〒150-0002
【住所】 東京都 xxx
【電話番号】03-xxxx-xxxx
【メールアドレス】 xxx@kantai.co.jp
【お支払い方法】銀行振込
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「こんなにたくさん」
「セールでも送料がかかると安くならないからなあ。広告に書いた通り、まとめ買いのチャンスなんだ」
「このお名前って総理なのでは」
「誰だろうと、お届けして集金できるなら問題ない。次は手順通りにメール処理だ」




