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流星マスター  作者: TSUJIMO


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カッシーニ

「楽々市場は一年くらい前に始まったサービスだったと思う。大手の百貨店の高級モールだと出店だけで高級車一台分かかるところを数万円から参加できる。そして私たちが自力では難しかったSSL付きのショッピングカートを自由に使える。大企業でなくてもこれが使えるのはとても価値がある。それであっという間に大きくなった」

「楽々は時代が生んだ新しいビジネスなんでしょう。百貨店は大金を払っても簡単に入れてはくれません。入れたとしても売り方、見せ方は大家のいいなりです」


山下さんは元いた業界をあまりよく思っていない。短いコメントのあと、口に入れたオールドファッションを飲み込んだ。


「それとカード決済についてですが。セキュリティが理由で断られたという説明はすでにしていますが、それ以外の課題が浮上してきました。実績が必要なのです」


社長は苦笑しながら話を続けた。


「楽々と契約すればセキュリティの問題は解決すると説明したんですよ。だけど、どの代行業者もやっぱりダメだと言いました。私たちがメーカーで卸売で小売店舗を持っていないからです。インターネットで売るためにカード決済が欲しいというのは、実績が足りないから通らない。そういう口振りでした。とにかく実績を作りたい。そうしたら再申請します」


そう言いながらも不機嫌そうではなく、そういうものだという軽い感じできなこボールを手に取った。


「楽々市場のお店を見てみましたがカード決済を導入しているところは限られていました。楽々が実績になるんでしょうか」

「導入しないのと導入できないのは違います。手数料を考えたら郵便振替のほうがいいです。でも実際に使ってみたらカードの利点はあきらかです。私は豆腐ドーナツを購入してみましたよ」

「あれがそうだったんですか」


山下さんが社長の手元のきなこボールを欲しそうに見つめた。ここでフレンチクルーラーを食べていた裕太が会話に参加する。


「楽々で実績を積むんですか。安売り文化があるようですが」

「安売りはしません。小売価格で売ります。限定品なら出せると思うんだけど」

「小ロットで作るのもいいですし、新商品の先行販売を限定的に行うのはメリットもあります」

「なら賛成だね」

「決済はどうするんです」

「銀行振込、郵便振替、代引宅配。それで始める。カードはそのうち」

「顧客管理について提案があります。楽々から得られる新顧客は、営業の既存業務とあまり関係のない顧客になるでしょう。つまり個人客です。ですが、その新顧客を管理するのは営業部です。ネット通販は営業部の仕事という建て付けのほうが、組織的な整合性があるのではないでしょうか」


きなこボールを食べ終えてハニーチュロを見ていた社長が言う。


「こういうのはどうだろう。これは営業部の仕事でクリエイティブは協力者。売上は営業部の成績だ」


エンゼルフレンチに取り掛かった山下さんが賛成する。


「営業部の仕事ですが、営業とクリエイティブの合同プロジェクトにしましょう。手を動かすのは真子ちゃんなんですから。自社サイトも同様の扱いにしましょう」

「プロジェクトだと終わっちゃうじゃないですか。俺はまだ楽々に賛成でも反対でもないけど、やるなら続けないと」


裕太が店員にコーヒーのおかわりを求める。


「顧客の販路の傾向はどうなってるの。電話注文からネットに切り替えた顧客が増えてるんじゃないか」

「卸売の顧客は電話のままが多いです。思ったより変化なしです。小売りは最初からネットがほとんどです。混乱はありません」

「集計には受注記録に登録された販路を使ってるんだろう」

「顧客マスターの販路の項目も見ています。どこから最初に入ってきた顧客かは今後は重要です」


店員がコーヒーを注ぐのを待って話を続ける。


「楽々を始めたら自社サイトとの相互移動がたくさんありそうだ。まあ、分析は経営管理部にまかせておいたらいいです」

「山代君も慣れてきたようで動きがいいです。斉藤さんが助かると言っていました」

「さて楽々に話を戻すと、審査するほうは売上や利益で見るんだろう。だがうちにとっての目的はそれだけでないと思う」


社長はショコラフレンチの穴を覗きながらこう続けた。


「土星探査機のように未知に飛び込むんだ。経験や知見を得ることも大事だ。本番はあくまでも将来の自社サイトだと考えてる」


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