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流星マスター  作者: TSUJIMO


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42/84

ライトスタッフ 3/3

「お世話になっております。比野文具です」


中規模な文具店の裏から丁寧な口調ながらも大声で挨拶をする金山さん。自分は台車を押しながらその後を着いていく。


「ごくろうさま。じゃあ検品しちゃいますね」

「はい。それではA4ノート、白60」

「はい」

「A4ノート、赤20」

「はい」

「A4ノート、紺20」

「はい」

「マックス芯1000本入、10」

「全部あるね。じゃあこれ受領印」


表から見たら小さなお店だったのに、裏はこんなふうになってたんだな。通路にまで物が置かれてて数を数えてる人がいる。あの人も店員さんなんだろうか。


「次回はいつだっけ」

「連休前にまた来ますよ。予定では25日になってます」

「たぶん今日と同じ数をお願いすると思う。また発注します」

「はい、ありがとうございます」


台車をカローラバンに戻して助手席に乗り込む。


「これで営業の研修は終わり。疲れたんじゃないの」

「はい。一日中あちこちまわりますし、お客さん相手に気も抜けないのでくたびれました。でもやりがいも感じました」

「本当はもっと決まったルートを決まった曜日に走るのが効率的なんだけど、裕太さんと俺しかいないから。不確定ルート不定期巡回になってる。だから疲れるんだよな」

「山根さんは配送はしないんですか」

「することもある。でもあの人の役割は飛び込み営業だから。配送だけだと会社が大きくならないんだよ」


それから金山さんはラジオを付けた。


続いて、日本道路交通情報センターから、首都高速の渋滞情報です。



田中耕一君の入社予定が決まったとき受注管理部、営業部、工場が取り合いをした。FileMaker Pro の導入に大きな問題はなかったといえ、業務の流れが変わることで生まれる小さなミスやストレスが堆積していた。営業部では拡大の限界を訴えた。これ以上は仕事を増やせない。そして工場も同様に生産の限界が見えてきた。


彼はどこの部署でもやれそうだと社長は言った。異例のことではあるけれど、研修名目で全部やらせてみようか。



「まず受注管理部から」

「はい、まず Excel 97 で帳票印刷が安定しました」

「すこし手こずったけどね」

「それからメールを印刷して保存することをやめましたので、仕事に余裕が生まれました。田中君はもったいないけれど他に譲ります」

「法律に定める注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類。それに電子メールが含まれないという解釈がそもそもの問題だった。書類にするためにわざわざメールを印刷して保存した。だよね、斉藤さん」

「法人税法です。たしかにメールを印刷しても証拠能力が高くなるわけではないんですよ。印刷してあっても税務署はそれは書類ではないと言いますから」

「税務署が欲しがるのはトレーサビリティなんだよね。記録のつながりが整合していれば証憑は問題ない。FileMakerの中の記録と受領書、送り状控えに同じ受注番号が入ってて、日時も担当者もわかる。金額を見ても帳簿と一致している。メールなんか印刷しても意味ないだろうという考えで、それをやめることに決めた」


斉藤さんを説得できたのだから、税務署を説得できないはずがないと言いかけて言葉を飲み込んだ。


「工場はどうですか」

「メモ帳生産の外部委託でこちらも余裕ができました」

「生産計画も置き場所も改善するでしょう」

「それだけでなくメモ帳にしか使っていなかった小さいプレス機を取り除くことができます。機械の配置をすこし変えてコンベアーで運搬できるようになれば、パレットに積んでリフトで動かす必要がなくなります。大幅な省力化になります」

「じゃあ田中君は営業にやってもいいね」

「残念ですが譲るしかありません。本人の適性は工場向きだと思いましたが」


「そういうわけで営業部。田中君が来たらどうする」

「それはもう配送ルートの見直しと効率化。やっとできるようになります」

「そういうことなら、連休明けから配送に組み込めるようにしてください。パソコンはどうしようか」

「あんまり持ち運ぶことはないと思うんですよ。事務所でExcelが使えたら十分です」



田中君が営業部に配属されて慣れを感じてきた頃、事務所に IBM ThinkPad 380 が届けられた。


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