エピローグ パンケーキ教の誕生
ジーク→第三者視点になります。
それから数日後。ジークはいつものように夕食の準備をしていた。
すると、リコッタ嬢がソファに寝そべりながら呟く。
「学校、楽しくなってきたのです」
「いいことだな。仲のいいクラスメイトはできたか」
「舎弟はいっぱい」
「待て。大丈夫なのかそれは」
うーんと、考えこむような仕草。
思っていたのと違うというのは、本人も感じているようだった。
普段の行いを見ていれば、だいたい想像できる。
喧嘩を売ってくる生徒やいじめやカツアゲをしている素行の悪い生徒を見つけてはしばき倒し、脅すか懐柔するかして舎弟にする。そいつらをぞろぞろと引き連れて、アカデミー内を練り歩く姿が。
「アカデミーは閉鎖的な環境ゆえ、人間社会の縮図ともいえるような欠陥を抱えているのです。いわば真面目で善良な者ほど虐げられ、横暴な者や狡賢い者ほど得をしやすい構造」
「どうした急に」
「司書のお姉さんが選んでくれた本を読んでいるのです。せっかくサンプルにできそうな箱庭にいるわけですから、この世界がもっと住みやすくなる方法について考えてみました。ただの選別ではだめなのです。情操教育こそが善良な人間を育て、よりよい社会を作る」
「君らしからぬ発言だな。それがなぜ、舎弟を増やすことになる?」
「楽なんですよね。暴力による支配」
「全然だめじゃねえか」
ジークは頭を抱えてしまう。
アカデミーに通わせることでリコッタ嬢に集団生活の心構えや社会常識を学ばせようとしていたのに、むしろ周囲のほうが彼女の影響を受けておかしな方向に進みつつあるようだった。
しかし考えてみれば当然の結果かもしれない。
規格外の存在は、自分ではなく環境のほうを変えてしまう。
ただ、後々アカデミーの内情について調査してみたところ、リコッタ嬢が編入したことを契機に学内の空気は劇的によくなっているという。
上下関係や派閥といったしがらみを無視し、口実さえあれば誰彼かまわず殴り飛ばす制裁者。泣き寝入りしがちな弱者が、圧倒的なカリスマによって救われる。皮肉なことに情操教育とは対局にある手段が、社会の縮図とも言える環境においてもっとも効果的に機能しているのだった。
実に、実に危険だ。
リコッタ嬢がその気になりさえすれば、王都ですら同じように『変えられる』のだから。
◇
たとえ一時的に効果を発揮したとしても、極端な手段は環境に歪みを生じさせる。それはじわじわと病のように広がって、気づいたときには対処しようがないほど大きな問題に発展してしまう。
ミアンナは最初、リコッタ嬢に恐怖を感じていた。
それはやがて畏怖になり、何度かの邂逅を経て、崇拝に変わった。
特進クラスにてファンクラブが発足し、図書館を拠点として布教が行われたことで、司書である彼女も会報誌の制作に参加するようになった。
ミアンナの研究は、信仰が社会に与える影響についてだ。
エルカザードは迷宮の発見を契機に、世界中から冒険者が集ったことで建国された多民族国家である。海の向こうにあるような一神教国家と異なり、誰もが崇める神というのは存在しない。
ファンクラブの活動と自らの研究が頭の中で重なったとき、彼女の中でひとつの結論が導きだされた。
エルカザードに足りないもの。
この国をもっと強く、豊かにするために必要なもの。
すなわち〝神〟である。
誰もが単一の存在を崇め、その教えを守ることで自らを律し、結束する。
個という概念からの脱却。
我々。全体。同志。信徒という名の集合体。
今より十年後。王都にひとつの宗教が誕生する。
殺すくらいなら殺されることを選ぶタイプだったミアンナは、舐められたら負けとすぐさま報復する圧倒的なカリスマに助けられたがために、生まれ持った性質に大きな歪みを生じさせていた。
――祈りを捧げましょう。リコッタ様に。
――暴力こそが、我々の救いとなるのです。
超過激派カルト集団、パンケーキ教の誕生である。
これにて第二章(シーズン2)完結になります。
【リコッタ嬢からのコメント】
いつも読んでくれてありがとうなのです!オーホッホッ!(悪役令嬢の真似)
ゲホッ……ゲホゲホ!
ちょい待って。思いつきで急にやったからむせたわ。
次からシーズン3なのです。
ブクマとか評価とか感想とかレビューとか貰えると喜んじゃうのです!
我からは見えないけど
たぶんこの辺に↓『作者を応援しよう!』みたいなのがあるはず。




