第186話 砂漠地帯ジルタフ③
「───それでは、私達はこれで………またお会いしましょう」
会話が途切れたのち、先に行動したのはユキの方だった。予定があったのか、会釈しては直ぐに背を向ける。従者のマキも車椅子の後ろに回り、押し始める。
傍から見れば、これは逃走なのかもしれない。
ただ、ジュンにとっては都合が良かった。
確かに美女好きであり、これまて多くの女性──少女を含む──を次期候補としながら、守護者を愛でては彼女らと戯れることを優先してきた。
普通であれば、ユキもその候補としていただろう。が、ユキという女は何故か、相容れないというか好きになれないでいた。
ユキの第一印象は守護者の零に似た冷酷さを持った、怒ったら怖い系の女性。
笑みが笑みとして機能していないような情景を彷彿とさせる。
しかしながらジュン本人も、そういう冷酷非常な時くらいある。自身が創造した守護者以外ほとんど興味がないため、全くの他人に向ける視線がそれに該当する良い例。お気に入り認定していなければ、その者はぞんざいに扱う対象へと成り下がり、逆に認定していれば、欲望剥き出しに愛でる。だから当然のように、身内の冷酷筆頭は大好きなのである。
だが、ユキも同じにとはならなかった。
その理由は、正確にハッキリとしていない。
もしかすれば、それこそが、先ほどユキが言っていたような『信頼関係』に基づいているやもだが、一度興味無しとなった以上、熟考案件でもないのだ。
(な〜んか、きな臭いのよねー。女の勘ってやつね、きっと……)
それにジルタフへは、今後の管理者任務について半守護者の二人に伝えたあと、守護者の紅蓮と散歩という名のデートをして1日を満喫する予定で赴いているのだ。
間違っても、相容れない者に時間を費やすべきではない。同じ転生者であってもだ。
「なんだか、また新しいイベント起きそうだわぁ」
呟くジュンの見つめる先、ゆっくりと遠ざかっていく二人。やがて、影も視えなくなる。
暫く考え込む、だんまりと。その顔を覗くは守護者の紅蓮。
「催しですか……、時期的には無かったと記憶しているのですが……」
「えぇっと、違うのよ紅蓮。こっちの話」
「こっちとは……?管理者として無知であってはなりません。何卒、ご教授ください」
「いやね、私の単なる推測ってだけの話だし、教えることなんて何もないわ。紅蓮こそ、管理者として立派だわ。この国の歴史だけじゃなく文化まで、もう頭に入れてるのね」
「当然のことながらですが、お褒めの言葉、光栄の極みです。一層、職務に励みます───それと、ジュン様の方こそ、あまり謙遜なさらないで下さい。私共守護者は、ジュン様に仕えることこそ至高としております。頼ってもらうのは勿論ですが、至らなければその域まで精進するまでです。叱りつけていただいても、何ら問題ございません」
「ありがとねっ───でも、〔紅蓮を叱る〕だなんてハードルが高いわ」
「問題はありません。興味すらあります」
(興味!?えっ……もしかして、SMプレイしたいってこと??ちょっと何それ興奮しちゃうじゃないッ!)
「以前………ドブカスクソデブ男を調教する際、その男から『調教される側になって考えてみてほしい』と懇願されました。その時は不必要と切って捨てたのですが、今思えばそういう観点も覚えれば、何がより有効かを理解できると思った次第でありまして、ジュン様に手ほどき願いたいのですが、どうでしょう?」
(至極真っ当な願望じゃない!!私ったら思考が……まぁ、いいわ。それなら、ね。理由があるし、誰が見ても変には思われ───ッ!?)
「それともそもそも、私には不向きだったのでしょうか?」
「へっ……なななっ、にが??」
「やはり拷問官の陰牢が適任で……だからあのドブカスクソデブ男も、あまり変わらなかったのかもしれません。今更ですが、私の不出来をお詫び致します。申し訳ありません。ジュン様が望むなら、如何様にも処分ください」
「ん?んん??ちょっ、え!?どういう……」
紅蓮の言うドブカスクソデブ男とは、【DS園】の共同運営者、ネルフェール国生き残りの一人、堕落貴族モジャルのこと。一般的な運営者レベルまで鍛えあげるため、鬼教官の紅蓮が調教したわけだが、目論見通りの成果には至らず。勤務態度は悪い。その状況報告は、調教した紅蓮に細部まで伝わっている。
モジャルの元々の性格や生い立ちもあるだろうが、性根を叩き直せず、主からの命令に背いた結果となっているのを、紅蓮は悔いている、ということ。
その悔い自体に怪しさはない。
だがしかし、ジュンにとっては[!?]となる。
というか、情緒が不安定過ぎる。感情の起伏が激し過ぎる。
これではやはり、体調の回復をもう少し様子見た方が良かったと考えてしまう。
(帰らせるべきか、続行すべきか、どうしましょかね?)
浅慮した結果、導き出された手段は────
「ねぇ、紅蓮。あなたは立派だわ。さっきも言ったけどね。言葉に嘘偽りなんてないし、いつも頼りにしてる。助かってる。だから、自分を卑下する必要はないのよ」
褒めちぎることだ。しかし───
「ですが、私はまだ未熟者です」
紅蓮の反応は否定。
だがジュンも引き下がるわけにはいかない。
「それは………かもしれないけれど、だったら未熟者が多過ぎるわ。勘弁してちょうだい」
「うっ、はい、申し訳ありません」
「処分なんて以ての外、断じて有り得ないから。次、同じこと言ったら………くすぐりの刑だからね」
「それは、かなりの、重たい処罰ですね。失敗しないよう肝に銘じます」
冗談を交えることで、和やかな雰囲気に。
浅慮とは思えないほどの効果抜群の一手は流石と言える。
「───でなんだけど………結局、SMプレイってするの?しないの?」
「SMプレイ……?」
首を傾げる紅蓮。
緊張解れても、真面目な守護者であれば、戸惑う迷言。
創造主の意図を守護者が解したのは、散歩を始めて暫く経ってのことだった。
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