第4話 中継地にて冒険者として登録する。
5/2 名称を一部変更
待ちへ行く前に周囲を見回し農村の死体の山をどうしようかと悩んでいると。
「すみません。お話があります」
異邦人の代表の高谷だった。
「実はこの世界に降り立つ直前に、この世界の神の一柱と自称する女神から何かしらの恩恵を授かったようなのですが、それが何かはさっぱりなのです。そういうのを調べる方法とかないモノでしょうか?」
俺らの時にはそんな話無かったぞ。差別だ。
「冒険者ギルドに登録する際に自分の素質とか精査するんだが、伸びしろとかまでは判らないし、どの程度の力量とかもわからないぞ。あくまでも向いているモノが解るだけだな」
「そうですか。例えば自分の能力とかを数値化されて判ったりはできないのでしょうか?あると楽なんですが」
そりゃ楽だろうな。俺だって欲しいわ。取りあえず俺としての回答は
「そもそも数値の絶対的基準ってなんだろうな?あったとしても大雑把な参考値だと思うのだがそれって意味ってあるのか?君らはそうやって数値化されると安心する民族なのか?」
「数値化は自分の立ち位置が解りやすいから便利と言うだけで有って民族性とは関係ないでしょうね」
既にこの世界の基礎知識は魔法の工芸品で学習済みだが、それによると冒険者ギルドの認識票には貢献度を表す階梯、氏名、性別、職能、登録番号のみらしい。ただ認識票とそれを読み込む魔導機器は古代の遺物でギルド全体で情報は共有化されているらしい。犯罪を犯すとギルドの多い西方や中原では生きにくいがそれ以外の地方ならなんとでもなる。別の問題があるがそれはこの際無視する。
「続けていくつか質問いいですか?」
話すように促す。
「冒険者ギルドってどんな感じの組織なんでしょうか?」
「高谷の想定しているものかは判らないが、ならず者だの山師だのと揶揄される連中を管理するために傭兵ギルドが母体となって商人ギルドが銀行業務と買取業務を行い、盗賊ギルドが盗掘向けの技術なんかを指導する。魔術師ギルドが魔法の工芸品の検定と買取を行う。新人の訓練も行っている。基本的には将来的に親からの相続の可能性がないごく潰し共が何かを始める為の資金稼ぎの場だな。ほぼ何でも屋なんで行けば何ならかの仕事があるだろうがあまり夢や希望はないぞ。ただしギルドによって身元は保証される。身元が保証されると各都市の法が適用されるが、それすらないと即奴隷堕ちとかよくある話だ。組織に属する関係で何らかのルールで拘束されるのは諦めるしかないな」
「わかりました。あとダンジョンってあります?」
「あるよ。ダンジョンの定義がいまいちだが……」
ベルトポーチをゴソゴソと漁って一つの水晶球を取り出す。
「これが迷宮宝珠と言う魔法の工芸品だ。この中に構成やら運用方法やらが書き込まれていて……」
水晶球を地面に落とす。
「起動せよ」
水晶球はズブズブと地面に潜っていった。
「え?まずいんじゃ?」
「大丈夫。大丈夫。粗悪品だから地下1層で部屋数も多くないし迷宮として機能し始めるのは一日後だし、内部で創成される怪物が溢れるにしてもかなり先だからその頃には冒険者ギルドに通報されて、さっさと制覇されてるよ」
遺体を穴に放り込み魔導騎士輸送機に向けて歩き出す。
「元々は古王朝時代の魔術師のお遊び道具だったのさ。自慢のダンジョンを公開して友人知人のお抱え奴隷戦士などに挑ませたりしてそれを外から眺めて楽しむものだったそうだ。ただ放置してると創成魔法によって誕生した疑似生物たちがダンジョンからあふれ出すらしいけど、最深部にある迷宮宝珠を破壊すると迷宮の機能が停止され攻略特典として何らかの魔法の工芸品が手に入るのさ。発見が報告されれば嫌でも冒険者が攻略に来るよ」
一応これも伝えておくか。
「そうだ。後は古王朝時代の遺跡もダンジョンとは呼称する。どちらかというとそっちが本物のダンジョンかな。迷宮宝珠は所詮は玩具だよ……」
「なるほど…….。そうだ。自分で管理できるダンジョンとかありますか?」
「あるよ。プレーンな迷宮宝珠があって、契約するといくつか条件はあるけど、いつでも好きなように拡張できる奴が。欲しいのか?」
「頂けるんですか?」
欲しいのか……ちょっと実験してみたい事もあるし交換条件といくか。
「やるのは構わないが。ただし条件を飲んでくれればだが」
少し迷っているようだが
「条件を聞いてもいいですか?」
条件に付いて話した。一種の実験であるとも伝えた。結果として高谷は呑んだ。
多分あとで近くの街から冒険者が来るだろし、惨状を説明する気にもなれない。移動中に既にこちらに向かって来ている冒険者と遭遇する可能性もあるし目的地を変えよう。この異邦人たちをさっさと人任せにして自由に行動したい。面倒ごとを全部力任せに排除してると色々よろしくない。
魔導騎士輸送機に戻り、予定を変更して2日後に交易路沿いにある中継都市「ムーザ」に到着した。
この中継都市「ムーザ」は中原地方への玄関口で交易路の中継都市にして東方東部域から西方西部域まで伸びる魔導列車の停車駅の一つでもある。それだけにかなりの大規模都市で都市内人口は凡そ20万人ほどで堅牢な市壁で囲まれている。
判っているのはこの大陸はかなり大きく、東方から西方まで徒歩だと3年半以上かかる。しかし乗車チケットは高額だが列車を使えば3週間かからない。
列車の線路も交易路も古王朝時代に魔法にて制作されている為かいまだに劣化は見られない。そのまま市壁を超えたかったが、残念なことに我々の乗っている魔導騎士輸送機は大きすぎるのか門を抜けられないので市壁外の駐機場に止める事となった。
全員降ろして入都税を支払い冒険者ギルドへ向かう。先に自分らだけ登録した後に受付で事情を説明して異邦人らは纏めて説明と登録作業を行ってもらう事となった。
宿舎があるらしく暫くは食事と寝る場所には困らないだろう。
手持ちの手ごろな魔法の物品を売り払って彼らの支度金に充てよう。ここまで面倒見れば十分だろう。うちの経理担当は相棒なので後は一任する。
支度金として一人頭3000ガルド程渡すことが決まった。
どれくらいのの金額かと言えば、底辺冒険者が大部屋の宿屋暮らしで最低限の食事で150日ほど暮らせる額である。重戦士で板金鎧一式と壁楯と武器と旅装を揃えても10日以上は暮らせるはずである。
宿舎を利用するだろうから、これでお金に困ることもあるまい。あったとしても面倒見切れない。
ここの通貨は基本的に小銀貨と大銀貨と琥珀金貨だ。金貨や白金貨もあるのだが、ほぼ大口取引か持ち運び用で一般商店では受け取ってもらえない事も多い。
何気なく掲示板を見てみると仕事の大半は商人や旅人の護衛が大半だ。次は巡回警備で討伐系はほぼないな。人に危害を加える魔物や生物が都市部周辺でウロウロされてたら堪ったもんじゃない。
農村部とかだと手遅れになるケースも多いし、討伐系メインで頑張るならこういう大きな都市ではなくて交易路からそれなりに外れた小規模都市のギルド支部辺りを根城にしないとダメそうか。
初心者冒険者でもある第一階梯の冒険者は一年以内に第二階梯に上がらなければ素養なしとして資格を失う。再入会には面倒な試験などもあるから俺らもさっさと階梯を上げてしまわないとな。
依頼掲示板から目を離し異邦人たちの方を見れば高谷の指示のもとでパーティの編成をしているようだ。ちょうど地方から出てきた現地人が居てうまい具合に高谷のパーティに取り込んでる。
しかしなんだ?随分強さが偏っているな。高谷と他の異邦人2人に現地人3人で6人パーティになった。格闘士、剣士、重戦士、司祭、呪術師、斥候か。若干脳筋パーティっぽいが、バランスは悪くない。
だが残りの異邦人5人は見捨てる気か?
確かに素養なし、魔術師2名、賢者、砲撃手とか金食い虫しか残ってないではないか。素養なしは放置として魔術師は学院に入らないと呪文書も発動体も手に入らないしな。なければ単なる一般人だ。砲撃手は高額な魔導銃器が必要だし、維持費もそれなりにかかる。一年後には路頭に迷うかもな。
異邦人の中に一人興味深い娘がいる。唯一の未成年で砲撃手の素養があると認定された瑞穂という少女だ。予想があっていれば欲しい人材の一人だ。
つまらなそうに依頼掲示板を眺めていた相棒に暫くここに残って異邦人の様子を観察して欲しいと頼む。俺はと言えば約束の女を探したい。
「バルドの食道楽にでも付き合いつつ異邦人の様子を観察して待ってますよ。でもすみませんが1週間ほどで飽きそうなんでそれまでには戻ってきてくださいね。でないと押しかけますよ」
という回答だった。
「どうせ僕なんて役立たずのカスなんだから放っておいてよ!」
その叫び声で一瞬ギルド内は静まり返ったが、大半の者が異邦人の言葉を理解できないので興味をなくしたようで直ぐに騒がしくなった。
素養なしと認定された日向薫だったか?見た目だけだと少女と間違えそうな容貌だったので覚えてる。歳のわりに小柄で細身で少女のような容貌とかそっちの人が喜びそうな少年だ。
耐えきれなくなったのかそのままギルドを飛び出してしまった。彼は素養がない代わりにこの世界での読み書きが出来るらしく一人になっても……いや攫われて奴隷行きかな?
喧嘩の相手は日向薫の従妹にして我らが期待の砲撃手の素養があると認定された日向瑞穂のようだ。ちょっと事情でも聴いてみるか。




