第5話 スカウトしてみる
受付で5ガルド支払い会議室を借りる。瑞穂を呼び出し座るように促す。そしてまず呼び方に関して断りを入れておく。
「日向は2人いるし、君の事は瑞穂と呼んで構わないかな?」
「はい。それで構いません。それで用件はやっぱりさっきの事ですか?」
伺うように上目遣いで聞いてくる。
「そうなんだが、このムーザに着く2日の間も随分とネガティブな事を言っていたが、そのあたりが原因かな?」
「他のみんなが努力もなく何らかの才能を貰ったことが酷く気に入らなかったみたいで……」
「だが、一年はここでゆっくり訓練できるし、その間に何らかの技術が身につくだろう?才能って言ってもスタートラインが若干違う程度だと思うんだがな。それに彼はこの世界での会話を既に身につけてるし、それが恩恵ではないのか?」
瑞穂は頭を振り
「違うんです。会話はいずれみんな身につきますし、この世界で何かするうえで自分だけ他の人より努力をしなければいけないという状況が気に入らないんです。」
勘弁してくれ。一年後に路頭に迷いたいのか?
「努力が必要なのは他の面子も同じだろうに?瑞穂だって砲撃手の才能を生かすには資金がいるし、そのためにも稼がなければならないだろう。稼ぐために何か別の技術を学ぶなりの努力は必須だと思うのだが?そんな悲観する事か?」
ため息をつき「それがですね」と言ったあと
「薫さん学校では運動は程ほどでしたが、勉強はすごかったんです。私の居た世界は学歴こそが正義みたな世界で勉強さえ出来ればエリートコース確定いうくらい偏った世界でした」
確かに提供してもらった記録にはそんな感じではあったな。エリート特有の自分より下を見て悦に浸る系の人物かな?
「それがここに来て才能がないことを馬鹿にされたのと慕っていた高谷会長に見放されたのが影響していると思うんです。あとは……」
少し言いにくそうにだったが話すように促すと
「薫さんの中で私は庇護対象だったんですけど、此処に来て逆転してしまったようで……」
「どういうこと?」
「私が頑張ってお金を稼ぐからゆっくり技術を身につければいいという感じの話をしたらキレてしまって」
なんにしても面倒くさい奴という印象だ。話題を変えよう。
「ところで気になっていたんだが、瑞穂と薫って恋人なのか?」
「違います。ただの親戚ですね」
清々しいまでに即答だった。ここ2日の様子を見ていると薫の方は瑞穂を庇護対象としてというより女として見てる感じだったんだがな。
「そもそも好みにタイプじゃないです」
バッサリだった。好みのタイプは?とか聞いてみようかと思ったが危険な気配を感じて聞かないことにした。
「この件はもういいや。今後の事に話を変えよう」
一枚の書類をテーブルにだす。
「なんでしょう?流石に読めませんよ?」
「ギルドの規約なんだが、実は瑞穂だけ条件が違うんだ。理由は」
「私だけが未成年だからですか?」
理解が早くて助かる。
「規約上未成年は見習い扱いで、どれだけ仕事をしても階梯はあがらない。その代わり成人するまで宿舎が利用できる。」
「という事は、成人までの2年プラス第二階梯昇格までの猶予期間1年の合計3年間はここでの生活が保障されているという事ですか?」
「そうなんだが、成人するまでは小間使い扱いで学習時間に割く時間は取れない。そして君だけがコミュニケーションを取る手段がない。本来ギルドの規約に異邦人対応は盛り込まれていない。」
一度言葉を切り反応を伺う。瑞穂は少し考え込んで「要するに私の方がお先真っ暗て事ですね」と呟いた。
「一応裏技がある。ひとつは誰か保護者を用意する事だ。保護者の同意によって一般の冒険者見習いと同列に扱われる。その場合は一年後に第二階梯になれなければクビだ」
「その保護者というのは誰でも構わないのですか?」
「いや、一応成人してて非保護者が問題を起こした際には責任が取れる人物に限られる」
困っているな。そりゃ成人してる知り合いは同じ異邦人しかいないし、彼らじゃまだ無理だろうしな。
「一応聞いておきますけど、他には?」
「何処かのパーティに混ざることだな。当然だが宿舎は使えないから収入がなくなれば路頭に迷うか身売りしない」
「私、薫さんの心配してる場合じゃないですね。私のほうがピンチじゃないですか」
「で、この契約書類だ。これは魔法の契約書類でね。双方が署名と血判することで契約が成立する。内容は俺が瑞穂の保護者となるという内容だ」
上目遣いで恐る恐るといった感じで「見返りは何でしょうか?」と尋ねてきた。
「瑞穂の将来性かな。故郷に帰れる可能性は低くなると思って欲しい。いや、違うな。優先順が低いから何年後になるかは判らないと言っておこうか」
「帰れるんですか?」
「戻れるとは思うが、その時どれだけ月日が流れているかは保障できない」
「なら故郷に帰る話はなしでいいです。不思議な事にあまり未練は感じないんです。それに私だけ戻ってもいい事はありません」
書類に署名し、針を指に刺し血をにじませそのまま血判として使う。瑞穂もそれに習う。血判が押されたあと契約書はギルドの受付に提出するだけだ。
瑞穂が唐突に「そう言えばパーティって最大6人ですよね?」と質問してきた。
「厳密には制限はないんだけど、いくつかある魔法の効果が6人までというのがあってその関係で6人までって話なんだよ。それが何か?」
「お願いします。私をヴァルザスさんのパーティで使ってもらえないでしょうか?料理でも雑用でも出来ることは何でもします。」
料理……だと……。
「料理を最初にあげたという事はそれなりにウデには自信があると?」
「プロレベルかどうかと言われたら流石に何とも言えないけど、母から厳しく仕込まれました。」
俺らが作るよりはマシか。どのみち欲しい人材だったし
「俺はこれから少しこの街から離れる。長くてもひと月だろうか。その間は相棒に君の面倒を見るように頼んでおくから読み書きと会話を少しでも出来るように努力して欲しい。それが最初の条件だ。」
「最初という事はその後も何かあるんですよね?どんな内容ですか?」
「俺らと一緒に暫く下層冒険者レベルの生活をしてもらう事かな。楽させてあげる事は出来るんだが、まずは底辺の生活を肌身で感じてもらいたい」
「それは何か不測の事態があったときの為ですか?」
「そういうことだ」
話は終わり、装備などを見繕いたいという瑞穂に付き合うこととなる。まずはギルド内の販売スペースで武具やら旅装を見繕うこととなった。陳列してある武器を眺め、まるで食堂で今日のお奨めは?といった感じでお奨め武器は?と聞いてきた。
「瑞穂の体力と筋力次第だな。毎日素振り30分とかやってもらうことになると思うし、今のその細腕だと……」
一振りの小剣を取る。刀身50センチ弱ほどで冒険者なら予備武器としてよく用いられる。また旅をする女性の護身用武器の定番でもある。歩兵の武装でも定番である。
「護身用ならこのあたりがお奨めだ。形状とか微妙に重量が違うから手にとって自分に馴染んだものを選ぶといい。」
何本か試しに振っているがお気に召さないらしい。そして隣の棚に立てかけてあるモノを指差し「あっちのほうがいいです」と言った。
長剣だった。刀身80センチ前後で騎兵用というべきか……。確かに冒険者は様々な状況での戦闘が想定されるからガチ前衛だと小剣を振り回す奴はまず見ない。
「それ持ってみて30分くらい素振りできそうなら構わないけど?」
「無理です」即答だった。
「それにサイズが大きすぎる。いずれ使える日も来るかもしれないけど、今の体格じゃ流石に無理だ」
140センチ未満の瑞穂には流石に全長で1メートル前後の長剣を振り回すのは厳しい。使いこなすなら体重と筋力を増やさないとな。ちなみに他の武器も勧めてみたが「美しくないから嫌」とお断りされてしまった。
次に防具の陳列棚に来たのだが、この年齢の娘さんだと金属鎧はダメだし、硬革鎧でも維持費に結構お金食うんだよね。特に女性はね……胸がだね。成長に合わせて切っては継接ぎでサイズ調整するから耐久性も微妙だし、皮鎧が一番無難だ。膝下5センチほどのワンピースにして、残りは皮の帽子に皮の長靴に皮の手袋で十分かな。
やや不満そうだったが試着室で着替えてきなさいと追い立てる。
試着室から出てきた瑞穂はやっぱりというか着せられてる感満載だった。そのうち馴染むか?装備は微調整してもらう為に数日預けることになった。あと必要な装備といえば楯だろうか?楯戦士でもあるまいし大型の楯は必要ないが、回避技術が未熟なうちは小型楯くらいは必須と説得して持たせた。
瑞穂いわく「楯ってなんていうんだろう?美意識的にいまいちしっくりこなくて……」ってことらしい。その後は小型の背負い袋やら松明10本、火口箱、ロープなど必要装備を購入した。本来は高谷に預けた支度金から金貨3枚分3000ガルドを貰ってきて瑞穂に渡すところなんだが、面倒なんで支払いは俺の個人資金で済ませた。金貨は街では使いにくいので崩してから財布代わりの袋に入れてから渡した。そして5枚の琥珀金貨を取り出し握らせ
「これは非常用の資金として下着とかに縫い付けたりしておくといい」
後は日常品だが、それは流石に時間的にも無理だったので今日は諦めてもらった。一応宿舎で最低限の衣服とかは支給されるしそれで我慢してもらおう。




