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仄暗がりのなか見つめたシドウの顔は、目に見えて狼狽しきっていた。ここに来て、もしかして単なる思い込みなんじゃないかだとか、ひどく現実的な想定がようやく浮かんだけど、僕はもう「ルビコン川を渡ってしまった」。吐いたつばは飲めないし、本来恐れることじゃない。それにどうも、たったいま浮かんだこのいくつかの可能性が、おおよそにしてはずれな気がしてならない。
シドウはすこしうつむいて、どうやら伝達手段を考え付いたらしく、ソファーを立った。僕はずっと、なんとなくその後ろ姿を見ていたけど、はっとそれが「なんとなく」じゃないこと、揺らぐことがない端正さを実感して、心のどこかがささくれ立つのをこらえていた。
シドウは紙とペンを持って、再び僕のとなりへ座った。
僕は納得するよりもまず、シドウが字を書けるということに対してある種意外にすら感じたけど、うらはらにその筆致もまた繊細だった。
「Dies ist nur ein Traum. Du siehst keine Wirklichkeit an」




