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追放詩人のおっさん、弟子が大魔法を使い始め聖女姿で詩聖として世界最強の流派を築いてしまう 〜SPIN YOUR LYRICS !〜  作者: kinpo


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第149話 ワシ対決する


王都中央広場。

処刑台と見まがうばかりの特設ステージ上。

数日分の汚れと疲労を纏い、ボロボロの聖女服を着たワシが、鎖を解かれて立っていた。

対するは、一点の曇りもない純白のローブを纏った瑠璃とロザリア。

その対比はあまりに残酷で、しかし同時に、ワシの姿に歴戦の風格を与えていた。

観衆は数千人。

固唾を飲んで見守る中、ワシはゆっくりと手首をさすり、不敵な笑みを浮かべた。

 

「待たせたのう。

さあ、始めようか」

 

(よし、手錠は外れたな。

これでいつでも帰れる体勢は整った。

あとはこの茶番をマッハで終わらせて、タイムカードを切るだけじゃ!)

 

群衆の中、一際熱い視線を送る集団がいた。

クラスの生徒たちだ。

彼らは今にも騎士団の制止を振り切って、ステージへ飛びかからんとしていた。

 

「師匠ォォォオオオ!!!」

 

絶叫が広場に響く。

 

「師匠に手錠かけるとか、ありえねー!

俺が秒でブチのめして、師匠を解放するっす!」

 

セベスがチャラ男をかなぐり捨て、騎士に体当たりを試みる。

 

「お父様!お母様っ!師匠は異端なんかじゃありませんっ!

私が証言しますっ!」

 

リリアが涙ながらに訴え、両親の袖を掴んでいる。

 

「師匠に触るな!

師匠の清き体に、その汚れた手で触れるでない!

聖騎士の名において、断罪しますわ!」

 

セリーヌが剣の柄に手をかけ、殺気を放つ。

 

「マジで師匠に手ぇ出すとか、ありえんし!

教会、これで炎上案件確定っしょ!

拡散してやるし!」

 

ニーナがスマホ(魔道具)を構えて怒鳴る。

 

「ああ、師匠様……!

このような仕打ち、神への冒涜ですわ!

わたくしが身代わりになります!

その鎖をわたくしに!」

 

エレナ先生が祈るように手を組み、恍惚と絶望の入り混じった表情で叫ぶ。

 

「師匠!

貴女のいない学食は、ただの餌です!

戻ってきてください!

……燃やしていいですか?

教会ごと……♡」

 

スーザンが虚ろな目で火の玉を浮かべかける。

 

「師匠!

貴女の聖性を汚す輩は、このオタクイルムが許しません!

僕の計算では、師匠はこの逆境すらフラグに変えるはずです!」

 

イルムが早口でまくし立てる。

 

「ミーの太陽を鎖で縛るとは!

美しくない!

即刻解放するんだ!

師匠の輝きを遮る者は、ミーが許さん!」

 

エストラードが髪をかきむしる。

 

「捕らわれの聖女……くっ、このシチュエーション……!

薄い本ならバッドエンドルート……!

でも師匠なら逆転攻勢(受け)のはず!

生き残ってください!」

 

カイリーが鼻血を拭いながら叫ぶ。

 

「ホワイ!?

なぜ師匠がクリミナル(犯罪者)扱いなんだ!?

このジャッジメントはナンセンスだぜえ!

俺様の詩で抗議するぜえええ!」

 

メガデスがマイク(魔道具)を握りしめる。

 

「拙者の師匠を……!

呪うでござる!

教会を末代まで呪ってやるでござるよ!

闇のデバフを食らえ!」

 

シルビアが藁人形を取り出す。

 

「はわわわ〜!

師匠ぉ〜!

痛くないですかぁ〜!

私がドジって代わりに捕まればよかったですぅ〜!」

 

パッツイが何もないところで転びながら泣く。

 

「我が師を愚弄するとは、万死に値する!

貴様ら、我らが師匠の偉大さがわかっているのか!

全弾発射準備!

師匠の奪還作戦を開始するであります!」

 

ペーターが量子弓を構え、臨戦態勢に入る。

 

「……」

 

ワシは美少女聖女の外面で、静かに騎士団に連れられていくフリをしながら、

群衆の中の彼らに向かって、そっとアイコンタクトを送った。

 

(落ち着け、お前ら!

ここで暴れられたら、公務執行妨害でワシの罪がさらに重くなる!

頼むから、静かに見守ってくれ!

ワシは早く仕事を終わらせて、帰りたいんじゃ!)

 

弟子たちは、ワシの瞳の奥にある切実な訴えを読み取ったらしい。

(彼らのフィルターでは、それは深い慈愛と「手出し無用」という覚悟の光と映ったのだろうが)

 

「はっ……!

師匠が『待て』と……!」

 

「信じて待てと仰っているでござる……!」

 

彼らは一斉に泣き止み、その場で跪いた。

 

 

「フン。茶番は終わりだ」

 

ロザリアが蔑むように鼻を鳴らす。

 

「さあ、瑠璃殿。

まずは貴女の光で、本物の聖女の格を見せつけなさい!」

 

「オッケー!

ウチの魔法、マジでレベチだから!

見ててよね、おじさんたち!」

 

瑠璃はステージ中央に進み出た。

そこには、虚ろな目をした貴族や庶民の患者たちが並べられている。

彼女は勇者聖女の称号を背に、自信満々に杖を掲げた。

 

「神聖なる光よ、病を退け!

もっと輝いて、ウチを照らせ!

【ホーリー・ジャッジメント】!」

 

カッ!

と目も眩むような金色の光が、患者たちを包み込む。

肉体の傷は見る見るうちに消え去り、熱も引いていく。

演出としては百点満点だ。

 

「……効いた、のか?」

 

観衆が期待を込めて見守る。

しかし、光が収まった後、患者の貴族はゆっくりと目を開き、そして――深いため息をついた。

 

「……ああ、体は軽い。

傷も消えた。

だが……」

 

彼は絶望的な表情で空を見上げた。

 

「明日からの人生が、また苦しいままです……。

派閥争い、ノルマ、主君の顔色……。

ああ、考えただけで吐き気がする。

私は……何も食べたくない」

 

最高の治癒魔法をもってしても、患者の心の消耗と、

未来への絶望感は微塵も回復していなかった。

肉体だけが健康になり、心は死んだまま。

それはある意味、残酷な拷問だった。

 

「な、なんで……!?

は全快してるはずじゃん!

バグってんじゃないの!?」

 

瑠璃が杖を振って叫ぶ。

 

「瑠璃殿、ここは私にお任せを。

さあ、神の教えに従うのです!」

 

ロザリアが前に出た。

 

「神の教えに従い、心を清めなさい。

そうすれば安息は訪れます。

清らかなる魂の救済を!

【マジェスティック・ブレッシング】!」

 

ロザリアは清浄な儀式を施し、厳かな祈祷文を長々と詠唱する。

しかし、その高潔すぎる言葉は、疲弊した患者の心には届かない。

 

「……貴女の清らかな祈りが、私には責め苦に聞こえます。

もっと頑張れ、もっと清くあれと……。

私はただ、休みたいだけなのに……」

 

患者がロザリアの手を振り払った。

 

「バ、バカな……!

この、選ばれし聖女の力が、穢れた魂に届かぬと……!?」

 

ロザリアが後ずさる。

彼女たちのエリートとしてのプライドは、現実の前に粉砕された。

 

 

「……ふっ」

 

静寂の中、ワシの乾いた笑い声が響いた。

ワシはマントを翻し、呆然とする二人の前に歩み出た。

その姿は、逆光を浴びて神々しくすら見えた。

 

「瑠璃殿、ロザリア殿。

ご苦労だった。

これからは、大人の時間じゃ」

 

(よし、ここからがワシのターンじゃ!

さっさと片付けて、日常を取り戻すぞ!)

 

ワシはロザリアが用意していた、清浄な水しか入っていない器を手に取った。

それを軽く揺らし、冷ややかな視線を二人に送る。

 

「貴様ら……『清浄』だァ?」

 

ワシの声色が、ドスを利かせたものに変わる。

広場の空気がピリリと張り詰めた。

 

「知るか!

お主らが治すのは、上っ面の傷だけじゃ!

そんな綺麗なモンで、すり減った魂が埋まると思うてか!」

 

「なっ……何を……!」

 

「人が生きるのに必要なのは、高尚な祈りじゃない!

神に背いても食いたい、背徳的な旨さじゃ!

心が満たされんと、魂は動かんのじゃ!」

 

(聖女のセリフじゃないのう。

完全に夜中のラーメン屋で管巻いてるおっさんじゃ)

 

ワシは水を高く掲げた。

 

「これが、明日への活力を生む、古代の知恵じゃあ!」

 

(高カロリー!塩分過多!化学調味料!

これぞ労働者の燃料ガソリンじゃ!


食え!

そして脳内麻薬を出して元気になれ!)

 

ワシの詠唱が、朗々と広場に響き渡る。

 

「――この、水という名の無味乾燥な日常よ!

おっさんの魂が求める化学的な快楽を知れ!

残業後の深夜に飲む、あの罪深いスープの味を、ここに再現せん!」

 

古代詩魔法が発動する。


――“至高の調味料よ、このおっさんの水を豚骨の濁流に変えよ〜♪

手間暇と情熱を全て凝縮し、骨の髄から出た深いコクを呼び覚ますのじゃあ〜!

化学と天然の叡智を結集して悪魔の美味さを今、ここに完成させたまえ〜〜♪

この一杯で、ワシはもう昇天できるぞい!」


 「【人生の背徳ブースト(ディープ・ジャンク)】!」

 

ボワァッ!

器の中の水が、暴力的なオレンジ色に輝き、沸騰した。

瞬時に立ち込めるのは、濃密な豚骨、焦がしニンニク、そして食欲を中枢から刺激するスパイスの香り。

それは、空腹の獣を呼び覚ますような、抗いがたい魔性の香りだった。

 

「くっ……なんて下品な……!

でも……よだれが……」

 

瑠璃が口元を押さえる。

ワシは完成したスープを、絶望していた貴族に突き出した。

 

「食え。

これを食って、明日という地獄へ向かう活力を、無理やりにでも生み出すんじゃ!」

 

貴族は震える手で器を受け取り、スープを啜った。

 

「……っ!」

 

カッ!と貴族の目が見開かれる。

その瞳に、生気が爆発的に戻った。

 

「ああ……これだ……!

この旨さが……この罪深い塩気と脂が欲しかった!

私の乾いた心に、染み渡る……!」

 

貴族は涙を流しながら、獣のようにスープを完食した。

空になった器を置き、彼は力強く立ち上がった。

先ほどまでの死にそうな顔色はどこへやら、顔は紅潮し、やる気に満ち溢れている。

 

「治った……!力が湧いてくる!

明日もまた、戦えるぞ!」

 

「うおおおおお!味変の聖女様だ!

俺たちにもくれ!」

 

広場が熱狂の坩堝と化した。

貴族も庶民も、ワシのスープを求めて手を伸ばす。

それは、高潔な教会の権威が、一杯のジャンクスープの前に敗北した瞬間だった。

 

「な、なぜ……!

なぜ、神聖な光が敗れ、この下品な力が勝つのだ……!」

 

ロザリアが膝から崩れ落ちる。

瑠璃は杖を取り落とし、呆然とワシを見つめていた。

 

「さて」

 

ワシは歓声を背に、マントを翻して踵を返した。

その背中は、誰よりも大きく、そして誰よりも帰りたそうだった。

 

(はい、終わり!

仕事はきっちりこなしたぞ。

あとは教皇庁で後始末をしてくれ。

ワシは直帰する!)

 

騒ぎで崩れた教会の権威を尻目に、帰る準備を始め、

ワシは颯爽とステージを降りた。

この勝利により、教会の権威は地に落ち、ワシの聖女としての名声(と変な二つ名)は、

不動のものとなったのである。


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