初めての夜
木の根の向こう側を見ると、アリの行列が見えた。
細かいビスケットの塊や砂糖、木の実なんかを運んでいるようだった。
列を見渡すと、一匹列の指揮をとっているらしいアリがいた。
驚かせないようにそっと近づく。
「あの、すみません。」
アリが驚いて振り返る。
「あれ?君はどこかで…いやでも…。」
指揮官らしいアリはなにやらブツブツと呟き始めた。
しばらく独り言が続きそうだったのでもう一度声をかける。
「あの!」
「あぁ、申し訳ないね。それで何か用かな?」
「実は旅をしているのだけど、道に迷ってしまった上にまだここに来たばかりで夜を越すのは初めてで…。」
我ながら図々しいと恥ずかしくなってくる。
最後の方は聞き取れたかもわからない小さな声になってしまった。
「困っているんだね。それなら私達に任せてくれ!今、いつかの恩返しをさせてもらおう。」
いつかの恩返し?アリなんて助けたことがあっただろうか。
その事は思い出せそうにないが助けてもらえるなら願ったり叶ったりだ。
親切なアリは自分達の住処まで案内してくれた。
そこは木の根が窪んで小さな洞窟のようになっており、その奥に穴があるようだった。
「君は体が大きいから巣には入れないだろう。だがここは安全だから安心してくれ。」
元のサイズからかなり小さくなった体とはいえ蝶々やてんとう虫、アリからすれば私はまだ大きな生き物だった。
そんなことを考えているあいだにアリ達はせっせと巣の近くに柔らかい葉や花でベッドを作ってくれていた。
「また明日の朝くるよ、夜はたくさん見張りが立っているから安心して眠るといい。」
アリはペコリと頭を下げて巣に入っていった。
完成したばかりのベッドに寝転んでみる。
柔らかい草や花が暖かく体を包み込み、段々と眠くなっていった。
深く春の匂いを吸い込む。
そのまま私は意識を手放した。




