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第3章 第1話

 第三章 卓球より素敵なショーはない



 まさか、お兄ちゃんの卓球部でそんなキテレツな事件が起きるなんて……


「ねえ桜っち知ってる? 卓球部に凄い女子が入ったって!」


 朝、教室へ入るなり寄って来た沙耶さやっち。

「えっ、知らないけど、凄い女子って全国レベルの子とか?」

「違う違う。卓球自体は初心者らしいんだけど……」


 彼女は面白そうに表情を崩して。


「服装が凄いんだって。卓球って練習の時は体操服か卓球ウェアを着るじゃない? だけど彼女はピンクのテニスウェアで現れるんだって!」

「はいっ?」


「今、放課後の体育館は彼女のファッションショーなんだって!」

「はいっ??」


 わたしには理解出来なかった。

 最近の卓球ウェアはそこそこ可愛いのがあるとは知ってる。だけどパンツはほとんどだっさいのばかりだし、スカートがあっても??だし。そもそも卓球の公式戦って指定のウェアじゃないと出られないから自由な選択はできないはずだし、背中のゼッケンも指定なのにテニスウェアとか有り得ない!


「すっごい物議をかもしたらしいんだけど、何て言ったっけ男子の、卓球強い人、えっと……」

一輪いちわ先輩?」

「そうそう一輪さん。その人の一声で練習だけならいいんじゃない、ってなったらしいのよ…… って桜っちどうしてその人の名前知ってるの?」

「あ、いや、中学の先輩だったから」


 一輪先輩は優しいから気にしないと思うけど、それはダメなんじゃない!


「と言うわけで、今日の放課後体育館に取材に行くんだ」

「ねえ沙耶っち、わたしも見に行っていいかな?」

「えっ? 別にいいけど……」


          ◆ ◆ ◆


 放課後、ホームルームが終わるなり沙耶っちと体育館に出向いた。

 ホームルームが長引いたせいか、体育館では男子バスケと女子バレー、それに体操部が練習を始めていた。


「あれっ、どうした桜子?」


 振り向くとお兄ちゃんが卓球台を出していて一緒にいるのは一輪先輩。わたしを見ると微笑んでくれた。


「今日の主役は彼女なんだ。紹介するね、こちら新聞部の山中沙耶さん」


 彼女はふたりに挨拶をすると今日来た理由を話し始めた。


「と言うわけで、華やかになった卓球部を取材しに来たんですっ!」

「別に、着るものを自由にしただけで、練習内容は変わらないよ」


 しかし一輪先輩もお兄ちゃんも、全く気にも留めていない。


「取材には協力するよ、何かあったら言ってね」


 手を振って練習準備に戻るふたり。

 わたしたちはぽつんと体育館の隅に立ち、その女子の登場を待つ。


「しかし桜っちってばお兄さんとそっくりだね、見た瞬間分かったよ」

「そんなに?」

目許めもととかそっくりだよっ! あと笑ったらドッペルちゃん!」


 何か複雑な気持ちだな、よく言われるけど。

 やがて、女子も練習の準備を始めた。


 しかし……


「すごいね桜っち! 卓球ってファッショナブルなスポーツなのね!」

「いや、そんなはずは……」


 倉庫から卓球台を出してくる女子達はみなテニスウェアを着ていたり愛らしいプリントTシャツのスポーツウェアを着ていたり。って、いやいや、それもはや卓球部じゃないでしょ! 何か話が違わない?


 沙耶っちも首を傾げる。


「おかしいわね。聞いた話じゃ六条院ろくじょういんさんって新入生がテニスウェアを着てるだけのはずなんだけど……」

「ねえねえ沙耶っち、あれ見て!」


 目が釘付けになった。現れたのはチアの格好をした女子。麻色の髪をピンクの髪留めでまとめた目鼻立ちハッキリの綺麗系。卓球台を出しているから卓球部なのだろうけど……


「うわっ! 何あれ、チア? ちょっとないわ~!」


 さすがの沙耶っちも驚いている。


 やがて。

 総勢6人の卓球部女子は男子と少し離れた場所で練習を始める。


「完全にファッションショー状態ね」


 沙耶っちが呟く通りそれはわたしの常識にある卓球部の練習風情じゃない。ハイソなスポーツクラブでピンポンを楽しむお嬢さま方、といったおもむきだ。そしてチアの格好をした約一名はその中でも完全にぶっ飛んでいて。


「彼女が六条院さん、六条院春花はるかさん」


 練習を抜けてやってきたお兄ちゃんがチア姿の人に視線を向ける。


「あの、情報ではその六条院さんがピンクのテニスウェアを着て練習してるって聞いたんですけど」

「ああ、確かに昨日まではそうだったけど……」


 お兄ちゃんの話によると。

 テニスクラブに通っている六条院さんは卓球部に入部するなりテニスウェアで練習したいと申し出たそうだ。女子の八坂やさかキャプテンは体操服で、と説得したけど部活で使ったら毎日洗濯しなくちゃだし体育のある日は二回着ることになるし、何より北ヶ丘の体操服はダサイと言う彼女のわがままに、一輪先輩と相談して、それならユニフォームが出来てくるまで、ってことでOKしたらしい。


 しかし、いざ彼女がテニスウェアで練習を始めると体育館の雰囲気がガラッと変わったって言う。


「見ての通り体育館の中でピンクのテニスウェアって超目立つんだよね。それでなくても彼女ってキラキラって感じだろ、だから注目集めまくってさ……」

 バスケ部やバレー部、体操部の野郎達の注目を一身に集めた彼女。勿論それは卓球部男子も例外ではなく。他の卓球女子たちも「練習なんだから別に何を着たって関係ないよねっ」って話になったらしい。


「一輪もあんな性格だろ? 「いいんじゃないか服装なんて、楽しそうだし」なんて言ったもんだから今日の卓球女子はみんなこぞってファッションショー状態って訳さ。しっかし凄いな」


 練習する女子を見渡しながらお兄ちゃんの鼻の下が伸びる。


「だからってチアはないでしょ、チアは!」

「ははっ。桜子は真面目だな。僕は気にしないけどな」


 お兄ちゃんってば甘過ぎだよ。りんごとハチミツがとろ~り溶けてるよ。さっきから見てると六条院って子はチアのカッコしてチラチラ一輪先輩を見てるじゃない! 完全に挑発してるじゃない! 大好きオーラ出しまくりじゃないっ! まあ一輪先輩は完全無欠にスルーしてるけど。


 と、その一輪先輩がこっちに来た。


「新聞部に取材されるなんて光栄だな。この前僕らが団体ベスト4になっても取材なかったのに」

「あっ、ごめんなさい! 今度からちゃんと取材しますっ!」

「いやいいよ、気楽な方がいいし」


 屈託なく笑う一輪先輩は昔と変わらず、いや中学時代よりもっとかっこいい……

 って、ふと見るとあのチア女、こっち睨んでる。


「ねえ一輪先輩は構わないんですか、こんな状態」

「ああ女子部のことね。いいんじゃない、それでやる気出るんなら。実際俄然張り切ってる男子もいるからな。それより文芸部に入ったんだって」

「あっ、えっ、わたしですか。はい」

「そっかあ…… もう見られないんだ、桜子さんの消えるスマッシュ!」

「あ、あれは単なる空振りですっ!」

「ははっ、知ってるよ。じゃ翔夜、練習戻ろうか!」

「そうだな、じゃあな桜子」


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