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やってきたのは異世界人  作者: 如月 玲
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落ちてきたお兄さん

思いつきで始めた逆トリップ物ですが、暇つぶしにどうぞ。初めはギャグなどないですがお許しください。

「別れよう」


 キラキラ光り輝く綺麗なレストラン。目の前にはあまり手つかずの料理を放置して、私こと蓮見はすみ 美琴みことは目の前の男に水をぶっかけてレストランを飛び出した。


「最悪」


 三年という付き合いはそれなりに楽しかった。別に喧嘩もあんまりなかった。

 そんな私たちの別れの理由はただ一つ。


―俺、看護師をしていたお前が好きだったんだ


「それは、私じゃなくて看護師が好きだったんでしょーが!」


 ガンっと買ってきたヤケ酒のビールをテーブルに叩きつける。今にして思えば出会った合コンでも、他にかわいい子もいたのに看護師と告げてから私に話かけてきたように思う。あの時はちょっと、いや、かなり舞い上がって気づかなかった自分を殴ってやりたい。


 看護師をやめたのだって、別に嫌でやめたわけじゃない。看護師の職業病ともいえる腰痛がひどくなってドクターストップがかかったのだ。24歳と言う若さで腰痛?と思うかもしれないけど、寝たきりの患者さんにはそれなりに力が必要だったりする。


 ガラッとベランダに通じる扉を開けて空気の入れ替えをする。涼しい風が部屋へと入ってくる。目の前には珍しい紅い満月が夜空を彩っていた。


「気持ちいい」


 怒りとお酒で火照った頬を風が撫ぜる。それと一緒にツーッと頬を伝わる何かを手で拭く。その時、カツンと当たるそれに気づき指を見る。


「しまった、これも投げつけてくるべきだった」


 一年前にお揃いで買った指輪は自己主張するかのように私の指でキラキラ輝いていた。物に罪はないというが、奴を思い出させるこの指輪に罪が全くないとは言わせない。


「消えてなくなれ!」


 シュッと投げたそれは放物線を描いて十五階のベランダから地上へと落ちて行った。


“ドンッ”


「はっ!?」


 よし、満足満足と呑気にお酒をあおった瞬間、大きな物音に体をビクッとさせる。一瞬指輪が戻ってきた!?とホラーなことを思ったけど、いやいや、違う違うと私は音がした部屋の方を向く。そこは寝室で別段何か落ちそうな物を置いていない。一人暮らしだから誰かいるわけもない。いてもらっても困る。


 ちょっと勘弁してよ。泥棒とか?と嫌な予感しかしない。取り合えずスマホと武器になりそうなスティッククリーナーを握りしめる。どこの世の中に掃除機を武器にする奴がいるのかって?そんな常識捨ててしまったらいい。


 なるべく物音を出さず歩く。まさかこんな所で夜勤の時の巡回のスキルが役立つとは私も思っても見なかったわ。

 

 カチャと最小限の音をさせ、そっと扉を開く。中はベッドと鏡台、そして小物を置く小さな棚という最小限の物しかない。見た感じ誰もいないから勘違い?と中へ入ろうと一歩踏み込んだ瞬間。


「うっ!」


 小さな男の唸り声にビクッと肩が上がる。ちょっと待った。本当に誰かいるなんて聞いてない。本当に泥棒なわけ?と握るクリーナーに力が入る。


「って、唸り声?」


 たまに病室で聞くその声にハテと首を傾げる。罠?とも思ったけど、罠を仕掛ける意味も浮かばない。まぁ、罠だった時はその時かとさっきの慎重さはどこへやらスタスタ中へ入る。ベッドの手前にいないということは反対側かとベッドを上り反対側へと向かった。ちなみに、クリーナーは右手にスタンバイ万端だ。


「えっと……、ここはキャーッと言うべき?」


 いやいや、そんな乙女な部分私には皆無だろう?と自分に返事をし自己嫌悪。そりゃそうだ。驚いた所でぎゃーとしか叫んだことしかない。というか、この世の中にキャーと叫ぶ女が一体何人いるんだろ?と場違いなことを思ってしまう。


「で、お兄さん大丈夫?」


 金髪の髪を床に撒き散らせ整った顔を歪ませている美形さん。歪ませている原因はこの何だ?西欧?ファンタジー?みたいなのに出て来そうな防具からのびる腕から出ている血が原因だろう。元々白い頬がドクドクと止まらない血とともに色を失っていく。


「って、呑気なこと言ってられないか」


 止血、止血とお兄さんの腕を触ろうとした瞬間、お兄さんの体が動き、さっと首筋に何か冷たい物を当てられた。


「何者だ。……動けば殺す」


“ガツンッ”


「動いて死ぬのはあんただっての!」


 バタンッと力尽きた所を確認してクリーナーを放り投げる。まさかの使い方だったが仕方ないだろう。カランと音を立ててお兄さんの手から落ちたのは刃渡り何十センチだ!?と驚かされるナイフだった。


「本当に何者よ」


 一瞬見た瞳の色は綺麗な藍色で、発した言葉は日本語。意味わかんないとナイフを使いながら服を破る私は非常識なんだろう。重そうな防具をやっとこさ脱がせインナーであろう血で汚れた服を破り傷を見る。


 縫うほどではないか


 けど、深い傷に手持ちの物を酷使し止血していく。とりあえず止まったことを確認して、床に腰を落ち着かせた。


「それにしても、顔だけじゃなくて何とも良い体してるじゃない」


 引き締まった体についつい見とれる私をおっさんと呼ばないでもらいたい。世の女性ならこの気持ちを誰かわかってくれるはずだ。


 さすがに風邪を引かせてしまうとクローゼットを開き中からあの男が置いていった前開きのシャツを取り出す。捨てる手間が省けて良かった。


「問題はここからか」


 怪我人を床に寝ころばせておくほど薄情ではない。けど、気絶している大の男を持ち上げるのがどれだけ大変なことか。とりあえず、コロコロ体を転がして服を着せる。どうやらこのお兄さんにとって少し横が大きいらしいそれをすんなり着せることに成功した。


「あとは…」


 ベッドまで数十センチ。そのわずか十センチが私を苦しめる。


「ええい!女は度胸だ!」


 えいやっと掛け声とは裏腹に汗まみれになりながら数十分かけてベッドに運んだ私の腰はガタガタだ。鎮痛剤が欲しい。


「はぁ、これからどうするのよ。私」


 いったいいつ何のフラグが立ったのかはわからないが、変なフラグが立ったのは間違いないだろう。


「もう、どうにでもなれ」


 美形な不審人物を見ながら精神的にも体力的にも力尽きた私の意識はその場でブラックアウトした。

ありがとうございました。


*8/7誤字修正

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