45話 ~第二章 LAST~
目の前には騎士、向こうもとっくに気が付いて準備万端待ち構えているのが分かる。
待たせて悪かったな。
心の中でひとつ謝罪して、そのまま突き進む。
「ウオラァーーーーーーー!!」
まず準之介が選択した攻撃方法は「突き」だった。
突進の勢いをそのまま乗せ、一直線に刺し穿つ。これまでの壮絶な鍛錬と実戦で磨き上げた渾身の一撃だ。相手の剣よりも錆丸の方が長い。したがって突きは確実な先制攻撃となる。
「グォ!」
だが、それは騎士の剣によってあっけなく払われた。
――いける。
準之介は確信した。防がれはしたものの、衝撃で相手の体勢が明らかに崩れていたからだ。
「錆丸、少し縮んでくれ」
指示に応じ、錆丸の長さが敵の剣とほぼ同等になる。
「フオー!」
フルプレートアーマーの騎士が上段から振り下ろした大剣を、正面からしっかりと受け止める。
いける、間違いなくいけるぞ。
最初に対峙した時には恐怖すら覚えた凶悪なスピードとキレ。それが今の準之介にとっては、決して余裕とはいえないまでも、余裕を持って見切り、受け止められる領域になっていた。
「フオー!」
雄叫びとともに繰り出される怒濤の連続攻撃。その全てを錆丸の刃で力強く受け止める。五百個もの魔石を喰らい、見違えるほど頑強になった肉体は、一歩も退くことなく衝撃に耐え切っていた。
受ける、受ける、受ける――。
準之介はあえて自ら打って出ず、徹底して「受け」に徹した。
カツジから継承した特殊スキル『成らぬ堪忍するが堪忍』。
敵の攻撃を受ければ受けるほど、内部の魔力が爆発的に増幅されていく能力だ。
今回の戦いにあたり、準之介は明確な立ち回りを組み立てていた。まず間合いの外から渾身の一撃を放って手応えを測り、いけると判断したら一気に距離を詰めて攻撃を受け止める。
体内で猛烈に魔力が膨れ上がっていくのが手に取るように分かった。
準之介はその高まる魔力を引き出し、錆丸へ流し込む量を引き上げていく。今まではただ闇雲に剣を振り回すだけだったが、レベル上げの最中にこうした魔力操作の術も会得していたのだ。
効果は一目瞭然だった。受け止める度に響いていた衝撃が、あからさまに軽くなっていく。
「フオガーーーーー!」
己の猛攻が一切通用しない焦りからか、騎士は今まで以上に大きく剣を振りかぶり、一撃のもとに切り伏せようとした。
その絶好の隙を、準之介は見逃さなかった。
「うぉらーーーー!!」
溜め込んだ莫大な魔力を一気に解放する。
薙ぎ払われた錆丸の刃が、寸分の狂いもない一直線の軌道を描いた。キン、と澄んだ切断音が響く。フルプレートアーマーの騎士の腕の付け根、そして強固な兜ごと首が鮮やかに両断された。
それぞれの部位が重々しい音を立てて床に転がり落ちる。
「っしゃー!!!」
準之介は拳を握り締め、胸の空くような大ガッツポーズを決めた。かつては絶望的な力の差を感じ、逃げ出すことしかできなかった宿敵。それを今、己の手で完璧に叩き潰したのだ。
「やったぞーーーー!!!」
背後で固唾を飲んで戦況を見守っていたカツジの幽霊へ向け、高く拳を突き上げる。
「よくやった、よくやってくれたな……ありがとう、ジュン……!」
カツジもまた、溢れんばかりの笑みを浮かべながら力強く拳を突き返した。
「よっしゃーー!! よっしゃーーー!!!!」
全身の血が湧き立つような、痺れるほどの圧倒的な達成感が準之介を満たしていく。
友情、努力、勝利――。
大人になり、社会に揉まれる中でいつの間にか遠ざかっていた言葉たち。それが今、この異世界でゴブリンとして泥臭く生き抜く中で、眩いばかりの輝きを伴って戻ってきたのだ。
《条件を満たしました。あなたは進化します》
余韻に浸る準之介の頭の中に、静かで無機質な声が鳴り響いた。




