episode:3 スキー 前編
千代田は休憩室でコーヒーを淹れていた。そこへ柳が笑顔で近づいてきた。このときすでに14体が仕留められていた。
「なぁ、千代田。明日暇か?」
千代田はコーヒーを片手に持って机に腰をつけた。
「暇だよ」
「明日、スキー行こうぜ」
「どしたの? 急に」
「友達が話しててさ、やってみたいなと思って」
千代田はコーヒーを飲んだ。コーヒーの匂いが部屋に漂う。
「わかった。私も1回スキーしてみたいと思ってたし」
土曜、柳と千代田はバス停にいた。2人のほかに多くの人がバスを待っている。冬の冷たい空気は体の体温を徐々に奪っていく。
「バスまだかな〜」
千代田は小刻みに揺れながら言った。
「あ! きたぞ」
遠くから光るバスのライトが見えた。
バスが出発した。ガタガタ揺れる車内からたくさんの話し声が聞こえる。やがて、バスはスキー場に着いた。
柳はバスから降りたとき、雪山、ゴンドラ、スキーセンターを一望した。圧巻のスケールにテンションが上がる。千代田も同じだった。
2人はスキーセンターでゴンドラ券とスキーセットを借りて着替えた後ゴンドラ待ちの列に並んだ。
「楽しみだな」
「そうね、どっちも初心者なのが少し心配だけど」
「まぁなんとかなるだろ!」
「だといいけど」
ゴンドラがきて、2人は乗った。向かい側には男女が一組座った。ゴンドラが動き出した。みるみる高度が上がっていき晴天の空の下白い地表が太陽の光を反射して輝いている。
「すげーー!」
向かい側の男性が声を出した。隣にいる女性がはぁとため息をつく。男性は窓から景色を、目を輝かせながら見ていた。
4人は頂上に着いた。柳と千代田はそのまま初心者コースのところへ向かった。
「やっと滑れるな!」
「そうだね! 楽しくなってきたー」
「ところで千代田、どうやってこれ滑るんだ?」
「柳……」
柳は千代田から大体のノウハウを教えてもらい、初心者コースを滑った。滑り始めて10秒もしないうちにこけてしまった。千代田は意外とすんなり滑れた。千代田はそのまま行ってしまったので柳は一人置いていかれた。
「大丈夫ですか?」
柳が見上げるとさっきゴンドラに乗っていた女性が手を伸ばしていた。柳は女性の手をとり立ち上がった。
「ありがとうございます」
「いえいえ、さっき一緒にいらっしゃった方はどちらへ?」
「先に行ってしまいました。初めてだと言っていたのに……」
「私は経験者なのですが、さっきこけてしまって彼に置いていかれちゃいました」
「あっ彼といっても友達です」
女性はそう言って笑った。
日も暮れてきた頃、柳と千代田は麓にある宿に泊まった。
食堂に行き席に座ると、さっきの女性と男性にあった。
「あ、また会いましたね」
女性は微笑みながら言った。
「よく会いますね」
「よかったら座りますか?」
千代田は2人に聞いた。
柳はこっそりなぜそういったのか聞いた。千代田いわく彼女候補だと思ったらしい。
「そう言えばお名前は何というのですか?」
「私は音野明美といいます。彼は井口平二です」
「明美、この人たちは誰なのん?」
「さっき知り合ったの。同じゴンドラだったんだよ」
「あー! その節はども」
井口は頭をかきながら言った。
4人の会話は途切れることなく賑やかに続いた。
「で、明美は経験者のくせにすぐにこけたんだ。まさに猿と木から落ちるだな!」
井口は自信満々に言った。猿も、でしょと明美がツッコむと井口は顔を赤くして肩をすくめた。柳と千代田はそれを見て笑った。
「そろそろメニューを決めようか」
柳がメニュー表を手に取った。突然井口が立ち上がった。
「……お腹が痛くなってきた。ちょっとトイレに行ってします」
井口はトイレに駆け込んだ。そのまま帰ってこなかった。
佐原はモニターを見ていた。たまたま用事があって公安へ来たついでだ。すると、モニターに反応があった。エレアを検出したのだ。そこは、柳と千代田がいるスキー場だった。
柳がカレーを食べていると、彼のスマホがなった。佐原からだった。
「ごめんちょっと電話」
柳は席を外して廊下に行き電話に出た。
「はい。柳です」
「俺だ。エレアの反応が出た」
「どこですか?」
「お前たちのいるスキー場だ」
「え!?」
「探して可能なら駆除してくれ」
電話が切れた。そのとき、柳は奥にある部屋が空いているのが目に入った。そこへ行ってみると食糧庫だった。扉の壁にうっすら赤い液体が付いている。
(まさか……な)
柳は中へ入った。少し入ったとき、何かにつまずいて転んでしまった。
「いてて、ん?」
手にぬるぬるした何かがついたがそれが何か見えない。柳はまさかと思い匂いを嗅いだ。鉄の匂いだった。
(さっきつまずいたのは……誰かの死体か)
(エレアは自身だけでなく他のものも透明化できるのか!)
柳は一呼吸置いたあと戻った。そして、一旦戻ったあと残りのカレーを食べ、千代田が食べ終わったのを確認し
「明日もスキーだし、もうそろそろ行こうぜ千代田。じゃ」
柳は千代田を連れて食堂を出て柳の部屋に向かった。
「柳、一体どうしたの?」
「千代田、このスキー場にエレアがいる」
柳は千代田にさっきのことを伝えた。
「そういうわけで、誰が被害者かは分からない」
「なるほどね」
「1人、怪しいやつがいる……井口平二」
千代田は腕を組み、キリッとした目で柳に言った。柳はまじまじと千代田を見つめ、苦笑した。
「千代田、それは早とちりすぎだって」
「日本語が不自然だったし、なにより食事のときにトイレに行ったまま帰ってこなかった、怪しいでしょ?」
「だからっていきなりくってかかるのはなぁ」
千代田は部屋から出た。そして、ロビーに行き井口の部屋をきき、そこへ向かった。柳は呆れながらも渋々ついて行った。
井口の部屋を2人は物色した。たしかに部屋に食料らしきものはなかった。
「彼がエレアね」
「おいおい、まだそうと決まったわけじゃないぞ」
千代田は不満げに柳を見た。柳はその視線に耐えきれなくなり視線を逸らした。そのとき井口が部屋に戻ってきた。
「あれ? なんでこの部屋に?」
「ちょうど良かった。ちょっと部屋に入ってくれる?」
千代田は井口の背中を押して部屋に入れたあと扉を閉めた。
「あのー、これは一体?」
訳が分からず困惑している井口に千代田は黙ってフォンブラスターを向けた。さすがに柳は止めに入った。
「それは‥‥銃か……」
「おい千代田やりすぎだ」
「あなたがエレアね。白状したほうがいいわよ」
井口は手を挙げたまま首を傾げた。
「えれあ? なんのことだ?」
「しらを切る気? いいわ」
「おい千代田!」
千代田は井口の左の頬を数センチかする程度にフォンブラスターを撃った。柳はあまりに突然のことでとっさに動けなかった。井口は手を挙げたまま固まった。左の頬の切れた皮膚から血が滴り落ちる。千代田はその光景を見て引き金から指を離した。井口は汗をかきはじめ、息が上がった。殺されると思ったのだろう、大声で半狂乱に叫んだ。
「こ、この部屋から出ていけーー!!」
柳は千代田を連れ部屋を出た。しばらく歩いたあと、柳は千代田の手を乱暴に振りほどき詰め寄るような口調で言った。
「なんだ、さっきのは。人を殺すところだったぞ!」
「ちゃんと狙って当てたのよ。でも、血が出てたね」
「はぁ、そうだな。明日も早いし、また明日考えよう」
エレアの擬態の目的が自身の生存だとすれば、これ以上被害は出ないはずだ。柳はそう考えていた。
午後11時、ベッドで寝ていた柳は扉がぎしぎしとゆっくり開く音で気がついた。
「なん……だ」
目の前にいたのはエレアだった。エレアは右手を振り上げた。柳は左に転がりベッドから落ちた。ベッドに穴が開いていた。
(エレアはどこだ……)
突如柳は首を絞められ宙に浮いた。エレアは透明化して襲ってきたのだ。柳の首がだんだんきつくなっていく。柳は苦しみゆえ足をばたつかせた。
(だめか……)
足の力が抜け動かなくなった。
「柳!」
青白い光が柳の目の前を飛んでいった。柳は床に落ち、激しく咳込んだ。千代田は柳のところへ走ってきた。
「大丈夫? けがはない?」
「やつ‥‥を……」
エレアは姿を現し扉から出ていった。柳は自分のフォンブラスターを手に取った。すると女性の悲鳴が聞こえた。千代田はフォンブラスターを構えながら扉から出た。すると、向かいの部屋から音野が裸足でバスタオルを巻きながら廊下の床に座り込んでいた。
千代田は音野に駆け寄った。
「どうしたの」
「く、黒い化け物が‥‥あっちに……」
音野は怯えながら震えた声でそう言い、1階へとつづく階段を指さした。
「わかった」
千代田は1階へおりた。しかし、エレアは見当たらなかった。
(逃げられた)
千代田はフォンブラスターをしまった。その後柳と千代田 はエレアを探したが、ついに見つからなかった。
その後2人は部屋にもどり朝を迎えた。午前7時に柳は起床した。さっき襲われてからまた襲ってくることはなぜかなかった。
次回は5月9日18時に公開です。




