episode:1 異邦人 前編
2016年1月中旬
警察である柳正一と同じく警察の千代田久美はこの日からあるところへ異動となった。今日は初出勤である。二人は今年警察へ入った同期組だ。
柳と千代田は警視庁公安部へ歩いて向かっていた。柳は黒髪で、スーツの上に青色で無地のウィンドブレーカーを着ている。一方千代田は薄い茶髪のロングヘアー、そしてスーツ姿だ。
「千代田、俺たちは一体なぜここへいきなり異動になったんだろうな」
「わからない。けど、私は出世したって感じがしてちょっとうれしいな〜」
千代田は前を見ながら目を細めた。柳はふぅんと言いながら腕を頭の後ろで組んで歩いている。
「てか、なんでウィンドブレーカーなの?」
柳は声を荒げて言った。
「俺はこれがトレードマークなんだよ!」
「そ〜ですか」
やがて二人はそこについた。ドアをコンコンと叩き、部屋に入った。
「失礼します」
そこには、黒髪の40代ほどの男性が椅子に座っていた。その男性は2人を見て手を組みながら言った。
「私は佐原真司。今日から君たちにはECITに入ってもらう」
「ECIT?」
柳がキョトンとしながら言った。
「ECITとは、Erea Countermeasures Investigation Team
つまり、エレア対策捜査班のことよ」
30代ほどの女性が歩いてきた。
「私は江西春。そうだなぁ、春さんとでも呼んでね」
「よろしくお願いします」
千代田は頭を下げた。
「ところで、エレアとは?」
春はエレアについて説明を始めた。
エレアとは地球外生命体のことだ。
エレアは2015年12月に30体ほどが日本へ飛来したことが確認されたが既に9体は排除されている。
警察はエレアに本格的に対応するため秘密裏に結成されたのだ。目的はすべてのエレアの排除である。
「えぇっとつまり、俺たちはこれからその宇宙人? と戦うということですか?」
柳は困惑しながら確認のため言った。
それに春は目を閉じながら頷いた。
千代田も少なからず動揺している。
「じゃあ、どうやって戦うんですか? 銃ですか?」
柳は頭を掻きながら言った。佐原は春を呼んだ。
「これを使うの」
春は手帳型のスマートフォンを2人に見せた。
「スマホ?」
春はスマホにあるガンというアプリを開いた。すると、スマホから銃の持ち手と引き金のような部分が現れ、照準器が出てきた。
「銃に……なった」
柳は口をぽかんと開けた。千代田も口は開けなかったが目を見開いていた。
「これはフォンブラスターというの。引き金をひくとビームが出るわ。そのビームでエレアを倒すの。もちろんスマホとしても使えるわ」
「エレアに通常兵器は効かないからな。そのビームは通常兵器の数百倍の威力がある。人間なら一発で即死だ」
「あ、でも雨や雪の日は使えないから気をつけてね」
「最後に一つだけいいですか?」
千代田は小さく右手を挙げた。
「あぁ、何だ?」
「なぜ私たちが選ばれたのですか?」
「君たちの射撃の腕と警察としての能力を見込んでだ」
「ありがとうございます」
千代田が少しだけ頭を下げた。
「俺が班長で、春が副班長を務める。改めてこれからよろしく」
柳はとりあえず頭を下げた。
それから、柳と千代田にフォンブラスターが与えられた。今2人が持っているスマホのデータを全てフォンブラスターへ移した。情報漏洩対策だ。
フォンブラスターはスマホの機能も含め全ての機能が特殊な回線で行われる。連絡などもその回線を通して行うためどれだけ一般通話が混雑していてもスムーズに連絡が取れる。しかし、その回線が切れるとネットはおろかブラスター機能さえ使えなくなってしまう。
2人がデータ移送を終えたあと、捜査室へ案内された。中には巨大なモニターが3つと、パソコンが5台、机と椅子があり、右奥には休憩室がある。休憩室にはお菓子やコーヒーメーカー、冷蔵庫がある。
2人が周りをキョロキョロと見ていると、佐原が歩いてきた。
「早速だが捜査だ」
佐原はモニターをつけた。
そこにはある工場の従業員6名の男女が映し出された。
「この中にエレアがいる」
柳は6人の顔を見たあと佐原に問いかけた。
「エレアって、人間のような見た目なんですか?」
「エレアは2つの能力を持っている。一つは人間を殺害し、その姿に擬態することだ。つまり、この中の誰かになりすましている。もう一つは姿を透明化することだ。これをされると厄介だからできればその前に倒したい」
「へぇ、つまりこの6人の中からエレアを探し出して倒せばいいということですか」
「そうだ」
「エレアは特殊な電波を身体から発していて、ある程度エレアがどこにいるかは分かる。だが正確に誰かは分からないのだ」
千代田は春に見極める方法があるのかと聞いた。
「エレアは自身で栄養を作れるから食事をとらない。そして、食べ物に嫌悪感を持つのよ。そこが唯一エレアか人か見分ける方法ね」
春はそう言っていつの間にか取ってきたチョコを口に入れた。
「なぜそこまでエレアの情報がわかっているのですか?」
「この前生け捕りにした奴が喋ったんだ。そして、エレアは互いに生存確率を少しでも上げるために群れないらしいわ。それだけしか情報はない」
「そいつもほかのエレアはどこにいるのか知らないみたいだし、最終的に排除されたわ」
春は時計を見た。11時半を回っていた。
「それじゃあ尾行開始ね。柳くん、千代田ちゃん、ついてきて」
「あ、久美で大丈夫です」
3人は捜査室をあとにした。
3人は車のなかでまず男性を尾行することにした。
もしも彼が食事を1日1回もしなければ、エレアと断定できる。
「なんでこれ食べてくださいとか言わないんですか?」
柳の問いに春は答えた。
「もしもあの人が白で、その事を職場で話されたらエレアが逃げてしまうからよ」
「なるほど」
「……少し暇だけど頑張ろうね」
昼になり、男性は弁当を持ってほか2人の男女と仲良さそうに食べ始めた。そこをまた別の男性が歩いていった。
「彼ら3人は白ですね」
千代田はそう口にした。
「そうね。今日のところは退散だ」
春は車を動かそうとしたとき、春は車を止めた。
「春さんどうかしました?」
柳は車を止めたことを不思議に思い聞いた。
「ちょっと行ってくる。それもらうね」
「あ、ちょっと……」
春は柳からパンをとり車から降りた。そして、すれ違った男性の元へ歩いた。
「すみません」
男性は振り返った。一瞬眉間にしわが寄った。
「あのー、お昼食べました?」
「いえ、まだ……」
「その、もしよかったらこのパン一緒に食べませんか?」
「……俺は弁当があるので、失礼します」
男性は足早に去っていった。春は柳たちのいる車に戻った。
春は車に戻るやいなやふたりを見ながらにっと笑いエレアは彼だと言った。
「なぜそう言えるのですか」
千代田の質問に春は陽気に答えた。
「さっき3人組とすれ違った時にやつの顔が一瞬歪んだの。そこで、柳くんのパンを見せてみたら案の定眉間にしわを寄せた。食べ物に嫌悪感があるのよ」
「ま、嫌悪感を持たない個体もたまにいるけどね」
なるほど、と柳は頷いた。
「そうと決まればやつを追うしかないな!」
柳は車を降りた。続いて2人も降りた。
「2人とも、スマホにあるGUNというアプリを押して」
柳はスマホの画面を見た。右上にGUNと書かれた赤いアイコンのアプリがあった。それを押すとスマホの下から右上へ銃の持ち手と引き金のようなものがウィィンと機械音を鳴らしながら現れ、さらにスマホの左下から照準器が出てきた。千代田はびっくりして危うくスマホを落としかけた。
「すげぇ、近未来感あるなこれ」
柳はこの機能に深く感心していた。
行くよという春の掛け声とともに、2人はフォンブラスターを持って歩き出した。しかし、その男性の姿が見当たらなかった。
「あれ? どこいった?」
春はぞっとしながら言った。
「2人とも気をつけて。もしかしたらやつは既に透明化しているかも」
3人は顔を見合わせて互いの背中をくっつけてフォンブラスターを構えた。
しばらくの間フォンブラスターを構えたまま立っていたが、やがて春はフォンブラスターを降ろした。
「攻撃してこないということは、逃げたな」
「柳くん、久美ちゃん、別れて探すよ。まだ遠くへは行っていないはず。後ろに気をつけてね」
3人は別れて走り出した。
次回は4月25日18時に公開です。




