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プロローグ

太陽系を大きな楕円軌道を描いていた我々の星は、高度な文明が繁栄し

人々は幸福な生活を享受していた。

と言っても、それは我々の歴史で120年程前までの話だ。

物質文明の繁栄を享受していた我々が、愚かにも資源を採掘し尽くした為

環境の変化が起こり、星そのものが死に向かって行った。

幸いにも丁度その頃、我々の星の軌道は、太陽系第三惑星に最接近したのである。

この機を逃すまいと、当時の科学者達数十名が第三惑星へと赴き

星の再生に必要な資源である金属を採掘しようとしたのであった。


科学者達は、金属の採掘に必要な労働力として、第三惑星の生命体に

遺伝子操作を施して創り上げる事にしたという……。

生命体の創造の過程で、いくつかの失敗作も出来てしまったらしいが

最終的に、猿人に我々のDNAを組み込む事で、一応の成果を得た科学者達は

最低限の文明を与え使役する事にしたのである。

それでも、すぐに使役出来る訳もなく、暫くは新しく創造した生命体に教育を施しつつ、 個体数を増やす事に専念せざるを得なかった。

第三惑星の一年は、我々の星とは比較にならない程短かったが、それでも長命な個体は この星の80年程を生きる事が出来た。

我々の平均寿命も80年程なので、比率としては同じ位の感覚だ。

もっとも、我々の星が太陽を一周するのは、第三惑星の3,600倍程の時間を要する。

つまり我々の1年は第三惑星の3,600年に相当するのだ。

この星の基準に合わせると、我々の平均寿命は、288,000年程という事になる。

その様な理由から、科学者達は老いる姿を見せる事なく、創造した生命体の数世代を 管理していた。

やがて、シュメールの民と名付けられた生命体は、科学者達をアヌンナキと呼び、 神と崇める様になっていった。


そんな折、我々の星は別の星系からの宣戦布告を受け、戦争状態に突入する。

資源採掘どころでは無くなった科学者達の殆どは、第三惑星を離れ我々の星に帰還した。

戦争はそれから何年も続くのだが、私が生まれたのはその頃だ。

幼い頃から戦闘訓練で稀有な成績を残し、勇者候補として専門機関で教育を受けた私は その過程で高度な戦闘技術を習得し、身体機能を大幅に上昇させる遺伝子操作も受けた。

その後、勇者として最前線で活動し、戦果を挙げる度に我々の星での知名度を上げる事に なったのだ。


好むと好まざるとにかかわらず、次第に英雄扱いをされていく私は、正直なところ 疲れていた。

肉体的にはそれ程疲れていた訳ではない。

我々の身体強化技術はこの宇宙でも特異なものであり、それを受けた私の身体は 異常とも言える運動能力を発揮した。

その能力を発揮する為に強化されたのは、身体だけではない。

最重要とされるのは、脳の情報処理速度を飛躍的に高める技術だ。

強化された身体を最速かつ最適に操作するには、情報処理速度のアップは必須である。

私の場合、通常の3,000倍程に上げられている。

そして、情報処理速度が上がった分、情報解析能力も精密になり、一度に処理する 情報量も飛躍的に増大した。

それが私の疲れの原因だ。


そして、その特異な遺伝子操作技術を欲した他の星から侵略戦争を仕掛けられたのが 我々の星ニビルなのだ。

まあ、欲しかった技術を得た者に撃退されるというのは、相手にとっては皮肉な事で あろうと思うが。


そして戦争末期。

いい加減疲れ切っていた私は、ある作戦を実行に移す事にした。

勿論、ニビルにも軍隊という概念は有り、それは主に集団での戦闘に従事する組織だ。

ところが、身体能力も情報処理能力も規格外となってしまった私は、集団での戦闘行動には 不向きである。

不向きどころか不可能と言って良いだろう。

何せ素手で宇宙船の外殻を破壊出来るパワーと、ミサイルの直撃にも耐え得るという身体装甲、それに加え、3,000倍の情報処理速度がもたらす、異常な移動速度。

軍は私の動きに追従出来ず、私としても友軍の脆弱かつ緩慢な作戦行動には

参画出来なかった。


集団での戦闘行為に従事するより、単独で動いた方が遥かに効率が良いのだ。

ああ、ミサイルの直撃にも平気と言ったが、ミサイルや弾丸の直撃を受けるのは 避けている。

音速の7倍程度で飛んでくる物体を避けるのは簡単であるというのが理由の一つだが 一番大きい理由は、服が勿体ないからである。

私の身体は平気でも、流石にミサイルの直撃に耐えられる戦闘服は開発されていないのだ。


疲れ切った私にとって、最後の軍事行動だ。

敵主力艦隊を相手に、単独での殲滅戦。

これが成功すれば、相手の軍は撤退を余儀なくされるはずだ。

まあ、撤退出来る程の宇宙船が残っていればの話だが。

私としては殲滅戦なので、一機も残さないつもりである。

とは言え、旗艦とその護衛艦隊やそこから発進してくる戦闘機を、いちいち相手に していたのでは殲滅するのに時間が掛かり過ぎる。

隠密裏に艦隊の中央に位置する旗艦に侵入し、その動力炉を爆破すれば

周囲の護衛艦隊諸共消滅する程のエネルギーが発生するはずである。

味方の軍を爆発に巻き込まない為というよりも、敵艦隊に探知され警戒態勢を取られる事を 避ける為、司令部には作戦空域への接近を禁じる様、概要を伝えておく。


殲滅作戦の概要はこうだ。

原則として、私の単独行動で、随員またはサポート隊は存在しない。

武装は一振りの剣と超小型核爆弾のみ。

ジェット推進機能を持ったバックパックを背負い、光学迷彩を駆使して、レーダーにも目視にも 捕捉され辛い状態で、敵艦隊の中心へ進む。

限りなく中心に近い空域に位置していれば、それが旗艦であるかどうかは

大した問題ではない。

ターゲットとした敵艦に入り込み、エンジン部に近いと思われるエネルギータンクに核爆弾をセット。

かなりの高確率で、水素を燃料としているので、エネルギータンクで核爆発を起こせば 半径1,000㎞程度に存在する物質は消滅する。

つまり、艦隊の中心近くに位置する艦艇を爆破すれば良いだけだ。


艦艇への侵入は、私にとっては容易い「作業」に過ぎない。

バックパックで高速飛翔して、艦艇に取り付いたら、あとは素手で外殻を破壊して 侵入するだけなのだ。

侵入してしまえば、探知・発見されたところで困りはしない。

敵は自艦内では重火器は使用出来ないし、対人戦闘ともなれば、一個大隊を相手にしても 私一人で殲滅できる。

実際に、大隊殲滅は二度経験している。

そんな訳で、自信満々に敵艦隊への特攻を仕掛けたのだ。


時限式の核爆弾は、敢えて使用しなかった。

敵艦隊の殲滅と共に、私自身の消滅を目論んでいたからだ。

計画通り敵艦に侵入して、核爆弾を起動させる事に成功。

上出来だ。

人生最後に走馬灯を見るが如く、過去の記憶がフィードバックされると云うのは本当だね。

今までの人生、キツかったなぁ……。

思い返してみれば、戦闘・戦争に関わる事以外、何もしてこなかった。

もし、次の人生があるとしたなら、好きな事をやって過ごせる様な生き方をしたいものだ。

願わくば、イージーモードで……。

英雄で居るのはとにかく疲れる。

と一人ごちながら、私の人生は終焉を迎えた。


……?

真っ白な世界……?

ああ、これが死後の世界と云う奴か……。

なんて事を考えていたら、「違います。ここは狭間の世界です」という

妙な声が頭の中で響いた。

それは無機質な抑揚の無い、まるで合成された音声の様だった。

誰だ? そして狭間の世界とは? と思った刹那、

「私はこの太陽系を創造した存在です。そして、あなた方アヌンナキを創り上げた 存在でもあります。狭間の世界とは生物が死を迎え、その魂が拡散してしまう前に 一時的に滞在する世界です。生物にとって死後の世界等は存在しません。

魂が拡散してしまえば、その存在は無かった事になるだけなのです」

ふむ。この声は創造主、つまり神の声と云うものか。そして私は無に還る訳だ……。

と思った瞬間、またもやあの声が頭の中で響いて来た。

「私の事は、創造主でも神でも、どう呼んで頂いても構いません。貴方が解釈し易ければ 呼び方等はどうでも良い事です。そして貴方の魂は無に還る事はありません」

どういう事だ?

「貴方には、次の人生を用意しました。好きな事をやって生きられる、イージーモードの 人生ですよ」

次の人生って言ったって、戦後の荒廃したこのニビルで、好きな事をやって

生きて行くのは簡単じゃないだろう?

「ニビルではそうでしょうね。従って、別の惑星に転生して頂く事にしました。

そこは、かつてアヌンナキの科学者が生命体を創造した星です。

その生命体は、他の種族との交配を進められ、最早オリジナルとは似て非なる

存在ですが、社会生活も営んでおり、様々な価値基準はアヌンナキから受け継いでいるので 貴方にとっては過ごし易いと思いますよ」

ふむ。今までの体を捨てて、別の種族として一からやり直すと云う訳か……。

それはそれで面倒だな。それに今までの能力を捨ててしまうのも勿体ないと思う。

「判りました。貴方の意思を尊重し、それなりの年齢である程度自由な地位にいる人間に 転移させましょう。勿論、身体能力はそのままで」

有り難い。まあ、細かい事は任せるよ。宜しく頼む。

「それでは、アヌンナキの科学者達が新たな生命体を創造してから120年程経った 第三惑星へ転移・転生させる事にします。イージーモードの第二の人生を楽しんでくださいね。

最後になりますが、今後の人生に於いて私との交信は不可能となります。

それではお元気で」

真っ白な世界に眩しい光が降り注いだかと思うと、私の魂が超速移動をし始め、 私は意識を失った……。


俺は自分の名前が好きじゃない。

日本人で一番多い名前なんだそうだ。

苗字の話ではなく、フルネームで一番多いんだ。

昔からニックネームを付けられた記憶はないが、同級生や職場でも同じ苗字の人が 一人や二人いる事が多いので、名前で呼ばれる事が多かった。

50歳を過ぎて、年下の上司も多くなり、先輩と呼べる年代の人も少なくなっている。

満足している訳では無いが、こんなもんだとも思う。

会社員として先も見え、新しい事にチャレンジする事も少なくなってはいたが

この仕事自体は好きだし、年下の上司含め、職場の人たちは皆、俺を尊重してくれる。


休日にはバイクでツーリングに行ったり、草野球に参加したりして、案外忙しい。

基本的に家で過ごす事は少ない。

30歳そこそこで4年間続いた結婚生活にピリオドを打ち、それ以来、おひとり様を 満喫している。

子供はいないし、両親は去年・一昨年と相次いで他界した。

そんな感じで、気楽に過ごしていたある日、その事件は突然起こった。


珍しく、休日出勤をした日の事だ。

取引先の都合で、土曜日に商談をする必要に迫られた上司が、おひとり様を満喫している俺に 仕事を丸投げして来た。

土日は家族サービスなんだと……。

まあ、良いさ。

それなりに信用されているって事だろうと、ポジティブに捉える事にして

商談を終えた俺は、最寄り駅から徒歩で会社に向かう。

報告書を書き終えたら、いつもの店で一杯やって帰ろう……。等と考えつつ横断歩道を 渡っていたら、死角から何かに激突されて、俺の体は大きく跳ね飛ばされた。

そしてそのまま意識を失った……。


真っ白な世界……?

ああ、これが死後の世界と云う奴か……。

なんて事を考えていたら、「違います。ここは狭間の世界です」という

妙な声が頭の中で響いた。

それは無機質な抑揚の無い、まるで合成された音声の様だった。

誰だ? それで何があった? と思った刹那、

「私はこの太陽系を創造した存在です。貴方は歩行中に車に撥ねられたのですよ」

ああ、それで俺は死んだんだな?

「いいえ、現時点で魂がここにあると云う事は、まだ死んではいませんよ。限りなく その状態に近いとは言えますが」

魂がここにある? ここって何処?

「ここは狭間の世界です。狭間の世界とは生物が死を迎え、その魂が拡散してしまう前に 一時的に滞在する世界です。生物にとって死後の世界等は存在しません。

体は元素に還り、魂は拡散してしまえば、その生物の存在は過去の物になるだけなのです」

ふむ。俺の魂はここにあるが、体の方は死にかけていると……。

で、この声は要するに神の声ってヤツなんだな。

「理解が早くて助かります。私の事は、神でも何でもお好きに呼んで構いません。

貴方が解釈し易ければ呼び方はどうでも良い事です。

そして貴方の体は元素に還る事はありません」

どう云う事だ?

「私が再生するからです。

貴方の魂の奥底に、強い後悔の念が感じられました。

貴方はこの人生に於いて、理不尽に思える程抑圧されて来ましたね」

そんな事は無いと思うんだが……。

「貴方の潜在意識の奥底では、ご自身の生まれ育った環境故に、手に入れる事が 叶わなかった、知識・経験・財産が途方もなく膨大な量で存在する事。

それをこの世界の一部の人達が容易く入手している事。

そしてその事実を知ったタイミングが、あまりに遅過ぎたと、貴方の潜在意識下では かなり後悔しているのですよ。

そして、その後悔はいつしか諦念に変わっていて、貴方の潜在意識は悔しいを通り越して 諦めの境地に至ったと言えます。

そして諦めてしまった潜在意識とは裏腹に、貴方の魂は復讐を決意している様です」

復讐? おいおい、俺はそんなに執着心の強いタイプじゃ無いぜ?

どちらかと云えば、与えられた環境の中で、出来るだけ心地良く過ごせる様に

生きて来たつもりなんだが?

「それが諦念と云うものですよ」

ああ、そうか。俺は自分では手に入れられなかった事実を、諦めとして受け入れていたと 云う事なんだな?

「その通りです。そして貴方の魂は強い後悔の念に引き留められるかの様に、

この狭間の世界で声を上げ続け、再生を求めているのです」

やあ、そうは言っても、復讐ってのは大袈裟じゃないか?

大体、復讐する相手もいないしさ。

それとも、世界の価値観とやらに復讐するのか? どうやって?

「復讐と云う表現はお気に召しませんか? それではリベンジと云う表現では如何でしょう?

それと、リベンジの対象は現世に復帰したら自ずと見えて来るでしょう」

リベンジ? 何か急に軽くなったな。

それなら良いぜ。で、俺はどうすれば良い?

「私の能力は過去に干渉する事は出来ませんが、現在と未来に干渉する事は可能です。

まず、貴方には貴方の魂の他に、もう一つの魂を受け入れて貰います。

その魂の記憶と身体に与える能力は、貴方のリベンジ活動に重宝するでしょう」

おいおい、いくら再生して貰えるからって、他人に体を乗っ取られるなんて

冗談じゃないぜ。

それに何だよ! リベンジ活動って。就職活動みたいなノリなのか?

「貴方の再生体に入るのは、貴方の魂が主になります。もう一つの魂が、貴方の意識と 体を乗っ取る事は出来ません。

そして、貴方の魂だけでは、再生体の身体能力に変化はありませんが、

もう一つの魂を貴方の体に転生させる事で、身体能力の向上と知識の質・量共に 向上させる効果があります。

その魂の持ち主は、体が元素に還っており、再生は出来ませんが、人生の再開を望んでおり、 それに見合うだけの成果を挙げている者です。

その者は、惑星ニビルに於ける星系間戦争の英雄であり、地球人類を創造したアヌンナキの 一員でもあります。そして……」

ちょ、待って! 待って!! 情報量多過ぎ!

何? ニビルって! それからアヌ何とかって?

人類の創造って? 進化論は何処行った?

その魂が入り込んでも、俺の意識はそのままって事は理解出来た。仕組みは判らんけども!

「ご安心ください。貴方の体は貴方の魂だけの物です。その他の事柄は再生後に 時間を掛けて把握する事を推奨します」

判った。判りましたよ。要するに、受け入れてから後の事は考えろって事ね。

「なかなか良い感じの諦念ですね」

何か、馬鹿にされてるみたいで釈然としないが、ここで時間を掛けても

仕方がない気がして来た。

一つ質問させてくれ。

神様とは今後も連絡取れるのか?

神社でお参りしたり、神託が降りて来たりとか?

「いいえ、私との意思疎通は、この狭間の世界でしか不可能です。但し、貴方の体に 転生させる者との対話は可能です。

今後はその者が貴方の指針にもなるでしょう」

はあ。判ったよ。

好きにしてくれ。

「それではこれより、田中 実さんの肉体の再生と魂の転移を開始します。

アヌンナキの英雄である****の魂の転生も並行して行いますので、田中さんの寿命はアヌンナキである****と、地球人である田中さん双方の影響があると思われます。

地球人としては、少し長く生きる事になりますが、それはそれで楽しんでください。

それでは、田中さんにとっての人生の続きと、****にとっての第二の人生が

素晴らしいものであります様に。

そして、いつの日かまた、狭間の世界でお会いしましょう……」

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