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寿命と進化の法則

俺の意識が戻ったのは、事故当日の20時過ぎだったらしい。

事故に会ったのは16時前だったから、気を失っていたのは4~5時間程度だ。

「大丈夫?」

そう言って、俺を覗き込んだのは、懐かしい顔だった。

「愛衣さん……?」

数年前に付き合っていた水原愛衣さんだった。

出会った頃と全く変わらない……。

「あ、覚えててくれたんだ」

「どうして愛衣さんがここに居るの?」

「ビックリしたわよ」

彼女はそう言って笑いながら、俺の疑問に答えてくれた。

スマホに知らない番号から着信があったので、取り敢えずスルーしてから

番号検索してみたら、病院からだった。

何だろうと思いながら掛け直してみると、事故にあった俺が救急搬送されて来たとの事。

病院のスタッフが、俺のスマホのアドレス帳の一番上に有った番号に掛けた為

彼女に連絡が行ったのだ。

そうか……。

付き合っていた頃、彼女の番号が一番上に来る様に「アイ ミズハラ」で登録したんだった。

「実さんが起きたから、私は帰るわ。元気になったら連絡頂戴ね。お大事に」

そう言って、ナースコールで看護師を呼んでくれた後、彼女は病室を出て行った。

看護師はキビキビした感じで、

「田中さんは、見た感じ怪我も無さそうだし、問題無いかと思いますが、

頭を強く打っている恐れがありますので、明日、検査を一通りします。

今夜、気分が悪くなったりしたら、すぐに呼んでください」

と告げ、病室を出て行った。


意識が戻ってから、少し混乱していたが、夜中を過ぎた頃、色々と考える様になって 明日以降の行動計画を立てる事にした。

まず、持ち物のチェックだ。

ベッドから起き出して、壁に掛けられたスーツとサイドテーブルに置かれた鞄を確認。

スーツは結構汚れている上、あちこち破れている。

もう、着れないな……。

革の鞄もアスファルトで擦れてしまったらしく、傷だらけ。

気に入っていたんだけどな……。

鞄の中身は無事らしい。

仕事の資料もタブレットも有るし、財布も有る。

スマホだけは鞄から出されて、サイドボードに置かれていた。

朝になったら、真っ先に家族サービス中の上司へ連絡しよう。

検査結果次第では、何日か入院するだろうし……。

しかし、気を失っている時に聞こえたあの声は何だったのだろう?

色々と不可解な事を言っていた様な気がするんだが……。

確か、もう一つの魂を俺の体に入れるとか何とか。

【落ち着いたみたいですね】


「⁉」頭の中で突然話しかけられて、かなり驚いた。

「誰? あ、アヌ何とかの魂ってヤツ?」

【思ったより、冷静ですね。そう。私はアヌンナキの****です。

肉体は元素に還ってしまったけど、創造主の意向で、貴方の体に転生する事になりました】

人は驚き過ぎると、却ってパニックにはならない事を学んだよ。

「ああ、神様から聞いてるよ。神様ってのが何者なのかは知らんけど。

俺の体を再生するのに、あんたの魂も必要なんだったか……」

【厳密には違いますが、その解釈で良いと思います】

「そう。ところで、あんたの名前。アヌンナキってのは聞き取れるんだけど

その後の単語が聞き取れない。多分、あんたの名前なんだろうけど」

【私の名前は****ですが、これは地球には存在しない発音みたいですねぇ】

「いつまでもあんたって呼ぶのも失礼だと思うんだけど?」

【呼び易い名前を付けてくれても良いですよ。私自身、英雄扱いされていた****と云う

名前に執着はありませんし。それから貴方の事は何とお呼びすれば?】

「俺は田中 実と云う。田中がファミリーネームで実がファーストネームだ。

田中でも実でも好きに呼んでくれ。名前に執着が無いのは俺も同じだ。

理由は全然違うけどな」

【それでは当面は田中さんとお呼びしましょう。それで、私の事は何と?】

「あんたは英雄だったんだな。それに相応しい呼び名を考えるから、少し待ってくれ」

【判りました。それでは先に現状を整理しておきましょう】

といったやり取りの後、お互いが狭間の世界で体験した事や事故後の肉体の再生具合等の 情報を交換した。


肉体の再生だが、ベースは勿論俺である。

そこに、アヌンナキの英雄とやらの遺伝子を混ぜ合わせる事で、驚異的な能力を持つ 体になっていると云う。

DNAに直接手を加えると、全く違った種族になってしまうらしく、塩基配列は

事故に会う前の俺と同一だそうだ。

俺のDNAに平行して配列される形で、別のDNAを構築した。

そして、それを秘匿する為に幽霊ゴースト化と呼ばれるアヌンナキの技術を用いて 移植。

このゴースト遺伝子が、現代科学で検出される事はないらしい。

車に跳ね飛ばされて、数時間とはいえ意識を失う程の衝撃を受けた割に

骨折の一つも無いのは、肉体の再生と共に治癒されてしまった為だ。

事故の衝撃を考えると、無傷なのは不自然なので多少の傷は残しておきたかったらしいが そう都合良くはいかないらしい。

まあ、スーツが派手に破けているのに無傷なのは不自然だが仕方ない。

肉体の再生と共に、アヌンナキの英雄の能力も移植された事になるのだが

その能力とは?

との質問に、【それは徐々に開放されます】との事。

一気に開放しても良いのだが、あまりのギャップに俺の脳が混乱してしまうらしい。

まずは脳の処理速度を少しずつ上げて、それに伴って身体能力も

少しずつ開放するんだそうだ。

「それから、神様が言ってたんだけど、俺の寿命が普通の人より長くなるらしいんだ。その件について、何か知っていたら教えてくれないか?

【これは、恐らくですが、田中さんと私の寿命を、足して2で割る感じなのではないかと推察します】

「へぇ~。俺は日本人だから、多分80歳位まで生きるんだろうけど、あんた達アヌンナキは何年位生きるんだ?」

【そうですね。我々の平均寿命は大体80年前後です】

「なんだ。それじゃ足して2で割っても80年じゃないか」

【いえ、アヌンナキの寿命は、惑星ニビルでの80年です】

「どういう事?」

【一年は、太陽の回りを一周する時間ですよね。】

「ああ、そうだ」

【ニビルの一年も、太陽を一周する事で経過します】

「だから、同じだよな?」

【考え方が同じなだけで、経過する時間は全く違いますよ。ニビルが太陽を一周する間に地球は3600周しますから】

「は?」

【つまり、ニビルの住人の平均寿命を地球時間に換算すると、288,000年と云う事ですね】

「は?」

【田中さんの寿命が80年で、私の寿命が288,000年ですから、足して2で割ると、144,040年と云った所でしょうか? 田中さんが現在55歳ですから、あと143,985年で寿命が尽きる計算になりますね】

「は? それって、殆ど不老不死じゃないか?」

【地球人の目から見たら、殆ど不老ですが、不死ではありません。

事故や病気で寿命を全う出来ない事も有り得ますから、気を付けましょう】

「なんてこった……。頭がごちゃごちゃになって来たよ……」

【少し休まれては? すっきりしてから、先の事は考える事になさった方が宜しいかと】

「判ったよ。取り敢えずもう寝る。あんたの名前は明日にでも考えるよ」


病院の飯は、なんでこんなに味が薄いんだ?

と心の中で愚痴りながら、朝食を食べ終えた頃、警察が訪ねて来た。

刑事らしきスーツ姿の男と、ドラマで見た、鑑識の制服を着た男女の3名だ。

「失礼します。私は港署のタカナシと云います。こちらの二人は鑑識課の須藤と山下です」

警察手帳を開いて見せながら、タカナシ氏は挨拶をしてくれた。

小鳥遊さんね。珍しい字を書く人だな……。で、警部補さんね。

「ああ、交通事故の件ですね。俺を轢いた人は?」

「実は轢き逃げでして。それで昨日から捜査を開始しておりまして」

「捜査の為に、田中さんの着ていた服をお預かりさせて頂きたく、お邪魔してた訳です」

タカナシ氏に続いて、須藤氏が話した。

現場にはブレーキ跡が無い事。証拠になる塗料等が衣服に付着している可能性が高いので

分析の為に持ち帰るとの事だった。

まあ、ここまで破れたスーツなんてもう着れないし、それで犯人が見つかるなら 喜んで協力するさ。

ただ、それを持って行かれては、退院する時どうしよう?

なんて事を考えていると

「それでですね。田中さんにぶつかった車の特徴等、覚えている事がありましたら お聞かせ願いたいと思っておりまして」と、タカナシ氏。

そうは言ってもなあ……。完全に死角から来られたから、何がぶつかって来たかも 判らないんだけど。

【田中さん、宜しければ田中さんの深層記憶を確認してみますか?】

俺のもう一つの魂が話しかけて来た。

ああ、宜しく頼む。

【深層記憶と云っても、直近の記憶ですから、直ぐに確認出来ますよ】

「あまり覚えていないんですが……。ええっと……」【黒のセダン】

「確か、黒い乗用車で……」【左ハンドル】

「多分、外車だと思います」

「はあ、黒の外車で、セダンかクーペって感じですか。他に何か思い出せる事は 有りませんかね?」

「他? ですか? えーと……」【ナンバーは11-11】

おいおい、そこまで覚えてたら、流石に怪しいだろ?

【運転していたのは髪の長い男で、挙動が少し変でした】

はあ? 挙動不審のロン毛の野郎だ? いやいや、流石にそこまで覚えてないだろ。

「多分、ナンバープレートだと思うけど、1が並んでいた様な?」

「それは11-11って事ですか?」

「いやあ、そこまでは……」

「判りました。今日はこれで失礼します。今後何か思い出しましたら

こちらへご連絡ください。それでは、お洋服をお預かりして行きます」

そう言って、タカナシ氏の名刺と証拠品の預かり証を置いて、一行は出て行った。


深層記憶って凄いんだな。

【通常、感知した物は全て深層記憶に記録されますよ。それが視覚であれ触覚であれ。 所謂、五感で感知した物は記録されます。その記録にアクセス出来ると云う状態が 認知していると云う事なんです】

へえ、そうなんだ……。

じゃあ、もっと詳しい記録を見る事も可能だった?

【可能でした。やり過ぎない様に自重しました】と可笑しそうに、もう一つの魂が言った。

警察官一行が出て行ってから程なく、看護師さんから検査の予定が告げられた。

脳波の検査の後、全身をCTスキャンでチェックするそうだ。

その結果をふまえて、入院期間が決まるとの事。

検査はお昼ご飯を食べてからだそうだ。

検査の前に、俺に仕事を押し付けた上司に連絡をした。

現状報告と引継ぎは済ませておかなければ。

いつまで入院するのか、現時点では不明だからな。

そもそもの原因は上司なんだ。家族サービス中だろうと知った事か!

ところが、上司のスマホに掛けたが応答がない。

仕方がないので、上司の自宅に電話を掛けた所、奥さんが出た。


「お休みの日に申し訳ありません。私、田中と申しますが、斎藤課長はご在宅でしょうか?」

「主人は昨日から出張でこちらにおりませんのよ。どちらの田中さんでしょうか?」

出張? 俺には家族サービスだと言ってたよな……。

「あ、京葉工業の田中と申します。恐らく弊社関連の件で出張でしょうから心当たりに 連絡を取ってみます。失礼します」

と、架空の取引先を名乗り、そそくさと電話を切った。

あの野郎、俺には家族サービスと言って休日出勤を押し付けた癖に、自分の家族には 泊りがけの出張だと?

怪しい……。

とは思ったが、家族から逃避して息抜きをしているか、最悪でも不倫旅行程度の話だろう。

いつか尻尾を掴んで、お返しをしてやる。覚悟しとけよ。

しかし、連絡がつかないのは困ったな……。

なんて事を考えているところに、看護師が呼びに来た。


結論から言うと、全く異常なし。

「田中さんが着ていたスーツを見ているので、怪我をしていないのは、医師として 不思議な位です。脳波の方も異常は見受けられませんでした」

俺に怪我が無い事が、何だか不満そうな医者の言葉が少し可笑しかった。

「すぐにでも退院して頂いても構わないのですが、もう一晩、様子を見たいのですが?

数時間、意識が無かったのが気になっておりまして」

と云う医者の言葉に従って、退院は明日までお預けとなった。

あ、服が無い……。スーツは警察に持って行かれたままだった。

どうしようかと思って看護師さんに相談したら、流石にスーツは売っていませんが 病院の売店で、スウェットとサンダル位は売ってますよ。と教えてくれた。

購入する時は領収証を貰っておくと良いですよ。とのアドバイスと共に。


検査を終えて、病室に戻ってスマホを確認すると、着信履歴とLINEが

入っていた。

着信の方は上司で、LINEは愛衣さんからだった。

取り敢えず、重要な方から確認をしなければならないと思った俺は、

当然LINEを チェックした。

その後の様子を伺う内容で、退院が決まったら連絡してね! とのメッセージだった。

検査結果に異常は無かった事、念の為、もう一晩入院する予定である事を返信。

すぐに「安心した。この週末は忙しい?」とのLINE。

特に予定は無いが、出勤してみてスケジュールを確認しなければ。

それに、上司が何を言って来るか……。

諸々、考えて「出勤してから確認するけど、今のところ暇人だよ。」と送っておいた。

「じゃあ、予定が判ったら連絡してね! 絶対だよ!!」とのLINEに

了解のスタンプを返信して、愛衣さんとのやり取りを終わらせた。

正直、ちょっと嬉しかった。

さて、次は上司だ。

コールしたらすぐに電話に出たので、商談の報告と事故に遭って入院中である事、 明日から暫くの間有給休暇を取る事だけ伝え、電話を切った。

自宅に電話した事は伏せておいた。

それから、アヌンナキの英雄について考えた。

正直なところ、オカルト(?)には全くと言って良い程興味が無かったので

当然ながら知識も皆無だ。

スマホで、アヌンナキを検索すると、惑星ニビルや古代シュメール人やその文明等 実に様々な説があった。

眉唾ものだとは思ったが、俺の中に話しかけてくる何かがいるのは事実だし

そいつの説明を否定する材料も無いんだよな……。

と考えながら、呼び名を付けないといけない事に思い当たった。

そいつは、惑星ニビルの英雄らしいから、相応しい呼び名にせんといかんな。

ヘラクレスとかヤマトタケルノミコトとか?

しっくりくる名前がないかと、今度は「英雄の名前」でググる。

便利な世の中になったものだと思いながら、一覧にざっと目を通す。

神話や伝承・伝説の英雄って、確かに偉業と呼ばれている事を為し得ているけど それと同じ位かそれ以上に、ヤラカシテいる奴が多いみたいだ。

段々、面倒臭くなって来た。

もう、ジークフリートで良いや。竜退治をしたとか書いてある。

呼び名としては長いのでジークにするか……。


【上司の虚偽について、糾弾しなくて良かったのですか?】

おわっ!急に話し掛けられるとビックリするな。

でも俺の中に存在する魂から話しかけられるのだから、対面している人が話しかけて来る様な 事前に察知出来る気配や仕草みたいなものは期待できない。

これは、俺が慣れるしかないんだろうと思いながらも

「ああ、ここで指摘しても面白くないしな。それより、あんたの呼び名を決めたよ。 ジークだ。この星の英雄、ジークフリートから頂いた」

【ジークが私の呼び名ですね。これで私のDNAも少しずつ活性化するでしょう】

「どういう意味だ?」

【貴方の中で曖昧な存在だった私のDNAが、呼称が定まった事で顕在化する様に

なるのです。顕在化と言ってもゴースト遺伝子ですから検知できるものではないですが】

ふむ。名付けと顕在化の因果関係は判らんが、そういうルールなんだろう。

「その、少しずつ活性化するってのは?」

【ゴースト遺伝子が持つ全力が、いきなり貴方の体に顕現した場合、恐らく

脳と臓器、骨格と筋肉の何れも耐えられないでしょう。

例えば、脳の処理速度だけでも、最大3,000倍になるのです。

恐らく1.5倍程度になっただけで、脳を構成する細胞はオーバーヒートを起こすでしょう】

「オーバーヒート?知恵熱でも出るって感じか?」

【そうですね。発熱で済むのは1.1倍未満じゃないでしょうか。

オーバーヒートを起こすと、恐らく廃人になりますよ】

何それ怖い。何ちゅうもんを俺の中に入れてくれやがったんだ!

とは思ったが、入っちゃったものは仕方がない。

【脳の処理能力は、最初は年に1%程度のペースでアップします】

「つまり、倍になるのに100年掛かると?

じゃ、オーバーヒートの心配はしなくて良いな?  ん? 最初は?」

【最初は年1%程度ですが、脳が自身の変化に慣れてくるに従って、ペースは上がります。

恐らく、倍々ゲームに近いペースで上がって行くかと……】

算数は苦手なんだが、1・2・4・8・16・32・64・128って感じにペースアップするって事?

「ほえ~。12年で2,000%以上って事?」

【最初の1年で1.1%。2年目で2.2%となって、以降4.4・8.8・17.6・35.2・70.4・140.8となり

12年経過時点で、現在の2252.8倍になる計算です】

まあ、そういう仕様って事ね。もう、好きにしてくれ。って感じだ。

「そうか…。もっと色々教えて貰いたいが、そろそろ寝るよ」

【そうですね。休むとしましょう】

「おやすみ、ジーク」

そう言って、俺は眠りに落ちた。



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