35 いつもの四人プラスα
「雄二さん! お疲れ様です!」
「…………」
そう言って俺のことを呼んでいる後輩。笹森さんが俺のことを名前で呼んでくれるようになった……のではない。
「お前……何しに来たんだ」
俺は放課後にわざわざ俺のいる教室まで来てニッコニッコの笑顔を浮かべている的場にそう声をかけた。
「雄二さんと帰りたくて!」
「……なんで」
「雄二さんのことが好きだからです!」
「……なんで」
そういうことは笹森さんに言われたい。
「僕は雄二さんに救われたんです!」
「……」
これはなんとなく分かる。おそらくこの前公園で話した時のことを言っているんだろう。
「あの後、奏ちゃんに謝りに行って……今まで投げやりになっていた大切なことを思い出せました! 雄二さんに教えてもらったからです!」
こいつ、聞いてもいないことを話し始めたぞ。
「だから一緒に帰りましょう!」
「……なんで」
また同じやり取りを繰り返すのは嫌だぞ……
「そんなこと言わないで……別に二人きりじゃなくてもいいですから」
「当たり前だ。なんでお前と二人きりで放課後デートしなくちゃならないんだ」
「先輩のお友達も誘ってくださいよ。奏ちゃんも誘うので……」
「おい優也! 明里! 一緒に帰るぞ!」
俺はすぐに決断を下した。笹森さんも来るなら話は別だ。
テスト期間は一緒に帰れてたが、もう一緒に帰る理由がなくなって困ってたからな。
◆
というわけで放課後の通学路。俺たちはいつもの四人と的場の五人で帰っていた。
「で、この人が的場君?」
「はい。よろしくお願いします! あの……奏ちゃんのお友達の方ですか……?」
「そうだけど……」
的場の質問にそう答えた明里だったが……
「ごめんなさい!!」
的場はものすごい勢いで頭を下げ始めた。もう鼻が膝に当たって折れたんじゃないかと心配になる程だ。
「僕のせいで奏ちゃんに嫌な思いをさせてしまって、本当にすみません!!」
「……奏ちゃんは許してくれたんでしょ? だったら私は全然気にしないよ」
的場の誠意が明里にも伝わったのか、明里はにこりと微笑んでそう答えている。
まぁ、的場のしたことは許されることではないが、こうやって自分の非を認めて謝れるんだからこの先は大丈夫だろう。
「ありがとうございます……!!」
的場も安心したような嬉しそうな顔になっている。
ちょっと前のあの顔からは想像もつかなかっただろうな。
「まぁ、良かったんじゃねえの? すれ違いも解決したみたいだし」
優也も今回の一件は一通り知っている。
笹森さんの過去、的場の過去を全部話したわけじゃないが、笹森さんは知っておいて欲しいとのことだったので、俺からざっと教えた。
まあ、いつも一緒にいるのにこいつだけ何も知らないってのも可哀想だしな。
「はい。今回は先輩に感謝しないとですね」
「ははっ、ありがとう。今回はっていうのはちょっと気になるけど……」
「僕は一生雄二さんに感謝の気持ちを忘れませんよ!」
僕はあなたの味方です! という気持ちがガンガン前に出てるな、こいつ。
だからそういうことは笹森さんに行って欲しいんだってば。
「まったくお前は……調子のいいやつだなー」
「本当はもっと早く雄二さんに会いたかったんですが……テスト期間は邪魔しないほうがいいかと思いまして……」
また聞いてもいないことを語り出したぞ……。
「まあ、その気遣いは素晴らしいぞ。俺が定期試験を余裕だと思う時はないからな」
「そうですよね!? 僕、いい判断でしたよね!?」
「自慢げに言ってんじゃねぇよ」
「雄二……留年しないでね?」
的場の輝かしい笑顔とは反対に俺の同級生たちは呆れたような表情を浮かべている。
面目ない……
「まぁ、今回は私のせいでもありますから……次はもうちょっと余裕持って頑張ってくださいね?」
笹森さんの温かい言葉が身に染みるぜ……
「頑張りますとも!」
俺が高らかにそう宣言すると、さっきまで呆れ顔だった優也たちも笑い出した。
なんか、「まあ、雄二だしな」みたいな諦めの意志を感じるのは気のせいだろうか?
◆
それからは各々自分の家に帰るべく別れたのだが……
「お前、家こっちなのか?」
「そりゃそうですよ。雄二さんと一緒の道歩いてるんですから」
言われてみれば当たり前だ。俺と歩いてるんだからこいつも俺と同じ方向なのだろう。
というわけで優也と明里、そして笹森さんと別れた後も俺は依然として的場と帰っていた。
「ところで雄二さん」
「なんだ?」
ここまでは何気ないやり取りだった。
「雄二さんって奏ちゃんのこと好きなんですか?」
「……どうしてそう思ったんだ?」
文面にすると平然と聞き返しているように見えるが、実際は声が裏返って動揺を隠せていないのが自分でも分かる。
「あはは……その反応は図星っぽいですね。雄二さんの奏ちゃんに対する態度を見ててもしかして? と思ったんですが……」
「……」
そんなにわかりやすかったのか? もしかして笹森さんにバレてて、その上で気を遣って俺と一緒にいてくれるのか? そうなのか!?
大きな不安が俺を襲い始める。鳴り止まない暴風雨が俺の心をざわつかせる。
「奏ちゃんはあんまり気にしてないっぽいですけどね」
「……」
それはそれでどうなんだ? 何にも意識されてないってことだったり?
「"本当に好きなら……手放したくないなら……積極的に攻めるんだよ!!" ……これって、雄二さんのことだったんじゃないですか?」
「……」
「分かりやすいですね……」
俺が何も言わないでいると、的場は苦笑いを浮かべながらそんなことを言っている。
無駄に鋭いな……こいつ。
「でも……この言葉はすごく僕の胸に響いたんです」
「……」
「雄二さんにそう言われて、あぁ、僕のやったことは間違ってたんだって。強い気持ちを持った人は積極的な行動ができる人なんだって。そう思えたんです」
「……そうか」
改めてそんなことを言われるとやっぱり照れる。
"積極的になる"これは俺の信念でもあるからそれが的場の心に響いたというのなら嬉しくないはずがない。
「でもお前、笹森さんのこと好きなんだろ? じゃあ俺はライバルってことになるんじゃないのか?」
誰がライバルになっても俺は変わらず攻め続けるだけだが、的場が急にそんな話をしたのが気になる。
「いえ、僕はもう、奏ちゃんと付き合いたいとは思っていません」
「え? そうなのか?」
てっきり笹森さんとの関係が元通りになったことで再度挑戦するのかと思っていたが……いやそれは迷惑でもあるが……
「はい。僕はもう、奏ちゃんとそんな関係になれる立場じゃありませんから。それほどのことをしてしまいましたから」
「…………」
的場は笹森さんとは釣り合えないという旨の話を俺にする。
しかしその表情からは悲しみや諦めなどのマイナスの感情が読み取れない気がする。
「でも……これからは雄二さんに教えてもらったことをモットーに、可愛い女の子を落として見せます!!」
「…………」
こいつ……
「ははっ、はははっ! よく言った! 人生一度きりの男子高校生なんだからそれくらいがっついてなくちゃなぁ?」
「はい! 僕も雄二さんのように積極的に動ける人間に……諦めることを認めない人になります!」
たった一回の説教だったが、根はいいやつなのか、それとも元々頭がいいからなのか、俺の言いたかったことはしっかり伝わっていたみたいだな。
あっ、そういえば……
「お前、母親の件は大丈夫だったのか?」
頭がいいで思い出したが、こいつは医者にならなければいけないというプレッシャーを母親から受けていた。
それが原因で変わってしまったのもあるのだから、この問題も解決しなければならないと思ったのだが……
「あっ、はい! 言うこと聞いてくれなきゃグレるって言ったら話聞いてくれました! そしたらお母さんもお父さんも自分の好きなことを見つけて頑張りなさいって……」
「そんなあっさりと……」
まぁ、これも積極性の表れ……なのか?
「雄二さんに言われるまで親としっかり話すこともできなかったんですから、本当にありがとうございます!」
そう言って的場は満面の笑みを浮かべている。ほんと、ちょっと前のこいつの顔からはこんな表情ができるなんて思いもしなかった。
……まぁ、人に感謝されるのは悪い気がしないな。
しみじみとそんなことを考えながら、俺は歩く。
いつもの四人に的場も加わりました! 賑やか! すごい! 当初の的場のイメージからだいぶ変わりましたね。というか変わっちゃった。よし!
『本日のおねだりタイム』
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