33 なけなしの勇気
「…………」
私は奏ちゃんと別れた後、雄二と出会い、二人で並んで帰っている。
まさかまさかだよ!?
雄二が「家まで送ってくよ」なんて言ったんだよ!? もうこれは雄二の彼女と言っても言い過ぎじゃない気がする。
でも……
何を話せばいいのかが分からない……。そういえば二人きりになることってあんまりなかった気がする。
どうしよう……
そんなことを思いながら雄二の顔を見上げる。
「あっ」
「あっ」
するとちょうど雄二もこっちを向いていたみたいで、私と目があった。
……恥ずかしい……!!
私は咄嗟に目を逸らしてしまった。
「どうした?」
「な、なんでもないよ……?」
私はそう言って誤魔化したが本当に誤魔化せたのかは分からない。多分誤魔化せてない……。
「雄二こそどうしたの?」
だから私は話題を変える。
「あぁ、いや、こんなに遅くなっちゃったからさ。悪かったと思って」
私が奏ちゃんを送ってくように頼まれたことかな。
「全然悪くないよ! 奏ちゃんのことなんだから当たり前だよ!」
それなら気にしなくていいのに。私だって奏ちゃんに何かあったら嫌だ。せっかく私を頼ってくれたんだから、むしろ嬉しかったくらいだ。
「それに、松中先生になんか頼まれたんでしょ?」
「ああ、それな……」
あれ? もしかして私なんか変なこと聞いちゃった?
雄二が明らかに沈んでいるのを見るとすごく不安になってくる。
「あの後大学行って、それからもいろいろ雑用やらされて……めちゃくちゃ時間かかったんだよ……」
「そ、そうなんだ? 大変だったんだね……」
だからこんな時間まで帰ってなかったのかな? 勉強もピンチって言ってたのに大変だっただろうな……
あ、でもなんで公園にいたんだろ。
この話を続けると雄二がどんどん落ち込みそうだったから私はそのことを聞いてみる。
「でもじゃあなんで公園にいたの?」
「ん? ああ、それは……なんか、柄にもないことしちゃってな……」
「柄にもないこと……?」
どういうことだろう。公園で何かしてたってことかな?
「帰ってる時にさ、的場に会ったんだ」
いまいち状況が想像できないでいると、雄二が話を続けてくれた。
あれ? でも的場ってなんか聞いたことある……
「あっ! 奏ちゃんの……!!」
思い出した! 奏ちゃんにひどいことをしようとしてたっていう……
そんな人と会っていたの!? それって……
「大丈夫だったの?」
的場はナイフも持ってたって聞いた。雄二は何もされてない!? 見たところ怪我とかはないように見えるけど……
「大丈夫だよ。むしろ俺が説教したくらいで……」
「説教?」
よかった。雄二は何もされてないみたい。でも説教って……?
「あいつの中学時代の話、聞いたんだ」
的場の中学時代……奏ちゃんに告白した話かな……?
「そしたらあいつにも思うところがあったみたいでな。どんどん悪い方向に変わっちまって、それであんなことをしたみたいだ」
どんな話だったのか私には分からないし、そんなこと聞くべきじゃないと思うけど……雄二はその話を聞いて、何か感じたような口ぶりだ。
「だから、説教をした。あいつの悪いところを言って、そして反省させた」
「ふふっ、なにそれ」
雄二はすごく真面目に話しているし、笑うような話でもないんだけど……
雄二がそんな学校の先生みたいなことをしているのを想像したら笑いが抑えられない。
「あははっ、雄二がそんなふうに他人を叱るなんて、なんか変な感じ」
「……そんなに笑わなくてもいいだろ。なんかほっとけなかったんだよ。」
雄二は不服そうだけど。それでもつい笑っちゃう。
気づいたらさっきまでの気まずさが嘘のようにいつも通りの私たちになっていた。
「でも……的場は怒られてどうなったの?」
そんなふうに叱っても何も変わらなかったら意味がない。むしろ逆上して何かされるかも……
「……変わったよ。あいつは。俺はきっかけを与えただけで、あいつが自分で変わった。もちろん、いい方向に」
「そうなんだ……叱った甲斐があったって感じですね。安達先生?」
つい悪戯心が出てしまい、雄二をからかっちゃった。
「おいおい……まぁ、でも……そうだな。これで笹森さんとの関係が少しでも良くなってくれればいいんだが……今頃はもう謝ってるかな?」
「え? 奏ちゃんの家に行ったの?」
一人で行かせたら万が一何かあった時……
……いや、でも……
「でも、雄二が行かせたんだから大丈夫だよね」
叱った張本人がもう大丈夫だと思って送り出したんだから、きっと大丈夫なんだろう。
それに……奏ちゃんのことが好きな雄二が奏ちゃんに危険が及ぶようなことを見過ごすはずがないか。
そうだよね……雄二は奏ちゃんのことが好き。そんなこと、とっくに前から分かってるのに……こうやって二人きりでいると、そのことを忘れそうになる。忘れたくなる。
だめだだめだ。せっかく二人でいるのにそんなこと考えてたら前に進めない。
「ああ、大丈夫だ。それに、家には両親もいるはずだから、万に一つもないだろ」
「そうだね」
会話が終わっちゃった……
でも……このままじゃだめだ! せっかく二人なのに……
……!! そうだ! ちょっと、いやかなり恥ずかしいけど……
このまま何もしないで家に帰るのは嫌だと思い、私は行動を起こす。
「うぉ! ど、どうした? 明里……?」
「……く、暗いのが……こ、怖くて……」
〜〜〜〜っ!! やっ、やっちゃったよ……
私はなけなしの勇気を振り絞って雄二の腕に抱きついていた。
「そ、そうだったのか?」
「う、うんそうなんだ……」
大丈夫かな……あざといとか思われてないかな……
抱きついてから不安になってきた。だからかな。抱きついた腕に自然と力がこもってしまった。
「……明里、そんなに暗いの苦手だったんだな……ごめんな、こんな遅くまで……」
雄二は多分それを感じ取ったんだと思う。それでこんなことを言ってる……
「本当に大丈夫だから! それに、そのおかげで雄二と帰れてるし……」
あっ。
あ〜〜〜〜!! つい口に……
「…………」
恐る恐る雄二の顔を見上げると、何も言わないで前を向いている。
どうしよう。どうしよう。どうしよう!! いきなりこんなこと言って変な人だと思われたかも……
「ゆ、雄二? あの、その……ほ、ほら最近テスト勉強で雄二と話す機会もなかったからさ?」
このままではだめだと思い、必死に弁明したけど……
「あ、そ、そうか。そうだよな。放課後は俺ずっと図書室行ってたし……」
なんとかなったかな……?
そんなことを思っていると、私の家が見えてきた。
「あっ、ここまででいいよ。あれ私の家だから」
そう言って私は自分の家を指差す。
「お、おう。そうか。じゃあまた明日……あ、いやまた来週な?」
「うん。ありがとね。送ってくれて」
ちょっと名残惜しいけど、私は雄二の腕に巻き付けていた自分の腕を解いて歩き出す。
「……雄二」
「ん? なんだ?」
「テスト、がんばろっ!」
私は最後にそう言ってちょっと小走りで家に帰った。
ちゃ、ちゃんと笑えてたかな? 変じゃなかったかな?
別れてからの一人反省会は私の恒例行事だ。
◆
「…………」
明里が俺の前から走って見えなくなるまで、俺はその場に立ちすくんでいた。
さっき明里の腕に包まれていた左腕にはまだあの感触が残っている。
いきなり抱きつかれた時には驚いたが……明里は結構力強く俺の腕に抱きついていた。
そのため、明里の体も当然俺の体に密着するわけで。
そうなると明里の体で一際膨らみを帯びている胸も当然俺の腕に沈み込むわけで。
そんな状況、並の男なら動揺しないわけがない。
俺だって必死に平静を装っていたがどこまで隠せたかは分からない。
それに、あんなこと言われたら勘違いしそうになるじゃねぇか……
「家まで送ってくよ」と華麗に言えるようになりたい今日の作者です。
そのセリフを使う機会があるかどうかは置いといて。置いとくと忘れそうですが。
あと、関係ないですが花粉がピュンピュン飛び出しましたね。春は花粉と出会い安眠と別れる季節なので嫌い。
『本日のおねだりタイム』
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