Bパート
涙一族の記録によれば、涙一族の祖先は人間をベースにした宇宙人ではないかと言われている。
ハッキリした証拠、証明はないものの。
この一族が妖精と関わる運命であり、妖精の力を良く引き出す存在ではあった。
もし、そうなのだとしたら。
涙一族が1000年も進んだ世界を望むわけが、侵略と呼べる類いの可能性がある。
「憎たらしい。なぜ、私達が数百年と続ける研究の目的を。あなた方、裏切者達がいとも容易く成し遂げるのか」
稀に人間と妖精の間の奇跡。涙一族からは、常時妖人化した人間と確認される存在を時折輩出していた。その中で、涙キッスは歴代最高峰であり、彼女こそが1000年も進んだ世界で生きている人間と讃えた。
「メグ。お前達のやり方を見過ごすわけにはいかねぇ」
「私達の目的をお前達が達成したから、もう止めろとでも?」
「何人、何十人殺してる」
「ふはっ、ははははっ、随分と分家は放置が長かったようだな。我々本家、全ては我が一族のために身も技術も使っているのだ。どんな馬鹿でも、どんな無能でも、研究におけるモルモットとして生きて来られたのだ」
数多くの犠牲を出したが、
「しかし、……はぁ~~~。ナギとカホで、こうも簡単に産まれてしまっては、浮かばれぬ犠牲者達だ。……いやいや、そうではないか?」
「あ?」
「いや、君と私達とでは考えが違う。んふふふふ、君も私も、環境は違えど運命には逆らえん。もちろん、涙キッスもだ。例外はない。まだまだ長くなりそうだ」
無事の出産を祝いつつも、彼等が向いている方向は危険なところばかり。
◇ ◇
バリイィィィッ
「マキを1人にしたからだ」
メグとの戦いの中。
ルミルミがこの人間界に来て、強く思っている後悔を叫んだ。
「あの時、サザンがあたしを連れ帰らなきゃ!マキは死ななかった!!」
相方を失った原因。自分がいれば、護れた命。
「あたしはマキを支えて、マキはあたしを支えて。……人並みを夢見た、マキを……。お前達が殺した事を許さない!!」
涙一族との戦争が終わり、ブルーマウンテン星団を壊滅させ、ムノウヤも倒し。
久しい平和が戻ろうとした矢先のことだった。
戦いという危険もなくなり、笑顔だけの世界をルミルミは思った。そして、それを
『ふーーむ。マキはそうやって、君に吹聴してきたんだ。我々の思う通りに動く人形として、素晴らしい働きだ。そーして、また私達と君は戦う。多少、君達が強かったのが誤算だがね。勝ちも負けもつかないが』
精神的に幼いルミルミが戦いの中で私情を吐露したのは、根気が左右する戦いで精神を昂ぶらせるためだ。大して、メグはそれを削ぐように。
沢山伝えた事実を、またもう一度。ルミルミに告げるのだ。
『マキは1歳の時、我々の手で右脳を弄って理解力を低下させた。それから半年後、今度は運動能力を抑えるために頚椎を弄った。多少歩ける程度、挨拶ができる程度にしたのは良心的じゃないか』
「!!」
『君ほどの妖精と、釣り合う人間を人工的に用意するには大掛かりな事だったよ。いや、君と適合する事も含めれば……マキのような人間を30,40は用意して、ようやく出来上がったからね』
犠牲の数を苦労話にするほどの、悪役トーク。
全ての人間がそうではないが、ルミルミにとっては出会ってきた人間全てが、このメグに用意された登場人物のようにしか思えなくなった。
「ふざけんなぁっ!!」
バギイイイィィィッ
ついにルミルミは怒りに任せ、幾重にもこの時まで準備していたレッドブルーの空間の全てを切り裂き、破壊した。
それと同時に因心界の本部を3分の一ほど破壊し、凄まじい爆煙が立ち上った。
沢山の異空間を経ての現実世界。わずかでもここがレッドブルーが作り出した空間の可能性もある中、ルミルミは四方八方に剣を振舞わした。
ドゴオオォォォッ
再び空間を作り出そうとする起点を作らせないため。
まだ位置を特定できずとも、上か下かの違いで攻めて来る大雑把ぶり。
気を集中しながら、乱舞を見せ
「災害演舞刃」
自分がエクセレントチェリーに叩きこまれた奥義の廉価版。
それを空に向かってぶちかます。無論、ルミルミが今いる場所も崩壊している。
竜巻と剣技の乱舞が因心界の本部を襲った。
ドオオォォォッ
「は~、とんでもない奴だ。竜巻なんか発生させるな」
直撃はしなかったものの、建物を半壊以上にさせられ、ルミルミとほぼ同じ高さに足を置く状態になってしまったレッドブルー。
「怒らせ過ぎなんだよ。お前の戦い方は気に入らねぇ」
「ふー……ルミルミに殺されちまえ」
「ふ、ふふふふ。ゾクゾクする言い方だねぇ。君達は」
そして、無事に着地を決めるナギとカホ。
地上は瓦礫などで散らかり、常に揺れている因心界本部。その中で生物みたいに動き出す瓦礫が
「!」
ガラッ
「これでよーやく、対面だねぇぇ」
「……ナギ、カホ。手出しは無用だ。我々、涙一族の本家に全てを任せなさい」
トラップ的な空間に相手を誘い込んで倒すメグ(レッドブルー)。その彼がこうして、ルミルミと対面しても平静を装っているのにはまだ自信がある証拠。
目の前に標的がようやく見えたことで、高速移動でレッドブルーに迫るルミルミに
ガシイィッ
「!?」
「逆結界。私に近づくと、出現する空間だ」
「捕えました、ルミルミ」
至近距離からレッドブルーの部下である、大銛が現れてルミルミを捕まえた。そして、彼だけでなく涙一族の者達が泡のように次々と沸いてくるように現れて、ルミルミを抑えに行く。
無論。当然。ルミルミが人間達に躊躇することなく、彼等を瞬間的に殺害するわけだが。この近距離でそれを実行するのはレッドブルーも同じ。
両手でピースをし、目の周りを囲んだ。特殊な空間を作り出すエネルギーを溜め込んで放つ、レッドブルーの攻撃手段!
キランッ
「ラブスパーク!」
両眼から光り輝くビーム攻撃。ルミルミを抑える味方共々焼き貫いて、ルミルミにもダメージを与えていく。
「がはぁっ……メグっ……お前っ!!」
「??お前が殺してるんだから、動揺することもあるまい」
仲間もろとも。部下もろとも。
なんの疑問もなく、なんの戸惑いもなく。利用できるものを利用する様は、道具以下を使うようにレッドブルーはルミルミに攻撃していく。
涙一族の事を考えている存在達だからこそ、これほど命を軽く扱える。
「我々の理想のため、必要な犠牲ならば命を投げ出す。長い時間、自分を偽り生きていける。忍者の"草"という役目を知っているかい?我々は皆、そーいう事ができるんだよ」
「嘘だっ!!」
「さぁ、次行こう。お前、自動回復するし」
キランッ
エネルギーを充電するタイムラグがあり、両眼から放たれるビームは照準も見えてしまうため、普通の使い方では当てるのが困難。だが、こうして周りを利用し足止め。そして、そいつ等もろともビームで薙ぎ払うやり方は正しい。高速で動き、体格が小さいルミルミにとってはなおさら。
「ぐふうぅっ」
回復が間に合わないほどのダメージ。
人間の盾を軽々と焼き尽くしての貫通は、防御不能。ジャネモンでも出して状況を変えようにも、
「邪念を捜してもムダだ。我々にはそーいう考えは平常なものでね。君に分かりやすく言えば、私達は怪物と同類ってわけだから、君の声も届かない」
完全にルミルミへの対策を実行していく。
そして、抜かりない。
「全ては長年の計画通りなのだよ。君をマキに付けたのは、後々こーいう戦争を始めてくれるからだ」
「!!」
「平和を護るという組織があるだけで、平和ではない状況だ。それこそ争いを生みやすい。私達は平和じゃ困るんだ。新たな妖精も、新たな人間も生まれない。そしてなにより、涙一族だけが生き残る時代に行けない」
キランッ
ルミルミの心を抉るように話をしながら、ビーム攻撃を続ける。体も心もダメージを与えていく。
「"あらゆる面から合意の上でね"」
「!?」
「涙一族は、妖精の国の秘密を知りたい。未来を視れる力があの世界にあると確信している。お前はただただ怒っているだけみたいだが、私達はお前達が侵略しに来た宇宙の生物のそれではないかと思っている」
キランッ
「分かったかね?怒りや憎しみで戦うことが、どれだけ愚かで操りやすい者か。君は今、私と戦うまでが私の計画通りに動かされている、"馬鹿"そのものだよ」
ビームを撃ちまくり、黒焦げになっているルミルミ。わずかにまだ身体が動き、起き上がってくる。屈辱に溢れた口元になっていたが、出した声は
「お、……お味噌汁が……ね。おいし……かったんだ」
「?」
「マキって、……料理を、……作りたかったんだ」
作られた相方と言われながらも、そんなことは絶対にないって。思い出ばかりが脳内をひしめき、立ち上がらせた。
「美味しいんだ………お魚の骨、……とるのも大変で……あの弱気も。その子の、あるべき姿だったのよ」
身体の不自由に苦悩した日々でも、自分という我侭に付き合える子だった。いつも一緒に寝て、食べて、笑って、戦って、……時に。こーいう一族の事を恨んで、口にもしていた。
一緒に困った人達を助けようって、決めたんだ。
「私達妖精が、マキみたいな子を支えて幸せにして欲しいって、マキは言って……お前等に作られたからじゃない!!マキは……マキは私を応援してくれてた!!お前がいくら幻想を語ろうが、私の中のマキはいつも笑顔なのよ!!」
「あーっははははっは!!!そんな人間は我々が作った、人形だと言っているだろうが!!お人好しの馬鹿妖精!!」
元からいない存在。それも、この世には当の昔にいなくなってしまった存在。
そんな人の無念のために、人間を滅ぼそうとまで暴走。
さらにはその目的こそが涙一族にとっては、好都合だったということ。少し誤算を言うなら、ルミルミ達が相当頑張ったことか。
だが、その多少の頑張りも無駄ではある。こーして、レッドブルーに攻撃を仕掛けることすら、予定通りだからだ。
「くたばれ!!」
「ん~~?」
ギイイィィンッ
予定に入っていた事に横槍が入る。
まぁ、時間稼ぎは果たしたことだ。そろそろ来るとは思っていた存在が、ルミルミの前に現れ。あろうことかレッドブルーを庇ったのだ。
「……もういいだろ、ルミルミ。帰ろう」
「!!サザン!!」
自分への対策を入念に練られた上に、自分と共に戦ってきた存在。サザンが人間界に降りてきた。そして、それはレッドブルーの後ろに控えている、ナギとカホの妖人化が可能を意味する。
その意味を分かっていないわけではないが、怒りが収まるわけもない。
サザンが止めに来ることもそうだった。
「黙れ!!殺人補助者!!マキを、マキが死んだきっかけを作ったサザンに、あたしの気持ちが分かるか!?」
「……お前が人間界で暴れることが、マキのためになるのか!?お前の考えも、ここにいるメグの考えも、同じ事になるだろう!!冷静になれ」
「五月蝿い!!難しいことを言うな!!人間を全員ぶっ殺して、妖精の星にするんだ!!それから人間を考えてやる!!」
「わからずや」
妖精同士の言い争い。レッドブルーは、サザンもろともルミルミを消そうとする。それは妖精の国の統率を失い、終わりのない争いはもちろん、これをきっかけに求めている未来を視る力を得られる可能性がある。が、
「レッドブルー。少し下がれ。危ない両眼も閉じろ」
「今は話し合いをさせてあげて」
「サザンが戻ってくると強気だな、ナギとカホ。あまり長いこと話してると、ルミルミが回復してしまう」
「五体満足に戻ってもいいだろ。続きは俺達がやる」
「……3人でやるってのは?ふふふふ、まー。なしか」
ここから20分以上、ルミルミとサザンの激しい口論となり。
新たな答えを出そうとしていた。
◇ ◇
涙一族VSルミルミ。
その激しい戦いは近くにいれば、目を向けてもしょうがないことだ。あれほど激しい戦いをする妖精を見るのは初めてって奴は多い。
場面は代わって。
「うわ~~……だ、大丈夫なのかな」
「余所見すんな。ダイソンからは注意し続けろ」
気になるのも分かるが、マジカニートゥとナックルカシーが戦うダイソンも警戒してなければ、一瞬で消される。
ナックルカシーの目がダイソンに向けているところで、仕掛けられない。
だが、
「……おい、マジカニートゥ」
「は、はい!」
「やっぱり、お前は邪魔だ。野花とルルの持ち場に行け」
「えええーーーー!?直球過ぎない!?」
「俺1人でダイソンは十分だ」
録路も歳的にはかなり若い方だが、こーいう抗争は何度も経験している。
そして、作戦も立てていた側だ。
キッスが考えていた作戦の通りに、物事が進んでいるわけだが。不思議にもSAF協会がそれをスンナリと動いてくることに、やや疑問があった。こうして、敵としてダイソンと対峙しているわけだが。個人的な行動が見受けられ、無策でこんなことをやっているとも感じ取れる。
「いいから行け。なんか、嫌な予感がする。俺達が見落としてるなんかが……」
「…………わ、分かったから!負けないでくださいよ!」
言い回しは直感であるが。実はマジカニートゥもレゼンも、同様の思いがあった。
ナックルカシーの言葉に甘え、すぐに野花の下へ。野花の場合、妖人化ができない状態のため。生身で妖精と戦う事に不安を感じていた。
無論、ナックルカシーもだけれど……。
結局、1対1となったところで
「あーらら。まー、いいけど。どっちかって言ったら、あんたを消したいし」
「……顔を知らないが、お前は何も知らなそうだから。撒くぞ」
『来るぞ、ナチュラルズーン』
ナックルカシーVSナチュラルズーンの、一発目。
「…………」
開始のゴングは要らないと思う派であったが、ナックルカシーの動きを目で捉えつつも呆然として動けなかった状況。強くなったこの身体でも、ついていけない世界を見せ付けられる。
ドゴオオォォッ
一気に視界が消される、顔面への殴打。3回転しながらぶっ飛び、道に転がる。何が起こったか理解できず、起き上がったところ。無防備な顎を蹴り上げて浮かせる。
ついこないだ妖人になったイキリ新人に対し、こちとら組織のボスを務めていたベテランの差を見せる。
「げほおぉぉっ!?」
『し、しっかりしろ!!ナチュラルズーン!』
自惚れもあった。まさか、これほど身体能力の差があると反応もできないものかと。だが、宙に飛ばされたのは好都合。
ダイソンが彼女を宙に浮かせ、ナックルカシーとの高低差のある距離をとる。顔面殴られ、蹴られ、ブサイクみたいな面にされ。
「へ」
「おぼぉっ」
鼻血、吐血。空から汚いものを吐きやがると、嫌な顔を見せるナックルカシーに。
「豚がぶひぶひ調子にのんじゃねぇーーー!!」
『落ち着け、アイツは強いっ!!これくらいは想定できる!』
「脂肪も命も消してやらぁっ!!」
さらに上空に昇り、そこからダイソンを振り回して、そこら中を消しに掛かるナチュラルズーン。
身体能力強化しかない存在にとって、上空からの無慈悲な攻撃は一方的な戦いをしてくるわけだが。今のナックルカシーには
「"荒猛努"」
肉体を自由に菓子化できる能力もある。
「"卯砂実"」
肉体が一気にホイップ状に変化し、膨張していく。そこから玉の形を作りながら巨大化していく。雪達磨を積み重ねるように空へと上がって行き、ジャンプ1つでナチュラルズーンに届きそうな間合いに近づいた。
「!な、なによ!こいつ!」
トプンッ
ホイップの一箇所からナックルカシーの姿が現れ、ナチュラルズーンに捻りもなく飛び込んでいった。
「はっ!届くからって、馬鹿じゃないの!えいっ!!」
ダイソンでそいつを薙ぎ払い、消し去る。
そんな隙をみせれば、付け入るのは当然。すでに本体はダイソン達の死角に入ってから飛んでおり。
ガシイィッ
「!!重っ……」
「一度ダイソンを使うと、連続で掃いにいけないよな。ましてや空中」
物凄い能力を得られても、調子に乗っているだけの雑魚。
ナックルカシーが負けるわけもないし、不覚をとるわけもない。
さらに上からナチュラルズーンの背に圧し掛かり、重量オーバーで地上にゆっくりと落ちて行く状態であったが。
「消えるのはお前だよ」
ドゴオオォォッッ
渾身の蹴りでナチュラルズーンを地上に叩きつける。
開始早々、戦闘能力の差を見せつけ、一方的な戦いを始めた。
◇ ◇
「つ、強っ……見えないけど、録路さんが押してるよね!」
「あれくらいやって当然かもな。実力だけ見たら、粉雪さんやキッス様のちょい下ぐらいだし。今の因心界だけでみりゃ、三番目の実力者だ」
雪達磨のホイップと衝撃音から録路が優勢と見る、マジカニートゥとレゼン。
「録路さんが仲間で良かったー」
「ああ、まったくだ」
心配事が減るのは良い事だが、
「しかし、嫌にアッサリと作戦が嵌ったのが不思議だぜ」
「……うん。正直なところね。録路くんもそんな感じしてたし」
こうして戦いに身を投じていると、思い描いた通りに事が運ぶのに喜びを感じる面があるのだが、そーいった作戦勝ちという気持ちになれない。
因心界の本部がメチャクチャにされている事で、勝ちも負けも感じられないのもあるかもしれない。そこから感じる力もあるせいか
「なんていうか、こっちが実は不利というか。ピンチなんじゃないかなって」
「……次の本気まであと50分はある。アイーガを牽制する程度に留めて、本気は温存しよう」
ヌチャァッ
「ううぅっ。なんていうか、すっごい寒気がするんだよね」
「……………」
いかにルミルミといえど、涙一族を完封する実力ではないし。こちらも準備万端で迎え撃っている形だ。
こっちが不利っていう感じになる材料も、何もないはずだ。
だが、戦争が始まるらへんから何かを間違えている気がする。
そんな何か。
マジカニートゥとレゼンが、野花+ルルVSアイーガの戦場に向かっている頃。
そこでは
ドバーーーーンッ
ルルの、ハートンサイクルが爆撃でアイーガを押していた。
車を大破させ、物陰に隠れさせるまで押している状況。
街中を逃げながらアイーガは叫ぶ。戦う前まではカッコイイ事を言っていたが、今は見る影もなし。
「だーーーっ!もうっ!あの2人、あたしが接近しかできないと見て、距離とってズルくない!」
うっせー。お前のカチューシャの強制的な洗脳を考えたら、接近なんかできん。
野花がアイーガとの戦いで重視したのは、中距離戦。自分が使える武器が銃火器しかないため、それしか選べないのもあったが。
アイーガは人間に使役している妖精。多少の身体能力の強化があろうと、銃火器で対応できると判断。アイーガも拳銃を扱うが、経験の差がモノを言っており、技術では野花が上。
パァンパァンッ
「うわぁっ!今度は野花!?もーーっ!」
仕留めに来ないで時間稼ぎ。
元々、それが任務。アイーガを警戒する戦闘力とは思っていないが、それが役目。
ジャキッ
「ルルちゃんが先攻気味なのもありがたいわね」
このまま2対1を続ければ勝てる。
銃に弾を装填しながら、再びアイーガに迫る。地上と上空からの追い討ち作戦は成功している。
「ひーーーーっ!!どっちか引っ込めばいいのにーー!」
「待ちなさい!」
「待つかボケーー!ミサイルなんて危ない能力使うなんてーー!」
あたしも拳銃とか弓矢とかいけるけど、さすがにこれじゃ応戦できない!
逃げ回って逃げ回って、ダイソンに助けを求める作戦で!
「助けてーーーー!!」
パァンパァンッ
「今度はこっちから野花ーー!」
逃げまくって、逃げまくって、機を伺うアイーガ。逃げ足がクソ速い。だが、そーいう戦い方で行く限り、ルルと野花のコンビを倒すことはできない。
このまま行けば、……だ。
「ハートンサイクル!この要領でアイーガを行き止まりまで誘導するわよ。近づかないで蜂の巣にすれば勝てるから」
……………
「ちょっと、返事をして!!…………?」
先ほどまで確かにアイーガを追っていたはずのルルが、突如この場から姿を消した。




