Aパート
人間とSAF協会の戦争が始まった。
戦力は五分と見ていることと、粉雪と蒼山が行なっていた数日に及ぶ足止めはまだ人間側に戦力の不足があった。
戦略会議で決まっていた事だが、
「ルミルミの事は父さんと母さん。それとメグさんに任せる。希望通り」
「大役ですな」
『上手く誘えるのか?っていうか、サザン次第なところもあるな』
涙一族がルミルミと戦う段取りになっているわけだが。
肝心の妖精であるサザンが、まだ人間界に来れていない。
「粉雪と蒼山に可能な限りの足止めをやってもらいたい」
「やるだけやるわよ」
相手が相手なだけに涙一族側には、全戦力の準備を整えたい。
サザンのお願いでもある。
そーいうわけで妖精の国の王、サザンも急いで人間界に降り立つ準備や行動をとっているわけだが。ロゾーを失ったことで代わりの秘書もおらず、てんてこ舞い。妖精の国も人間界同様に政治関連があり、それには四苦八苦。
不正な行いをしている妖精達の監視やら、人間界に降り立つための査定やら……。
ダッダッダッ
ルミルミとの戦い。ナギとカホが協力してくれるとはいえ、尊敬している妖精、セーシを破ったルミルミの強さは自分の想像よりも強くなっている。
もし、自分が死んでしまえばここの妖精達は混乱に陥り、人間界にも大きな影響を与えるだろう。死ねない戦いを強いられるとなれば、ルミルミを抑える事は難しいと判断。
自分の役目を引き継いでくれる存在のリストアップも必要であり、その妖精に直接お願いをしに行っているところ。
「やっと見つけましたよぉぉ……」
部下達に色んな隠れ家を当たらせ、10数件目。
一体いくつの隠れ家を持っていて、逃げ回りやがるこの元凶と。サザンの中で、セーシに次ぐ、敬意を抱いている妖精。……いや、妖精という枠ではなかった。
隠れ家の扉をぶち壊して入ったサザンに、そいつは怯えるも勘違いし
「あああぁっ!原稿はまだできていない!!待ってくれ!!もう少しだけ!」
「違いますよ!私は編集者ではない!!アダメさん!!」
「!サ、サザンかー。脅かすなよ。いつ以来だ?」
「こっちはあなたを捜すのにどれだけの年月が掛かったと思ってるんですか!失踪ばっかりして!いや、……それは今どーでもいい」
「??なんだ、外の世界の様子が変わったのか」
「知ってるだろうが!!とぼけたフリして!!アダメ!!」
妖精の国を任せられる存在にしては、些か状況が疎いようだ。
最近の事情は確かに知らなかった。だが、サザンとルミルミの関係や妖精の国の"存在理由"なども知っている数少ない存在。それと因心界のことも知っているわけは
「"聖剣伝説"の作者、アダメさん」
様々な種類、面白姿をした妖精達がいる中で。このアダメという存在の姿は、人型ではあるのだが人間という括りではない。
女神と思わせる格好をしている根暗女性。……宇宙人の♀といったところか。ルミルミ、ヒイロの2人の方が人間に近い。
彼女はヒイロやセーシをモデルにした作品、"聖剣伝説"を書いた存在であった。
とはいえ、そんな情報公開よりもサザンとしては自分のこれからの事を伝え、留守を任せるためにしたい。
「私、人間界に行って、ルミルミをとっ捕まえて、こちらに帰らせるつもりなんですが」
「え?え?」
「数少ないこの世界の事情を知る方に留守を任せたいんですよ、アダメ」
「ああ、やっぱりサザンはルミルミの事が好きなんだね。まだ恋愛感情もあるんだ。三角関係でもやるつもり?新ネタになるかも」
「ア・ダ・メ……お前を人間界に差し出すぞ。私にはもう妻もいて、子供達もいて、孫もいる」
「ごめんなさい。それだけはお許しください」
「人間界と妖精の国で数々起こるあらゆる凶行を生んでしまったのは、あなたのせいだってここでは私だけが知っているんですよ(セーシ先輩とルミルミも知ってるけど)」
「ううぅ」
妖精とはなにか、人間達と関わっている深い理由について。
この存在は知っている。
個人的な理由もあるサザンではあるが
「私はね。仲間を取り戻すため、人間界に行きます。私に何かがあれば必然的にあなたが行なった大罪が裁かれる事をご理解ください!留守を頼みます!!王国の城に行け!」
「ちょっ!……無事に帰って来てくれよ!君、いなくなったら!編集のみなさんと妖精達からフルボッコにされるじゃん!!」
「当たり前だろ!!"妖精を生み出した"方!!」
◇ ◇
因心界の本部。
外装はそのままではあるが、内装はガラリと変わった景色。
チュ~~チュンチュン
鳥の鳴き声や蝉の鳴き声。建物の中に野山があるみたいな光景が広がっていた。
野生動物も生息している様は都会では見られないだろう。
山が広がり、魚が泳ぐ川が現れ、天井が大きくなって雲と風を呼ぶ。
ルミルミは足元を見て
「…………」
床も徐々に土に変わっていく。
空間そのものが変わっていく。
「"幻影帝国"」
ぼそりと、標的の1人が得意としている技を体感する。
技の名からして幻覚の類いに思えるが、実物である事が恐ろしい能力。
天の声の如く、ルミルミの届く声の主。涙メグ。改め、彼の妖人化、レッドブルー。
『ようこそ、ルミルミ。私の"幻影帝国"へ』
「……空間転移能力。自ら張った結界の中では、なんでも有りって能力だっけ?」
『あなたと同じで語るのに時間が掛かる事ですね』
「お前を殺すのに時間は掛からないけどね」
姿を見せず、こんな平穏な空間を見せつけて何を企んでるか分からないが、
ルミルミの下から青色の魔法陣が現れ、背後には誰かの人影らしきものが映る。
「『金色に輝く月の輪』」
ルミルミの体は金色に、魔法陣からは暗闇の煙が立ち込める。
「『ブライトエンジェル』」
ルミルミが妖人化のために放った光が、魔法陣の暗闇を消し去って完了!
エクセレントチェリーを破ったときと同じく、剣を生成し、空間そのものを斬!
野山も川も、写真を引き千切ったような跡を残し、崩壊。
空間が割れる。
そして、すぐにルミルミは現実世界に帰還する。
バギイイィィィッ
「ふんっ、いくらでも来なさい」
ビイイィィィッ
空間を破壊したら、またルミルミを異空間に引き摺りこむ。
レッドブルーの戦い方。
姿を見せずにじわりじわりとルミルミを削る作戦と思われるが、空間を作る消耗は明らかに大きく、レッドブルーの方が分の悪い戦い。
最初はのどかな自然の空間であったが、少しずつ凶悪化していく空間。
バギイイィィッ
海底、火口、竜巻、悪臭、……あらゆる不幸が詰められた空間にルミルミを誘い込むが、いずれもルミルミの剣と光で空間を破壊されていく。
「あはっ」
瞬時に空間を作るだけでなく、多重空間の連想による足止めと時間稼ぎ。破れても次々に生成して行き、現実世界から遠ざける。少しでも、破るのに時間が掛かればそれだけ空間を張られるだけ。
幾重にも空間を張り続ける根気の戦い。
空間を張れなくなったら、そこでおしまい……。捜さなくてもそれで決まる。
レッドブルー1人で、あたしに勝てると思ってんの?
『さすがにルミルミか』
私の消耗戦に付き合うところは性格通り。
考えているか知らないが、ここにいる涙一族全員を殺す近道でもある。お前を殺すことにも、我が涙一族の目的にも、手段を選ぶことはない。
バヂイイィィィッ
直接、肉体をぶつけあって向き合う戦闘ではないが。ルミルミVSレッドブルーの戦いは根気が必須な消耗戦になった。
どっちが先に力を尽くすか。これが涙一族にとっては、ルミルミを攻略するための最良という判断。一族のほぼ総出で戦うやり方。
◇ ◇
涙一族。
一族の目的は、"1000年も進んだ世界"……という事らしい。
1000年も進んだ世界。想像もできんところだ。
だが、その想像を叶えるための具体的なやり方とは
【涙一族を除く人類を、殺して、1000年生きます】
生物の頂点を表す結果は分かりやすい。
その目標に向かって取り組んだことは、多くの人間が生きられない環境下で生きられる人間を生み出すこと。猛毒でも、灼熱でも、氷河期でも、寿命だろうと生き残れる人間を生み出すこと。
その研究は涙一族が妖精と手を結んでから続けており、一族はその野心のためだけに厳しい環境に身を置き、一族の理念こそが正しいと脳に刷り込まれていった。
一族の犠牲など、目的のためならばなんでもないこと。
どんなに頭が悪かろうと、体が悪かろうと。捨石になれる者達が大勢おり、喜びを感じたまま死んでいった。
「争いはどうして必要かな」
「革新を求めるため、人類が考えをするためにあると思います」
因心界がまだ設立される前。涙メグ、ナギ、カホも、少年少女の時代。お屋敷にて元棟梁に見出され、涙一族の栄光がなんたるかを教えられるメグがそこにいた。
当時も優秀な妖人や人材を輩出しているが、それでもまだ目標には程遠く停滞感もある。そこに追い討ちをかけるように、国などが涙一族を危険視しはじめた。軍隊とは異なる武力を持つ一族だ。
無論、その武力もエグイのだが……危険思想。
「争いを消してはいけません。いかなる手段でも、妖人は戦いに身を置いて発見と成長をするべきことです。その中で不幸にも失った方がいても、おかしくはないでしょう」
優れた人格とは、組織に適した事を言う。
メグが後に涙一族の棟梁に納まったのには、ナギとカホよりも組織として人格が適していたからだ。正義の仮面を付けたり、その外側で活動したり。
「"人間と妖精が共存する"、その思想は互いにできつつなった。あとは嘘八百でも、妖人共で争わせれば良い。国の連中もいずれ妖精が兵器に成り得ると認めるし、実用化するだろう」
「しかし、まだ人間と妖精の関係は完璧とは良い難い。定着には時間が掛かるかと」
「今は犠牲が多く批難を言うが。未来ではそんな批難を忘れて、結果だけを見るものだ。定着もしていくものだ」
メグは、涙一族が世界だけでなく、時代を握る存在にまで膨れ上がって来ている中。生きている事と指名されている事に喜びと誇りを持っていた。
「……ナギとカホを、涙一族と敵対させた手腕。我々が滅ばぬ限り、戦いを続け、目標に到達することでしょう」
「うむ。頼んだぞ、メグ。私の代、貴様の代であろうと、我々が人類の主の頂点にすることと」
「はい」
いずれ、国は涙一族を滅ぼすための組織を作るだろう。
その戦いをできる限り長く行い、多くの人間と妖精を巻き込むこと。妖精も時代の進みと共に特異な存在を輩出し、人間達も同様だ。
数手先というより、遠い未来を想定し、メグは動き出していた。
平和に収まらないよう、争いの火種を撒く主演を呼んだ。
「飛翔マキ。君こそ、10年。いや、20年先の戦争を演じる主演女優だ」
「………………」
そいつは重度な障害を抱えており、歩行困難な身体と言語不自由な涙一族分家の少女。
メグの言葉が脳には届くも、解析することが困難。口で答えることにも不自由があった。
「生きていて7年。君にもようやく、妖精を授ける。ルミルミという優れた妖精だ」
「…………あ、……ありが、と……」
彼女の言葉は、意味だけしか伝えられていない。
発音、表情、意志。それらから人という認識を薄れさせてしまう。




