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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第28話『エクセレントチェリー VS ルミルミ!ピュアシルバー VS ダイソン!!』
83/267

Cパート

"お姉ちゃん"……"お兄ちゃん"……"華"……。



脳の中を歩き回られるような、惨き夢。

自分を呼ぶ、その名を叫ぶ声の主はハッキリと誰かを覚えていて。

自分はもうどれでもない。



「………………」

『飛島』



表原と野花、ルル、浦安。4名を、別の地点から護衛と監視を任された飛島。東京駅に入り、偶然ながら探していた気配を感じ取った。

知らん振りしそうなラクロに、ウンと縦に首を振らせる声で。



「いるよな」

『!……』

「ダイソンが、この東京駅にいる」



偶然。あまりにも偶然。

匂いを消し去る事なんてできない。ラクロがそれを告げないのは、因心界の任務が大事であるからだ。しかし、飛島の言葉に


『いる。だけど、今は違うだろ!』

「違わなくない」


ついていく、他はないだろう。

静かに猛って誰にも告げずに捜しに行く。電車を使われてどこかに行かれると困る。


「見逃すわけにもいかないだろ」


ここで刺す。万が一、ダイソンの狙いが浦安だとすれば……。戦う理由にはなる。

飛島の感知は、センサー的なモノであり。ダイソンの居所を突き止めるにはラクロの嗅覚が必要だ。従えって言っている。

ラクロが少し遠回りしつつ、意志を固めたのには……。覚悟がいる戦いになるからだ。それもダイソンとの戦い。


『……できてるんだな。手加減はないよな』

「それを私に教えてるのはダイソンの方だ。まだ、奴が本調子でない可能性がある」


怒り、憎悪。そーいう表情、感情がリードで?がれてなくても、ラクロにはバリバリ伝わっている。それでも冷静で、思考を巡らせ。あらゆる面でここの対決が合理的であり、精神的にも鼓舞する要素となる。

怖いわけないと……強がっているとも言える。

それだけの相手であり、それほどの相手であり……。



「…………あいつは、姉ちゃん達の仇だ」



◇      ◇



因縁を最初から持つ者などいない。

なにかしらの理由があり、それが道徳的に正しいものだったり、感情的なものであり、何もなく理不尽過ぎるものだったり。



「あはっ……。くすぐったい奴」



ペロペロ……。



飛島華、当時5歳。今から14年前になる。

彼の家系は涙一族と同じく、妖人を輩出する一族。その規模は大きいものではなく、老舗旅館を継ぐ地域特有のものだ。家族全員が妖人としての適正を持ち、涙一族と協力して、妖精を扱っていた。

その彼に飛び込んで、頬を舐めるラクロ。


「ふふふ。まぁ、残念だけど。基本的に妖精と契約できるのは、人間一人に付き、妖精一頭だからね。例外は網本粉雪だけだし」


両親は因心界に務めており、父親は涙カホの推薦によって選ばれた幹部の1人だった。

時期が来れば、娘と息子。3名の因心界加入はある事だろう。

10歳の姉。5歳の飛島。3歳の妹。

3人揃ってすでに妖人。


「華ー!今日も特訓よ!」

「分かりました、お姉ちゃん!ごめんね、ラクロ!僕、特訓あるから」


キューン……。


ラクロを妹に手渡し、壁に掛けていた箒を手にして、姉のいる庭に出た。

もうすぐ、姉は因心界の妖人として。ジャネモンと戦って平和を守る人になる。カッコイイ。

一方でラクロは、手厚くしてくれる飛島が行ってしまう事を残念そうな顔にするも、すぐ



「なでなで~。ラクロー!ラクロもー。お兄ちゃんやお姉ちゃんに負けない。すっごーい。妖精になるだよ」




『うん!』




契約者である妹に、その2倍は優しくなでなでしてもらえる。


子供の無邪気さに妖精の力をそのまま使えば、危険なもの。火の元並みの注意さはあり、幼くして妖人化を遂げた者達には必ず、力の制御と心の自制を特訓に求められる。


録路しかり、北野川しかり、此処野しかり、蒼山しかりと……。

強大な力を手にすれば、それをどう扱うかこそが最も危険。力とは使いようこそが大事なのだ。

飛島のパートナーは特にその傾向が強かった。


「行こう、ダイソン!」

『……ああ』


飛島華の契約者はラクロではなく、ダイソンであった。



◇      ◇



臭いを辿っていけば、それがダイソンだけではないし。ダイソンとその者の距離が密着か、装備に近い状態であればもう1人いる。


『残りはアイーガで間違いない』


記憶していない臭いだが、ダイソンと共に行動しているとしたら妥当だ。

……録路が、ダイソンの適合者を以前に倒している事から、新たな適合者という可能性もあるが。そう簡単に奴が決めるとは思えないし、可能性を消した。


「やるぞ」


抑えられない。

殺したくて、殺したくて、悔しくて。

精神が黒化していくのを実感し、交える。そんな記憶を抱えて、……。


「『隠れもないクリアを、ピュアシルバーは照らす』」


東京駅、千代田線の駅ホームにある女子トイレの前に、ピュアシルバーが立つ。

こっちの追跡に気付いたか、駅の騒動に乗じての潜入か。

どっちにしても、ここでダイソンとアイーガを野放しにできない。



ザッ



「………」


女性の香水の臭い。それでも、ダイソンに対する恨みは深く。その存在を感知できる。

巨大化し凶暴な姿となったラクロは、壁のある女子トイレのいずれも破壊するために



ドゴオオオォォッ



壁の向こうまで体当たりをぶちかました!全ての女子トイレをメチャクチャにし、そこにいた人間は一溜まりもないだろう。まぁ、いない気がした。


「小さくなれ、ラクロ」

『ああ』


追い詰められて、女子トイレなんぞに隠れる博打は難しいだろう。こっちが気付いているなら、ダイソンが気付いていてもおかしくない。


「逃亡する術はあるようだな。しかし、逃さない」


ダイソンは自分の能力で床の一部を消失させ、穴を空けて下へ降りた。

代勿のような逃走術はないし、移動手段は電車のみ。その電車も多くが運行の見極め状態。地下鉄なら、この付近に快速はないし、隣駅も近い。

足で追いかけられるし、ラクロは速い。



タッタッタッ


「ねー、ねー!ダイソン!ホントに私達を追ってきてるのがいるの!?」

『……飛島華だ。あいつが近づけば、俺にも存在が分かる』

「あたしには分からないんだって!」

『悪い、頑張れ!俺は箒状態だ!今、あいつと戦っても俺に勝ち目は薄い』


女子トイレから駅構内に降りたアイーガ。ダイソンを抱え、線路に入って、逃亡を始める。電光掲示板は電車の運行停止を告げており、動く危険が少ないと分かっていた。

そして、



「おぎゃあああああぁぁぁぁぁ」



迫る危機よりも、邪悪な主の咆哮がした……。それはダイソン達も飛島達も気付いただろう。

ジャネモンの群れが東京駅に出現し、即座に包囲された東京駅。しかし、それは駅の外であり地下の封鎖はできていない。

そして、本来ならば妖人達の多くは、この東京駅にいる人達を速やかに避難、安全の確保に向かうべきだ。飛島が涙キッスに任されている指令にも一致しているが、彼はそれを無視した。

理性的な理由でもなく、感情的な理由。それほどにだ。


ダイソンに対する恨みは強い。そして、野放しにできない強者。

アイーガが抱えていると推測するなら、ダイソンが弱っている証拠。



「……追うよ、ラクロ」

『ああ。もう、逃さねぇ』


この状況。未来の結果を知る上で言えば、飛島の判断は正しかった。

それに加え、ラクロが腹を決められる理由にもなった。


『ルミルミ様はホントに場を乱す方だ』

「え?え??どーいう事!?ルミルミ様が近くにいるなら、助けてもらおうよ!」

『逆だ。アイーガ。ヤバ過ぎる』


ルミルミの強さを重々知っている飛島が、ルミルミに立ち向かう姿は想定できる。だが、距離はダイソン達との方が近く。ルミルミとの実力差、周りの戦力差から言って助けになれるかは怪しい。

野花の実力を飛島は知らないが、それを加味してもルミルミを倒せたか。あるいは十分な足止めに貢献できたか?

……難しいだろう。少し未来を見ると、この状況かで逃げ切ったのは、表原とルルの2名のみ。飛島がいたからといって、未来を変えられるほどの人数を救えたかは怪しい。そして、ルミルミの暴走と同じタイミングで寝手とアセアセがやってきた。

結果は知っての通り、逃げ道を作った野花の頑張りはムダとなった。

命を懸けてやるのなら、ダイソンを道連れにしてでも葬ることが最良。アイーガも殺すことができれば、さらにいい。元々、捨て身で戦ってきた飛島の覚悟は早いことで、迷いを見せない。



そして、困るのはダイソン側だ。地上にいるルミルミがすぐに来てくれるわけもないし、助けてくれるとは思えない。シットリがいれば……と願いたいくらいだ。

残念な事にシットリは東京駅にはいなかった。彼の救援は無理。

此処野と白岩の2名も、東京駅とは遠い場所にいる。なにより助ける確率はもっと低いだろう。


アイーガと今の自分で、ピュアシルバーと戦う。

追いつかれ、間合いに入られたら……。



「あ!」



東京駅は広く多くの路線が引かれている。そして、その駅からの最寄り駅との距離はかなり短い。ルミルミの広範囲によるジャネモンの出現は、東京駅に集中させていても、その余波で最寄り駅にも怪物を生み出していた。


「じゃね~~」

「電光掲示板が怪物化してるーー!あっちじゃ、電子マネーのチャージ機がーー!」

「駅員や会社員も怪物化してるぞーー!」


多勢に無勢。

駅の利用者達が襲われている光景に、混乱が生じている。線路から入って、ホームドアを飛び越えて駅に入ったアイーガとダイソン。このジャネモン達を纏められれば、ピュアシルバーを仕留められるか。

敵の戦力は幹部とはいえ、キッスや粉雪と比べれば桁外れに強いわけではないはず。



「ルミルミ様が無理矢理出してるジャネモンを纏めればいけるかな!?」


10体以上はいる。だが、ジャネモンの強さは決して良いとは言えない。

ダイソンはこの駅構内の惨状。ジャネモン達の群れと、倒れている人間達を注目しつつ。結論を出す。


『止せ。戦力には期待できない!それに俺達が召喚したのならともかく、ルミルミ様のあの我侭が繁栄されたジャネモンの操作権を握るには時間が掛かる!』



ダイソンの言葉通り。


「じゃね~~~!!」

「ちょちょちょ!味方味方ーーーー!!」



電光掲示板型のジャネモンはアイーガとダイソンを発見しながら、即座にビーム攻撃を放ってきた!これはただただ暴れるだけに生み出された、意志のない化け物。

アイーガとダイソンを認識しながらも、攻撃を仕掛けてくる問題ぶり。


『突っ切れ!俺に考えがある!』

「分かってるよーーー!走れないくせしてーーー!」


アイーガがダイソンを持ちながら、ダッシュで駅の階段を駆け上がる。それと同時に


「!ダイソン!!」

『やはり連れはアイーガか!!』


ラクロがピュアシルバーを乗せ、線路を突っ走り追いついた。そして、視界にアイーガと抱えられているダイソンを発見。上の階に逃げられ、ジャネモンが駅構内に無数いるが


「蹴散らせ!!ラクロ!!」


ドゴオオォォォッ


ホームドアを蹴り壊し、鋭い両爪でジャネモン達を切り裂き、破壊。認識関係なく、邪魔する奴はぶっ飛ばすというやり方。ピュアシルバーの熱い覚悟の表れ。


「どけええぇぇっ!!」

『ダイソンを噛み砕かせろ!!』


昇っていく階段も、パワーが強化されたラクロの両足が踏む度に、壊れていく。

アイーガの足では追いつかれる。

暴威を振り撒き、階段を昇り、荒れ果てた改札口でピュアシルバーとラクロは、隠れるモノ、隠れるところ皆、ぶち壊しまくった。

瓦礫音、その土煙。ラクロたちが体に浴び、やや視界が失われようと臭いを感知して、そのハンデを見せない。


ダイソンは箒の妖精であり、物体に宿っている妖精は、基本的に自立して動けない。

アイーガを認識したピュアシルバーとラクロは、


『西口に向かった!』

「追え!」


アイーガを追って、西口の出入り口の方へ。

地上に出ても、追跡から逃れる術はない。


「あああああぁぁぁぁっ!」


全力疾走!!アイーガ、懸命の全力疾走!!両足で階段を二段飛ばし、両腕の振りが命を掛けているそのもの。しかし、



ドゴオオォォォッ



「ひいいいぃぃっ!!」

「アイーガ!!ラクロの牙に砕かれろ!」

『頂きだあぁぁっ!!』


出口直前で、ピュアシルバーとラクロが追いつく!!アイーガの背面を大きな顎で



ガブウウゥッ



アイーガの胴体を食い千切って、地面に転がした。這うことでしか、動けなくなるアイーガ。


「いやあああぁぁっ」


幸いにも本体であるカチューシャがまだ無傷であるが、人間がやられてしまえばダイソン同様に行動ができない。"切り札"を発動し、最後の足掻きを見せるかどうかに。仲間を信じて、見をする。

ほんの一瞬の油断。警戒心を揺さぶるもの。




「!!」


アイーガがここから無理に抵抗を見せないことで、ピュアシルバーの視野が広くなる。全力疾走で駆け上がってきたアイーガの手に、ダイソンがいない!


『ダイソンがいねぇ!?』


改札口に上がる階段のところでは持っていたのを思い出せば、自分達は通り過ぎたということ。


「戻るぞ、ラクロ!」


アイーガにトドメを刺さなかったのは、ピュアシルバーにとって彼女を捕獲対象と認識したからだ。加えて、ラクロが戦闘不能にまでダメージを与えたこと。アイーガの抵抗の意志が感じられないこと。彼女から今感じる脅威は、大きく減った。

どのようにして、ダイソンがアイーガと別れたかは不明だが。ダイソンも動けないのは確か。命を奪うのならダイソン。その覚悟がピュアシルバーを駅の中に引き帰らせた。



『あ、……あ、危なかったぁぁぁっ』


でも!これじゃあ、あたし。何にもできない!ダイソンが負けたり、失敗したら。あたしも死んじゃう。いや、あれやこれやで……SAF協会の情報を取られちゃうっ!

勝って、勝って!ダイソン!ルミルミ様とシットリに殺されたくないっ!



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