Dパート
それは自分の人生の全てが変わった瞬間だった。
何をしていても満たされない日々で初めて、私は恋をした。
女なんて、男と違うだけの種族と考えていた私にだ。
「私と」
生まれ落ちた家庭が、私に要求され続けていたことは"結果"だった。
誰よりも1番できるように、なんでも負けぬようにと。
勉学にも、スポーツにも、芸術にも、私は常に優秀でなければならない。
だが、一番をとったことは一度もない。
周囲が優秀な人間と評してくれても、家族は一番をとれない子を認めてはくれなかった。そんな環境を16年。もう、家庭から出てくる陰口にウンザリし、人が求める"結果"を拒んだ。
進めば進むほど、自分より優れた存在と出会い、その度に心と体、時間をすり減らして生きていく事に疲れた。気力の大半を失った私は、枯れる花のように成績を落としていったが、まったく不幸にならなかった。
大学入学を気に親元を離れる。勘当の形だ。
それは大変だった。初めて知れることもあった。
親に感謝するべき事は、厳しい環境を強いたことだろう。これを振り返れば、感じている苦労が気楽に思えるし、自分より下の人間と共に生きるのはなにより楽しかった。
自分はできる存在だと思えるのは、幸せだ。
そんな私だったが、唯一。まだ一度も、分からない事がある。どれだけ勉強をしても、どれだけ運動ができようとも、一度も……ただの一度も……人との接し方が分からなかった。
それだけで全てが満たされないと思う、強欲が出た。
「付き合ってみませんか?」
自由を得た私が、初めて恋をした話。
可愛い顔をし、この大学にいる多く馬鹿達とは違い、真面目な姿を魅せていた。また自分と違ったお淑やかで頑張り屋さんといった、私なりの彼女の印象だ。
こちらから声をかけてから始まった。
付き合いは2年ほど、同棲生活も半年近く続いただろうか。
「好きな人ができたから、別れたいって……?」
それでも関係は上手くいかなかった。
彼女はそういって私から離れたが、それが嘘だって事は付き合いから分かっていた事だ。ただ、どうしてそんな分かる嘘を言ってまで、別れることとなるのかは分からなかった。
人生で2度目の転機であったが、より酷く思えた。彼女とはそれ以来、一度も会えなかった。
毎日のように酒をがぶ飲みし、あらゆる事を放棄した。それでも、考えたくない事も考える日々が続いた。
どーすれば良かったんだと、考えた。
そして行き着いた、とりあえずの答えは……
◇ ◇
プシュウゥゥッ
「ぐぅぅっ」
沼川のジャネモン化が解除され、人間の姿に戻った。だが、クールスノーの連撃によって、虫の息であった。
死ぬのは嫌だと思う自分もいるんだろうが、それよりもこのまま何も分からずに死んでしまうのか、そういう考えが浮かんでいた。
両親の言葉の全てが正しいとは思えない。
彼女の行動が正しいと思いたくない。
じゃあ、私は……どーして生きてきた?
「はぁーっ…………」
家には妻がいる。息子もいる。それでも、私の心は満たされていかない。正しくない。
その正解不正解に悩んでいる命。
「南空、こいつの処分は任せるわ」
「承知しました」
クールスノーはいよいよ、本命を狙いに行く。残った南空は死に掛けの沼川を見下ろして、死にそうなくせに死がなんなのかを考えていると、察した。
そのうえで、
「人の心が読めてもなお、人は思い通りに動かぬものだな」
老齢な者から、重たい言葉だった。
「なにより、自分が自分の思い通りにならない。人生とはそーいうものだ、若造」
呼吸が苦しくなってきている中で、重すぎるものだ。これだけ苦しいのかと、知った。
だからこそ、そんな苦しみから逃れる工夫や技術を模索をするのであろう。
「果てぬ夢は身を滅ぼすだけ、失うばかりのこと」
家族は一番を目指せという限界を与えた。
彼女はこれ以上付き合わないと、現実をみせた。
その理由を求めて、身を滅ぼすことばかりしていた自分。
死が近いことと見下ろされている相手が、自分の両親に近い老体であることに。ようやく、自分の行動原理が分かり、これまで思ってきた謎を解き明かせた。
そして、分かった時に散ってしまう。
「く、……くやじぃっ…………」
いつ、忘れてしまったか。慣れきった世界がそんな気持ちを薄れさせていた。
沼川が思っていた人生計画は、まだスタートの段階でしかなかったのに、こうしてあっという間に破綻していく。
もっと金を得たい、もっと良い女を抱きたい、もっと土地を得たい。もっと馬鹿共から金を奪いたい、まだまだ私には"やりたい事がある"。それはまだ、自分の"やりたい事がない"からだ。
「くやじいいいぃぃぃっ」
断末魔をあげ、沼川の体は萎むように死に向かう。
ようやく、気付けた理由だったが。その時はもう遅いことばかりだ。
沼川左近、無念のまま、死亡。
◇ ◇
クールスノーが沼川を破ったことで、上の階での戦闘に顔を出す。
「!!」
ブレイブマイハートVSナックルカシーもまた、同じく決着をつけていた。
勝敗はナックルカシーの勝利であり、ブレイブマイハートの敗北と戦死。
その事にクールスノーは怒りの表情を出し、勝利しつつも倒れこんでいるナックルカシーの前に立った。
「まさか、あんたが勝つとはね」
倒れていようと、敵は敵。こいつの息の根を止めるのは簡単だ。
ドゴオオォォッ
とりあえず、立てよって。伝えるように顔を蹴り上げ、上体を起こさせる。また沈む前に、左手で胸倉を掴んで持ち上げる。ようやく、ナックルカシーが声を発するが、戦意が感じられないボロ雑巾と言える姿。
「がはっ」
そんなもの関係ないと、ナックルカシーを頭から床に叩きつける。
「くたばれ、豚野郎」
顔面を剥ぐような攻撃を、クールスノーがナックルカシーに繰り出そうとした瞬間。
このアジト内では考えられないであろう、キャスティーノ団の関係者がいた。よもや、クールスノーに向かって来たのは、相当な実力者でなければやらない事だった。
バヂイイィィッ
クールスノーの攻撃を止め、すかさず。クールスノーからナックルカシーを引き離した。
相対した相手に対し、クールスノーは分かっていたような声で確認
「やっぱりあんたが、録路を裏で操っていたのね。黒幕ちゃん」
「…………」
同時刻。
因心界の本部においても、涙キッスが相対している存在も。
「キャスティーノ団の黒幕。そうだろ?」
2人は同時に、別の名前を言った。
「太田ヒイロ」
「白岩印」
言われた2人は
「そうだ」
「…………」
認めるヒイロと、黙秘をしている白岩。
パァァンッ
クールスノーは妖人化を一度、解除した。ナックルカシーを護ったレンジラヴゥもまた、妖人化を解いた。両者には、ひとまず。殺し合いの意志はなかった。
粉雪は事情を知りたい。そして、
「でも、あんたが黒幕なわけないよね?裏でやってたのは、ヒイロでしょ?」
粉雪もまた、黒幕の正体に行き着いていた。
だが、目的までは見えてこないから。黒幕と通じている、白岩に尋ねているのだ。それでも白岩は黙秘をしている。そこで
「北野川があんたとヒイロを調査すれば、なんでも分かるのよ」
無駄だって事を教えるも、それでも白岩は答えなかった。答えなかったが、
「佐鯨くんには残念だけど、録路くんを回収できました。北野川なら録路くんを辿って」
「とぼけないで。あんたとヒイロが黒幕だって私には分かるから、録路もいらない」
強い言葉だが、粉雪自身も白岩とは戦う気がない。
「乗せられたの?正直、あんたがこんな事に付き合う性格には見えない。今は二人きりよ」
腹を割って話そうというのなら、この機会しかない。白岩としても粉雪が頼れる先輩でもあり、話してもいい気持ちではあるが、到底話せる理由ではない。1つ言えるとしたら、
「ヒイロが好きだから。それであたしはやってるの」
「………具体的じゃないわね」
情としても、白岩の強さを知っていても、戦う事はしたくないが。未来を考えたら、事情も教えてくれない悪を生み出す人間など、生かすわけにはいかない。裏切られた気分もそうさせる。
「残念だけど、ガチで相手してあげようかしら。白岩、こっから抜けられると思ってんの?外は囲んでる。それに私が相手よ」
「捕まえるだけとは思ってません。でも、私もこのままじゃダメなんです!」
敵となってしまったが。
因心界の3強同士の対決が実現するかというところで、
ピルルルルルル
「!?キッス……」
「ヒイロ!?」
双方に互いのトップからの通信が入った。
そして、粉雪の方にキッスの声で伝えられる。
『どうやら、黒幕が現れたようだな。白岩だろ』
「そうよ!あんたも分かったんでしょ!」
『見逃してやれ、粉雪』
「はぁっ!?」
一方で、白岩の方にもヒイロから
『急いで逃げる必要はない。ひとまず、みんなと一緒に戻って来てくれ』
「わ、分かったよ。ヒイロ。ヒイロは大丈夫なんだよね!?」
『問題ない』
「よかったぁ」
通信はそのままにしてるが、白岩はすぐに粉雪の方に視線をやった。当然であるが、揉めている。
「録路も連れて来い!?私、こーいう豚!嫌いなんだけど!!それに佐鯨やられてんのよ!必要ないから始末するわよ!」
『そーでもない。奴にも"利用価値"がある。ともかく、白岩と戦うな。アジト内だと粉雪の方が不利だろ?』
「私はピンピンしてるわよ!というかー!キッス、ヒイロをぶち殺せば白岩も弱まる!今は、レンジラヴゥが本気になれない状態なのよおおぉっ!!」
『それでもだ。手を出すな。分かったな?』
「あぁ~~?」
いくら上の命令だからと言って、納得し辛い粉雪であった。
戦闘狂の雰囲気を出しつつ。
「キッス~~。あんた、私と戦いたいのかしら?」
『それでも構わないから、白岩と録路を見逃せ』
「トンズラされたらどーするつもりぃぃっ?」
『私達の力不足であった。それだけでいいだろ?』
「そんなんだからあんたは温いのよ!!こいつ等を野放しにしたから、社会が混乱したのよ!!責任分かる!?」
キッスに対しても、敵として相手してやろうとするのであるが、
『白岩に聞いても事情が分からんだろう?』
「!」
『ヒイロが事情を話す条件に、白岩の命を助ける事を出した。分かったなら、今は白岩を見逃せ』
「……ちっ……ズルいわ。"あんた達"」
『それと、この事はまだ"私達だけ"にするんだぞ』
◇ ◇
ピッ
粉雪との連絡を絶ったキッス。
「もし、白岩に何かがあれば、私が粉雪と戦ってやる」
「…………ホントに、キッス様は粉雪とやるつもりなのか?」
ヒイロの心配も無理はないし、イスケもそうまでしたくない雰囲気を出していた。
「たぶん、粉雪は見逃すはずだ」
信頼関係に亀裂が入るほどの対応であったが、白岩が必死に逃げようとしていない事で、戦闘という危険な行為はしなくて良いメリットもある。
それに
「粉雪側からでは"やはり"、ヒイロの目的に気付けなかった。これが白岩の命を助けられた」
どうだろうか?想像の余地でしかないが、粉雪は想定はしてるんじゃないかと。キッスは考えながらヒイロとイスケに言っている。
そこらへんもなんとかしたいが、ヒイロと白岩の2人に時間がない。
「さてと、話したい事は山ほどあるが。粉雪の事だ、すぐにこちらに来てしまう。手短に答えを1つずつ言っていく」
「……構いませんよ」
ヒイロは終始、観念した顔だった。
涙キッスにバレたら、終わりだと思っている。
「お前の目的は"白岩の命を護るためだな?"」
「ええ」
「"妖精を狩り続ける"必要があった事で、間違いないな?」
「……はい。俺と彼女の契約には、それが条件にある」
それでも嘘をつく。彼女を護るための、俺の嘘。
◇ ◇
この話は妖精の国から、時系列からして相当前のことになる。
SAF協会が誕生した事を気に、妖精の国から不当な手段で人間界に降り立つ妖精がいる。そして、その首謀者について心当たりがあった、サザン。
「この仕業はルミルミだ」
レゼンよりも前の任務についていたのは、このヒイロだった。
「私がこの国の王になり、妖人化する事も厳しくなった。噂によれば、お前のライバルであるシットリもルミルミ側についた。難敵なのは変わりない」
「………はっ」
「因心界の力になって欲しい、ヒイロ。妖精の国の代表として、人間界を護ってくれ。ルミルミとシットリを止められる妖精は、この国にはもうお前しかいない!ルミルミのことも、ヒイロなら良く分かっているよな」
まだ、レゼンも誕生していない時期のことである。
ルミルミの暴走を抑えるため、ヒイロに人間界に降り立つ許可を出した、サザン。人間体の妖精という事もあって、人間社会にはすぐに順応し、サザンの推薦もあって因心界の中にすぐに溶け込んだ。目覚しい活躍をしつつ、SAF協会も彼を警戒し目立つ動きは控えるようになった。
そんな彼にはまだ、自分が組むべきパートナーを見つけられずにいた。
妖人化すればさらなる飛躍となるが、ヒイロ本体は一時的な弱体化に繋がる。言い方は悪いが、ヒイロは人を厳選していた。
自分の力を最大限に活かせる人であり、共に戦いたい仲間が傍にいて欲しかった。
そんな人選びをしている時に出会ったのだ。
「あの、太田さんですよね!?この前、助けていただきありがとうございます!」
「ん、ああ」
ジャネモンから人を護ることなど、なんてことはない。空返事だったのが、
「私、3回もあなたに危ないところを助けられてて!本当にこれ、……運命だと思うんです!!」
「は?」
彼女が言うには、3回も助けられているらしい……。
助けた人の顔を覚えるようになったのは、この時からだった。そして、彼女から感じる妖人としての素質は十分過ぎるものだと、気付いた。
けれど、素質だけが良くても……と思うところがある。
「白岩印です!な、なんかこう!!大好きになったので!付き合ってくれませんか!?」
なんだこの子は?
そーいう気持ちだった。
グイグイっと、しつこくお願いする。そして、彼女のお願いは
「太田さん!付き合ってください!!」
……彼女、小学生なのだ。それと表原達がそうであったように、ヒイロが妖精である事を知らない。単純に彼女は人として付き合いを求めた。見た目で見れば、結構な歳の差。
危険な目に合わせたくないという気持ちもあって、ヒイロはヒイロなりにその時の白岩から、距離をとろうと試みていたが、
「なぁ、ヒイロ。さっき来た子。またお前に会いに来てるぞ」
「ちゃんと話してあげたら、白岩印ちゃんとさ」
外堀が埋められるように、白岩はキッスや粉雪と出会い、仲良くなり。またその縁でヒイロは自分が妖精である事を白岩に告白。自分と一緒にいられるというだけで
「妖人になるよ!!」
彼女は因心界の妖人となった。
「私はヒイロといるもん!」
ヒイロの役目はSAF協会に対抗する戦力。それを白岩と共に生きる必要があった。彼女を失う意味は自分の大切な何かを失うと同じ。それに彼もまた、白岩と共にずっといたくなった。
共にいたい。そんな気持ちがあって、彼は彼で白岩を始めとした因心界の変革を望んだ。SAF協会というどす黒く強すぎる存在ではなく、不当な存在であるだけのほうがいい。
【妖精や金を与える。その代わり、私の指示に従ってくれるか?】
"エンジェル・デービズ"という組織は、人間界がより妖精に対して意識や興味を抱かせるための、必要悪で作られた存在だった。
因心界という組織の必要性を高めるため、人間重視の構成で成された。
白岩を始めとした戦力を増強するために作られた組織。この構想で白岩が名を上げ、確かな実力を身につけたのは事実な話し。
だが、その過酷な戦いをしてきて、それを作り上げた存在が太田ヒイロである事を白岩印は知らなかった。一緒に戦おう、そう思ってヒイロと共に戦っていた。
当初はそこでこの組織のお遊び、終わりだと思っていた。
あの男と妖精に、戦うまでは……。
「ふーぅ、……ふーぅ、……」
「録路くん。諦めなよ!」
幾度も戦った奴だが、その度に確実に強くなっていく男。そこまでするメリットが到底あるとは思えなかった。だから、聞いてしまった。
「なんで戦う?これ以上は死に繋がるぞ」
「……何もねぇから」
「?」
「俺はな、太田。マルカを妖精の国に帰してやりてぇ。俺がやりたい事はそーいうことしかねぇから」
録路空梧は、ある意味で不思議な奴だった。
妖人の多くはその力を使う事や、戦う事、やりたい事に使った。なのに、こいつは妖精を返してやりたいという。そのために生き抜こうとしていたのだ。
その時、ハッと気付いた。
「ヒイロ!?なんで、録路くんを見逃したの!?」
「……なんでもない」
次はSAF協会を倒すだろう。ルミルミとシットリを倒す。
そうすれば、俺は妖精としての役目を真っ当するけれど、白岩と離れることになるのか。妖精の国のために来た自分であったが、白岩や他の者達と過ごし、出会って。俺は人間界に居たくなった。
ただ、それでも。
体は白岩と共に、そう居させてはくれない理由がある。
なら、俺達が2人でいられる理由を世界に作るんだ。
◇ ◇
何を言っても見透かされそうだったが、2人の過去まではキッスも詳しく分からなかった。
「レンジラヴゥの能力には、1つだけ大きなリスクがある」
能力を明かさないキッスにとって、その言葉が大変重要なことは分かる。
「俺は白岩と一緒にいられる時間が長いほど、互いに送り込まれる力が増え、体が崩壊してしまう。俺と白岩は一緒にいなければならないが、一緒に居続けることはできない」
愛1つで桁外れの強さを手にする能力であるが、その実。お互いを愛し合える時間と距離は、あまり長くないという矛盾を抱えたリスクがあった。
話しを聞いた上で、間違いないって言える理由をキッスは言ってくれた。
「そのリスクをヒイロが喋るとすれば、白岩かお前をよく知っている妖精だけだろう」
「驚かないのか」
「事前にセーシさんと会って、ヒイロのことを知っている限り教えてもらったよ。ヒイロのために、サザン様には聞くわけにもいかないし、シットリはSAF協会にいるしな」
ヒイロの事をよく知っている妖精なんて、人間界で生きている妖精はホントに数えられる。
「そこまで気を回してくれたのか。セーシ先輩まで、俺を心配してくれてたとは。向こうで最強コンビを組んでいただけなのに」
「それで、逃れる方法は?」
平和な時を過ごしたい心もあるが、その時が長いほどお互いの死を早めてしまう。だが、対処法もヒイロは知っていた。
「送り込まれる力を中和するため、別の妖精の力を奪い取る必要がある。……命を奪うことと差し支えないことをするよ」
「なるほど、そんなリスク。大勢の前では言えないし、白岩にもそれを伏せていたのだな」
「……ほとんどつい最近だよ。彼女に話している全てはね」
ヒイロはさらにハッキリと言った。
キッスの隣で佇んでいるイスケに申し訳ない気持ちを出しつつ、
「俺はもうサザン様とルミルミ、シットリと同じく。妖精の国に戻ることができるよ。だけど、俺には白岩がいるんだ。帰るわけにいかない。白岩も、俺に対してそう思ってくれてるからだ」
白岩のために残るというが、それは自分と白岩の命を削ること。まだシットリとの決着もつけていない。遣り残しは沢山あった。
そんなヒイロの言葉と姿勢にキッスは、頭を下げてしまった。
「白岩関連だとは思ったが、本当にそこまでお前と白岩は愛し合えるんだな」
羨ましいというか、そんな報告を受けても、ねぇ……っていうか。分かっていた上で。
キッスはまだあまり分からないから、知ってみたい気持ちだった。だが、そんな私情をトップとしての責任と行動でヒイロに言葉を返した。
「お前達のやっている行動は、少なからず人間社会に影響を与えていたんだぞ!」
怒りを込めることに、悲しみの感情が込められていた。
戦力を失うという計算ではなく、仲間を失ってしまうという人間的な感情が強い。
「太田ヒイロ!白岩印!!この2名を因心界から追放する!!」
「!っ…………」
「私ができる、責任のとり方だ。ヒイロ、白岩。明日にはこの因心界から出ていけ!」
キッスは待ってくれるかもしれないが、長くなればなるほど、因心界全体の問題に関わる。キャスティーノ団の壊滅などが意味のないほど、悪いニュースとなる。
当然の処置。と思えるが、これほどの悪意を追放という形で見逃そうとするキッスの甘さ。
優しさがあるから。
ヒイロはまだ、今日だけは因心界として。キッスにある確認をした。
「すまないが、いいか?」
怒っているのと、泣いている顔がキッスに見えるため。キッスが少し落ち着くまで待った、ヒイロ。今の怒りにはキッス自身にも言っていただろう。
「キッス様は"いつ"から俺が黒幕だって気付いていた?」
「……"エンジェル・デービズ"を壊滅させたときには予感。目的と確信については最近だがな」
ハッキリ言って。
ヒイロの組織運営とその工作は完璧なものであり、疑われる存在に上がれど、証拠は一切出て来ない。
「私も粉雪もだが、因心界に内通者がいると思っていたよ。しかしそれでは、私を含めて誰もキャスティーノ団の指揮も運営も、妖精の国から妖精を不法入国させることもできない」
金で情報を売ってしまった蒼山はともかく、本当に内通者がいると確信できていたのは
「録路を動かせて、なおかつ自分の姿を隠せる存在。このやり口をしているという事は、北野川の能力を細かに知っている奴じゃなきゃやらない。レゼンくんがここに調査に出向いたとき、妖精を送り込む事を速やかに止めたこと。そして、数々の回りくどい事を仕切れるとすれば、私か、粉雪、ヒイロの3人だけ。だが、私達が内通者なんて姑息な事をするわけはない」
残った選択肢に、内通者ではなく。そいつが黒幕で全て1人の所業だって仮定した場合。
単独で"妖精の国から妖精を不法入国をさせること"ができそうなのは
「ヒイロだけしかいない」
「…………"萬"と戦ったり、誤魔化しはしたんだけどさ」
「レゼンくんと表原ちゃんが特に誤算だったろう。少し焦ったな」
「……彼が来た時期ですよ。白岩に全てを打ち明けたのはね。もし、因心界を敵に回すかもしれないと。でも、白岩は俺と因心界の味方になるって言っていた」
分かっていた気がした上で、確実な証拠が出てくるまでキッスが待ったことが優しすぎると、ヒイロは痛感しながら項垂れていた。
「予感してたんだ。キッス様はかなり前から気付いていた。なぜなら、あなた。ルルちゃんの見舞いと言って、俺が白岩に相談する時間を与えたんだから。そんな気がしていた」
「…………望む答えは得られなかったがな」
「必死に自分じゃない事をアピールしたよ。イムスティニアを殺すやり方も、録路を上手く使ったりと、気付かれないようにって。でも、白岩はホントに愛情も友情も深い子なんだ。自分のために仲間を殺せないって、怒られちゃったよ。それで自分が追い詰められるだけなのにな。でも」
1人でやっていたら、きっとヒイロは証拠も出さなかっただろう。
そう。白岩に相談し、彼女がヒイロに内緒で、秘密裏に録路へ色々な依頼をしていた。そこにできたボロによって、確実な証拠がいくつも挙がってしまう。
でも、その行動の裏にはきっと。彼女がヒイロを庇おうという意図もあっただろう。そして、因心界にいる仲間達を傷つけないようにと、強い気持ちを持っていた。
「印のそーいうところに、俺は魅力を感じたんだ」
次回予告:
キッス:これで第一部は終了。……しかし、因心界の損失は大きいな。
ルル:……お姉ちゃん。い、今いいかな?
キッス:新章からは、SAF協会との戦いが中心になる。
ルル:そ、そろそろ。あたしもね……。
キッス:私はトップとして、戦力を整えたりしなきゃいけない。
ルル:十妖に、入ったりとか~……できない?表原に負けたくないの。
キッス:お。これは良いところに、ルルがいるな!
ルル:そーそー!
キッス:次回予告を頼む。私は色々と忙しいんだ。
ルル:『決着と新章!最凶の妖精、ルミルミ登場!』
キッス:ありがとう
ルル:だから、お姉ちゃん!私を十妖にしてよ!




