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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第23話『決戦!因心界VSキャスティーノ団!その2!』
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Cパート

佐鯨の電子レンジの妖精、バーニは。


『あーぁ、佐鯨。負けちゃったかぁ』


仲が良かったが、こうして終わりを迎える覚悟がしていたからこそ。言葉からは重みを感じられない。悲しんでいるのは確かであって、


『これであたしも、おしまいだね』

『…………ありがとうございました』


"ごめんなさい"という言葉ではなく、感謝の意をマルカは送った。


『あんた、やるじゃん。良い人だけで佐鯨が負けるわけない、あんたも強かった!マルカ!これから頑張ってね!!』


自分がこれから消えることを察していながら、恨み節もない。清々しい妖精。いつかは訪れると分かっていたし、ここまでやってくれた佐鯨にも感謝している。

妖精同士の対決でもあり、わずかな悲しみに浸るとき


「はぁ……はぁ……」



ドタッ



ナックルカシーは妖人化が解け、倒れこむ。


『録路!!しっかり!!』


勝者は録路なのが明白であるが、佐鯨もまた相当追い込んだ。

良く言えば、相打ちまで持ち込んでいるダメージを与えた。因心界としてはこれで良いのだが、バーニとしてはもう終わり行く自分を倒した彼を死なせたくはなかった。


『佐鯨に勝った男がこのまま死んだら、あいつは悲しむな』


その言葉をマルカに伝えた時、バーニの体は消滅するよりも早く、分解されていった。

敵であろうと敬意を見せての救済。


『マルカ、受け取ってくれない?』

『え?』

『あたしの体の一部。これで少しはあなたも強くなれると思う。録路と一緒に頑張って、妖精の国に戻ってみなよ!あたしの、倒れた妖精達の目標を継いで!頑張って!』



バリイイィィッ


電子レンジの妖精、バーニの体は砕け散り。その破片はマルカを覆うようにくっつき、取り込まれていく。その様は生物的というより機械的で組み込まれた感じだった。


『っっ……ううっ……』


バージョンアップによる変化への苦しみもあったが、それ以上にこれまで潰えてしまった妖精達の重みが苦しく感じた。生き残るというのはそーいう事なんだって、実感するときが辛いもの。


『分かったよ。私、前を向く!』


録路を助けなきゃいけない。

今だけじゃなく、これからも!録路は最高の相棒なんだから!


『あなた達の分まで!』


電子レンジの妖精、バーニ。

一部の力をマルカに譲って、消滅。



◇      ◇




激しい戦闘も終わってきた。残っている戦闘も数えるほどだ。

また少し、時間を戻すことになる。

佐鯨VS録路。その激突から下のフロアでの、したたかな舌戦。

妖人化を一度解いて、本当の自分自身として立ってあげる。


「話しをしなさい、沼川。佐鯨が戦闘を始めたら、五月蝿くて聴こえない」

「……………」



因心界の三強の1人。

網本粉雪+南空茜風。


「恐縮ながら、お話をしましょう」


対峙するのは、沼川左近。

単刀直入に。


「粉雪様。ぜひともあなたに、因心界のトップに立っていただきたい」


お願いにしては、ヘビーな事を言う。


「あなたほどの人が、人の下に就くというのはとても役不足なこと。涙キッスを始めとした、涙一族も、今は衰退しておられる。それでもキャスティーノ団のような、ならず者共達が溢れていく」


聞こえの良い正義も、力がなければ無力。大義もなければ暴力。

因心界という組織が中心に、正義が持つ武力はあれど。求めるものに応えてこれたかは、あいまい。一度、悪いイメージがつけば、なかなか変えられない。失敗の記録は憶えられるものだ。


「彼女の、おっと。涙キッスのやり方は、あなたにとって不満があるんじゃないですか?少なくとも、南空さん。あなたにはあるでしょう?」


心を読む力。

南空と涙一族の関係性についてまでは分からないが、南空が抱いている感情をこの場で読んできたことには


「当然ある」


素直に南空が答えた。隠しても無駄だという判断だ。

一方で粉雪は、何も答えない。答えなくても、心が読まれていると判断。

その時、


ピタッ



「!」

「冷静になさい、南空」


マジカニートゥの"憑き詩"が放っていた光が、南空と粉雪に繋がった。2人からは何が起きたかは把握できなかったが、蒼山とは違い。冷静なる沈黙。

そして、沼川はその異常を見て、少しだけ間をとった。


「……続けて、よろしいですか?」

「構わないよ」


そんなわずかな間で、光は潰えた。

粉雪はたぶん、マジカニートゥだと想定。正直、構ってられないと切り替えている。なんとかしなさい。


「曲者揃いの中、涙キッスが率いている姿は賞賛ものですが。そこには粉雪さんの助力もある。いえ、粉雪さんがいるからこそ。キッスもまた安心して椅子に座れるわけですね。して、満足なんでしょうか?私には違うと、読めます。そして、あなたならより強固な正義の軍を率いるし、率いる事を求めている」



もったいぶんなって、心で思えば。



「失礼。あなたが因心界でクーデターを起こすのなら、そのきっかけを私達に作らせていただきたい。あなたが就けば、より世界は平和になる事でしょう。これからもご贔屓にと。部下としてではなく、"ビジネスパートナー"として、私と手を組んでいただきたい」



上の階で激しい衝突。佐鯨と録路が戦い始めた。衝撃と音は凄まじい。

3人共、自然に上を見た。そこから視線を前に戻したのは、粉雪が最初だった。


「…………」

「……どうでしょうかね?」


沼川の顔に"心配"という表情が薄い。奴が少しだけ笑っているのだ。

おそらく、録路と戦っているという予想をしていれば。粉雪が


「……ふふふ」


徐々に濃くなっていく笑いを上げたのは、なんでもないことだった。


「あははははは!!ははははっ、これはまぁー……あんた。沼川さー、ふふふふ」

「?……?……」


隣にいる南空が別の意味で心配した眼差しを、粉雪に向ける。

それと同時に


「答えはNO。あんたのしょうもない見栄に付き合うより、キッスと戯れる方が楽しいしね」

「残念ですが、なにか言いたそうですね」

「ふふふ、まぁ。あんたが人の心を読んじゃう、噛ませ犬の能力を持ってるもんだから。私もあんたの思惑を読んであげただけ」


確かに精度もいい。悪くはない。


「あんた、私の部下になりたいならそう言いなさいよ。けど、言うわ。あんた、いらない」


隠し切れない腹の中。キッスを因心界から追い出したいという気持ちをぶつけつつ、粉雪の下に就きたいなどという願望を、意地で誤魔化している。

彼としては、粉雪とビジネスパートナーとしたいのだろうが。まるで対等な立場を言っておいて、あわよくば買うつもりでいた。そんな心を持った奴とつるむつもりもない。

心を読めるという能力が危険である事は、粉雪の歴戦からしても理解している。北野川が嫌う理由に能力が関係しているのも分かる。ただ、そんなもんなくても理解できるのが人というもの。



「ズバリ言ってあげる」



意識返しのように、粉雪は沼川の目の前で話しを数歩進んで言う。


「あんたがどうして、そこまで"あたし達"と"金に執着"しているかってところ」

「……ほぉー、興味深い」


粉雪が因心界として君臨するなら、良きビジネスパートナーになれると思ったが見当違い。万が一、失敗に終わっても部下として入れることも失敗。


「あんたはさっき、あたし達の事をビジネスパートナーって言っていたけど。本心はまーったく、違う。あんた、巨大な組織に護られたいだけの"なぁなぁなクソ野郎"でしょ?」


その言葉に沼川の表情が、真剣というものより。怒りを隠しているような、唇を噛む表情を作っていた。粉雪は続ける。



「あんた。色んな保険やら契約やらで、ガッポリ儲けたようだけど。その中には不正なやり取りがあって、さらには裏までとられているかもしれない。あんたがキャスティーノ団に身を寄せたのは、護ってくれる武力があるから。言う事を聞くかどうかはともかく、うかつにあんたと接触はできないもんね」

「そして、今回の襲撃で私達に乗り換えようとしているわけですか?」

「南空、そんな奴は要らないでしょ?」

「ええ、全く持ってその通りです」


まるで、自分と立場が同等と振舞って話しはしていたが、その態度が違和感。とんでもなく貧弱な虚勢である事を粉雪は見抜いていた。


「革新党はね、あんたのような奴を囲うスペースも義理もないの。心を読めても、人に心を読まれちゃいけないわね」


アテが外れた。

たとえ、沼川がさらにつらを下げた言い回しをしようとも、粉雪は助けなかっただろう。



「そーですか、残念……」



悪い話ではなかったはずだ。自分という存在を


「あんたいなくても、世の中なんて回るのよ。プライドだけが高いゴミ男」

「!…………」

「まだ、あんたが"金に執着"してるとこ。言ってないでしょ?そうイキんなよ」


沼川が意を決しようとした瞬間だった。粉雪のトークに気を見せる辺りで、沼川という男の底が南空にもハッキリと見えてきた。そして、"金への執着"。そう粉雪は言ったが、笑い方が残酷に、沼川の真意を抉り取るように言った。


「エリートな学生生活だったのに、二流のブラック企業に入って苦渋だったんでしょうね。そして、周囲の奴等はもっと良い職場で働き、出世して……自分が負け組だと悟ったんでしょ?」


粉雪は想像でしか言っていない。

だが、いくつかの正解が沼川の心を傷つけたのは事実だ。


「そんな現実をプライドが許せないから、あんたは金にだけ執着をした。金ならどんな奴でも跪くもの。億万長者を目指したのかしらね?」


沼川は声を出さないが、粉雪の声を一文字も聞き逃さずに黙々と聞いていた。意気揚々と粉雪は続けて


「得ても得ても、……金を摂取している事で自分のプライドは傷付かないと錯覚していた。そーして、自分より下の人間を見下ろし、搾取することで晴らしてきたんでしょ?でも」


社会を突き詰めていけば、そーいうルールで回っているものだが。沼川には一般の者には得られないプライドがあった。


「プライドが過剰になって、比較対象と金がでかくなり、手段を選べなくなった。そして、いつの間にか得てきた自らの金で、今までの不正をもみ消していく生活になった。自分の振る舞いを保ち続けるがために必死になっていく。その必死さも」


ゴミのプライドのせいで続けているだけ。


「地獄に堕ちて反省なさい。金では解決しない償いでもしてさ」


沼川の来歴に加え、彼の心中をも読んだような言葉。

粉雪の笑みはもう堪えきれておらず。


「ふふふ、ふふふふふ」


酷く笑っており。隣の南空は黙っていた。一方で、沼川もまた


「はははは」


歳が10は下がったような、爽やかな笑顔を出して笑っていた。


「あはははは」

「ふはははは」

「………………」


上での死闘が信じられないほど、笑顔の溢れた空間に。


「何か間違ってんのか!!?」


沼川の怒号が響いた。

それでも粉雪は笑いを堪えられず、南空もその逆ギレに


「はぁ~~~、なんと愚かな男だ」


本当に呆れたと、思っている顔だ。溜め息の長さがそれを物語っている。

一方で粉雪も笑みを閉じて、沼川と向き合う。


「録路があんたの真意を見抜けてないほど、馬鹿じゃないわ。他は知らないけど」

「ふん、だが粉雪。お前、勘違いしているんじゃないか?誰がキャスティーノ団を裏で……」

「?私が捜してるのは、あんたじゃないわよ。少なくともね」

「!?」

「え?」


まさに怒りモードから戦闘に入るとき、まさかの食い違い。粉雪は沼川を見た後で、南空に顔向けて。違うよね?って表情を向ける。南空もまた、容赦なく首を縦に振る。

それだけで沼川の怒りはさらに駆られた。


「雑魚を金で操れてるみたいだけど、私達も録路自身も、あんたなんか追いかけてない」

「誰も興味はございませんな」


プライド高い系に突き刺さる、"お前に興味ねぇーよ"の言葉攻撃。


「こうして!テメェ等因心界が、キャスティーノ団と戦えるように!金や言葉で奴等を縛ったのは俺のおかげだろうが!!テメェ等に情報を流しただろうが!」

「そーでもないわよ。録路にはその気があったし、私達のお目当てもその"目的"だった。勝手に雑魚共に金出してたのはあんた。無駄遣いだったわね」

「雑魚が持ってる情報に興味はないですからな」



沼川は自分の立場を利用し、キャスティーノ団にも、因心界にも情報を出したり得たりしていた。だが、それらは全て粉雪達にとっては不要でしかなかった。自分が優れていたという偽りの自負が、このような可哀想な落ちぶれになった。

確かに金で近藤達を操ってはいたが、実際には誰一人彼についてきたのではなく、金についてきただけであり。そんな性格すらも、録路と後ろに控えている本当の"黒幕"に操られていた。


そして、粉雪はトドメの言葉を刺す。


「あんたみたいなゴミはね。金なんか払わなくても操れるわよ。操り人形くん」


沼川からブチンッと血管が切れる音がし、噴出しまくるのは怒りと矜持を濃くした邪念。

妖人の力ではなく、そっちの方の力だと予想はしていた。


「下手に出てりゃあ、図に乗ってんじゃねぇぞ!!爺と小娘ぇぇっ!!」


つけている眼鏡を床に叩きつけ、踏み潰し始める。社会で働く勤勉なリーマン風のイメージが、外見から崩れ始めた。社会人というのは、実のところこっちの方が本性かもしれない。

あらゆるサービスを金という対価だけでこなす、操られた人間。少しずつ少しずつ、溜められていくストレスが本心をより強くする。



契約けいやくす!!心を破り千切れ!!」


ビリイィィッ


ジャネモンを生み出すアイテムは、なんと書類だった。沼川が取り出したと同時に、相手の前でその契約書を破くことで発動する。

一方、


「テンマ!フブキ!」


粉雪も自分の妖精を取り出し、妖人化を行なう。

テンマは綿ガーゼに、フブキは注射器となる。粉雪は左袖をまくって、テンマで当てる箇所を消毒。そこからフブキを注射。



「『てつき白染しろぞめ、クールスノー』」


髪色と髪質、髪量の変化が目に見えて起こる。クールスノーへの変化。

愛らしいハート型を両手で作り出し、完了する。


「勝ち組ルートに乗れなかった惨めで哀れな負け犬くん!このクールスノーの雪で、君を凍死に成功させてみせる!」

「………ああ、なるほど。凍死とうし投資とうしをかけていらっしゃるんですか。全然上手くないですけど」

「やかましいよ、南空。カッコつかないじゃん」


クールスノーの妖人化と同じく。沼川の方もジャネモン化が終了する。



ヂャラァンッ



ジャネモンの多くは近くの生物や物体に邪念を送り込み、怪物化していくわけだが。沼川のジャネモン化は自分自身を怪物化させていく。

鎖がいたるところから彼を結びつけ、首輪も填められた巨大な犬の体になっていく。

低く野太い声で2人に対し


『ぶちのめす』

「やってみな」


向かっていったのは、クールスノーの方からだった。

加勢は無用としているが、逃げるつもりもなく見守る南空。


「巨大化しちゃあ、あんたの心を見る能力は活かせないでしょ!?」


的がデカイんじゃあ、先読みの利点は薄い。回避してくるパターンがもっとも厄介。



バギイイィィッ



『避ける?なんの事じゃね?』


あのクールスノーの攻撃をまともに浴びてもビクともしない。沼川は攻撃を受けきって、瞬時にしっぽでの反撃を繰り出した。攻撃を繋げる瞬間というのは、防御が薄くなる。そのタイミングを突いている。攻撃が分かってなければ高度な攻撃。


「…………」

『貴様のデータは蒼山からもらっているじゃね!お前に一撃必殺はないんじゃね!攻撃を繋げてフィニッシュに持ち込む戦い方は、その最中で途切れると崩れてしまうんじゃね』


ジャネモン化による耐久力。心を読み取る力で、わずかにある攻撃の切れ目を読みきってのカウンター。沼川の首輪に繋がった無数の鎖も、まるで手足のように蠢いて動く。尻尾も含めれば手数はクールスノーの6倍以上。

これは……。


「手出しは無用よ、南空」

「は」

『この地下空間では自慢の雪も降らせる事はできんじゃね!貴様は嵌められているんじゃね!』

「マヌケな姿にマヌケな語尾つけて、……おまけに頭も悪いときたんじゃね(笑)」


確かにこのままの打ち合いでは、少しクールスノーが不利だ。

だが、そんな程度で敗れるほどクールスノーの戦闘の引き出しは少ないわけがない。……のだが、心を読んでくる力が作戦を崩してくる。

本来ならばだ。


一度崩され、見切られても、変わらずに。クールスノーは突っ込んだ。


『なるほど!接着能力でこちらの攻撃を阻害するんじゃね。だが、それでもこちらには手数があり、どこを狙っているかも手にとるように分かれば、恐れないんじゃね!』


バヂイィィッ


攻撃を阻害する読みは当たっているが、その阻害の仕方は華奢な女性がやっているそれではなく。ゴリラ的なパワースタンス。両手で沼川の体をくっつけ


「ふんぬっ!!」

『!?』


持ち上げて、ぶん投げようと試みた。足腰にふんばりを利かせるも、その最中にジャレるような抵抗を沼川からもらう。それでもぶん投げてみせるクールスノーなのだが、沼川の言うとおり。一撃必殺の出力は本領発揮ができない状態であれば弱い。

血を流しつつも涼しい顔でいるクールスノーだが、


「ちっ……」

「まずいですね、クールスノー。やや向こうに分がありますよ。パワーと手数、心を読まれるなどなど。不利な要素が見えます」

「分かってるわよ、南空。私に任せて!」


心を読まれなきゃ、今の状態からでも技術と経験で押し込める。

手数がなければ、心を読まれても技術と経験で押し込める。

地下じゃなければ雪降らして圧倒するんだけれど……。

3つが噛み合うからちょっと厄介。解答用紙を見ながらテストをやるようなもんだし、こいつはまともにぶつかるわけにいかないね。



クールスノーの戦歴にピンチや不利というものがあれど、幾度となく乗り越えてきている。

そこには、数々の経験というものは必ず活きてくる。


「見せていただきましょう」


この相手にどうやって戦うか、高みの見物をさせていただく。

南空はクールスノーに加勢せず、見守るだけ。

すでにプランはたてたんだろう。


「んー」


手をグーパーグーパーし、このまま正攻法で圧倒するか。それともトリッキーにいくか。どっちにしろ作戦を読まれて対処されると、一手一手を考える正攻法は時間がかかる。

意外に相手がタフ。精神的にも肉体的にも強い方。社蓄が元の邪念なだけに……。


「はーっ」


クールスノーの構えは変わっていない。

投げ飛ばした犬のジャネモンとなっている沼川が起き上がっても、特別な事をみせない。正攻法でひとまず、やるつもりだ。格の違いとはなんたるか見せる、彼女のさがだ。その手段とは真逆の手も頭にあるんだろうと、南空にも見えてくる。心を読む沼川もまた、


『はははは、なんだぁ?普通にやるんじゃね?』

「ええ、その通り」


隠しても無駄。


『結局頼るのは』

「物事はいつも自分だけよ」


沼川の言葉を遮っての挑発。ひとまず受けて、崩させようというような声。

戦闘態勢ファイティングポーズには色々とあるものだが、クールスノーの型は中腰、両腕の高さを胸の位置で左腕をやや前に持っていき、相手に対して左足を前に向ける。

誰が見ても、普通の戦闘態勢と言えるもの。攻防をどちらにも偏らせないバランスのとれた型。

巨大な犬となっている沼川が間合いを堂々と詰めていけば、ジリジリとにじり寄って詰めるクールスノー。


【左で捌いて、右で叩く】


クールスノーの考えが読める。

心理を読み取って、攻撃してくる瞬間、方法を知れる沼川。


「なるほど。さすが、粉雪様。最適な手段でございます」


一方で、粉雪を知る南空も彼女の狙いが分かった。

攻めずにカウンター狙いなのも確かな理由。


「!!」


シュルンッ

ヒュンヒュンヒュン


沼川の体に付けられていた、いくつもの長い鎖が沼川の意志のまま動き始める。無数の蛇のようにクールスノーの周囲で動いていく。1対1での戦闘において、視野はその相手に絞られていくものだ。視界に映らない敵や攻撃があるというのは厄介なものだ。

それでもクールスノーは、沼川だけを見ている。相手を間違えちゃいない。なおのこと、


【左で捌いて、右で叩く】


背後からの攻撃だろうと、その考えでいく。タイミングを合わせて捌こうという狙いか?

どのように捌くかは"勘"のそれだから、見えて来ない。


『どんな思考だろうと、お前の心は見えるんじゃね!』


まず、鎖が動き始めた。構えの死角といえる、背後と右側から鞭のように襲い掛かった。そして、1テンポ遅らせて他の箇所からも攻撃を始め、沼川自身もクールスノーの首を噛み砕こうと狙っていた。

心を読む力に威力も十分ある手数もあれば、これは避けられないし、耐えるのもまた困難。



ガシイィィッ



隙の少ない構えだからこそ、弱い奴は不意や隙を突きたがる。クールスノーは静かに冷静で、これまでと違い、殺意や狂気の暴力を撒き散らさず、言うなら武芸という芸術を披露するような華麗さ。南空が代わって、彼女の動きを見て教えてくれた。


「自分の弱点を知るからこそ、相手の出方を絞れるのです」


背後から迫ってきた初撃の鎖を思考通り、左腕一本で捕えた。無駄のない動きで背後を正面にする、体勢の入れ替え方。ハッキリ言って、どこにも隙がなかった構えだった。

1つの攻撃ポイントを止められたが、ここからすでに5つもの攻撃がクールスノーに向けられ、順次さらなる攻撃が追加される猛攻となるだろう。

複数の箇所で自在に動かせるという事だけでも、沼川の思考ができる事は可能性の多さを現している。クールスノーの戦い方はその"可能性の多さ"を逆手にとってきた。



【左が掴んだ鎖は投げ捨てる、右足で向かってくる鎖を蹴っ飛ばす】



1つ1つの攻撃に、1つ1つの対処をしていく。その心の動きに体がついていき、いずれも正確に動作しているところに美しさがある。コンマ単位のズレも許されない状況で、美技を見せているのではなく、それができねば勝ち得ない事を教えてくれる。


【向かってくる沼川までに反撃の態勢。こいつだけは力で押し返す、前蹴り一択】


そんな美技がどのような心理で成されているのか、沼川は知れている。

だからこそ、攻めるタイミングをズラす。クールスノーがミスし、処理が追いつかなくなったところを測っている。図らずも、攻撃は最大の防御といった形になる。


【来ないなら鎖に対応】


思考を読む能力は確かに優れたモノであるが、クールスノーが魅せる対応は思考よりも先に本能を呼び覚ますような事であった。

沼川は来ずも、クールスノーの間合いから決して離れたわけではなかった。気の緩みとして、数えるほどの事でもあった。反射に近い反応と共に



ガシイィィッ


「ふぬぅっ!」

『!?』


防御から攻撃へ移る動きが見事過ぎるの一言。襲い掛かってきた鎖を今度は両手で掴み、すぐにその掴んだ状態で、自分を軸に回転を始めようとするクールスノー。いくつもの鎖が体と繋がれている沼川もまた、そのパワーに巻き込まれる。


『ぐぅっっ』


足を踏ん張らせる。だが、クールスノーが掴んだのはたった一本の鎖だ。まだ他の鎖は自由に動け、彼女を襲う事ができる。


【掴んだ鎖をぶつけてあげる】


その動きに躊躇をみせず、せっかく掴んだ鎖をも再び投げ、今度は向かって来た鎖にぶつけて攻撃を止めるために使う。ここからの情報量は沼川が想定していたものよりも、濃く、多いものだった。



バヂイィィッ



掴んだり、受けたりの防御ではなく。蹴りや拳で向かってくる攻撃を"弾き返す"。その弾きはハッキリ言って、思考で分かれど結果は未知になる。上手い事、全ての鎖を自分にめがけて来るように誘い込んだ事も、南空は感嘆として見ていた。

思考を読めても、沼川の攻撃はもう止められていない。


【鎖と鎖をぶつけて、沼川の動作を攪乱させる】


派手に華麗にやった事といえば、"背後から膝かっくん"をしているようなものである。

他者の思考を知れても結果の読めない出来事を投げ込み、混乱を作る技術。拳と足で向かってくる無数の鎖を弾き返し、少し絡ませる。


『じゃ、じゃねぇ!?』


たったそれだけでも、動作が緩慢になる。自由に操作できなくなっただけで、沼川の動揺は手にとるように分かり、クールスノーはすぐさま本体へ走った。


「なまじ、思考を読めて、手数以上にいくつもの選択肢がある分。沼川はどれが最適かを見抜けず、目的の奥まで気付けなかった」


邪魔してくる攻撃が完全に消えたとあれば、独壇場であるとクールスノーは確信している。

沼川は最後に背を振り向くように生えてきた大きな尻尾を、突っ込んでくるクールスノーに振り回してぶつけるも、ガッチリと防御されていた。


「それで止められると?」


全ての攻撃を"打ち終わり"にさせる。次の攻撃を繰り出す前に、


バギイイィィッッ


『ぐおおぉっ!!』

「下っ腹キック!!」


クールスノーは沼川をほぼほぼ再起不能にしようとしていた。

大きな犬となっている沼川の腹の下に潜りこんで、上空へ向けての飛び蹴りが見事に炸裂。


フワァッ


あの巨体が浮き上がるほどの蹴りだ。一撃の重さがまったく違う。


「あとこれも!!」


たたみ込む速さも尋常じゃなく、ついでの顎へのアッパー。(飛びながらかましてる)



ドゴオオォォッ



沼川は天井に背をぶつけ、



ドスウウゥゥーーーン



地に尻を着けたとき。体全体が防御指令を発した。なによりもクールスノーの連撃を止めるために、手数を活かした食い止め。そして、クールスノーの心を読み取る能力。


【左目を蹴り飛ばす】


攻撃が読める。何をしてくるか分かるから、防御も早くできる。

沼川が一瞬、っとしたが。得られた心理状態とは裏腹に、クールスノーがかました攻撃は鼻への蹴り。


ドゴオオォォッ


意識してない部位を強く蹴られ、悶絶。

急に攻撃を変えたのかと焦りを見せたが、自分への自信故。幾度も頼る。今度こそと


【次は右足を折る】


沼川の全てが必死に、これから行なうクールスノーの攻撃を耐えようと、逃れようと動く。それだけ痛い攻撃をもらった。

超常的な戦いの中、沼川が体験している時間は濃密であると同時に、皆が思っている時間の流れよりも遥かに遅く感じ取れていた。クールスノーの心理が通常以上に分かってきたのだ。逆境に強いという、前向きな事を知れたのかもしれない。


「…………」


だが、沼川の勘違いな自信など。クールスノーから見れば、好都合で無駄な努力だった。

沼川とこうして戦って1分とちょっとで、彼の心理を把握するタイミングを掴んだからだ。"常に心を読む能力ではない"と、確信したのは会話中。

粉雪の演説中、奴が黙っていた時点でそれは確定していた。

おそらく、自分に"人の心を読む"という気持ちがなければ、そもそもできないんだろうし、奴が攻撃と能力を同時に行なっている事はないと、クールスノーは想定している。特にダメージを与えれば、痛みというイレギュラーも加わって混乱しているだろう。



ドゴオオォォッ



『がはぁっ!?また、首ぃっ!?なんでじゃねぇ!?』


"心を読まれた瞬間"、沼川はその攻撃を遮るように体を動かす。

一方で、クールスノーはその防御を見てから、攻撃箇所を変えている。体と頭の処理速度の差があまりにも違う。人間として・化け物としての性能の差が違い過ぎる。

わずか、1秒という合間の中


「コンマで攻守の切り替えを行なっておられる。少々、"本気の基本"でございますね」


単純に、無茶苦茶な速さで沼川の能力を破っているわけではない。

複雑な動きを要求される戦いで、動作1つ1つに無駄なくスピーディであり、さらにダメージによって動きが遅くなった沼川を大きく抜き去っている。

沼川にはクールスノーの心が読めていたとしても、後出しして間に合うほどの技量の差がある。

いつもの狂気染みた戦闘と比べると、あの戦闘モードでも感じない隙が、こちらの姿と重ね合わせることで見えてくる。

この戦い方こそ、クールスノーとして。網本粉雪として、最強の姿でございます。



ドゴオオォォォッ



南空が久しぶりに見た、クールスノーの徒手拳闘での本気。

武道の精神というものか。惨殺するかのようなやり方は見えず、ある程度のところで切り上げるクールスノー。


「……はぁ~」

『うご、……じゃねぇぇ……』


まだ、ジャネモン化している沼川であるが、体をボロボロにされており、能力は生きてても歯向かう力はないだろう。


「この手の事ができるとしたら、キッスと白岩の2人ぐらいでしょうけどね」

『ふぅ、……ふふふぅ……』


クールスノーは沼川の強さも少々認めている。正攻法で戦うとなると、強さの質も問われる相手だった。今は恐怖を感じつつある沼川にレクチャーした、強さの真髄と。


「もう1個、あんたの弱点を教えてあげる」


それは沼川が先ほどまで、持っていた自分への過信を崩すためだ。

もう決着はついているが、戦闘の間でこの手の相手をどう倒すか。似たような相手が現れた時、参考にしたいからだ。

そんな作戦。


「あるのでしょうか?クールスノー。"あなたでなければ"、破れなかった能力でございましょう」

「どっちにも言い過ぎだっての、南空」


確かに今の芸当で倒せるとすれば、三強クラスの強さが必要だろう。

心を読む能力は対処が難しい。


「これからみんなでも、簡単にできる破り方を紹介してあげるわ」

「実験動物のような扱いでございますな」


何をするんだと?南空も、意識が遠のくなっていく沼川も思っていた。クールスノーは、やや沼川から離れた。そして、息を大きく吸ったのだ。誰でもできると言っておきながら、この地下で雄叫びでもあげるのかと思った南空であったが。

満面の笑みを出し、右手を握ってマイクに見立て



「エヴィーーーリーーグーーーあーーたがぁぁーーー!!」



ジャイ○ンリサイタルを彷彿とさせる、とんでもなくオゾマシイ歌を披露するのであった。


「おヴぉーーう、よーーいぃぃ」


不意をつかれ、耳にゾンビが這って捻じ込んでくるような、デスヴォイス。南空と沼川の脳を激しくシェイクさせる、残酷な歌声。両耳を塞ぐも遅かった。歌うなら言えと、南空は本人に言いたくなった。こっちのやり方の方が、"あなたでなければ"と言ってもやりたい。


「ぐあああぁぁっ!?」

『じゃねえぇぇ!?』


地下の空間のせいで、この酷すぎる歌声が響く。周囲に見えてくる景色が、墓荒らしが絶えない汚い墓地に見える幻覚まで与える、酷すぎる歌声。原曲の面影がまるで見えない。アカペラで歌っているから余計だろう


「よ~~~くぅぅー」


沼川はこの歌を止めるため、クールスノーの心を読んだ。


【この歌、めっちゃ名曲!いつでも歌いたいわ~!私、上手くて楽しく歌えてる!】


なんでこんな酷い歌声で、上手いとか楽しいとか思ってんだ!?この女ぁぁぁっ!!



◇      ◇



因心界VSキャスティーノ団の決戦は、いよいよ終局を迎える。

数で囲いつつも、その上で精鋭を送り込んだ因心界の強さは、結果を見て分かる通りだ。


そしてその決戦場におらず。

本部にて、最終的な結果を待つ涙キッス。自室で自分の妖精であるイスケを傍において、ある者を待っていた。自ら扉を開けてくれることを望んでいた。

そして、きたのだ。



ガチャッ



「…………よくここに来たな」


一呼吸おいて、その言葉を発した理由は


「正直、お前だった事には驚いている」


全てにおいて、入って来た相手に感嘆とする。そして、その相手は観念をしているかの顔であった。キッスは間違いなく、伝えた。


「キャスティーノ団の黒幕」

おまけ:



粉雪:はーっははははは

南空:……網本党首。負け犬を笑うのはその辺にしましょう

粉雪:そうね。しっかし、難しいものね。

南空:何故、網本党首が変顔を……?どっかで見た感じの……。

粉雪:漫画で面白いやり取りの一つじゃない。大物キャラが実は小物でしたっていうのがバレるの。どっちもまたいい味を出すわ。っていうか、その後のあまり戦いにならないくらいの勝利も気持ちいい。沼川戦は、これ参考で話を作ったし。他の戦闘でもどこかのやり取りが似てるのも結構あるし。

南空:パクリは良くないと言いたいところですが、そもそも絵は下手過ぎませんか?失礼にも度が過ぎてるかと。

粉雪:マネする事すらできないレベルで始めてるからね。楽しみ方は人それぞれで割り切ってる作者なのでね。



挿絵(By みてみん)

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