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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第19話『ポイズンパニック&追撃の殺人鬼!表原、空から落ちる!』
49/267

Bパート

パァァンッ



「よし、病院の前に転送したようだな。スカートライン!」


飛島と北野川を始め、数多くの病人達が病院前に転送された。その異変はすぐに病院側に伝わり、彼等の治療は迅速に流れるように行なわれた。


「私共の専門分野じゃないですが、サングによればやはり"妖人"の仕業とのこと」


北野川の病状を元に診断した古野。


「市販の医薬品などで多少の回復はできますが、完全な治療となるにはこの原因となる"妖人"を倒す必要がありますよ。こいつは体内に住みつき、増殖していく」

「これだけの範囲と効力だ。北野川は、敵が水を使った施設のどこかにいるという秘密を突き止めた」


同じ時間帯に食事をしていたのに、飛島が無事であったのは相手の攻撃条件にならなかったからだろう。


「水道局とかどうでしょう?普段ある水の中にこんなものを仕込まれたら、この有様も納得です」

「良い線だな」


飛島の頭はもう、進撃の準備を始めている。沸々と込み上げてる怒りもあるんだろうが、ここでの冷静さは北野川や蒼山にはできないもの。


「あの!飛島さん、来ましたよ!」

「テレビ見たがとんでもねぇ事になってるな!」

「敵の仕業ですね!」


慌しい病院内で表原、レゼン、ルルの3名が飛島達と合流。いつでもOKですと、決意のある表情をしていた。

大勢の人間を一気に陥れるこの妖人は、とてつもない危険人物。仲間達もやられているところを見せられて、やらないわけがない。いや、やらなきゃいけない。

具体的に何ができるか、飛島に頼る他はなかったが


「私と共に、表原ちゃんとレゼンくんは敵を倒しに行く」

「!!」


その言葉にムッとしてしまうのは、ルルだった。またしても、差を付けられた感じ。一方で表原とレゼンは自分を行かせるわけが分かっていた。


「能力で敵を捜してくれ!そこに私が君を連れて直行する。代勿や江藤と違って、逃走は不得手の敵だ。距離さえ詰めればそこで終わる」


茂原の大きなミスは、自分の能力を大勢に晒した事だろう。脅威的で恐怖を感じさせる攻撃であるが、条件を満たせなかった時は敵に情報を知られるだけ。


「これだけの出来事だ!この病院に患者はどんどん来るだろう!SAF協会が狙うかもしれない!ルルはここの警護を頼む!病院を狙われたら一大事だ!」

「警護………ですか。また……」

「不満そうな顔をするな!!マジカニートゥの能力は探知も可能なのだ!古野!患者の全てを任せる!!」

「分かっている。可能な限り、助ける」



最も、この敵は弱らせるのが目的の能力。致死に至るまでには相当な時間がかかる。

怖いことはこの混乱で発生している邪念の数々、SAF協会と連携した襲撃事件。

そんな時、本部より飛島に連絡が入る。


ヴィィィィッ


「ヒイロさんですね」

『飛島。迅速な指示と行動に感謝するよ』

「手短に」

『俺と佐鯨がこれより、本部からヘリでそっちに向かう。レンジラヴゥは今、蒼山くんを治療している。キッス様は本部にて待機。粉雪ちゃんと野花さんの2名が、これから出てくるだろうジャネモン達を相手にする』

「任務についてよく分かりました。」



因心界本部のヘリポート。

すでに飛び立つ準備ができている。


「どこのどいつだクソやろぉっ!!俺はこーいう奴っ、大嫌いなんだよ!!」

「分かっている。佐鯨くん、落ち着きなさい」


ヘリの操縦はヒイロが務める。患者も運ぶ大型のヘリであり、飛島達も余裕で乗れる。

一同に相手をする分、向けられる戦力は凄まじいものだ。



◇      ◇




ドゴオオォォッ



「あーっ、つまんねぇなぁ!!」


そー言いながら、弱りきった人間。あるいは逃げている人間を刺し殺し、血を撒き散らしてどこかへと向かう。

此処野の残虐性でさえも、茂原の広範囲に散布された食中毒に劣っていた。

数十人を殺せても、数十万の食中毒状態、混乱を上回れない。


だが、


「網本党首。神月のバカが暴れているようですよ。構ってやりますか?」

「んー、そうね。ゾンビになって蘇ってくるのは、気味悪いからね」

「でも、そろそろ向こうが動いて来るのに、此処野まで相手する余裕があるの!?」



粉雪、野花、南空の3名が此処野に近づいていた。

タイミングが悪いとしか言いようがない。そして、此処野はその3名の接近に気付いていない。

執拗に生きている人間を殺す。

狩って狩って狩りまくって、最後に残る1人になるために。

そんな殺意の中で。



「騒がしいと思ったらよぉー」

「!」



因心界の接近よりも先に、此処野と相対した者が現れた。そいつを見た瞬間に殺人のために動いていた槍が止まった。飽きちまうつまらない殺意が止み、より似ている奴を殺したくなる。同族嫌悪が伴った殺意が体と心を動かした。



「録路ぉ~~」

「お前、生きてたのか。こんなとこで何してんだ?」


戦意は衰えない。

録路へ向けられる槍は、彼の眼前にて止められる。それがからの殺意だと理解し、取引をする。


「因心界がそろそろ動くしよ、ジャネモンもそろそろ出てくる」

「何が言いたい?なぁ?俺は、殺したくて殺したくてウズウズしてんだよ。テメェでもかまわねぇ」

「こっちも時間がねぇ。粉雪はターゲットでもねぇからよ」


かつては元同格の幹部であり、仲間でもあった2人。

イカレた殺意と底なしの大食感。

普段ならあり得ない言葉を言っているし、聞いている。


「俺と組まねぇか」

「あ?頭がおかしくなったか?商売ごっこの延長上か?」


互いに"妖人"の中でも上位クラスの実力者。どちらも自分の実力に自信を持っている男。コンビプレイなどできるわけがない。互いに敵を1つにするといったところ。


「雑魚を狩る癖は負け犬の特徴だぞ」

「なんだ?2人で仲良く粉雪とやんのか?お前はさっき違うこと言ってただろぉっ?耳遠くなっちまったか?」

「随分、ビビッてるな。一緒にあの女に挑んで欲しいってか?一人だとションベン漏らすのか?トラウマになってんのか?」

「おい。なんなんですか、お前のその言い方。ムカつくな」


話しが噛み合わない。

だが、録路が此処野に話を持ち掛けたのは、自分よりも適任だからだ。


「奇襲はお前の方が得意だろ」

「おいおいおいおいおい!なんだ、さっきから?この俺が雑魚しか殺せねぇような奴だなとしか、そーいう意味にしか聞こえないんだがよ」

「動揺すんなよ。半分くらいはお前も認めてるようなもんだぞ」


嬉しくもねぇ顔。だが、利用されるって事に不満はなかった。


「相手は?」

「佐鯨、ヒイロ、飛島、表原の4人だ」

「表原?……誰だそりゃ?そんなの因心界にいたか?」


此処野は名前を覚えない方。というか、殺している人間には興味なく、思い出せない。

SAF協会は情報を入手していたが、自分自身は大怪我の身で情報をもらっていなかった。だが、


「……いや、聞いた事ねぇけど。なんだか知らんが、シットリが警戒してる妖精がいたな。因心界にいるとかいう、その妖精。確か、レゼンって言ったかな」

「そうだな。表原の妖精は、レゼンという妖精だ」



シットリの野郎。そいつを俺に殺せとかも、指示してたな。粉雪のババアとヒイロの負け犬が囲ってた女か。録路も狙ってるって事は、そこそこの手応えがある。"十妖"を張れるだけの期待はありそうだな。

他の面子も悪くねぇ。

バイブの野花、南空のクソ爺、粉雪のババアは、最後でいいしな。

ルミルミのジャネモン作りよりも楽しくなってきたじゃねぇか。やっぱり殺すのは面白ぇっ。


「相手としては困らねぇな。1VS4でやるって事か」

「んじゃあー、行くか。奴等はヘリに乗ってくる。お前が仕掛けねぇと、俺の攻撃も届かねぇ」

「1ついいか?」

「あ?」

「4人が片付いたら、次の相手はテメェでいいよな?」

「生きて残ってからほざけ。馬鹿野郎。俺もテメェが足を引っ張れば消すつもりだぞ」



◇      ◇


「『あたしだけかいっ!マジカニートゥ!!』」



ピンポーン



"NOWLEANのーりん"

表原麻縫こと、マジカニートゥが生成した能力の1つ。捜したい相手の現在の位置を特定する能力を持つ。一度目の登場は、蒼山の捜索回であった。

2度目の生成であり、あの頃よりもさらに強くなったマジカニートゥ。様々な情報を得てからの発現はより、精度のある探知機となった。北野川の情報と敵の能力を知った事で、


「現在の居場所だと思います、たぶん。茂原伸はここにいます!」


ズズズズズズズ


現れたメニューの中には遠方の水道局を指し、茂原と思われる少年が缶ジュースと思われる物を飲んでいる光景だった。


「私達が着くのに、どれだけの時間が掛かるか」

「この写真が本当ならおそらく、この缶が妖精でしょうな」

『こいつはダイドーだ!僕やレゼンの1つ上の世代の妖精だよ!』

「サングが彼の飲んでいる缶に心当たりがあるようです」

「よし!茂原及び、その妖精を倒す。マジカニートゥ、乗り込む準備はいいね?」


今、大勢の人間の命が掛かっている。彼の妖人化さえ解ければ、



「はい!ですけど」



ゲロロロロロ……


「げほぉげほぉ。お、おかしい……私。なんで吐いてるところがカットされてないの……」

「そこは茂原にやられたとか言えば良かったのにな……」

「どのみちそのまま、ヘリに乗って酔ったら、大惨事だったんじゃないかな?」

「必死に堪えていたのに、ダメだったのか……」


お約束をした後に、ヒイロが操縦するヘリがこの病院にやってきた。梯子はしごが降りてきて、それに昇っていく飛島とマジカニートゥ。


「先に上がりなさい。梯子を抑えてあげた方が昇りやすいから」

「は、はい!」


初めての体験でかなりドキドキであった。


「わーっ!すっごーい体験したー!」

「ヘリに揺れながら登っていくなんて、まずあり得ない事だよな」


マジカニートゥとレゼンはやや興奮気味に声を出していた。


「……蒼山が倒れてて良かったな」

「へ?」

「いや、なんでも」


一方で飛島はマジカニートゥの無防備過ぎる事が気になった。言葉通り、蒼山がいなくて良かったと思う。とはいえ、飛島も男。そこらへんはケアしてあげるべきだと、後で思った。


「おー!飛島!表原……ってか、マジカニートゥか!」

「すぐに移動するよ。説明しながら頼む」



2人が乗り込んですぐに、目的地となる水道局に向かう4名。マジカニートゥのままでいないと、もったいないからである。

すでに"NOWLEANのーりん"で一度目の本気を使用し、次に別の能力を使う場合には1時間後となる。これから敵地に行くのに、1時間も待つわけにはいかない。本気になる能力は使えないが、身体能力の強化だけはしておかないと、シットリ戦のようなダメージを喰らう時への対応ができる。

そして、ここでマジカニートゥの妖精であるレゼンは、彼女自身の特徴、本気による精度の違いを分析していた。もう3週間以上の付き合いだ。


「……………」


マジカニートゥの能力は、"何か"に本気になった時、"何か"における優位、便利になるアイテムを具現化する。という能力だ。

本気になっている能力によって、マジカニートゥの負担もどうやら変わるようだ。今回の"NOWLEANのーりん"はかなり負担を抑えている。これなら茂原との戦いの時、身体能力は強化状態で挑めるだろう。目的が素早く遂行されるものほど、負担が少なく、強力なのは相変わらずと見た。徐々に使いこなしている感じもある。

本気になって、本気に打ち込むほど、無限の可能性を秘めている能力だ。

もし、寿命を乗り越えた時。俺のステージに少し手がかかるかもしれない。

マジカニートゥの第2段階。少なくとも、表原麻縫にはここに立てる素質がある。


だが、そんな夢の話しを思いたい時。怖いのは……



「水道局から攻撃してる!?」

「おそらく、みんなが感染してるんだろう。蠍みたいなのが、蒼山の体内から吐き出せた」

「その水を使った料理を取り込むと発動する、と言ったところかな」

「市販の薬品で痛みを軽減できるのをみると、それほど強い能力じゃないし。相当の水の量がなければ発動もしないのだろう。だから、助かっている人間もいる」



因心界の中に、キャスティーノ団の内通者がいるという事だ。最悪、この中にいる可能性もある。

今、マジカニートゥは他の事に"本気"になれない。背中を預ける勇気と覚悟はあるが、信じられるのは結局、俺達だけだ。


「じゃね~~~」

「じゃね~~~」



この食中毒テロによって、人々から生まれていく邪念。それを源にしたジャネモン達が、茂原と録路の2名の指示を受けたキャスティーノ団の構成員達で、ジャネモンが次々に出現していく。

そんな怪物達を止めるのは


シンシン……シンシン……


「あ!雪が降ってくる」

「クールスノーさんが戦ってるわけか」

「ジャネモン達は彼女に任せよう。彼女のフィールドで勝てる者など、そういない」


クールスノーの戦闘範囲は、雪さえ降らせれば広大なものとなる。だが、そのMAXでも届かない距離に茂原はいる模様。彼女の戦いは他の被害を防ぐためのものでしかない。

彼女が来ない事、キッスもまたこのテロへの対応で動けない事。計算され尽くして、おびき寄せている事も重々考えられる。

それでも俺達は止まるわけにいかない。卑劣な罠が幾重にあろうと、乗り越えて、茂原を倒さないことには住民達を救えない。救えなかったら、意味がない戦い。





ギイイイィィィィッ



マジカニートゥ達がヘリを使い、茂原の居所まで向かおうとしている頃。

クールスノー達も戦っている。無事だった因心界の妖人達と共に、ジャネモンを倒していっている。それほど強いジャネモンじゃなかったのは幸いだったろう。

そんな中で、とても耳障りのする音を掻きたてて、ジャネモンと戦うご老兵が1人。

妖人の類いではなく、自らの身体能力と人間達が作り上げた科学兵器を駆使して戦っている。その戦いぶりは怪物と呼ばれるジャネモンを畏怖させるほど。人間の突き詰めた技術力と使い方と呼ばれる行為を外せば、怪物すらも恐れさせることを伝える鬼神ぶり。




「じゃね~~~~~!」

「君は人の邪念で動くそうですが、」




ジャネモンだって生物。それがハッキリ伝わっているのは、悲鳴と血飛沫だった。

南空茜風みなみそらあかねかぜ。革新党、網本粉雪の秘書であり、養父でもあった彼もまた、特異な存在であった。

老人と思われる彼が、平然とそいつを片手で振り回し、ジャネモンを部品にするよう切断していく。



ジイイイィィィィッ



「この程度の邪念ばかりで、世界は変わりませんよ」


左手の大型チェーンソーでジャネモンを解体し、撃破。さらに右手にはこれまた大きい。南空の体格を上回っている、火炎放射器。

完全なる殺意を持ってして、邪念を両断していく。"社会全てが温いっ"そんな事を言われるような、超常的な人間。



「南空さん。その2つを生身で軽々と操作し、振り回すなんて。殺戮が大好きなお爺ちゃんにしか見えないんですけど」

「野花。お前は因心界の者達の指示に回れ。私と網本党首は、個人個人で動いた方が良いだろう」

「あなたは化け物ですよ。お父さんの言っていた通り……」



罪を償わせるなど、1つたりとも感じさせない。邪悪過ぎる南空の戦闘を目撃したジャネモン達は、絶望しながら殺されていった。



◇      ◇



ブオオオオォォッ



交通の乱れの影響もなく、空での移動は正解であった。

地上のゴタゴタは粉雪やキッス、野花達の活躍と指揮によって、大袈裟と呼ばれるものにはなっていなかった。着実に処理を進めている。

そんな中、暴走するバイクが一台。スピード違反も逆走も怖くないといった感じに、運転しているところには手馴れ感がある。度胸付けには丁度いいスリルだ。

運転する奴も、後ろに乗る奴も、その恐怖に感じたりもせず。標的だけを見る。


「あのヘリだな?因心界専用のヘリだけど、確認だぁ」

「届くんだよな」

「当たり前だろ」


録路の大型バイクに此処野が槍の妖精、アタナを手にして乗っている。

此処野はヘリを見ているわけだが、その見方はまっさらなスケッチブックに、背景でも描き込もうとするかのような、画家みたいな面で観察していた。


「ちっと角度が悪い」

「ヘリの正面をとれるなら、お前なんか要らねぇーんだよ」

「クソムカつくデブだな。シットリと似てる。アイーガぐらいが丁度良い手下だぜ」

「……アイーガの回収は飴子に頼んでおいた。茂原が能力止めねぇと、苦しんでるままだけどな。ま、あれの命をとるつもりはねぇよ」



ちなみに録路が運転しているこのバイクは、アイーガが所持していたバイクである。



「あのガキは食中毒くらいじゃ死にはしねぇさ」

「いや、アイーガはカチューシャが本体で、少女は乗っ取られた可哀想な子だろ。感覚が繋がってるから苦しんでる原理だよな、たぶん」

「知るか。興味ねぇぐらい感じろよ」

「まーな」


バイクでヘリを追いながら、此処野はヘリとの角度を測っている。障害物もあってはならない。


「もうちょっと、飛ばせ」

「分かった」


アタナが光り輝き始める。溜めを必要としている事、いくつかの条件が必要なこと。強力な能力に縛りがあるってだけで、此処野らしくない1つの能力。最も、アタナを振り回しての殺戮を好んでいるわけで、彼がこいつを使うのは奇襲、強襲が必要とされた殺戮であること。

光を溜めたアタナを、マジカニートゥ達が乗っているヘリコプターに向けて、翳す。


「"センコームーヴ"」



カーーーーーーーッッ



かつて、高速道路を走っているトラックの中に、いきなり侵入してきたのもこの技があったからだ。

アタナから放たれた光は光速であり、強烈な光は日の光よりも白く伸び、光を遮るもののない空ではそれを止めるのは困難。そして、10数キロは離れているヘリコプターまで届き、さらに光輝く。



「!!」

「ま、まぶしいっ!」

「な、なんですか!?横から!」

「この光は……」




眼が眩むのは必然の量と威力。

それでもその能力を知っていた飛島はすぐに、ラクロを取り出し、すぐにシャンプーを付け、頭を撫でてあげた。眩しすぎて見えなくても、この反応と手馴れた妖人化は見事過ぎる。



「『隠れもないクリアを、ピュアシルバーは照らす』」


ヘリコプターの中という狭き場所では、ピュアシルバーのラクロが巨大になるのは好ましくない。サイズを調整する分、パワーも落ちるが最優先にヘリコプターを"保護"した。

だが、



「よーっ!ヒイロ」

「!此処野……」


すでに此処野は瞬間移動を完遂させていた。光が消えた瞬間、運転席の隣に突如として現れた此処野は、操縦もあって無防備なヒイロを窓ごと破壊する蹴りで、地上へと突き落とした。



ドゴオオォッッ



「!!ヒイロさん!!」


この時、妖人化をしているのはマジカニートゥとピュアシルバーのみ。だが、今の2人とこの状況では此処野には勝てない。


「やろっ!バーニ!」

「佐鯨ーー!久しいなっ!正義馬鹿!」


ヘリコプターの外部を切りながら、槍を佐鯨達に向ける。そのタイムラグの間でも、佐鯨の妖人化は間に合わない。派手に戦える分、奇襲も込みで、数の優位を吹っ飛ばしている此処野が優勢。

しかも、此処野はこの中で歯応えのある奴を佐鯨に絞っていた。躊躇なく、彼が人間状態でも槍を向ける。


「とりあえず、死ね!佐鯨!」


だが、この狭さがあったからこそ。此処野の攻撃の軌道は単純であり、迷いなくその覚悟を貫いた人物がいた。



ドスウゥゥッ


「おっ!?」

「住民も仲間も助ける、茂原もお前も倒す」


ピュアシルバー。その本体である、飛島が佐鯨を庇い、妖人化の時間を稼いだ。

そのためだけに自らの右胸を貫かされるという、死を一瞬で許している壮大な覚悟。これしか此処野の強襲を覆す一手はなかった。


「先輩ってのは、後輩の前で。体を張って意図を伝えるものさ」


体を貫かれ、血を流し、零しても。ピュアシルバーはアタナを握って、此処野に抜かせない。

命をムダ使いしろって伝えているんじゃない。これは、命を繋げという意図。

ここでやらなきゃ、男が廃る。燃え上がれ!


「『勇気よ熱く燃え上がれ、ブレイブマイハート』」


なんとここで初!

佐鯨貫太郎が、妖人化に至るための意味を、無事に何事もなく叫んだ。

無意識下だとできるようだ。


逞しい男の体が女々しい女の体に変化するものの、その強度と熱量は段違い。此処野がなんとかアタナをピュアシルバーから抜いた。その一瞬で、



「はああぁぁっ!!」



ドグラシャアアァァッ



ヘリコプターのフロントガラスをぶち破る掌低を此処野にかました。そして、外に弾き飛ばされかける、此処野であったが。瞬時にアタナでヘリを突き刺して、離脱を回避。


「わわわっ!」


此処野の強襲によって、ヘリコプターは一気に半壊。いや、空中で大爆発を起こしてもおかしくはない状況。


「ぐっ」

『しっかりしろ!ピュアシルバー!』


さらにピュアシルバーの負傷も痛い。妖人化していた防御力と回復力はあっても、体を貫かれたのはマズイ。

そして、此処野に突き落とされたヒイロはどうなっているか。


「やるじゃねぇか、ブレイブマイハート!」


ヘリコプターは操縦士を失い、バランスは保てていない。そこに拍車をかけるようにヘリコプターを破壊しようとする此処野の存在。今、アタナの上に立って、交戦の構えをとっている。


「保護しろ!ラクロ!!ヘリコプターを元に戻せ!げほっ」

『わ、分かった!けど、死んだら能力使えないんだから、生きてろよ!』


ここでヘリが大爆発でもしたら、茂原を倒す事に辿り着けない。此処野を倒すというより、追い払う事や足止めする事が大切になる。ピュアシルバーが賭けに出た。


「っ……」

「マジカニートゥは、まだ動かなくていい。ブレイブマイハートを信じろ」


唐突な修羅場。死地。まだ、頭の整理が追いついていない。

マジカニートゥはただただ混乱していた。そんな中、野生児と殺人鬼がヘリの外でぶつかった。


「やああぁぁっ!」

「へっ」


身体能力で上回っていても、怒りを乗せた攻撃は単調。此処野は軌道を読み切っており、カウンターとして、ブレイブマイハートの首に左手をかけていた。それと同時にヘリの上に足を乗せられ、アタナを消すことができた。


「弱ぇぇ奴は死ね!!」


ブレイブマイハートを逃さないための掴み。再びアタナを右手から召喚し、ブレイブマイハートに一突きをかまそうとするが、


「はああぁっ」

「は?」


そこからなんと、ブレイブマイハートはさらなる前進。上空から此処野と共に落ちようとしたのだ。当然、そんな行為を予測しておらず、此処野の攻撃はハズレ。

急な出来事で首を掴んだ手を離してしまい、それでも粘りをみせ、ブレイブマイハートの右足に此処野がしがみ付く。


「お、お、お、おい!このヤローーー!!この高さから落ちる気かーーー!?」



ガシイィィッ


だが、そんな事はブレイブマイハートだって望まない。ヘリコプターの着陸部位を両手で握り締めた。自分と此処野の両方の体重をかけながらの状態となる。


「落ちるのはお前だけ」


熱くなっているが冷静だった。もう1つの能力、熱を高める力を不安定なヘリコプターの中心部でやれば、熔けちまう。ピュアシルバーがヘリコプター全体を保護してくれている分、熔けるのには若干のタイムラグがある。


「我慢してくれるなよ」

「!」

「"熱達磨"」


あの剛熱が、此処野の体を襲った。マジカニートゥ達とやや離れている分、強力なのができる。



「っ……っっ……」


声すらあげられぬ、攻撃だった。しかし、ブレイブマイハートの足から手を離さない。粘り強い。ピュアシルバーがいくらヘリコプターを保護してくれているとはいえ、この熱はさらに上の次元。ヘリコプターの足場が熔けて、ブレイブマイハートも道連れにできればいい。

此処野の思考はそうだった。

そんな中、


「も、もう我慢できません!!」


マジカニートゥも、この中でオロオロとしているわけにはいかなかった。あと一歩で落せる此処野を、ブレイブマイハートに頼ってばかりではいけないと、ヘリコプターの乗り込み口のドアを力ずくで開けて、


「こ、こんな人!落ちちまえ!!」


此処野の顔面を踏みつけにいったのだ!


「がはぁっ!」


ブレイブマイハートの攻撃ばかり意識していた分、力が加わったことで不意を突かれ、此処野は地面に落ちて行く。


「あ、あぶないっ!ありがとー!マジカニートゥ!」

「はぁっ……はぁっ……」


もう少しでブレイブマイハートも落ちそうな瞬間だった。それだけにファインプレイ!マジカニートゥもかなり興奮していて、息が荒かった。ブレイブマイハートの御礼にも気付けなかった。下が怖くて見れない、未だに体が震えている。どこに視点があるのか、本人にも分かっていない。



「はぁっ……」


守った。守れた。そんな実感って、こーいうものなのだろうか。ブレイブマイハートは修復されていくヘリコプターに戻ろうとし、ピュアシルバーは怪我をおしながらも、操縦席に乗り込んだ。なんとか爆発や墜落前に浮上できそうであった。

マジカニートゥがやらなければ……


「おい!早く、中に入れ!マジカニートゥ!攻撃が来てる!」


レゼンの声が聞こえてないほど、そこは戦闘経験の甘さがあった。



ドスウゥゥッ



マジカニートゥの右足に突き刺さったのは、此処野の槍の妖精、アタナであった。

地面に落ちながら、ダメージを抱えながら。その殺意からアタナをマジカニートゥめがけて、投擲してきた!


「ひゃーーはははははは!!調子に乗ってんじゃねぇっ!クソカスの分際でよおおぉぉっ!!テメェは俺が殺すと決めたーーー!!どこまでも殺しに行ってやるぜ!!」



此処野の高笑いに引き寄せられるように、不意に足をやられたマジカニートゥは地面に向かって落ちて行く。


「マジカニートゥ!」


レゼンも彼女を護るため、飛び降りた!


「や、やばいっ!!マジカニートゥが!」

「ブレイブマイハート!!お前は行くな!」

「っ!?なんで!?」


つられそうになったところ、ピュアシルバーが一喝してブレイブマイハートを止めた。


「私達の任務は茂原を倒す事だ!!此処野とかいう馬鹿の相手じゃない!」

「!だけど!」

「……信じろ!!まだ、ヒイロさんも地上にいる!!それにレゼンくんも一緒だった……っ」

『けどよ、ピュアシルバー。今、マジカニートゥは能力を使えないんだろ。あと数十分も……怪我もしてる』

「……喋らせるな。ラクロ」



此処野に刺されていながら、さらに傷を抉るように叫び続けたピュアシルバー。ピュアシルバーだって、マジカニートゥとヒイロを助けに向かいたい。しかし、仲間を護る事も信じる事も、必要なこと。今、やるべきは茂原をぶっ飛ばすこと。これくらいの罠なり、奇襲なりは想定できていた。

だが、想定よりも深いダメージと離脱を許し、あまつさえ、時間のロス。このヘリコプターだって、修復されて来ているが、目的地手前で墜落しそうな感じもある。


「わかったよ、ピュアシルバー」

「…………」

「茂原をさっさと倒して、マジカニートゥ達を救いに行く!!」


ブレイブマイハートも覚悟を決めた目で、1つの決戦に臨んだ。



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