Aパート
「ぎゃあああぁぁっ」
妖精の国。
サザンの部屋で悲鳴があがる。
「な、な、なんて本を読んでるんですか!?サザン様!卑猥もいいところです!続編の感動が台無しです!」
「私が尊敬する数少ない妖精。セーシ先輩が主人公のギャグラノベなんだけど」
その悲鳴の主は新任秘書のミニエルフの妖精、ロゾーであった。
サザンが読んでいた"聖剣伝説"を拝読させてもらった感想である。
「ちょっ!これ……ホントに"聖剣伝説"なんですか!?そのシリーズなんですか!?下ネタばかりです!!」
「うん。君のように若い妖精は知らないだろうけど、"聖剣伝説Ⅱ"はそれの続編なんだよ」
「汚さないでください!中身全然違いますよ!"聖剣伝説Ⅱ"はもっと夢のある恋愛物語ですよ!」
「はっはっはっ。最初、打ち切りにされたものの、"聖剣伝説"の続編を楽しみにしていた読者が、その続編、"聖剣伝説Ⅱ"を読み。あ、これなら他の者達に知られていいだろうと、周囲に薦めた事がきっかけでベストセラーになったのだよ!」
「そ、そんな馬鹿な……」
「"聖剣伝説Ⅱ"にもちょい役でセーシ先輩は出てるじゃないか。まぁ、すぐにセーシ先輩が人間界に降りちゃったんだよね。強すぎたからしょうがない。相手を捜すために人間界に降りたっていうのは、本当なんだよ」
実際のところ、セーシ先輩に"真正面の戦闘"で勝てる妖精が人間界にいるとしたら……やっぱり、ルミルミぐらいかな?
とはいえ、野花ちゃんはそんなに強い妖人ではないから、扱いきる事はできないだろう。頑張ってギリギリ、粉雪ちゃんと肩を並べられるぐらいの力量しかない。それでも、妖精の国史上最大の戦闘狂にして暴れん坊だったあなたが、良きパートナーに恵まれて幸せに過ごしている事を嬉しく思いますよ。
出来の悪い後輩として……。幸せに人間界で暮らしてください。
「はぁ~、凄い幻滅したぁ」
「大丈夫、大丈夫!"聖剣伝説Ⅱ"の主人公はロゾーが思っている通りの妖精だよ」
「本当なんですか……」
「うん。間違いないよ」
◇ ◇
その頃、人間界。因心界の本部では、"十妖"の何人かが集められていた。
それはただの会議ではなく……。
「あははははは、はははっ、めっちゃお腹痛っ!笑いすぎて。頬緩むわぁ~……!」
ただ1人、嘲笑った感じなのに大爆笑している北野川。一方で、机に突っ伏して、誰にも顔を向けられない野花がいた。
「あ、あんたねぇ……。わ、わ、ワザとやってたわね……」
「ひーっ、真剣に痴女晒してる~!ここに痴女がいるわ~」
「言うなっ!!言うなっ!」
「ほらほら!特大サイズであんたのアヘ○をポスターサイズに引き伸ばしてやったんだから、喜びなさい!目立ってるわよ~!飾ってあげるわ!この会議室の壁に貼ってあげるわ!」
「止めてぇぇっ!あんた、他の連中に教えるなっ!そー約束してたでしょ!」
「はぁ~?それはあんたが妖人化しない事が条件でしょ~?それにこれ作ったの私じゃないし、写真を撮ったのはあのバカ。この私は広めているだけ。良い写真は広めるべきでしょ~?」
サイテーだ。
特に会議をしているわけではなく、"萬"の1人を討ち果たし、勝利の祝杯ムードと野花弄りを愉しんでいる北野川。むしろ、後者を愉しみにしている。そして、そんな淫らなポスターを製作したのはこの男であり、なにより写真を撮ったのもこいつ。北野川に脅されたのも事実であるが……。
あんなキメ顔、在り来たりな日常の中では決して晒してくれない、希少価値あるものだ。
「き、北野川。もう止めてあげなよ。壁にそのポスターを貼り付けるのは、きっと無理だよ」
そう言いながら野花のその写真を持ち歩き、あまつさえ本人の目の前で使う始末。
机の下でヤッていることでさすがの野花も、赤面のままながら怒る。いや、怒るのが当然。
顔が真っ赤かでどんな表情かは読めないが、蒼山に向けて、ご褒美にとられるような罵倒。
「蒼山!!お前、あたしの顔を編集ソフトで加工して、あまつさえ○○○○目的に使わないで!!あんたが一番でサイテーよ!!この世の誰よりも!あたしがいる前でやるな!!」
「だ、だ、だって!こんな顔して!こんなエロいコスの野花さんでヌかない男なんて!!誰もいないですよ!!野花さんは色気あるんですから!」
「臆病な少年のフリして、あんた天性のサイコパスよ!!」
「野花さんの○○顔、ヌケます!」
「なんだ?さっきから、フォローのつもりか?ぶっ飛ばすわよ!!あんたぶっ飛ばす!!セーシィィッ!あいつ殺して、あたしは死ぬぅぅ!!」
内ポケットからセーシを取り出し、もうここを壊してでも構わんとする覚悟を見せる。だが、さすがに止める。いや、あんたが原因なんだが……。
『お、落ち着け!野花!!ここ因心界の本部だ!というか、仲間!!あれでも!』
「仲間が仲間で○○○○する奴を、仲間だと認めるかっ!!敵かあまつさえ恋人以上でしょーが!!」
B班と表原。そして、報告を受け取った涙キッス。
「野花の気持ちは分からんでもない。ともあれ、緊急事態だけの活動では危険なだけだぞ。改めるべきだ」
「この状況を打破する方法ないんですけど!!キッス!!私、もう嫌っ!!もーぅ、お淑やかで優しい私のイメージが一瞬で崩れ去ったわ……!どーやって改善するのよ!?心のケアは大切よ!」
「いや、それ無理だから。もうハッちゃけて妖人化をしまくれば?」
「鬼か!あんた!?何!?あんたの中で私はもうそんな奴としか思われないのか!?自分じゃないからって、テキトーなアドバイスをしないで!」
「良いイメージは覚えにくいが、悪いイメージは覚えてしまうものだ。危険やらトラウマが、体と心を無意識に動かすのもそれから来ると言われている」
「私はもうそんなレベル超えてるのよ!!」
どうにもならない、野花の淫乱にしか思えない戦闘とその決着ポーズ。
怒ったり、恥ずかしがったり、項垂れたり、一纏めに情緒不安という日常生活への支障はハンパではない。
表原も分かっている上で、いちお。頭の上にいるレゼンに確認してみる。
「レゼンさ。セーシさんの強さって、こーいうリスクもあるからなの?」
「たぶん、それはないな。素でアレだから困るんだよ」
これがもし、セーシが持っている力が弱かったら使わなければいい。で終わる……。
しかし、見たとおりである。この戦闘能力は確実に失ってはいけないものがある。
「例え勝っても、失うものがある例なんだね……」
「負けても勝っても、野花さんのアレは同じなのが性質悪いぞ」
表原とレゼンは正直、これまで通りの関係でいきたいところであるが。野花本人に、信じてもらえないところがあると思う。その原因はきっと北野川と蒼山の行動にあるんだろう。
蒼山は今も黙りながら、タブレットで野花のキメ顔を編集中。
「ねーねー。こんな恥ずかしい妖人化が世界的に認められるってどんな気分?」
「くっ………」
「自分のアレ見せて気持ちいいとか思えるの?」
「ぅぅ」
「濃い目のおじさんとかに体を売りたいとかあるの?ねーねー?意識ぶっ跳んだ後に捕まってる妄想とかしてんの?」
「もう止めてぇぇっ!!」
性格が最悪。陰湿……。とても好きにはなれない。表原からも、もうこれ以上止めろって北野川に言いたいが、イジメを止めたこともなく。ましてや、どんなフォローをすりゃあいいか。
ガチャッ
「野花~、大活躍だって話じゃない。見に来たわ」
「失礼致します」
そして、因心界の会議室にやってきたのは、この状況を止められそうな人物と、その補佐の方。
表原とレゼンはそのご老人を初めて見る。
「こ、粉雪!南空さんまで……」
赤面で涙と鼻水を出す、今の野花の顔はもう何がなんやらってところ。
最後の砦である粉雪に向かってダイブする野花。
「うえ~ん。北野川がめっちゃ虐めるんだけど」
「うんうん。よく頑張ったわよ、野花。北野川!もう今日はこの辺にしなさい!」
「はぁ~?」
おぉ~。なんという強い正義感ある声に言葉。
さすがの北野川も粉雪の言葉に反論の態度を示すが、そこまでにしたところか。
表原もレゼンも、粉雪の胆力に見張るものを感じたが、
「野花を弄るのは友達である、私の特権なんだから!!」
「えええぇぇっ!?」
上げて~、落と~す。
「野花は辱められると興奮するタイプでしょ~。この妖人化~」
「や、止めて~!」
「みんなから見られたいんでしょ~。ア○顔とか」
「もう嫌よ~~!!」
もう信じないって!
そんな迫力を見せながら、粉雪をも突き飛ばして会議室から出て行く野花であった。
「ふふふ、恥ずかしがる野花はやっぱり可愛い~」
「あの、粉雪さん。野花さんが飛び出しちゃいましたけど……」
「いいのよ。私と野花はかけがえのない友達だから。こーしたジョークを分かってくれるのよ?」
友達だから何してもいいとか、その発想はどうなんだろうか?
「変にフォローして逃げるより、時間かけて今の事実と付き合ってあげるのが友達じゃない?」
「腹を割って話すとはお互いを知る上で必要な事でございますよ」
「コソコソ話されることを前向きに捉える人はいないわ」
粉雪の信頼と同じくらいに、そんな言葉を出す南空。
初対面であるため、表原は少しぼけーっと彼の事を見ていた。視線に気付き、南空の方から挨拶をする。
「!これは失敬。初めてお会いする方がおりましたな」
「は、はぁっ……」
「表原ちゃんとレゼンくんは初めてだったわね。彼ってか。この堅物お爺さんは、南空茜風さん。私の政治団体、革新党の秘書を務めている方よ」
「南空茜風です。網本党首の部下でありますため、因心界との繋がりはありませんし、妖人でもないです。お二方については網本党首から聞いております。以後、網本粉雪党首と革新党を宜しくお願いいたします」
これ以上の関わりはないであろうが、いつもの礼儀をする南空。
因心界の関係者ではないにも関わらず、ここまで来てしまうこと。それをアッサリと許すキッス側にも問題があるように思える……。
南空から握手を求められたため、それに応じる表原。
「…………なるほど」
「?」
なんのことだか分からなかったが、何かを感じ取った南空であった。
「キッス。野花はしばらく、私と行動させてもらうわよ。精神的に来ちゃっているから」
「ケアも任せる。調査は順調なんだろうな?」
「それは南空」
「ええ。すでにキャスティーノ団の本部の居所と、彼等の状況も把握しております」
機密資料であるため、電子媒体そのものをお届けに来た南空。
「簡潔に。彼等はなんらかの手段で何十体もの妖精を手にし、妖人を生み出そうとしております。どの妖精も正当な妖精のようでございます」
「ふむ。"萬"の連中は時間稼ぎというわけだな。予想通りだ」
「仰るとおり。"凡庸な指揮者"である私が作戦を握るならば、ここは速やかに基地の壊滅を行ないます」
ついこないだ。キッスとは話しをしている南空。先ほど、自分が革新党をを支える人間であり、因心界とは無関係と言いながらも。このような場では如何に弱い立場であろうと、口を出した。
「私を褒めているのか?引き続き監視だけを頼む。動かぬ者を捕える必要はないからな」
「………」
「南空。あんたは関係ないでしょ。私以外に口を出すのは、それくらいにしなさいよ」
「口が過ぎましたな」
堅物と言っていたが、同時に粉雪を崇拝しているかのような印象だった。
無論、
「双方のご意見は一致のようですね。理由は違えど……」
キッスのやり方、考え方をネチネチと批判しているととれる言動。
なんとも嫌らしい人間なんだろうかって、表原は思っていた。周りの人間もほぼ無関係と言いながらも、南空の言葉には嫌に感じていた。特に北野川も同じ考えだろう。
「!あー、そうだ」
空気を変えるようにか、粉雪はわざとらしい声をあげて北野川達の方に来た。
「あ?」
「あんたじゃないし、あんたはいいよ」
一触即発の雰囲気と思われたが、粉雪は平然とスルー。北野川はそーいう性格をしているし、自分と似たところもある。もっとも許せないのが
「ど変態が私の友達をからかってんじゃないわよ!」
「ぎゃーーーーー!」
そりゃあ、そーですよねって表情で、表原も納得の制裁。蒼山の顎に掌を正確にぶち込み、壁に叩きつけ。さらにあえて、気絶させずにダメージを残す攻撃をかました。もがく蒼山には丁度良いオシオキである。
「うぎゃああ、痛いっ!痛っ!!」
「これくらいはしてあげないとね。北野川、あんた。他の奴に野花の事をバラしたら、殺すからね。ぶん殴るより脅迫の方が良いでしょ?」
「じゃー、約束の口座に振り込んで」
「は?」
「冗談。ま、蒼山に知られたのはマズイわよね?こいつ、口とか軽いから。うっかりボロを出すレベルじゃないわよ?」
意地悪な言葉を伝える北野川。
なんていうか、本人が今いないからこそ。こーゆう事をしてあげている粉雪が少し、正しいのかなって表原は思いながら見ていた。野花がいる前でやっていたら、それこそ尾ひれが立って嫌われ者になるだろう。
誰にでも秘密はあるもので、それを餌に優位に立とうする人を好きにはなれない。誰かを信じる事が難しくなるものだ。
「私の友達をバカにした奴は、許さない。キッス、あんたもよ」
「私はそーいう事をしないし、粉雪よりもしていない。多少、気をひかせるものがあるが……戦力として必要であれば誰でも許容するさ」
「わ、私も!野花さんの事!言いませんから!」
っていうか、妖人化を促したのは自分。粉雪から制裁が来てもおかしくないが……
「いえ、表原ちゃんはいいの。むしろ、感謝してるわ」
「へ?」
「バカにしてる北野川と、最低にもエロ目的で使っている蒼山は怒るところだけど。表原ちゃんは野花を進ませてくれた。それにあなたは人を傷つけるの、好きじゃないでしょ?」
「そ、それはそうですけど……」
「友達が気にしてることを哂う連中。特に北野川が嫌いなの」
「お~、怖っ。個人攻撃ですか~?ふふ」
いろんな正義があると思うが、粉雪が持っている正義は意外にも情が厚く。強過ぎる者だからこそ、極々在り来たりなものを詰め込んでいた。仲間を大切にする。簡単なことのようでそれを成し遂げる人は少ない。
もっとも粉雪が認めている仲間というのは、組織の者の全員というわけではない。
「キッスの言うとおり。野花があーだこーだで、妖人化を躊躇っていたら、死んじゃうかもしれない。野花の事を信じてくれる仲間がいてくれたら、そーいう不安がなくなるじゃない」
◇ ◇
"萬"の1人。代勿を撃破してから数日。
因心界にまた新しい情報が届く。それと重ねるように因心界の病院で動きがあった。
繋がった両目で見るカルテは、問題なしと表記されてはいるが……。あくまで体の部分だけ。
「まだ安静にしていた方がいい」
「それはもう、無理です!」
「意志の強い子だ」
古野は休養を勧めていたが、遅れを取り戻すための焦りが復帰を早めた。
体の影響はもうほとんど抜けたが、焦りは見えている。
「表原はもう退院してるし、"萬"との戦いもしている。負けられません!」
「ルルちゃん。功というのは焦って手にできるモノではないですよ。それと表原ちゃんは病室を家のように使っているので、退院とは良い難いんですよね」
「このまま病室に閉じこもっているわけにもいきませんよ!!」
涙キッスの妹、涙ルルの復帰である。
ジャネモンなどの戦いで負傷ばかりと、色々とあった子であるが、自分と向き合って戦線復帰を志した。すでに姉には自分のことを伝えており、
「"萬"の討伐に参加するんです!」
「……幹部の任務をするのかい?」
「はい!お姉ちゃんは本部を守って、妹は敵を倒すんです!こ、これ以上!足手纏いになんかなりたくないんです!」
「……………」
私としては、万全のルルちゃんが病院にいてくれた方が嬉しいんだがね。
戦闘力に関しては因心界の構成員の中では、それなりのものがある。この病院がまた襲撃された時、キッス様が向かう手筈になっているけれど、それまでの時間稼ぎをルルちゃんが担ってもらいたい。
「ぜーったい、"萬"の1人は倒して!お姉ちゃんに良い報告をするんだ!」
じっとしているタイプの人間ではない。
キッス様が君を大切にしたい事だけではなく、重大な任務を与えていることに。本人が気付けていないというのは、行かせるべきではないのだがね。あの方は優しいし、意志を尊重してしまうタイプ。
コンコンッ
「失礼します」
ルル達の病室を訪れたのは、飛島華であった。
「飛島」
「飛島さん!わ、わざわざお迎えに来なくても……!現地は聞いているので」
「いや、表原ちゃんもまだこの病院にいる。あっちは佐鯨に迎えに行かせた。4人で行くものだ」
「…………」
飛島もルルちゃんは加えたくない顔をしているね。それもそうか。今回の敵は、代勿と違って罠を張り巡らせるタイプ。ルルちゃんの性格や傾向を考えると、良い助っ人が来たとは限らない。佐鯨くんがいるんだから、その手の人材は不要か。
それより病院を手薄にするというのが、気掛かりかな。
「古野さん、私達が現場に行く前に確認事項なんですが」
「なにかね?」
ルルがいる場ではあるが、幹部同士の内密なやり取り。
小声で情報交換。
「病院は野花さんが警護を務める。安心して欲しいと、キッス様からの伝言です」
「そうか。それは頼もしいものだ……しかし、そうなるとB班は完全に終了だね?」
「蒼山が粉雪様のご制裁を受けたので、どちらにしろ、しばらくは動けませんけど」
「あ、そうだったの?」
どっちにしろ。1勝はしたし、戦線離脱はいない。
残りのメンバーで"萬"の2人を討つ。そして、その1人の居所は革新党からの情報で割り出せた。
「残りは私達、A班が務めます」
「了解。安心して無事に戻ってきてください」
キッスがルルの勝手を許したのも、優しさだけではなく、ちゃんとした考えがあってのこと。
よくやっている姉だと本当に思える。おそらく、妹よりも古野や飛島は思っていることだろう。少々、ルルという子は残念である。
「あ、ルルちゃん!」
「表原!……負けないからね!」
「へ?も、もしかして!一緒の参加?」
「当たり前です!」
「わーっ!なんか、賑やかー!嬉しいー!」
「そーだな!1人よりも2人!2人よりも3人!3人よりも4人だーーー!!」
「おーーーーっ!」
「しゃーーーっ!(表原より活躍してみせる!)」
テンションの高い佐鯨のおかげで、表原とルルの関係は柔らかな友情で包まれた。表原もまだルルの対抗心に気付けてないのが、この雰囲気がまだ良いところか。騒がしい後部座席だ。
現場までの運転と、この3人を纏め上げる飛島は少々、苦労顔。
ブロロロロロロ
「浮かれるのは結構なんですが、遊びじゃないですよ。3人共」
「なんだよ、飛島!B班が頑張ってるのに!俺達もやってやんねぇとよ!気合だ、気合ーー!」
「佐鯨。お前の強さには期待しているが、自惚れが過ぎるところは改善するべきだ」
飛島と佐鯨の年齢的には3歳の差があるが、経験の差では2倍ある。
これがベテランの味ってところか。
「今回の敵は"萬"のイムスティニア・江藤。奴の能力は分からないが、大型マンションを拠点にしていると聞く。概要は聞いているな?」
「は、はい!」
「それはもちろん!」
「いや、見てねぇ!」
「佐鯨……少しは幹部の自覚を見せてくれない?」
「敵は知るんじゃなく、感じるもんだ!」
直接的な戦闘能力は確かに高い。白岩と似たタイプであるのは知っているが、佐鯨は彼女より猪突猛進。
「大型マンションを占拠してるそうよ。部下はいないけど、ジャネモンを沢山召喚して、モンスターマンションにしている。住んでいた人達の大半は消されているみたいだし」
「け、消されてる!?」
ダイソン戦があっただけに、表原の表情が強張る。
「とにかく、代勿と違って。相手はヤル気満々。それも罠を張って私達を狩るほどのね。用意周到な相手」
代勿が派手にやっていたのは、残り2人が準備を進めるためだと考えれば、結構ヤバイ。準備完了か。
表原ちゃんは慎重なところがあるから、今の言いつけで守ってくれると嬉しいわね。コココン戦の経験もあるからかな?
少しは見習え。
「まー!相手が狩る気満々なら!逆にお返ししてやるぜっ!」
「そーですね!佐鯨さん!」
この2人が心配だ……。
ブロロロロロロ
車は現地へ向かう。
【因心界もそこに行くのか】
その途中であったが、この車が追い越してしまった何かに
「ん?」
「どしたの?レゼン」
「?レゼンくん?」
レゼンはかすかな気配を感じ取った。殺意とは違うが、妖精が感じる力というか、テレパシーというか。
それは物凄く一瞬だったから
「いや、気のせいだ」
「今のレゼン、ダサくない?何か感じ取ったみたいな、顔。ダッサ!」
「うるせー。髪の毛毟るぞ」
それで今は済ませた。確かにこの車に対して、何かを伝えていた人物がいた。飛島が用意した車は普通のものだ。確かに顔を知っているというのもあるが、走っている車にいる人物を見て、すぐに気付くか?
レゼンのそれは車が奴から離れると、自然に忘れ去っていく。
誰がそれをしていたか、レゼンからでは見えなかったのもある。というより、飛島達も見てはいなかった。
「うーっ……。因心界はよく働くなぁ~。今、晴れだよ?家でアニメ観てようよ」
なにせそいつは、日陰の中で涼んでいた。
影の中では見えないものだ。
「今日の天気は、曇り、のち、雨。でも、今は晴れ」
雨が降ってから行こうか……。
見た目、根暗男子。服装も日照りを嫌うよう、暑いと思われてもおかしくない服装。これから雨予報と自分で言いながら、傘の1つどころか、鞄もない手ぶら。まるで散歩しに来たかのような身軽さ。それにそぐわないだらけきった表情で、日陰の中からまだ明るい空を見上げる。
まだ明るいせいで気だるいままだと、自称する心。彼がぼやいたことは。
「あの邪念で生み出せるジャネモンは、僕達側が生み出さないとね」




